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Re:LIGHT  作者: アレテマス
第二幕
81/146

36話【光の再生】


PM23:11 双葉の住むマンションの一室


 二人の再会から数時間が過ぎた。黒木と双葉は泣き疲れた後も、ずっとお互いに離さず真っ暗な部屋で抱きしめ続けていた。


 ただ静かに、彼の温もりを感じていたい双葉の抱き締める手は緩まる事を知らない。黒木もまた、彼女の【本当の愛】に応えるべく、少したりとも引き離そうとせず抱き返し続けている。


黒木

(…こんなにも力強く抱き締めるなんて……双葉さんはずっと、誰かに甘えたかったんだ。【パーフェクトモデル】という【完璧の存在】が、彼女を鎖で縛っていた…)


黒木

(…本当に貴方という人は、みんなの為に頑張り続けた心優しい人だ。本当に本当に…立派な事をしてきたんだ。誰も貴方を責めないだろう。……だから、好きなだけ甘えてくれたら…)


黒木は目を閉じて抱き締め続ける事に集中する。


 彼の抱き締める手が少し強くなるのに反応して、双葉の抱き締める手はより一層強くなる。


 しかし、彼女は遂に満足したのか、ゆっくりと少しずつ力が抜けて抱き締めている手を離し、泣き疲れた表情で黒木の顔を見つめる。


黒木

「……」


双葉

「……」


数時間も密着し続けていた二人は、お互いの体の熱で汗塗れになっている。お互いの息遣いが頬に当たる程顔は近く、じっと何も言わずにお互いの顔を見つめ合う。


暗い部屋…男女二人…暑くて荒くなる息遣い…そして、露出された双葉の透き通る白い肌と下着姿…


 黒木の中で何か危険なものを感じ取り、引き離してくれた双葉の両肩にそっと手を乗せて、彼はゆっくりと立ち上がる。


双葉

「…黒木さん?」


黒木

「……」


床に座ったまま上目遣いで見つめてくる双葉に、黒木は黙ったまま自分が着ていた黒いシャツを脱いで肌着姿になる。そしてそのまま彼のシャツは、肌が露出した双葉を隠すように優しく羽織らせた。


彼は微笑み、双葉へと静かに問い掛ける。


黒木

「……少しは落ち着きましたか?」


彼女は頷き、小さい声で返す。


双葉

「……うん。お互いぎゅーって抱き合ったから、汗まみれになっちゃったね」


黒木

「そうですね……」


双葉

「…一緒にお風呂で汗流す?」


黒木

「冗談ですよね?」


双葉

「本気だよ?」


黒木

「……」


双葉

「【本当の愛】に応えてくれるんでしょ?黒木さん?」


真顔で聞いてくる彼女に彼は焦る。


黒木

「…あっ、その…確かに…ですが流石にその…異性同士でお風呂は……何と言えば……」


双葉に応えようとしたいが、恐れ多い気持ちが勝り、黒木はアワアワとしだす。


双葉

「…ぷっ。ふふ、あははっ」


良かった、いつも通りの真面目で優しい彼だ。焦る黒木の姿を見て、双葉は思わず吹き出して笑う。久しぶりに見た彼女の笑顔に、黒木も嬉しそうに微笑みを返した。


黒木

「良かった…笑ってくれた…あの、やっぱり一緒に混浴は出来ませんが、タオルを持ってきますよ。ええと…洗面台は何処にありますか?」


双葉

「うん。そこだよ」


双葉は指を指して、黒木は早足で洗面台へと向かう。彼が居ない間、彼女は黒木が羽織らせてくれたシャツのボタンを閉じて着こなす。黒木の温もりが残ったシャツを身に纏うだけで、彼が近くに居なくとも安心出来たのだ。


 二人分のタオルを持ってきて、双葉の要望によりお互いの体を拭く。ぎこちなく拭く彼と違って、双葉は彼の体を手で感じるようにじっくりと拭いていく。


黒木

「…あの、双葉さん」


双葉

「んー?なーに?」


黒木

「なんかその…何かやばい事をしている気がしてならないのですが…」


双葉

「えー?デンジャラスな事をしても大丈夫だよ?私達、両想いのカップルじゃん?」


黒木

「そ、それもそう…ですね…?」


彼女は茶化す。


双葉

「私の愛が欲しいのなら、ちゃーんと受け取ってくれないとねー?でないとまた黒木さんの前から消えちゃうかも?」


その言葉に反応して、突然拭いている手を止めて黒木は再び双葉を強く抱き締めた。いきなり抱き締めてくるものだから、油断していた双葉は少し顔を赤らめる。


双葉

「く、黒木さん…?」


黒木

「ごめんなさい。冗談だとわかってはいるんですけど……もう二度と俺の前から消えないでほしいんです」


双葉

「…うん、そうだった。ごめんね黒木さん。冗談でも、もう二度と言わないよ」


そう言って双葉も黒木を抱き返した。双葉が思う以上に、彼もまた愛に対してかなり執着心を持っているのだろう。


 お互いに抱き合う最中、黒木のスマホにメールが届く。双葉は気を遣って彼を離し、黒木もまた頷いてスマホを確認する。


黒木

「聡さんからだ…」


双葉

「…?聡ちゃんから?」


黒木

「はい。ええと……【なんかよくわからないけど、マスコミちゃん達がマンションの周りから消えたわん。今がゼッコーのチャンスだからアティシも合流するわねん】…とのことです」


双葉

「ふーん…聡ちゃんが来るんだ」


双葉はあまり嬉しそうな反応を見せない。


黒木

「…嫌ですか?断るのならメールでお伝えしますが…」


双葉

「ううん、嫌じゃないよ。聡ちゃんも好きだしね。…でも、もう少し黒木さんと二人っきりでいたいなって…」


黒木

「…お、おおっ…」


彼女の甘えてくる言動にキラキラと輝いて見えて黒木はふらつく。


 彼は気付いていないが、双葉に告白をしてからは彼女が見せる姿がどんなものであろうと愛おしく感じているのだ。生きてきて体験したことのないこの感情に、動揺が止まらない。


 だが、メディアがいない間に聡の車に乗ってここから離れるチャンスでもある。黒木は双葉の甘い言葉に必死に堪えて、双葉の手を握り立ち上がらせる。


黒木

「双葉さん。聡さんの車に乗って、ここから離れましょう。服も着替えて…後は荷物を纏めてもらってもいいですか?」


双葉

「ここを離れて…何処にいくの?」


黒木

「それは…車内で考えましょう。メディアが戻ってくると双葉さんが、また思うように動けなくなりますから。脱出が先です」


双葉

「うん、わかった。これ、返すね」


そう言って彼女は、何の躊躇いもなく目の前でボタンを留めていたシャツをバッと脱いで黒木に渡す。再び下着姿を拝む事になる黒木も、冷静になった今では流石に目を背けてしまった。


双葉

「?どうしたの?」


黒木

「そ、その…もう少し恥じらいを持っていただけたら…」


双葉

「…あー、ごめんね。モデルやってた頃は早着替えが必要で、人の目を気にすることなかったから。でもでも、私の裸を見てたのは聡ちゃんと細田さんだけだよ?この背中を見られる訳にはいかなかったからね」


黒木

「そ、そうですか…」


双葉

「でも、黒木さんがもっと見たいならいつでも見せるからね?だって私達、もうカップルだしね?」


黒木

「カップルってそんなものなのですか…?」


双葉

「うーん…よくわかんないけど多分そんな感じでしょ」


黒木

「そんな感じですか……」


双葉に振り回されながらも、結局彼は目を逸らし続け彼女が着替えるのを待つ事にした。その間、彼は双葉と和解した事と無事だった事を聡に連絡を返すのだった。



 メール受信してから数十分後、インターホンが鳴る。タイミング的に考えれば聡なのだろうが、黒木は警戒を忘れず双葉を奥の部屋に向かわせ、代わりに玄関の扉前に立って問い掛ける。


黒木

「…はい」


「待たせたわねクロちゃん!アティシが来たからにはもう安心しなさい!」


この独特な喋り方に高い声は聡で間違いない。そう思い、彼は扉を押してゆっくりと開ける。


黒木

「聡さん。待っ…」


目の前に立つ人物が目に映り、黒木は固まる。


 そこには星型のサングラスに、虹色のアフロ、ギラギラのシルバージャッケットを羽織って堂々と仁王立ちをする男が立っていたからである。


「そう!アティシこそは!完璧で究極の救世…」


黒木

「……」


バタン カチャッ


決め台詞の途中で黒木はそっと扉を閉じて鍵を閉める。そしてその場から逃げるように双葉がいる奥の部屋へと戻った。


双葉

「…?どうしたの?」


黒木

「双葉さん。何処かに隠れてください。聡さんじゃなかったです」


すると、ドアからドンドンドンと激しいノックが聞こえてくる。


「中に入れてクロちゃん!怪しくないから!ね?!ねっ!?」


信じたくないが、この状況でもふざけ倒してる彼こそが聡なのだろう。黒木は嫌そうに鍵を開けてゆっくりと扉を開く。扉の先には男が謎の決めポーズで立ち構えていた。


「もう❤︎そんなに怖がらなくても大丈夫❤︎アティ」


バタン カチャッ


黒木は再び扉を閉める。次は直ぐにドアをドンドンドンと叩いてきた。


「ちょっと待ってぇん!?アティシ何か悪い事したぁん!?」


黒木は溜息を吐いて扉を開ける。珍しくも彼の表情はムスッと怒っていた。


黒木

「…いや、何してるんですか聡さん…」


「…ノンノン」


黒木

「…?」


「今のアティシはファンタスティック⭐︎聡じゃないわ…二人の男女の絆に感化されて、ファンタスティックを超越した究極の美の化身!【矢澤ボンバー】よぉん!!!」


黒木

「……あの、こんな事言いたくないんですけど……もう少し真面目にお願いします」


「…クロちゃんにそんな冷めた態度されたら、もうおしまいね」


スンっと冷静になった聡を、漸く部屋へ招き入れる。


双葉

「…あっ」


部屋の奥にいる双葉を目にした聡は星型サングラスを外し投げ捨て、ついでにアフロのカツラも外して駆け寄る。


「双葉ちぁん!!会いたかったわよぉぉおん!!!」


黒木

(矢澤ボンバー…終わっちゃった)


勢いよく抱きついてぎゅーっと離さない。双葉も聡との再会に嬉しそうに笑みを溢し抱き返す。


双葉

「聡ちゃん…ごめんね…勝手に居なくなっちゃってさ」


「終わり良ければオールオッケー!!会えただけでもアティシはウレピッピー!!」


双葉

「あはは。聡ちゃん強く抱き締めすぎー」


子供のように燥ぐ聡と、相変わらずのテンションを前に双葉も心地よさそうに落ち着ける。黒木は聡といる時の双葉をあまり見た事がないが、この二人はきっとビジネスだけの関係ではないのだと目の前の光景で理解出来た。



 喜ばしい再会も終えて、改めて双葉はこのマンションから出て行く支度を進める。黒木と聡は彼女の準備が終わるまでソファで並んで座り待機をしていた。


黒木

「でも…どうしてメディアの人達がいなくなったんでしょうか。これだけ粘っていて、突然打ち切るとはとても思えないし…」


「んー、まぁ一つだけ心当たりがあるのよねん。でも、もしそうだとずっといない訳じゃなくて一時的なものだと思うわん」


「まー、それは置いといて。奴等はどうせ直ぐに集まってくるだろうし、双葉ちゃんが支度終えたらさっさとズラかるわよん。そうねぇ……双葉ちゃんには暫くアティシの家に住んでもらいましょう」


黒木

「確かにここいるよりは今後も自由に動けやすくなりますね…」


「クロちゃんはどうするの?」


黒木

「丁度明日も休みだったので…聡さんが迷惑でなければ、俺も今日は双葉さんの側に居ていいですか?」


聡はニヤつき黒木の背中を強く叩く。


「そんなの迷惑な訳ないでしょーん!?アッツアツジューシーフォーリンラブのお二人の邪魔なんてしないわよ!!ドーゾ好きなだけ泊まっちゃって!!」


黒木

「あ、ありがとうございます…」


ずっと喧しい彼に若干引き気味になる。


 聡は一息付くとカーテンが開いたままの窓に映る夜景を眺めて語り出す。


「……スタコレの事故の後、最後に見た双葉ちゃんの顔は、あの子の溜め込んでいた闇が曝け出されたかのように絶望的なものだったのよ。今の双葉ちゃんは、いつもよりも元気はないけど、立ち直ろうとしてくれているわ。…貴方のおかげよ、クロちゃん」


黒木

「…双葉さんが俺を信じてくれたからです。この先もずっと、あの人の支えになれたらそれで…」


「ヒュー♫…で?結婚式はいつやるの?神父役は引き受けるから教えてちょーだいね?」


黒木

「ちょ……やめてください。聡さん」


揶揄(からか)う聡にタジタジになる黒木。そんな二人の後ろから準備を終えた双葉がやってきた。彼女の纏めた荷物は思ったより少なく、一つのバッグに収まっている様だ。


双葉

「お待たせ。もう行けるよ」


黒木

「わかりました。聡さん、お願いします」


「ええ、任せてちょうだい!…でも、最後の仕上げがまだよ」


黒木

「…?」


………



 双葉の住むマンションの前では一時的に居なくなっていたマスコミ関係者が再び集まり、双葉の監視を続けていた。彼等はいつもよりイラついているようだ。


記者

「サツの見回りも終わったみたいだな。全く…誰が通報したんだか」


記者2

「俺達敷地内に入ってるわけでもないし、別に見られても問題ないんじゃないですか?」


記者

「馬鹿野郎。もしも職質なんかされてみろ。どこの出版社かバレたらイメージも悪くなるだろ!こういうのは隠密にしなきゃいけねーんだよ!」


記者2

「はぁ…」


二人の記者が監視を続ける中、地下駐車場へと繋がる出入り口から一台の赤いスポーツカーが飛び出てきた。


 彼等の前を走り過ぎるスポーツカーには、虹色アフロと星型サングラスを付けた三人組。大音量のEDMを流して、如何にも【パリピ集団】であった。


 一瞬の出来事でありながらも、そのインパクトの強さに記者達は呆気に取られて見送る。


記者2

「…このマンションには、あんなパリピ野郎も住んでるんですね」


記者

「そ、そうだな…?」




 …深夜の人が少ない、ビルに囲まれた都会の道路。爆音EDMも消してアフロと星型サングラスを外し変装を解く。アクセル全開に踏んで運転する聡は高らかに笑う。


「オーホッホッホッ!!ざまぁみなさい!!矢澤ボンバー成功ね!!」


黒木

「変装というよりも、ドン引きしてるような目で見られてたと思うんですが……」


「ククク…まさか何でも似合う最強の【パーフェクトモデル】が、こんな無様な格好をしてるとは誰も思わないわ…!!」


黒木

「自分で無様って言うんですかあの格好…」


聡が運転するスポーツカーは深夜の都内を走り抜ける。間も無く日を跨ごうとするこの時間帯でも、都会を灯す照明は街を煌めき続けるのであった。



 そんな都会から離れ走り続けること数十分。建物も少なく落ち着いた場所にて、一軒の年季が入った洋式の豪邸の前へと着いた。


 スポーツカーが柵のゲートの前まで来ると自動で開き敷地内へと入る。駐車場に車を停めて、双葉の荷物を黒木が代わりに運び、先に降りていた聡について行く。


 中の構造もクラシックな洋風の家具ばかりで、大きな振り子時計がチクタクと音を鳴らしている。普段目にする事のない家具ばかりで黒木には新鮮な気分だった。


黒木

「凄いところに住んでるんですね…」


「ウフフ♫これでも色々と稼いでいるのよねアティシってば。さあさあお二人とも。今日はもう遅いわ。夜更かしはお肌の天敵、さっさと寝ましょうねぇ〜。ゲスト用の寝室は彼方で〜す♫」


聡が案内する先の寝室部屋には、一人で寝るには勿体無い程大きなキングベッドが用意されていた。


黒木

「俺はソファで大丈夫ですよ。双葉さんはベッドを使って…」


双葉の方へと振り返ると、彼女の手は知らぬ間に黒木の手を握っていた。甘えるような声で黒木に聞く。


双葉

「一緒に寝てほしいな。私は黒木さんと寝てる時もいたい…ずっと一人で寝てる時は、寂しかったから…」


「あらぁ〜♡」


黒木

「…分かりました。一緒に寝ましょう」


彼女がずっと孤独だった彼女のことを思い、黒木は頷く。一応、聡に確認をする。


黒木

「…いいですか?聡さん」


聡はまるで悪役令嬢のように高笑いをする。


「オホホホホ!いーじゃないの!?アティシはファンタスティックソファでも問題ナッシング!ラブラブしてらっしゃいな!」


黒木

「そ、そういう意味では…」


双葉

「うん。ラブラブしてくるね。おやすみ、聡ちゃん」


黒木

「双葉さん…!?」


双葉に手を引っ張られ二人は寝室へと入っていき扉を閉めた。


 ニコニコと微笑ましく見守っていた聡だが、扉が閉まると真顔に変わり、急いでスマホを取り出し電話を繋げて、耳に当てながらソファへと座る。


KENGO

『…もしもし聡君?お疲れ様。こんな時間にどうしたんだい?』


彼はいつものオネエ口調ではなく、男の声で静かに話す。


「お疲れ様です社長。…双葉ちゃんと遂に接触出来ました」


KENGO

『!?ほ、本当かい!?今はどこに…!!』


「現在は僕の家にいます。時間も遅いので今日は寝かせました」


KENGO

『そうか…どうだった?彼女の容態は?』


聡は溜息を大きく吐く。


「正直よくありませんね。目のクマも酷ければ、体が前よりも一回り小さくなっています。きっとまともに食べれてなかったのでしょう。…ですが、想像していた状態よりかはまだマシかと……きっと、霧子ちゃんの助けもあったからだと思います」


「…それと、彼女の心の負担は、例の青年によって少しは浄化されたかと」


KENGO

『前に言っていた黒木君…の事かい?』


「はい。やはり彼は双葉ちゃんにとって必要不可欠な理解者でした。細田さんが動けなくなった今、彼は双葉ちゃんの心の支えにきっとなれるはずです。なんせ今回双葉ちゃんを連れ出せたのも、彼のおかげでしたから」


KENGO

『そうか……まさか一般人の人間が双葉ちゃんの救世主になるなんてね……だけど、その方が良かったのかもしれないな』


KENGO

『俺達のような仕事関係者だと、双葉ちゃんの事を支えようと考えても必ず何処かで【パーフェクトモデル】をブランド戦略として見てしまう部分があったと思うんだ。…それはきっと、あの子も気付いていて【本当の愛】に感じてなかったんだろう』


KENGO

『君がそうやって真摯(しんし)に話すぐらいだ。今回の件も踏まえて、俺も黒木君を信じる事にするよ』


「ありがとうございます。…明日、お二人を細田さんの元へ連れて行きます。彼女が今後どう生きて行くかは、三人で決めた方がいいかと思いますので」


KENGO

『うん、それがいいと思う。俺も午前中は空いてるから、君達と合流することにするよ。…春香ちゃんの専属担当にも就いて忙しいのに…悪いね』


俯いていた聡は顔を上げて、ニヤリと笑う。


「フッ…僕は最高の瞬間に立ち会えたんですよ?忙しいなんて微塵にも思っていません。…まぁ、僕も彼女達を送り届けたらハルちゃんの元へ戻りますが」


KENGO

『明日は彼女にとって大きなファッションショーだからね。春香ちゃんの事も頼んだよ』


「はい。……では、失礼します」


聡は電話を切りスマホをテーブルに置くと、ソファに横になり天井を見つめる。天井に吊るされたシャンデリアの煌めく輝く光に、彼の瞳もキラキラと見つめて微笑んだ。


「…ファンタスティックね…」




 カーテンも閉め切った真っ暗で静まり返った寝室。キングベッドに黒木と双葉は向かい合わせで寄り添う。


 双葉は黒木を抱き枕のように抱きしめて、少しも離さない。人の温もりが余程恋しいのだろう。スゥスゥと静かに寝音を鳴らして寝ている双葉を、じっと黒木は静かに見つめていた。


 二人で過ごしたあの頃とは違い、彼女は酷く(やつ)れて、ずっと数ヶ月の間、孤独の悲しみに暮れていたのを考えると…彼は自分のように悲しくなってくる。黒木は起こさないようにと、そっと片手を伸ばして彼女の頭を撫でる。


黒木

「…もう大丈夫だから…双葉さん…」


彼は静かに囁いて、撫でる手を離し抱き返して目を閉じる。


 初めての添い寝。今は尊敬も憧れも捨てて、この人の隣にいたいという気持ちだけを胸に眠りに付くのであった。


 昼間の雨雲はすっかりと何処かへ消え、雲一つない空は無限に広がる星で澄んでいた。


 煌めく星々はお互いを心から愛し合う二人の様に、いつまでもこの夜に輝くのであった。


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