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Re:LIGHT  作者: アレテマス
第二幕
72/144

32話【流王兄妹】


 双葉が居なくなったSunnaは活気を失っていた。今は春香がアイコンとして、Sunnaを懸命に引っ張る努力をしているが、以前より注目が薄れてしまっている。


 そして非情な事に、以前から双葉に嫉妬して陰口を言っていたモデル達は、次の標的を春香に変えただけで陰口を止める事はなかった。フレンやMIHOのフォローもあり、前よりは目立つ事はないものの、注意する人が近くにいない時はやはり言いたい放題。簡単には社内の環境が変わるわけがないのである。


しかし、そんな彼女達の悪口を乱暴に抑える人間がいた。


 ジュリである。彼女は自分自身を飾らず、思うがままに行動する覚悟を決めた後、少しでも社内で陰口を吐く者に対して噛みつきにかかった。若くありながらも彼女の圧倒的な圧に押し負け、迂闊に悪口を言う人間も徐々に減っていった。一部の人間からは、それを勇姿と讃え、ジュリを応援する者もいた。


 しかし、それと同時にジュリの凶暴性は反感を買う結果が多く、彼女の態度に苛つき手を出した相手には容赦無く【正当防衛】を称し暴力を振るい、社内トラブルも増えてしまうのであった。


 自身の肌が爪で引っ掻かれ傷だらけになり、モデルとしての価値を下げようとも、怒りのままに相手を捩じ伏せる。自分の身よりも、卑怯な相手を黙らせる事を彼女は選んだ。


 それは悪い方向へと進み、怪我が増えていく彼女の体に仕事も激減。そしてその扱いが難しい性格が、彼女を恨む一部の人間によって社外にも広められた事がダメ出しとなる。表紙を飾って以降、徐々にモデルとしてのキャリアを進み出していたが、ここに来て再び振り出しへと戻されたのである。


 このままでは彼女自身が身を滅ぼす事になる。ジュリの強い正義感に心配するKENGOは、彼女を社長室に呼び出した。


 ノックをして入ってきた彼女は、顔や腕に絆創膏を貼り、目つきも以前よりも鋭くなっている。その姿はモデルというより最早【狂犬】である。


ジュリ

「どうも」


怠そうな声でKENGOに挨拶をする。呼び出された事が気に食わないのだろう。そんな無礼な態度であろうと、KENGOは優しく微笑みを見せた。


KENGO

「やぁ。前より絆創膏の数が増えてないかい?」


ジュリ

「どうでも良いでしょそんなの。早く本題に移ってくれませんか?」


KENGO

「ハハハッ。君はそういう子だったね。相手が誰だろうと気にしないその感じ…良い意味でモデルのプライドとしては完成されているよ」


ジュリ

「早く始めましょうよ」


ジュリは腕を組み片足をトントンと床を踏んで鳴らす。苛立ちが隠せていない。


KENGO

「うん。君自身はもう分かってると思うけど…ここ最近、ジュリちゃんの乱暴っぷりが社内で問題視されていてね。俺の元に幾度と相談が入ってくるんだ。君のマネージャーである内山君も、かなりビビってるそうじゃないか」


ジュリ

「彼の方は元からヘタレですからね。…で?要はクビにしたいってことですか?」


KENGO

「まあまあ。俺は君のような己の真を貫き通す子は現代において中々居ないし、モデルとして評価しているんだ。でも、Sunnaは一般層をターゲットにしたファッションをメインにしている分、その路線が得意なモデルがここには集まっている」


KENGO

「だからパンクロックをメインにしている君にとっては、この場所の居心地が悪かったんじゃないかなって思ってる。今まで悪かったね」


ジュリ

「……」


KENGOは少しだけ頭を下げ、直ぐに顔を上げると話を続ける。


KENGO

「そして双葉ちゃんが居なくなってからのSunnaは、正直な所伸びが良くなくてね。企業からのモデル起用率も以前より低迷しているんだ。俺の自己勝手な会見も原因の一つだけど…双葉ちゃんという存在がどれだけ凄かったのかも目に見えて分かったよ」


KENGO

「このまま同じ事を続けていても他のモデル事務所に置いて行かれてしまう。だから、双葉ちゃんの退職を機に、新生のSunnaになろうと考えている。そこでまずは、個性が強いモデルを雇う事にしたんだ」


ジュリ

「一般ウケよりも、色々な人間に注目されるのを狙うわけですか」


KENGO

「まあそういう事だね。……【流王兄妹(りゅうおうきょうだい)】って知ってるかな?」


その言葉を聞くとジュリはピクッと反応した。


ジュリ

「この業界じゃ知らない人はいないでしょ」



【流王兄妹】


世界的に有名な日本発祥のファッションブランド【Ryu-O】の若き創業者【流王 進】彼の二人の子供は幼い頃からモデルとして活躍していた。


 【Ryu-O】というブランド自体が一般向けではない、進による独特な世界観を生み出したファッションとして販売され、私服で着るというよりも個性を求めて着る人達に人気なのである。そのブランドイメージを担っているのが【流王兄妹】なのだ。



ジュリ

「で、その流王兄妹が今関係あるんですか?」


KENGO

「うん。先日流王社長と会談をしてね。Ryu-OとSunnaはお互いの企業発展を目的に協業する事になったんだ。此方からはRyu-Oの宣伝としてモデルの貸し出しを、そしてRyu-Oからは流王兄妹をSunnaのモデルとして契約したんだ」


ジュリ

「こんな事言っちゃあ悪いですけど、SunnaよりもRyu-Oの方が企業としてデカいじゃないですか?相手側からすればウチと連結して、あんまり良い事なんかないんじゃ…」


KENGO

「自慢じゃないけど、これでも色んな企業の社長さんと仲が良くってね。利益どうこう考えるよりも、人間関係を大切にしてきた実績かな」


KENGO

「後は…流王兄妹からSunnaに所属したいと言ってくれたんだ」


ジュリ

「流王兄妹から?」


KENGO

「理由は本人から聞くといいよ。…そろそろくると思うんだけどな」


ジュリ

「えっ」


すると、突然ジュリの背後の扉が勢いよく開いた。


「チャーッス!!流王兄妹の参上だぜーっ!!」


喧しい甲高い声は耳が痛い。嫌な顔をしながらジュリは振り返る。



 扉から入ってきたのは190cm以上はあるであろう長身の男と、眼帯を付け歯を見せて笑っている少女。彼等こそ【流王兄妹】である。


男の名は【流王 一馬(かずま)


 12歳の頃からモデルデビューをして、スレンダーな体型と高身長を活かしショーモデルとして活躍する現在27歳のベテラン。全身真っ黒の衣装である【モードファッション】が彼のスタイルであり、男性でありながら腰ぐらいにまで伸びた長い髪も特徴的である。目の下にはクマがあり、目も半開きで常に猫背。無気力な雰囲気が常に漂っている。


そんな兄とは違って元気爆発な少女の名前は【流王 二奈(にな)


 【ニーナ】で活動する彼女も同様、12歳の頃からモデルデビューして現在17歳と5年目。銀髪に染めて長い髪をポニーテールで結び、派手さマシマシの【パンクファッション】のスタイルを好む。左目は怪我をしているわけではないが、常に柄が描かれた眼帯を装着している。兄とは正反対で元気120%の【陽の化身】だ。


 この二人からわかるのは、どちらも自分の世界観を貫き通している個性の強さ。KENGOが言う【個性の強いモデル】としては十分だろう。ジュリはこの二人が映るファッション誌は幾度と見たことがあったが、その個性溢れる姿を目の前に圧倒されていた。


KENGO

「待ってたよ、一馬君、二奈ちゃん。この子がジュリちゃんだ」


一馬

「初めまして、ジュリちゃん。流王 一馬デス」


二奈

「ウェーイ!妹の二奈デース!二奈でもニーナでもお好きに呼んでっちょ!とりまよろぴっぴー!」


両手でピースをしてニコニコとする二奈に、礼儀良くお辞儀をする一馬。既にこの時点で温度差が激しすぎて風邪を引きそうだ。


ジュリ

「…えっ、なんすかこれ」


KENGO

「Sunnaの新プロジェクトとして、君達三人は活動を共にしてほしいんだ。プロジェクト名は【Individuality(インディビジュアリティ) Illuminate(イルミネイト)】君達は二つのIを略した【ダブル・アイ】として結成してもらう」


二奈

「ヒュー!ダブル・アイだってさ、にーに!厨二感モリモリでバリやばくねー!?」


一馬

「我々の新舞台としては良いプロジェクトデスね、妹。僕もテンションが上がってきまシタ」


ジュリ

「…あんなのと一緒に仕事しろって言うんですか?」


KENGO

「こらこら…」


嫌そうな顔で指を指すジュリにKENGOは苦笑いする。


KENGO

「君も知ってると思うけど、流王兄弟の実力は本物だ。彼等が映る写真はどれも芸術の一枚に変わる。ジュリちゃんが学ぶ所もあるはずだから仲良くするんだよ?」


KENGO

「後は…忘れないでほしいんだ。君は一人じゃないって事を。君の味方になってくれる人間は、この世界に沢山いる事を」


ジュリ

「…ハァ?」


社長の言葉にイマイチ理解ができていないでいると、突然二奈がジュリの隣までやってきて彼女の肩に腕を回す。


二奈

「そんなわけでジュリっぺ!これからヨロー!早速だけど、つぶグラ相互フォローとかどう?!」


ジュリ

「ちょ…馴れ馴れしすぎ!」


二奈の回してきた手を払い、睨みつける。


ジュリ

「社長がそう言うなら仕事は一緒にするけど、必要以上に絡む気はないから!!私、もう行くんで!」


そう言って扉の隣に立っていた一馬の横を無視するように通り過ぎて、部屋から出ていく。仲良くしようとするも断られた二奈はゲラゲラと笑っていた。


二奈

「やっば!ウチ開幕メッチャ嫌われててウケるー!」


一馬

「二奈。初見の人には馴れ馴れしく接するのは止めなさいといつも言ってるじゃないデスか」


二奈

「えーっ!?そうだったっけ!?」


一馬

「スミマセン社長。妹はご覧の通り頭が悪くて、無礼極まりない子なのデス」


二奈

「アっハッハッハッ!!辛辣で草ァー!!」


KENGO

「は、ハハハ…大丈夫だよ」


感情が無で棒読みのように話す一馬と、常に燥ぎ続ける二奈に、流石のKENGOも温度差が激しく困ったように笑ってしまう。


一馬

「しかし…ジュリちゃん、思っている以上に一人で抱えていそうデスね」


KENGO

「うん。彼女はきっと【ヒール】を演じようとしているんだと思う」


一馬

「ヒール…?」


KENGOは机の上に飾られた2年前に撮った社員の集合写真の写真立てを見つめる。そこには双葉と春香、そしてジュリも映っていた。


KENGO

「双葉ちゃんはSunnaにとって光だった。でも、光というのは時に目立ちすぎてしまい、寄せ付けてはならない者も集めてしまう。俺が把握出来ない部分でも、彼女に嫌がらせをする子はこの会社にも存在しているみたいだ」


KENGO

「そしてその標的は次に春香ちゃんになろうとしている。あの子が【パーフェクトモデル】を継ごうとするのを気に食わないと思う子は必ずまた現れるんだ。そんな春香ちゃんをジュリちゃんは庇っているんだと思う。同じ過ちが起きないようにね」


KENGO

「悪目立ちであろうと、春香ちゃんに向けられるヘイトはジュリちゃんの方に向けられる事で守られる。きっとあの子が荒々しくなってるのも、それが本当の目的だと俺は思うんだ」


写真を見て懐かしむのを止め、KENGOは流王兄弟の方へと顔を向ける。


KENGO

「君達がここに来てもらったのは、Sunnaの今後の経営方針の為でもあるが…一人で抱え続けているあの子のケアが真の目的だ。頼んだよ」


社長の思いを聞いた二人はしっかりと頷く。


一馬

「もちろんデス、社長」


二奈

「ファッションもメンタルケアもウチらにお任せあれ!!流王兄妹がイケイケなの、証明してやんよー!!」


KENGO

「ふふっ、頼もしいね」


一馬

「…ところで社長」


KENGO

「ん?何かな?」


一馬

「ここまで来るのに体力を使い切ってしまって……暫くここで休んでもいいデスか?」


KENGO

「そこから動かなかったのってそういう理由!?」


二奈

「アハハハハ!!体力無さすぎワロタァー!!」



 突如現れた流王兄妹。それはKENGOが社内での陰口問題に対応するものであった。果たしてこの二人は、ジュリの心の負担を和らげることが出来るのだろうか。


それはまだもう少し先の話になるのである。


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