31話【西の輝星】
…昔の思い出。幼き難波の手を力強く握り、道頓堀の橋の上から夕陽を見つめる父は語る。
父
『ええか光!この世で一番偉いのは、誰よりも輝く人間のことや!それはお金や名誉やない!人様を喜ばせることが出来る奴のことや!』
父
『お前はおかん譲りの別嬪さんや!!俺の小さな工場なんぞを継ぐには勿体無い!!お前は芸能界を目指し、人々から喜ばれる存在を目指せ!!』
父
『せやなぁ…芸名は【難波ヒカル】なんてどうや!?難波の星としてぴったりやと思わんか!?えっ?面白くない?何言うとんねん!!せっかくおとんが考えてやったって言うのに、もっと有り難く……ヒカリじゃダメかって?アホか!何で可愛い愛娘の名前を他の男に呼ばれなあかんねん!!ええか光!お前は……』
………
【アリケーンチャンネル〜!!】
アリケン
『おはよう!こんにちは!こんばんは!!アリケンです!!さあさあ今日もアリケンチャンネルやっていきましょう!!』
アリケン
『さてさて!今日の話題はこちら!スタコレ再開が決定したこと!いやー!おめでたい!!【パーフェクトモデル】のトラブル騒動もあって、中止で終わるのかとずっと不安だったので、ファンにとって朗報ではないでしょうか!?』
アリケン
『そして注目されるのは、スタコレ運営から正式に盛り上げ役として認定された【TOP4】!今を輝く四人の現役モデルによるプロモーション活動には、今後とも期待が出来ますね!!』
アリケン
『…しかし!しかし!!しかーし!!!そんな素晴らしい朗報とは逆に!!皆様に悲しい情報を提供しなくてはなりません!!』
アリケン
『【TOP4】で活躍中の【関西のパーフェクトモデル】こと、難波 ヒカルさん!実は父親は借金まみれなんです!しかも母親に関しては毎日薬をキメてらっしゃるそうで…!やーばい家族の元で生まれたから、あんな無敵な性格になったんですかね!?』
アリケン
『難波さん自体に悪い噂はありませんが、両親がこんなのじゃあ輝かしい【TOP4】に相応しくないと言いますか…イメージはぶっちゃけ悪いんじゃないかなって僕は思いますね!スタコレはモデルにとって夢の舞台なら、まずはプロモーションの見直しを……』
………
PM17:55 RABiの住むマンション
難波
「…やられた」
手で目を塞ぎ、ソファの上で仰向けで寝転ぶ難波は呟く。夏の蒸し暑い部屋に、未だ沈まない夕日が部屋に光を差していている。
8月に入り、東京に上京して1ヶ月が経った難波は絶不調だった。関西では毎日が忙しく、休日と言う言葉が頭から消えていたが、東京に来てからは兎に角仕事がなく休日という言葉を思い出す。
理由は至ってシンプルなものだった。【難波 ヒカル】という上から下まで関西色に染まっている彼女は、関東では扱いづらいのである。同じ日本に住んでいても、東と西のファッションスタイルも異なり、難波の得意とする【ストリートファッション】も、ここでは通用しないのだった。
また、その強気な性格は東京では受け入れ難く、初めのうちはスタコレのプロモーションとしてゲストでテレビに何度か呼ばれたが、彼等の印象は良くなかったのだろう。それっきり全く呼ばれなくなってしまった。
あまりにも仕事がないため、モデルを募集をしている仕事のオーディションにも参加する機会が増えた。しかし、ここでも東と西のファッション性の評価に差があり、有名人であるはずが選考落ちという悲しい結果が続くのであった。
そんな彼女をダメだしするかのように、アリケンチャンネルでは自身の家族の情報を暴露され、つぶグラでは現在進行形で大荒れ。元気が売りの難波も、この不幸の重なりには流石に参っていた。
難波
「このままじゃあかんなぁ…」
そう言って溜息を吐いてると天井の照明が明るくなり、クタクタな様子でRABiが帰ってきた。
RABi
「たっだいまぁ〜…今日のレッスンもチョーキツか…って、アッッツ!?難波さん、何でクーラーの電源切ってるの!?」
難波
「アホ。人様の家に住み着いておきながら、家主の許可なくクーラー点ける奴がおるか。働かざるもの権利なし、や」
RABi
「もー!!熱中症になるからやめて!!難波さんちゃんと家賃払ってるし食費も出してくれてるじゃん!」
RABiは難波に怒りながら直ぐ様クーラーの電源を入れる。
冷房が部屋に広がり、漸く快適な空間が出来上がると、難波は体を起こしてソファに座り直す。
汗を肩に掛けたタオルで拭きながら、RABiは氷をたっぷりと入れたグラスに麦茶を二人分注ぐ。難波の元へ運んで手渡すと、彼女も隣に座って、俯き気味な難波に顔を覗かせた。
RABi
「…もしかして、アリケンチャンネルの事気にしてる?」
難波
「せやな。あんなボケカスの言葉を信じてウチを叩く奴等が結構おったことがショックやわ。…まぁ、あのカスの事はどうでもええねん」
RABi
(滅茶苦茶キレてるな…コレ…)
難波
「TOP4に就いておきながら、アンタらに迷惑をかけてしまってる事が申し訳なく思ってるんや。偉そうな事言った癖に、一番足引っ張ってしもうてるわ。ホンマごめん」
彼女はRABiの方へと体を向けて深々と頭を下げる。
こんなの難波らしくない。彼女を元気にさせたいと思うRABiは一つ提案する。
RABi
「ねぇ。明日一緒に買い物に行かない?」
難波
「…ハァ?」
人が謝ってると言うのに何を言い出すんだと難波は顔を上げる。RABiはいつも通りのニコニコスマイルだ。
RABi
「ほら、こっち来てから1ヶ月は経ったけど、まだ東京の街とかじっくり観光してないんじゃないかな。私、丁度明日休みだったからさ…一緒にどう?」
難波
「…まー、家でじっとしてても何もええ事あらへんしな。わかったわ。気分転換にはなりそうやし、エスコート頼むで」
RABi
「オッケー!せっかく誘ったんだし、楽しんでよね?」
難波
「ヘーイヘイ」
………
AM10:00 次の日
こうして二人は目立たないよう控えめなカジュアルファッションを着こなし街へと出掛けた。
しっかりと一日のスケジュールを組んで動きたい難波と違って、目に映る気になる店にどんどんと入店して、その場の流れに任せて動くRABiは正反対だった。初めは無計画な彼女にエスコートを任せた事を後悔していたが、コレがまた徐々に新鮮な気分を味わい、最終的にはこの買い物に満足していた。
両手に大量の買い物袋を握り、清々しい気分でニコニコと満足しながら街を歩くRABi。難波は殆ど何も買わず、彼女の買い物袋の一部を代わりに持っている。
RABi
「んー!沢山買っちゃったなぁー!後でつぶグラに載せるの楽しみだよー!」
難波
「そりゃあ良かったな」
RABi
「難波さんはなんで買わないの?せっかくのショッピングだよ?もっと贅沢しなきゃ!」
難波
「東京に来てからは何でもかんでも商品が高いわ。似たようなもんは大阪にもあるし、別にいらんねん。まっ、後は見るだけならタダやしな」
RABi
「ウワー…ケチー…」
RABiに呆れられても、難波は全く気にしていなかった。すると、難波のスマホに着信音が鳴り出す。
難波
「ん?なんや?…スマン、RABi。ちょい静かにしててくれるか?」
RABi
「ハーイ」
二人は近くの建物の側に向かって日陰へと隠れ、難波はスマホを耳に当てる。RABiは待っている間【難波さんと買い物中でーす】とつぶグラで載せる自撮りをしていた。
難波
「はいもしもし?…おぉ?!社長!?ひっさしぶりやなぁ〜!!…え?ちゃうちゃうちゃう!ウチ、一々電話番号確認せえへんから!!」
難波は先程と違って、明らかに気分が上がって嬉しそうに通話をしている。なんだかいつも見ている元気な彼女とはまた別の明るさにRABiは不思議そうに通話をする難波を見ていた。
難波
「で?いきなりどしたん?…ほん…ほうほう…ええっ!?マジか!?わかった!何処におるん!?…オッケーや!今から直ぐ向かうわ!」
大袈裟なリアクションをしながら電話を切る。
RABi
「どうしたの?」
難波
「いや、社長が東京に来てるらしいねん。今から会えへんかって言われたから…」
RABi
「えっ!?社長さん!?それは急用だよね!私、先に帰ってるよ!」
難波
「せや……いや、RABi。せっかくやしアンタも付いてきてくれへんか?社長にアンタのこと、いつか紹介したいと思っとったし」
RABi
「…え?」
………
PM12:34
RABi
「ここって…」
難波達が着いたのは秋葉原にある一つのコラボカフェの前。現在開催されているコラボは…
RABi
「いや!?なんで!?」
そう、PP⭐︎STARとのコラボ中だったのだ。デカデカと店看板にはキラキラとアイドル衣装を身に纏うメンバーが写っている。勿論、RABiもそこにいる。まさか本人がプライベートでここに来るとは、誰も思ってないだろう。
難波
「しゃーないやろ。社長がこの中で待ってるって言うんやから。ほら、はよ中に入るで」
RABi
「エェェ…今日は目立たないようにしておこ…」
先程買い物中に買ったキャップを袋から取り出して深く被る。ファンサービスはお手のものだが、これから元山興業の社長と会うとなると、そんな気分にはなれなかった。
店内はPP⭐︎STARの曲が流れていて人で賑わい大盛況。順番待ちの待機席でさえ溢れている。客層は10代から20代の若い人達で、彼等が楽しそうにしているのを見るとRABiも嬉しく感じていた。
難波は受付にて先に到着している社長の事情を話す。その間、RABiは一人考え込んでいた。
RABi
(そう言えば元山興業の社長さんって、表に全く出ないならどんな人か知らないなぁ…でも、この店を選ぶし、難波さんが慕うぐらいだから、やっぱり明るい人なのかな?)
脳内でRABiが想像する社長が作り出される。出っ歯でニコニコ顔が似合う、ガラガラ声の愛想の良い男。
社長
『君がRABiちゃんか!?どうもどうも!元山興業の社長ですぅ!!RABiちゃん可愛いなぁ〜!!流石は【最強に可愛い無敵のアイドルモデル】やねぇ!!え?そんな事ない?何言うてんねん!!ファー!!』
RABi
(…こんな感じ?)
受付
「あぁ。それでしたら事情を伺っております。彼方の席でお待ちしてますよ」
難波
「ありがとさん!ほら、RABi!行くで!」
RABi
「あっ!うん!」
きっと陽気な人なのだろう。そんなに固くならなくても大丈夫。いつも通りで行こうと彼女は思い難波について行く。
難波
「!社長!」
難波は先に彼に気付いて嬉しそうに声を出した。RABiも負けじと前に出て最強のスマイルを見せる。
RABi
「初めまして社長さん!PP⭐︎STARのRABiで…」
二人の前のテーブル席に座るのは、夏だというのに黒いスーツのオールバックの男性。無精髭にパイロットサングラスも付けて、何処からどう見ても【彼方側の人】である。
男の後ろには二人のガタイのいい大男が、手を後ろに組んで立っている。一人はスキンヘッドの熊のような厳つい男、もう一人は目が蛇のように細い七三分けのメガネ。正に社長のボディーガード的存在に見える。
社長
「おう…待ってたでぇ難波ァ…」
静かでドスの効いた低い声。サングラスをズラし見つめてくるその目は、何人も殺めてきた経験を持つ鷹の目。恐怖のあまりRABiは挨拶を止めて、思わず「ヒュッ」と声が出た。どう見ても、この華やかでキラキラとしたコラボカフェに居てはならない人達である。
【君に恋してる♫出逢ったあの日から!♫眩しい笑顔に心奪われて♫瞳の奥には無限の夢がある!♫ 君と歩きたい!未来を描いてー!!♫】
タイミングよく店内の曲は【君に恋してる】のサビが流れてくる。最も、社長の瞳の奥には無限の夢を感じられないが。
難波はこんなヤバそうな相手であろうと嬉しそうにRABiを紹介する。
難波
「ホンマ久しぶりやなぁ!社長!もう知ってると思うけどこっちがRABi!社長も喜ぶやろと思って連れてきたで!」
RABi
「ハ、ハジメマシテ。ラビデス」
あまりにも強面のメンツにRABiはカチコチになり笑顔も消えていた。社長は不気味な笑みを見せる。
元山
「どうもぉラビはぁん。元山興業で社長をやらせてもらってますぅ…【元山 誠義】っちゅうもんですぅ…こっちの坊主は【白田】…そんでこっちのメガネは【高松】や…」
RABi
「ア、アハ…アハハ…」
下手に喋らない方がいいかもしれない。言葉を誤ってしまうと山に埋められる…そんな恐怖に怯えRABiの顔は引き攣っていた。
元山
「そないなところ突っ立っとらんで、早う座りぃ?エライ歩いて疲れてるやろうしなぁ?」
RABi
「ハ、ハイィ…」
難波
「あっ、社長」
元山
「…なんや?難波」
難波
「ウチ、先にちょーっと、トイレ行ってくるわ。RABiは座っといて」
RABi
(難波さん!?)
元山
「…のぅ、難波」
元山はサングラスをズラして、難波を睨みつけて問う。
元山
「そりゃあ長くなりそうか?…もしも長くなるんやったら先に注文済ませておく境、何が欲しいか…」
難波
「もぉー社長!!乙女にそんなん聞くもんちゃうで!!」
難波はバシィ!と元山の頭を思いっきり叩いて突っ込み、彼の顔はグラグラと揺れた。
RABi
(難波さぁーん!?!?)
難波
「注文はRABiに任せとくわ!じゃ、頼んだで!」
難波は早足でトイレに向かって行った。取り残されるRABi、トイレに行く背中姿を見送る元山は、ペロリと舌を舐め回し冷笑する。
元山
「ホンッマ…おもろい女やでぇ…」
RABi
(…みんな、ごめん。私、今日でみんなとお別れかもしれない…)
元山
「ラビはん…何を遠慮しとるんや…?早よ座りぃやぁ…」
RABi
「…ハイ」
顔は青ざめ白目になりつつあるRABiは、カチコチな動きで対面の席へと座る。今直ぐにでも帰りたい。RABiは連れて来られた事を酷く後悔していた。ドッキリだと信じたい。
すると、元山はRABiの心情も知らずメニューを手に取り広げる。
元山
「何も注文せず、じっと待ってるのも店に迷惑かかる。ラビはん、ワシが全部奢るから好きなもん注文してくれや」
RABi
「ジャ、ジャアカフェラテヲ〜…」
元山
「…そんだけでええんか?まぁええわ…スマンがワシもまだ昼を食ってへんからなぁ…ちょっとばかし、頼ませてもらうでぇ…」
元山
「せやなぁ…この【たっぷりラブラブソース⭐︎キラキラトロピカルパフェ】とか旨そうやないか…」
RABi
「ン"ン"ッ"!!」
森山
「…?どないしたんや?ラビはん」
RABi
「な、何でもないです!!何でも!!気にしないでください!!」
静かにドスの効いた声で読み上げる甘い商品名にRABiは思わず吹き出しそうになるも抑えた。笑ったら、山に埋められてしまう。
RABi
(しかもそれ、私が監修した奴じゃん…!!)
自身が監修した商品を選んでくれた喜びと恐怖が混ざり合わさり、RABiは俯きプルプルと吹き出すのを堪え続ける。元山は彼女が苦しんでいる事を知らず、メニューを見続ける。すると、先程からずっと後ろで立っているスキンヘッドの白田が口を開いた。
白田
「親父」
元山
「何やシロちゃん」
RABi
(親父…!?シロちゃん…!?!?)
白田
「その…何と言いますか…そのパフェを注文するのは構わないのですが、兄貴も歳が歳なので甘ったるいのは…もしも残すのなら、俺が食べますよ」
元山はその言葉にギョロリと白田の方へ振り向き睨みつける。
元山
「…のう、白田。お前も腹が減ってるだけちゃうんか?」
白田
「い、いえ…そんな意味じゃ…」
元山
「そんな意味やろがぁい!!」
元山は突然怒り立ち上がったかと思うと、白田の胸ぐらを掴み持ち上げる。RABiは恐怖の余り、白目で固まってしまっていた。
元山
「大食いのお前が腹減ってへんわけないやろがぁ!!何意地張っとんじゃボケェ!!」
白田
「〜ッゥ!!す、すいません親父ィ!!自分!腹減ってます!!」
元山
「お腹空いたんなら今一緒に注文済ませなあかんのじゃい!!後から追加注文なんかしたら、店員さんに迷惑かけるやろがい!!!早よ言えやぁ!!」
白田
「お、俺も【たっぷりラブラブソース⭐︎キラキラトロピカルパフェ】を食べたいです!!!」
元山
「静かに言わんかいアホォ!!店内ではお静かにってママから教わらんかったんかボケェ!!」
白田
「スイマセン親父ィ!!俺が間違ってましたぁ!!」
高松
「…コホン」
二人を止めるようにメガネの男、高松が態とらしく咳払いをする。
元山
「何やタカピー…お前も文句あるんかコラ…」
RABi
(タカピー…カワイ…)
タカピーこと高松はメガネをクイっと上げて、冷静に話す。
高松
「いえ、少々燥ぎ過ぎかと…PP⭐︎STARのコラボカフェに入店するという夢が叶った事は理解しますが、大の大人が空気を乱してはなりません」
RABi
「そうなの!?!?」
こんな怖い顔の人達がこのカフェに来たかった事実を知り、思わず白目が元に戻り驚いた。よく見ると、周囲の目も此方を向いている事に元山は気付くと、胸ぐらを掴む手を離してゆっくりと座り直した。
元山
「…せやな…ちょいとテンション上がってしもうてたわ…ラビはん、見苦しい所見せてしもうて悪いのう…」
RABi
「い、いえ!!全然大丈夫です!!…そ、それよりこの店に来たかったのって…」
元山
「あぁ、ホンマやでぇ」
高松は再びメガネをクイっと上げて解説をする。
高松
「社長はPP⭐︎STARの大ファンでして…特に最推しはRABiさん。貴方なのです」
元山
「…ホンマは今すぐにでも一緒にチェキ撮りたいし握手もしたいしサインも欲しいし…今、ワシは精一杯感情を押し殺しとるんや…」
白田
「RABiの姉貴。アンタが目立てばこの店内がパニックになるんは分かります。せやけど、ほんの少しでも社長にファンサをしていただけまへんか?」
元山
「おい白田。何勝手な事言うとんねん。ラビはんがここでファンサなんかしたら、ワシの命が危ういわ。ラビはん、気にせんでええからな?」
RABi
「エ、エェー……」
高松
「さて、お二人が落ち着いた所で私も【MAiのキラキラ⭐︎プリンアラモード】を注文して良いですか?」
RABi
(あっ、可愛い…)
強烈に激しいギャップにRABiは突っ込み疲れ、力が抜けていく。ただ、今ので分かった事がある。この人達は見た目こそ危険人物だが、ただただ【面白いオジサン】だったということを。
………
RABi監修のパフェの注文も終えて一同は一旦落ち着く。難波はトイレに行ったきりまだ戻って来ない。RABiも相手が面白オジサンと分かってからは、少しは緊張が解けて気が楽になった。
元山
「スマンのう…ラビはんには偉い怖がらせてしもうたみたいやなぁ」
RABi
「あ、あはは…だ、大丈夫です…?」
元山
「けどまぁ、ラビはんと直接会って、難波が褒めてたのもよー分かった。アンタはごっつええ子なの分かるでぇ」
RABi
「えっ?難波さんが私を褒めてたんですか?」
元山は頷き、横の窓から街を歩く人々を見つめながら語りだす。
元山
「せや。スタコレのリハーサルで初めて東京に行く事が決まった時、アイツ初めての地にごっつビビっとったんや。【関西のパーフェクトモデル】の愛称が、関東でも通じるかってな。ワシもついて行ってやりたかったが、生憎仕事に追われてのう…」
元山
「そんで帰ってきたら、嬉しそーな顔しながら『関東の友達が出来たんや!』ってワシに報告してきてのう…それがまさかラビはんだったのは予想外やったが…アンタが難波の初の友達になってくれて、ホンマに感謝しとる。ありがとうなぁ」
元山はRABiの目を合わせて深々と頭を下げた。それに続いて後ろに立つ白田と高松も頭を下げる。
RABi
「そ、そんな大した事じゃないですよ!!私もあの時難波さんと出逢わなかったら、慣れないリハーサルで大失敗してたと思いますし…逆に難波さんから色々と教えてもらってるから、お礼は私が言いたいぐらいです!」
元山
「…そー思ってくれるんか。やっぱ、ラビはんはごっつええ子やねぇ…」
元山は顔を上げると不気味に笑う。彼なりの愛想なのだろうが、怖い笑顔にRABiは引き気味に笑い返す。闇の商談をしてるのではないかとビビりながら店員はやってきて、注文したパフェを二つ、プリンアラモードを一つ、そしてカフェラテを置いて逃げるように去って行った。
元山
「お前ら、先食べてええで。何時迄もそこに突っ立っとらんでワシの横に座らんかい」
白田
「ウッス」
高松
「社長は食べないのですか?」
元山
「ワシはラビはんに言わなあかんことがあるからのう…ええ子のラビはんやからこそ、あの子の事を話さなあかん」
RABi
「…?」
元山は奥の方へと席を移動すると、白田と高松もくっつくように座りデザートを堪能する。目の前にはゴッツイ怖顔のオッサン三人が仲良く座っていてシュールでしかなかった。
しかし、そんな状況でも元山は気にせず話し出す。
元山
「ラビはん。最近の難波は、元気がなかったんちゃうんか?」
RABi
「え?……んー、そうですね。仕事がない事を嘆いていましたけど…あっ、そう言えばアリケンチャンネルに自分の事バラされてからは調子が悪いというか…」
元山
「…やっぱりのう。あのクソガキが世間にバラしたのは、難波にとって見せたくない部分やったからなぁ」
RABi
(社長もクソガキ呼ばわりしてる…)
RABi
「安心してください!私もTOP4のみんなも信じてませんよあんな情報!難波さんに限ってそんな…」
元山
「いや、ホンマのことやねん」
RABi
「…えっ?」
元山
「正確にはあのクソガキは誤解を招く発言をしとるがな。……あの子も帰ってこーへんし、少しばかり難波の話をさせてくれや。あの子の友達として、知っておいて欲しい事がある」
RABi
「…わかりました」
元山はサングラスを外し、机の上に置くと腕を組んでパフェを見つめながら話し出した。
元山
「…難波の親父とワシは同級生でのう。小中高ぜーんぶ一緒に過ごした仲やったんや。大人になったワシは芸能事務所を立ち上げる夢を、アイツは先祖から引き継いだ工場長に…ワシらは其々の道へと分かれた」
元山
「アイツは従業員からも親しまれる優秀な人間で、事業の方も順調やった。そしたらまー大阪全域に貢献する巨大なプロジェクトも任された訳で…アイツはよーワシに『人様を喜ばせる事が出来て俺は幸せや!』なんて言っとったわ。全てが上手くいってた。…詐欺集団に目を付けられるまではな」
元山
「奴等に目を付けられてからは一瞬やった。お金は全部持ってかれて、気が付けば借金塗れ…親から引き継いだ工場を手放すまで堕ちて…それからはアイツは鬱になってもうて、難波と奥さんを置いて……自殺してしもうたんや」
RABi
「…そんな…」
元山
「奥さんも女手一つで難波を育てる為に必死に働いた結果、体を壊してしもうてのぅ…薬を飲まへんと体が持たんようになってしもうたんや」
元山
「奥さんは泣きながらワシの元に訪れて『私ではもうこの子を育てる事が出来ません!どうかこの子を芸能人にして一人で生きていけるようにしてくれませんか!お願いします!』って頼んできたんや。そうして誕生したのが【難波 ヒカル】や」
元山
「親父を失って、母親も体を壊して…難波もあの時は生きる気力を失っとったわ。芸能登録をした所で仕事も入ってこーへんし絶望的やった。…そんな時や。【パーフェクトモデル】が難波の前に現れて、アイツを変えたんや」
RABi
「双葉さんが…?」
元山
「せや、テレビに生出演していた双葉を見てな。ゴッツ美人やし、観客の声も全部引き受けて喜ばせて…そんで何よりも本人も楽しそうにしとった。そんな双葉を見て難波は【パーフェクトモデル】っちゅう存在に憧れて『自分もモデルになって、自慢の美貌で人々を喜ばせる!』とか言うてのう」
元山
「元山興業はモデル業に弱かったんやが…アイツが努力したおかげで、【関西のパーフェクトモデル】と呼ばれる地位まで辿り着いたんや。アイツは親父の言う『人様を喜ばせる事が出来る奴が一番偉い』言葉を信じとる。その言葉を信じ、今の難波を作り出した【パーフェクトモデル】がどれだけ偉大な人物だったのかも、よー分かったで」
元山
「アイツは口に出さんが【パーフェクトモデル】を心より尊敬してた。そんなアイツの中の光が消えた今、メンタルもかなりしんどいと思うねん。しかもクソガキの情報開示も、仕事がないのも重なってもうて…流石に元気が売りの難波でもくたばっちまうわ」
長く話し終えると、改めて元山はRABiに向けて深々と頭を下げる。
元山
「ラビはん。アンタが難波の友達なら、双葉が居なくなった今、あの子の隣にいてあげてくれへんやろか?難波にとって関東で頼れる人間はアンタぐらいしかおらへんのや。どうか、たのんます」
RABi
「社長…」
元山がゆっくりと顔を上げると、RABiはニコッと笑顔を見せてくれた。
RABi
「任せてください!私も双葉ちゃんが居たから今の自分がいる訳で…その気持ちは物凄くわかりますよ!【光】になっていた人が居なくなるのは、本当に辛いですもんね」
元山
「すまんのうラビはん…アンタらには見せへんと思うけど、アイツめっちゃ寂しがりやねん。…今後とも難波をよろしゅう頼んます」
RABi
「はい!…もしかして、難波さんが心配で東京まで来たんですか?」
元山
「まーそれもあるんやけど…これは本題やない」
RABi
「…?」
元山は机に置いたサングラスを手に取り掛け直す。
難波
「ちょー!ウチの分何も注文してへんやん!」
RABi
「!難波さん!」
すると、ようやく難波がトイレから戻ってきた。彼女は怒りながらもRABiの隣に座る。
元山
「偉い長かったなぁ難波ァ……やっぱりアレか?トイレが詰まるぐらいにとんでもないク…」
難波
「いやだから乙女にそんな話したらあかんて社長!!ちゃうねん!きいてーや!オーディションようやく受かったんよ!さっき電話きてそれで長くなってもうたわ!」
RABi
「えっ!?本当に!?やったね難波さん!」
難波
「ワハハ!やーっとアイツらもウチの魅力を理解した訳やな!」
難波は嬉しそうにRABiと両手でハイタッチを交わす。その様子を微笑ましい表情で男三人は見ていた。
元山
「良かったのう難波」
難波
「ホンマやで!…あっ、それで社長は何で東京に来たんや?ウチが恋しくなったんか?」
元山
「そらもうめっちゃ恋しいわ…でもな、そんなんとちゃうねん」
元山は懐から書類とペンを取り出して机の上に置いた。何かの誓約書のようで、難波は不思議そうに書面を見る。
難波
「?何やコレ」
元山
「元山興業からSunnaはんへ異動する誓約書や」
RABi
「えっ!?」
難波
「ハァ!?」
その言葉に難波は先程までの上機嫌も吹き飛び、キレ気味で勢いよく立ち上がった。
難波
「どういうことやねん社長!?ウチを捨てるっていうんか!?」
興奮気味に怒鳴る難波に、元山は冷静に話す。
元山
「まぁ聞けや。…お前が東京で活動するっちゅーのに、関西を拠点としている元山興業じゃあ支えるのも限界があるんや。難波の活躍も協力出来んようじゃあ、ワシらは只の足枷に過ぎんのじゃ」
元山
「せやから東京が拠点で、ワシらよりもモデル業に力を入れてるSunnaはんに所属する方が、今後のお前の為になる。Sunnaの社長はんとは関係も良好でのう、何度か酒を共にした仲じゃ。この頼みを潔く引き受けてくれたで」
元山
「今、Sunnaはんは双葉を失って以降、モデル業のビジネスも上手くいっとらんらしい。そこで社長はんは【新生のSunnaに相応しい個性の強いモデル】を集めてるみたいやで。せやから難波、個性が強いお前も歓迎してくれるんや。この件を引き受けてくれたのも、お前の努力の結果やで」
難波
「社長…」
難波は怒りも収まり、先に座り直す。パフェに刺さったスプーンを摘みとり、難波へ指す。
元山
「関西の星にはもうなれた。次は、関東の星を目指せ。この街の光を灯すのは双葉やない、お前や。慣れない地やろうけど…ワシらはずーっと応援してるで、難波」
難波
「……社長。ウチ、頑張ります」
社長の思いを胸に、難波は感謝の意を込めて深々と頭を下げた。隣には微笑むRABiが、前には口にクリーム塗れのオッサン二人と社長が彼女の今後を見守るのであった。
………
夕暮れの街。誓約書も書き終えてスイーツを満喫した難波とRABiは共に帰っていく。二人の背中が消えるまで、男三人はずっと見送っていた。
RABi
「初めは怖い人達かと思ったけど、すっごい面白い人達だったなー。難波さんも愛されてるねー」
難波
「当たり前や。なんせウチは【関西のパーフェクトモデル】やからな。関西人が愛さなくて、誰がウチを愛すっちゅーねん」
RABi
「…ねえ難波さん。私はずっと難波さんの味方だからね。これからも頼りにしてよね?」
そう言ってRABiは難波の隣に寄り添い、くっついて手を繋ぐ。
難波
「うわ急に何やねん!?百合営業せんって前に言ったやろ!」
RABi
「これは百合じゃなくて絆って奴でしょ難波さん!?っていうか前から思ってたけど、難波さんの方こそそういうの意識してるんじゃ…!」
難波
「ちゃうわ!!彼氏おるって前見せたやろ!!」
ギャーギャーと言い合うも、難波はその手を離さなかった。東京の地に慣れない彼女にとってこの手の温もりは、心が落ち着く心地よいものだったからである。
白田
「ホンマに良かったんですか?社長」
彼女達を見送る白田の口が開く。
白田
「社長にとって、お嬢は愛娘でしたよね?そんな子を関東のチャラ男に託して良かったんでしょうか?」
元山
「愛する我が子を旅立たせるのも親の務めや。難波の親父もそうするはずやで。……それよか、ワシらもモタモタしてられへん。最後の仕事に移るでぇ。タカピー、場所はもう分かっとるんやな?」
高松
「ええ、任せてください」
………
都内のとあるマンション。とある部屋前のインターホンが鳴る。扉がゆっくりと開くとアリケンが姿を現した。
アリケン
「はいはいピーザラですよね?支払いは…ウゲッ!?」
彼は相手が誰かも確認せず、体を扉より少しだけ出したその瞬間、突然胸ぐらをガッと掴まれ外に引きずり出される。
彼の前に立つのは身長180cmを超える大男の三人組。黒スーツが似合うサングラスの男は、力一杯掴んだシャツを決して離さず、アリケンを壁に叩きつける。何がどうなってるか、さっぱりと理解ができないアリケンは顔が青ざめ怯えている。
アリケン
「なになになになに!?なんですか貴方達はぁ!?」
元山
「元山興業のもんや…お前ぇ…決して手ェ出したあかん子に触れよったのぅ…?」
アリケン
「ももも元山興業!?え!?え?!…ま、まさか難波のことっすか!?
白田
「テメェみてぇなゴミがお嬢を呼び捨てしてんじゃねえぞゴラァ!!」
アリケン
「ひ、ヒィイイイイ!?ごめんなさい!ごめんなさい!!」
アリケンは両手を上げ縮こまる。
高松
「シロちゃん。ここで怒鳴っても近隣に迷惑ですよ。…アリケンさん、貴方は以前からWeTubeでの再生数に伸び悩み、芸能界の裏を突くと言いながら虚報を広めてましたね?貴方の行動は芸能界を敵に回した事となります」
元山
「ワシらの要求は簡単なもんや…二度と難波を…いや、芸能界で輝くあの子達の邪魔をせんことをここで約束せぇ…守れんっちゅうなら…どうなるか分かっとるな?」
アリケン
「約束します!!約束します!!!だ、だから許してください!!」
元山
「…ほな行こか」
アリケンは全力で答える。しっかりと反省している彼の様子を見て、元山は手を離しマンションを後をする。アリケンは腰が抜けて暫くその場でへたり込んで座っていた。
夕焼けと共に空の星々が薄らと見えてくる。街道に戻ってくると白田が問い掛ける。
白田
「親父。もしもあの野郎が約束守らなかったらどうするつもりなんです?」
その質問に元山は悪い笑みを浮かべて答える。
元山
「そらお前…浣腸をたっぷりケツに注入しまくって二度と…」
高松
「汚い話はやめましょう。それよりも社長、明日はキャット・シーに行くのでしょう?早くホテルに戻って体を休めましょう」
元山
「せやな…遊園地とか二ヶ月ぶりやからゴッツ楽しみやでぇ…当日に年パス買うのも忘れるなよ…?」
体は大人でも心は子供のように、遊園地が楽しみで今からでもワクワクしている三人は、仲良さげにホテルへと帰っていくのであった。




