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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
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5話【友達の君】前編


 …双葉と別れてから数日が経っていた。黒木は勤め先のスーパーの休憩室にて椅子に座り、スマホをじっとを見つめている。彼が見つめる視線の先には、自撮り姿でピースを見せる双葉の姿だ。


 この写真は、前回の喫茶店で双葉が「これも御礼の一つだよ」と言って、黒木のスマホを借りて自撮りをした、この世界に一枚しか存在しない写真である。


 自分の為にしてくれたファンサービスの一枚は、黒木の心を、とても心地良くさせている。次はいつ会えるのだろう、どんな事を話そうか、彼の言う無関心で何にもない平凡な一日は、双葉との出会いで180度変わり、彼女の事を思うだけで毎日が楽しくて仕方がなかった。


黒木

「…ふふっ」


 自分しか持っていない双葉の写真というのがとても嬉しいのか、彼は写真を見続けて笑みが漏れている。


高田

「ふーっ、やっと休憩だわー。マージ疲れたー」


 それは休憩室に入ってきた高田にも気付かない程、見入ってしまっていた。入ってきた自分に「お疲れ様」も言わない彼に、何か様子がおかしいぞと疑問に思った高田は、彼の背後からスマホを覗き見た。


高田

「…見た事ない写真だ」


黒木

「!た、高田…!」


 写真集を買い、常に双葉のSNSを見ている彼でさえ、見たことのない写真に声が漏れる。その声に集中していた黒木もようやく気付いて高田に振り返った。


高田

「お、おい黒木!その写真は何なんだよ!?何処で入手したんだ!?」


興奮のままに黒木の肩を掴んでぐわんぐわんと揺らす。


黒木

「お、落ち着いてくれ高田!」


高田

「落ち着けるわけがないだろ!常に双葉ちゃんの写真をチェックしてる俺も知らない写真を何でお前が持ってんだ!?」


黒木

(これは…言わないとずっと聞いてくる奴だ…)


 ずっと体を揺さぶり続けられるのが耐えられなくなり、隠す事が無理だと悟った黒木は彼に事情を話すことにした。


………


高田

「…マジかよ…」


 双葉との出会い、それからの交流の話を終えた頃には高田は口を開いて呆気に取られていた。それもそうだ。


 自分が知らない間に、友人は自分が大好きな超人気モデルと仲良くなっていて、しかも【友達】として見られるようになっていたなんて【非現実】としか思えない。だが、黒木は嘘をつかない男だと知っている彼だからこそ、この話を受け入れるしかないのである。


 あまりにも羨ましい事態に高田は、ふるふると体を震わせ勢いよく黒木の肩を掴むと、再びぐわんぐわんと揺らしだす。


高田

「お、お前ーっ!!羨ましいぞこのやろーっ!!!」


黒木

「や、やめろ!」


 高田の叫びから本気で嫉妬しているのが伝わってくる。これ程になすがままに暴れてる高田は見たことがなかった。


 …暫く黒木を揺らし続けた彼だが、こんな事をした所でどうしようもない現実を悟ると、ようやく落ち着いて椅子に座り直す。揺すられ続けた黒木もかなりへばっている。


高田

「くそう…くそう…!何で大ファンの俺じゃなく無関心野郎のお前が運命の出会いしちゃってんだよう…!!マジ萎えるわ!!」


座ってからも悔しそうにして喧しい。見ていられない黒木は溜息を付いて。高田の肩に手を乗せる。


黒木

「高田、本当に偶然の出会いだったんだ。俺だって出会うなんて思ってなかったよ…許してくれ」


高田

「バカ!許すも何も…始めから怒ってねーよ!」


黒木

「?…そうなのか?」


高田

「いやまぁ全然怒ってねーと言えば嘘になるかもだけどさ!…どっちかって言えば嬉しいわ」


黒木

「…?」


高田は黒木を見てニッと歯を見せる。安心あるいつもの親友への笑みだ。


高田

「お前、さっき俺が声掛けるまで双葉ちゃんの写真に見惚れてたぞ?なんつーか…お前にもようやく夢中になれるものが見つかったんだなって」


黒木

「高田…」


しかし、直ぐに黒木の後ろへ回り込むと、彼の首に腕を回して軽く絞め付けてくる。


高田

「だけど俺が双葉ちゃんと仲良くなりたかったけどなぁ〜?」


黒木

「や、やっぱり怒ってるんじゃ…」


冗談混じりに戯れた後、高田は座っていた席へと戻って黒木の方へ体を向け、興味津々に問いかける。


高田

「で?やっぱり双葉ちゃんと付き合う事になったの?」


黒木

「いやいや…そんな関係じゃないよ。あの時高田がしてくれた時みたいに、双葉さんも俺の趣味を見つけるのを手伝ってくれるんだ」


高田

「よーしよし、付き合ってないんだな?もしもカップル成立発言でもしてたら、お前が何というとボコってたわ」


黒木

(こっわ…)


 高田は立ち上がり休憩室に置いてある紙コップを二人分手に取ると、ポッドでインスタントコーヒーを注いで戻ってくる。黒木の机に一杯置くと、彼は立ったままコーヒーを啜る。


高田

「でもまあ、そりゃあいいかもしれないな。なんてったって相手は【パーフェクトモデル】だぜ?見てる世界も俺達とは全くの別モンだろうし、スゲー刺激になると思うわ」


黒木

「そう…だよな」


黒木はあまり楽しみだと言えない表情だ。


高田

「何だよ。何か不満でもあるのか?実質双葉ちゃんとデートだぜ?」


黒木

「不満というか…俺は、双葉さんと会えるだけで良いんだ。別にこれ以上に趣味が欲しい訳じゃないし…彼女にまた会える事が楽しみなだけなんだ。だから、迷惑かけるんじゃないかなって…」


そう言いながらも黒木の口角は上に上がっている。ふと、双葉の事を思って自然と上がったのだろう。その様子を見て高田は呆れてコーヒーを飲み切った。


高田

「お前…ぜってー告白するなよ?そんな事したらその顔面ボッコボコにしてやるからな?」


黒木

「だから俺と双葉さんはそんな関係じゃないって。友達だよ」


高田

「何が友達じゃ!俺だって友達になりてーよ!いいか黒木!これは親友としてお前に言っておく!」


黒木

「な、何?」


高田

「…次双葉ちゃんと会う時は、サイン貰ってきてくれる?」


黒木

「は、ハハ…わかったよ」


いきなり低姿勢で強請る彼の姿が面白く、思わず笑ってしまうのであった。


………


 …仕事が終わった夕方の帰り道。人々が行き交う賑やかな街を、いつものように早足で黒木は帰る。そんな歩いている最中、ポケットに入れているスマホが振動しているのに気付いて取り出した。双葉からだ。


 冷静ではあるが、心の中では彼女から再び電話が掛かってきた事への喜びに心が満ち溢れていて足を止める。直ぐ様周りを見回し静かな場所を見つけると、場所を移動して電話を繋げて耳に当てる。


黒木

「もしもし、黒木です」


双葉

『こんばんは黒木さん。この間は楽しかったよ!』


 電話越しからいつもの明るい声が聞こえてくる。その声を聴くだけで、黒木の心に安らぎを与え自然と笑みを浮かべている


黒木

「俺も双葉さんとお話が出来て楽しかったです。…それで、今日はどうしたんですか?」


双葉

『次の休みを合わせよーって思ってね。ほら、もう直ぐ年末じゃん?そうなるとこっちも仕事で多忙になるから、暫くは会えなくなると思うの』


黒木

「成る程…大変ですね」


双葉

『あはは、まあ私の事は気にしないで。それで、次の休みなんだけど…』


 双葉のスケジュールを聞いて、彼は自分の休みの日を見直しチェックする。幸いにも近日中に休みが合う日があるようで、お互いに確認をしたのちその日に会う事が決まった。


双葉

『それじゃあ12時にまたナナ公前に来てくれる?』


黒木

「わかりました。…あの、双葉さん」


双葉

『んー?どうしたの?』


黒木

「何度も聞いて本当に悪いとは思ってるんですけど…どうして俺の為にここまでしてくれるんですか?」


双葉

『もー、本当に気にしてるんだね』


黒木

「いやまぁ…やっぱり気にしますよ。御礼だからと言ってここまでしてくれるなんて思ってもなかったですし。俺と双葉さんは天と地の立場じゃないですか…」


黒木の声は遠慮気味なようだが、双葉は気にせずに話す。


双葉

『黒木さんは私と会えるの嬉しい?』


黒木

「え?…それは勿論会えるのは嬉しいです」


双葉

『それなら理由はいらないじゃん?会いたいって思ってくれてるのに、会い行かない方が失礼だよ?』


黒木

「そ、それは…」


双葉

『じゃあ当日よろしくね。あっ、お昼ご飯食べてきちゃダメだよ?連れて行きたいお店があるからっ。バイバーイ♫』


黒木

「あっ、はい!バイ…ばい?」


一方的に電話は切れ、ポケットへとスマホを戻す。


 丁度、黒木に見せるかのようにとタイミング良く、高層ビルに付けられた大型モニターから双葉が出演している香水のCMが流れだした。


ナレーション

『憧れのあの人と出逢いたい。でも、今の自分に自信がない?』


双葉

『もっと自分に自信を持とう』


双葉

『この香りは、勇気に変わる』


まるで、今の彼に向けて言ってるかのような内容にモニターを見上げたまま、黒木は立ち尽くしていた。


黒木

(勇気…か…)


………


 午前11:48の約束の日、ナナ公像前に黒木は到着した。平日でありながらも、待ち合わせ場所にうってつけなこの場所には多くの人で賑わっている。


黒木

「…あっ」


 黒木は見回していると、像から少し離れた場所の木陰にて、見覚えのある黒キャップとおしゃれメガネのスマホを触っている女性を見つけた。黒木には、それが変装している双葉なのが一瞬でわかる。


黒木

「すみません、遅くなり…」


双葉の方へ歩き近付く彼だが、その足は彼女に気付かれる前に止まった。


双葉

「……」


 スマホを触っている双葉の表情は、どこか暗く見える。いつも太陽のように明るい彼女を見てきた黒木にとっては、その表情から不安を感じ取れた。立ち止まっていた足は恐る恐ると歩き、双葉の元へ進んで声を掛けた。


黒木

「双葉さん」


双葉

「…!こんにちは、黒木さん。待ってたよ♫」


 黒木に気付いた双葉は、スマホをポケットに戻しパッといつもの明るい笑顔を見せてくれる。何かあったのか聞くべきなのだろうか、さっきの暗い表情がまだ頭に残っている。


黒木

「あの、双葉さん。さっき…」


双葉

「もーさっきからお腹空いちゃって。早速だけど食べに行こっか。ほらほらこっちだよっ」


 勇気を出して聞こうとするも、双葉は彼の心配を気にする事なく彼女は歩き出す。触れてはいけないのだろうか、それとも聞こえなかったのか…


黒木

(プライベートの事は聞かない方がいいのかもしれないな…)


そう思った黒木は気にする事を止め、双葉の後をついていくことにしたのであった。



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