1話
5月4日 AM7:59 スーパーリコリス 休憩室
早朝より店に訪れ開店前の支度も終えた高田。開店までの残り時間を、休憩室にて優雅にスマホゲームで過ごす。
そんな一人の時間を満喫している中、休憩室の扉が開いた。
高田
「…おっ!」
開いた扉の方へと振り返ると彼は嬉しそうに反応する。
ジュリ
「ども、お久しぶりです」
そこにいたのはジュリだった。約二ヶ月ぶりの出勤と、がらりと変わったイメチェンに高田は元気な笑顔で挨拶をする。
高田
「おはようジュリちゃーん!!この間雑誌表紙飾ったじゃん!!おめでとーん!!青色に染めたのカッコいいし、カラコンも最高にロックンロールだねぇ!あっ、俺は前の赤も好きだったけど、ジュリちゃんがそんな風にがらりと変えたのはちゃんと理由があ」
ジュリ
「あーうるさいうるさいうるさい。朝からよくもまぁそんなに元気ですね。………おはようございます」
早口で話す彼を冷たくあしらい、高田の対面の席へと座る。
高田はスマホゲームを中断してポケットに戻して話す姿勢へと座り直す。いつもより早く来た分、早番としての出勤まではまだ時間はある。ジュリが早番として出勤する日は、こんなにも早く来ることは今までになかった。
きっと彼女も何かを話したくて、態々早く起きてここに来たのだろう。若干眠そうな顔が、早起きに慣れていないと高田にはわかる。そう思っていると、ジュリから話し出した。
ジュリ
「…黒木さんは今日来ますか?」
高田
「残念だけどアイツは今日休みだよ。……久しぶりに出会って、真っ先に聞くのがそれなのね……やっぱ、ジュリちゃんも黒木のことが」
ジュリ
「言っておきますけど、あんな顔だけ鈍感星人に恋心なんて一切ありませんから」
高田
「わかってるわかってる、冗談だって。……双葉ちゃんが退職したのに対して、黒木はどうなったか…だろ?」
高田の推察にジュリは静かに頷く。
高田
「まぁ……いつもよりは喋る回数が減ってる気がするなぁ。顔には出てないけど、やっぱりショックだと思うよ」
ジュリ
「そうですか…」
高田
「正直あんなに落ち込んでるのは、俺も長く付き合ってきた中で初めて見たよ。…本当にアイツにとっての双葉ちゃんってのは特別な存在だったんだなって痛感したね」
彼は困ったように腕を組んで溜息を吐いた。
高田
「まぁでも、ジュリちゃんが黒木に会ってくれたら、少しは元気を取り戻してくれると思うよ?」
ジュリ
「…あー、その事なんですが…」
高田
「…?」
ジュリ
「この間の雑誌の仕事を終えた後、他の雑誌からもオファーが増えてきていて……今日を最後に当分はリコリスには入れそうにはないんです」
高田
「マジか!?スゲーじゃんジュリちゃん!カァーッ!業界の人達もジュリちゃんの魅力に気付いちゃったかぁ〜!俺は前々から気付いてたのになぁ〜!」
ジュリ
「……」
自分が丸くなってしまったのは双葉の影響もあるが、黒木や高田と出逢えたのもジュリにとっては大きなものであった。荒れていようと気にせず温かく接してくれたリコリスの人達と過ごす日々は、彼女にとって心地良かったのだ。
今もこうして仕事に入れる回数が減ることを告げても、高田は気にせず喜んでくれている。そんな彼を見てジュリはゆっくりと微笑んだ。
ジュリ
「…高田さん。私の仕事が落ち着いたら、黒木さんも呼んでみんなで食べに行きましょうよ。黒木さんを励ます会プラスで…私の表紙飾った記念という事で」
高田
「いいねぇ〜!黒木には俺から伝えておくわ!」
ジュリ
「あぁ…勿論高田さんの奢りでお願いしますね」
高田
「いやなんでだよ!?いいけど!!!」
ジュリ
「いやいいんだ。……ハハッ」
高田のキレのあるツッコミに可笑しそうにジュリは笑う。この時彼女が見せた笑顔は、心を許す者のみが見れる優しい笑み、ここは彼女が怒りに着飾らなくても良い大切な場所なのだろう。




