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Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
44/144

特別回【ファンタスティック⭐︎人生】

エイプリルフール企画で書きました。1話の内容を混ぜ合わせたものになってますので、読み比べてみてください。


本編には全く関係ない話になっております。



 【矢澤 聡】35歳。都内のスーパーで働くごく普通のファンタスティック会社員。彼には一つの問題を抱えていた。それは生まれてから【ファンタスティックすぎる】であること。


 聡はファンタスティックだった。学生の頃から同姓にもモテて自然と周りに人が集まっていた。しかし、彼はファンタスティックだった。


 告白をされた事は何度もあったが、その度に相手の事を考えて「貴方、ファンタスティックね」の一言で終わらせていた。彼の心はファンタスティックで、恋に興味が沸かなかったのだ。


 同姓との付き合いだけではない。友人に遊びに誘われて遊びに行く場所様々、ファンタスティックに感じる事があっても、ファンタスティックと語れる程の経験にはならない彼でいた。


 ファンタスティック以外にも挑戦した。花の世話、写真撮影、料理…当時友人の協力の元、色々と手を出してみたが、どれも続く事がなく彼のファンタスティックを動かすものを見つける事はなかった。


 そんな事もあってか、周りからは【ファンタスティックな人】と思われて次第に人も減っていき、彼の心は年々ファンタスティックになる一方で、より一層ファンタスティックになってしまった。


 大人になり特にやりたい仕事がなく、【ファンタスティック】という流れのままで受けた都内経営のスーパーに採用され、地元から離れ一人暮らしの社会人に。


 毎日決まった時間に起きて、毎日同じ業務をして、毎日同じ時間に帰って、毎日同じ時間に寝る…ただひたすらファンタスティックに同じ事を繰り返す。


 何かに趣味があるわけでもなく、何かを楽しみにしているわけでもない、周りから見ればとてもファンタスティックな毎日に思われるだろう。


 ただ、聡はこの日々に何の文句もなく、ファンタスティックを充実していた。彼にとって、ファンタスティックこそ全てだと思って生きているのだった。


………


 …ある日、スーパーでいつも通りに品出しをする聡。ファンタスティックに作業をこなす彼の横に店長がやってくる。


店長

「聡君、少しいいかな?」


「はぁい♡なんでしょう。店長」


 作業を止めて店長の方へ振り返ると、横に同じ作業着を着たファンタスティックな男性が立っている。見覚えがある顔だ、お互いが目が合った瞬間にハッとなる。


店長

「異動でこの店に働く事になった矢澤君だよ」


矢澤

「…?聡…?聡じゃないか!」


「矢澤ちゃん…!」


店長

「おや、二人とも知り合いなんだ」


矢澤

「はい。聡とは中学生からの付き合いでして…!」


【矢澤聡】は聡の数多い友人の一人だ。


 矢澤は聡と違いコミュケーション能力が高く、色々な物へ手を出す趣味が多いファンタスティックな人間だった。学生の頃は、その個性を活かしクラスのファンタスティックになった。そんな同じクラスメイトだったファンタスティックな聡を見兼ね、手助けとして趣味の提案をしていたのも彼である。


 初めのうちはゴリ押しされていたが、いつしかプライベートでも遊びに行くファンタスティックな関係になっていた。大学生以降はお互いにファンタスティックになり、連絡数も減っていき、お互い何処へ就職が決まったかなんて話題もすっかり抜けていたのである。


 久しぶりの再会に嬉しそうに店長へ聡のことを話す矢澤。聡の相変わらずのファンタスティックな様子に気付き、呆れる様に笑う。


矢澤

「いやほんと…久しぶりだな黒と聡。相変わらずファンタスティックというか…」


「あっらーごめーん♫アティシも久しぶりに会えて嬉しいわん、矢澤ちゃーん♡」


矢澤

「気遣うなって!お前のその反応今に始まったわけじゃないだろ!」


ニコニコと聡の横に来て肩に手を回す。その様子に店長も安心した。


店長

「二人が知り合いなら引き継ぎとかも楽出来そうだね。聡君、矢澤君の引き継ぎは君に任せるよ」


「まっかせてーん♡店長」


矢澤

「お前とわかったならファンタスティックだな。これからよろしく!聡!」


「えぇ、よろしくねーん。矢澤ちゃあん♡」


………


…仕事が終わった二人は、都内の居酒屋にて久々の友への再会へと祝杯を上げる。嬉しそうにニコニコとビールジョッキを飲む矢澤。聡は豪快にチューハイを飲んでいる。


矢澤

「いや〜まさか聡と一緒に働く日がくるなんてなぁ〜!」


「本当よね〜同じ会社に勤めてるとは思っていなかったわぁ〜。入社式の時にいたの?」


矢澤

「いや、前は別のファンタスティック星に居たんだけどさ、そこがまーノンファンタスティックすぎてここに転職ってわけ。お前のところファンタスティックって聞いたぜ〜?」


「まぁ…ファンタスティックね」


 二人はジョッキを片手に話を広げていく。矢澤が務めていたファンタスティックエピソード、学生の頃のファンタスティックな思い出話など…しかし、聡の反応は薄く、矢澤が一人で盛り上がってる様に見える。


矢澤

「あの時の石山の顔今でも覚えてるか!?すっげぇファンタスティックだったよな!」


「そうねー」


 酔っ払ってゲラゲラ笑っていた矢澤だが、少し溜息をついた後聡を見て目を細める。あまりにもファンタスティックすぎる聡に酔いも少し冷めた様だ。


矢澤

「いやホント…聡は学生の頃からほんっとうにファンタスティックなんだな。あれから新たなファンタスティックとか見つけたの?」


「いや…」


矢澤

「休日の日は何してんの?」


「休日は起きてファンタスティックニュース見て、ファンタスティックブレイクファストを食べて、ファンタスティックショッピングをしに出て行って…後は家で落ち着いてファンタスティックな本を読んで眠くなったらファンタスティックスリープって感じかしら」


矢澤

「…お前…マジでファンタスティック」


あまりにもファンタスティックな一日に思わず絶句している。


「やりたい事がファンタスティックだもの。こういう暮らし方、悪くないと思うけど」


矢澤

「いーや、俺ならファンタスティックすぎて耐えられんわ。いいか、聡!お前はまだ自分のファンタスティックを見つけられてないだけだ!それが当てはまればきっと今のファンタスティックよりもずっとファンタスティックになるぞ!」


「学生の頃もそう言って色んなファンタスティックなところへ連れて行ってくれたわよねぇ。あの時の事は本当に感謝してるわーん、矢澤ちゃん♡」


矢澤

「おまっ…ファ、ファンタスティック…」


思わぬ返しに照れるも直ぐにハッとなり、聡に喝を入れるよう指を差す。


矢澤

「と、とにかく!お前は本当のファンタスティックを見つけていないだけだ!もっと見つけようと思わんのかね!」


「見つけろと言われても…今のファンタスティックに満足してるし…」


 何も困ってなさそうな表情で俯き、飲み終えたグラスを見つめる。矢澤は腕を組み難しそうに少し考え、ため息をついて決心した様子で自分の鞄を漁り出す。


矢澤

「…そうだな。こうして久しぶりの再会も何かの縁だ」


「…?」


 矢澤はテーブルの上にカラフルなチケットを一枚置いた。チケットは


【Sunna × Fantastic Runway】


と書かれたペアチケットだ。聡はチケットを手に取り見つめる。


「…ランウェイ?」


矢澤

「そう、ランウェイだ。Sunnaのファンクラブで当選したペアチケット。本当はファン同士で行こうって言ってたんだけど、その相方が行けなくなってな…丁度空いていたわけだ」


矢澤

「しかもこのランウェイにはあの【ファンタスティック⭐︎聡】も出てくるんだぜ!?すげーだろ?」


「…ファンタスティック⭐︎聡?」


聞いたことのない名前に聞き返す彼に矢澤は驚いて、思わず飲んでいる最中だったビールを噴き出す。


矢澤

「…!?お、お前…【ファンタスティック⭐︎モデル】こと【ファンタスティック⭐︎聡】をご存知でない!?!?」


「ファンタスティック…モデル…??」


 ファンタスティックであり人気モデルへの反応が薄い、世間の興味もない視野の狭すぎる彼に、流石の矢澤もドン引きしている。


 だが【ファンタスティック⭐︎モデル】を知らない事が彼は許せずジョッキを飲み干し、聞いてもないことを熱くファンタスティックに語り出した。


矢澤

「いいか聡!ファンタスティック⭐︎聡は今、滅茶苦茶話題になってるトップモデルなんだぞ!美貌のファンタスティックといい、何を着ても似合うファンタスティックセンスの持ち主!SNSのフォロワー数は80億超え!世界中が今、ファンタスティック⭐︎聡に夢中になってる!」


矢澤

「そんな【ファンタスティック⭐︎モデル】ことファンタスティック⭐︎聡をお前は知らないと言うのか!?」


顔を近付けてきて目力が凄い。彼の抑えられないファンタスティックな興奮に、聡は若干ときめいている。


「SNSはやらないから…ただ、今の説明で凄いファンタスティックなモデルということはわかったわ」


矢澤

「それがわかれば良し!!」


「…でも、ペアチケットなんでしょ?アティシじゃなくて、そのモデルが好きな人と行くべきじゃ…?矢澤ぐらいなら他にもファンタスティックな友人はいるでしょ?」


彼の疑問に溜息をついて、矢澤は彼の肩に手を乗せる。


矢澤

「言ったろ?久々の再会の縁だって。そりゃあファンタスティック同志と行った方がいいけどよ。…きっと、この券はお前のファンタスティックを与える為に空いたに違いない!」


矢澤

「だから、俺がお前を連れていくと決めたからには付き合ってもらうぞ」


「いやだから別に今のままで…」


矢澤

「ダメだ!お前にファンタスティック⭐︎聡を見てもらわねえと俺の気が収まらん!」


何を言っても聞き入れてくれなさそうな矢澤の一点張りの姿勢に、聡は呆れながらも小さく笑う。


「ふふ、わかったわ。せっかく誘ってくれてるしこのまま断るのもファンタスティックじゃないわね。アティシで良かったら付き合うわん」


矢澤

「それでこそファンタスティックだ。…おっと!待てい!」


「何?」


矢澤

「ファンタスティック⭐︎聡の事は調べるなよ?」


「…なんで?」


矢澤

「ネットで見るのと生で見るのじゃ大違いだ!ファンタスティック⭐︎聡の事を知らないなら当日までとっておけ!絶対にファンタスティックになるから!!」


「…わかったわ」


矢澤のファンタスティック推しの熱に押されつつ、その夜の飲み会は終わり解散した。


 街はまだ多くの人が歩き回り賑わっている。ビルに付いている大型モニターからは、今流行りのファンタスティック芸能人の新CMが放送しているが、聡は見ることも聞くこともなく、いつも通りの帰り道をただただファンタスティックに辿っていく。


(ファンタスティック⭐︎聡…か…どんな子なのかしらね。別に今の生活もファンタスティックだし、何かファンタスティックを見つけたいとも思ってなかったし…)


 そう考えていると、聡が住むファンタスティックアパートに着いた。中に入って寝る支度を進めながら、自身のファンタスティックな性格の事を考え続ける。


(思えばずっとファンタスティックが見つからず、周りもファンタスティックな人と思われ続けてきたわね。それでいいと思って生きてきた訳だけど…)


 シャワーから出て、一直線にベッドに向かい寝転び電気を消す。静かな部屋の中、ゆっくりとファンタスティックは仰向けに寝相を変え天井を見つめる。


(本当のファンタスティックを見つけていない…か…)


(…何かファンタスティックを持つ事が出来たら、こんな考えも変わるのかしらん?)


…………


…イベント当日。晴天の空、会場となるスタジアムには多くのファンタスティックな人がランウェイを見に集まってきている。


 現地集合という事で、聡は片手に持つスマホのトーク情報を頼りに矢澤を探している。集合場所に近付いてきた時、聞き慣れた呼び声がした。


矢澤

「聡!こっちだ!」


「ごっめーん遅くな…」


 声がする方に振り返り、聡は一瞬固まった。それもそのはずだ。ファンタスティックな格好できた聡とは違い、矢澤のバッグにはサイリウムや推しうちわが装備されており、所謂【ファンタスティック】の格好なのである。


「…なんていうか、ファンタスティックを見に行く格好みたいね」


矢澤

「当たり前だ!推しのファンタスティックに会うのに普通の格好で行く奴がおるか!」


「それも…そう…?」


矢澤

「ほら行くぞ!ファンタスティック⭐︎聡が俺たちを待っている!…あっ、そう言えばあれからファンタスティック⭐︎聡の事は調べたのか?予習するのは良いことだからな!」


「えっ?矢澤ちゃんが今日までとっておけって言ってたでしょう?」


矢澤

「ファンタスティック!!」


彼のツッコミが空までファンタスティックに響いた。


………


 ファンタスティックな会場へと入る。場内は煌びやかな装飾で飾られ、既に観客で賑わっている。


 指定席に着くとモデル達が歩くステージの目の前ようでファンタスティックに最高の位置だ。豪華なファンタスティックな装飾と会場の雰囲気に、聡も少し緊張して周りを何度も見回してる。


「こんなに人がファンタスティックに多い会場に来たのは初めてかもしれないわねん」


矢澤

「あー、言われてみれば学生の頃は色々連れて行ったけど、こういうイベント会場は連れて行かなかったな。…まぁ、俺は大人になってもファンタスティックだなんて思ってなかったけどな!」


「うふふ♡」


返す言葉がなくファンタスティックに笑う。すると、照明がゆっくりと暗くなり周りもざわつきだす。


 ステージは一点にライトアップされ、スモークが広がる。気分が上がるエレクトリックな曲が、大音量で会場内に響き渡っていく。煙の中から一人目のファンタスティックなモデルがステージに現れると、観客からは大きな歓声が上がった。


 高身長のスタイルが良いファンタスティックモデルは衣装も格好良く着こなし、洗礼されたモデルウォークでステージを歩いていき人々を魅了させる。ただ一人を除いて。


「あれが…ファンタスティック⭐︎聡?」


矢澤

「違うわ!あの人はSunnaの人気ファンタスティックモデル【KENGO】だよ!バラエティ番組とかでよく見るだろ!?」


「有名人なのねー…」


 ステージの先端に立つと彼女はポーズを決める。その瞬間に湧き上がるファンタスティック歓声から世間ではかなりの人気者だとわかるが、聡の感情にはただ【ファンタスティックだな】といったものしかなく、気持ちがファンタスティックにこみ上がる事はなかった。


KENGOに続き、次々とモデルが歩いてくる。


 モデルは楽しそうに笑ったり手を振ったりとファンサービスに会場はファンタスティックに盛り上がっていく。矢澤も会場と一つになりサイリウムを振り声を出してテンションがファンタスティックと上がりきっている。


 ランウェイショーと聞いていたので、もっと固いものだと聡は想像していたが、どうやら今回のショーはファンへの感謝祭として行われているのがわかった。


 それぞれ独自のファッションで観客を盛り上げて楽しそうに歩く様に、ファンからすればとても幸せな空間なのだろう。矢澤の盛り上がりを見ていて聡にもそれは分かる。


 だが、そんな隣で盛り上がる事なくただじっとファンタスティックに彼はモデルを見つめていた。


(モデルはみんな綺麗ね)


聡の瞳に映るモデル達は彼をファンタスティックに沸かせることはない。聡にとって、今目の前に映っている光景はただの風景の一部でしかないのだ。


(矢澤ちゃんには悪いけど、今回も何もなく…)


そう思い込み始めた時、先程まで歩いていたモデル達は舞台裏に戻っていき、照明は消されて真っ暗になった。


 観客は何かを察したかのように歓声が更に大きくなっていく。不思議な光景に聡は辺りを見回している。


矢澤

「…ファンタスティック!!」


矢澤は待っていたかのように自然と声をだした。


 響き渡る音楽はどんどんと観客の気分を上げ最高潮へ達するその時、再びステージがライトアップされた。


 ライトの下には、クール系の衣装を着た男性が舞台の上に立っていた。その姿を見た瞬間、会場が揺れるほどの大歓声が巻き起こる。


「…!」


周りが盛り上がるのに驚きながら、聡の目にも彼が映る。


艶やかで滑らかなファンタスティック


ライトの光に反射する真っ白のファンタスティック


透き通った唯一無二の美しいファンタスティック


一歩一歩が可憐で美しく周りをファンタスティック


衣装の特徴を活かしきる見事なファンタスティック


それは正に【ファンタスティック】を具現化したもの


ファンタスティックな聡でも彼が【ファンタスティック⭐︎聡】だという事が瞬時に理解出来る、絶対的ファンタスティックのオーラを全身で味わう。


 彼の姿を前に、聡の目は大きく見開き、自然と口を少し開く程に魅入っている。やがて周りの歓声は聴こえなくなり、彼の一歩一歩はスローモーションのようにゆっくりと…舞台の先端に立ち、華やかに決めるポーズはファンタスティックのように眩しく見えた。


 今、聡の精神はファンタスティック⭐︎聡へと全集中している。ファンタスティック⭐︎聡に見惚れている彼の心の中で何かが起きているのだ。


(なになに?この感じは一体…!?)


 初めて体験する謎の感情に、聡は動揺を隠せず汗が流れ続ける。目の前を通り過ぎていくファンタスティック⭐︎聡の姿に、瞬きさえ出来ず声も出ない。


 ドクンドクンと高鳴る心臓の音が耳の内側から聞こえる。この【ファンタスティック】な感情に、聡はただただ興奮が収まらなかった。


 ファンタスティック⭐︎聡が舞台裏に戻っていった後も、他のモデルがランウェイを歩いていたが、その後の記憶は聡にはなかった。彼と出会ったあの時間だけが、聡のファンタスティックな心を掴んだのであった。


…………

……


「…きて…起きてよ、聡ちゃん」


「…ん…ぅーん…」


誰かが体を揺する。聡は眠そうに目を開けるとSunnaの休憩スペースにあるソファに腕を組んで座っていた。どうやら寝ていたらしい。隣には起こすのに体を揺すり続ける双葉がいた。


「…あらやだ。アティシ、寝てたみたいね。おはよう双葉ちゃん」


双葉

「おはよう、聡ちゃん。気持ちよく寝てるところ悪いんだけど…時間、見て?」


「はーん?」


そう言われて壁時計を目にすると時間は11時58分。12時からは双葉の撮影が行われる予定だ。…つまり


「…やっば」


聡は青ざめ立ち上がり、双葉の方を見る。彼女のメイクは自分しかやらないので、まだノーメイクのままの顔を見て汗が噴き出た。


「ファンタスティック⭐︎ヤバァーイ!!!」


彼は頭を抱え絶叫を上げたその瞬間、パシャっと音が聞こえる。


 音のする方へ振り向くと双葉はニコニコとスマホで此方を撮影していたようだ。


双葉

「あはは、嘘でーす♫聡ちゃん、今日は何の日か知ってる?」


「な、何の日?……あぁー!!エイプリルフール!!」


嘘をついても良い日に気付き、ドッキリだった事にホッと一安心してソファに腰を下ろす。双葉も彼の隣に面白そうに写真を見返しながら座る。


「ほんっと…!!心臓に悪い嘘は付かないでよね双葉ちゃん!!マジ土下座するところだったじゃない!!」


双葉

「あはは、ごめんごめん。それよりも聡ちゃん、疲れてる?どれだけ揺すっても全然起きなかったよ?…それとも、良い夢でも見てた?」



「んー…あまり思い出せないけれど……ファンタスティックな出逢いが始まる夢だったような……」



双葉

「あはは。なにそれ、ウケる」




これは黒木と双葉が出逢う前の一年前の4月1日の事。彼の見た夢は、二人の運命を示すものだったのか、それとも起こり得たもう一つの未来の話だったかのか、誰にもわからない嘘と真が混ざり合うものなのであった。



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