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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
41/150

21話【天運の岐路】後編


AM10:50 TMA メインホール


 大音響のEDMが響き渡り、ステージに取り付けられたレーザービームのライトが音楽に合わせアリーナ全体を照らしていく。


 この夢のステージに選ばれたモデルは次々と現れて優雅にランウェイを歩きだす。リハーサルとは言え、この派手な演出と音楽に一体感になるモデルウォークを披露していき、彼女達に抜け目はない。


 そんなモデル達の様子を最前席から腕を組み見上げて鑑賞している細田の姿があった。彼女以外にも、リハーサルをチェックすべく周りにも多くのスタッフが見入っている。


小嶋

「お疲れ様です!細田さん!」


元気な声と共にカメラをぶら下げ、手を振りながら小嶋が細田の元へとやってくる。彼は細田の隣に立つと、この場を楽しむ形でステージを歩くモデル達を次々撮影していく。


細田

「貴方は確か…12月にMARUKADOの取材で斎藤さんの隣にいた…」


小嶋

「おお!覚えていてくれてましたか!小嶋です!お久しぶりです!」


細田

「こちらこそ覚えていてくれて光栄です。…ええと、斎藤さんは?」


小嶋

「今日は僕一人で取材を任されまして!ご覧の通りこうして頑張ってます!」


細田

「そうですか」


小嶋は撮影する手を止めて下ろすと、華麗に舞台を歩くモデル達を直接目で見ながら瞳を輝かしている。


小嶋

「くぅー!やっぱり凄いですねモデルの皆さんは!先輩はモデルの現実を見てこいだなんて言ってたから身構えていたのですが…この舞台を、スタコレを楽しんでるように見えますね!」


細田

「そう。貴方にはそう見えるのね」


小嶋

「へ?」


細田は多くのモデルを長年見てきた業界人として目を光らせて語る。


細田

「今歩いている子達の表情を見て貴方はどう思う?」


小嶋

「表情ですか?…うーん」


彼は言われるがままにモデル達の表情をしっかりと見る。彼女達の表情は真剣そのもので無表情を通していた。


 途中で華城も姿を現すも、彼女も鋭い目つきでまるで怒ってるかのような表情であった。


小嶋

「成る程、皆さん無表情ですね。でもこれって、モデルがランウェイを歩く時の鉄則なんですよね?確か衣装を際立つように見せる為にそうするって…」


細田

「ええ、その通りよ。本来ランウェイはモデルが着ている服がメインであって、デザイナーが主役なの。モデルは服を美しく見せる為に、目立たないよう無表情でいなければならない」


細田

「でも、それは通常のランウェイでの話。小嶋君、スタコレの歴史をご存知?」


彼女の質問に小嶋は苦く笑う。反応を見るにあまりわかっていないのだろう。細田は黙ったまま頷き少しも嫌な顔を見せずに話を続けた。


細田

「スタコレの発案者【北野 慎二】は衣装ではなく、モデルの個性を尊重したショーを提供したいと考えたの。一人一人の女性を星々に例え、個性を輝かせる光のショー…それが長く多くの人に愛されるモデル達の祭典…スタコレなのよ」


小嶋

「…あっ!」


細田の解説を聞いた小嶋は彼女が何を言いたいのかを理解して声が出る。細田も微笑み頷く。


小嶋

「そうか…個性をテーマにしているこのランウェイでは、通常のランウェイのような振る舞いをしてはいけないんだ!」


細田

「そう、正解よ。ここで大事なのは如何に自分らしさを披露して観客を魅せること。スタコレではモデルがどんなパフォーマンスをしても許されるわ」


一通り前半組のモデルが歩き終え、舞台裏へと帰っていく。


 後半組の人気投票上位であるモデル達の出番になると、雰囲気はガラリと変わる。先程まで堅苦しく歩いていたモデル達と違い、一人一人【可愛さ】や【格好良さ】等を披露していき観客を魅せていくスタイルを貫いていた。


 リハーサルとは言え全力で魅せるモデル達に思わず小嶋も含め周りのスタッフも見惚れていた。ただ最先端のファッションを着熟すだけがモデルではないのを目で感じていく。


細田

「スタコレに選ばれる50名は凄いことよ。…でも、上位のモデルと下位のモデルに差が出ているのはショーの目的を理解していない部分が大きく影響しているわね」


細田

「人々がスタコレで投票する理由も、きっとモデルらしく歩く姿よりも【この子がどんな子なのかを見てみたい】と思って票を入れてくれてるはずよ」


小嶋

「成る程…勉強になります!しかし…どうして前半の子達は固いままだったんでしょうかね?テーマが個性だったら、尚更はっちゃければいいのに」


彼の素朴な質問を聞きながら、楽しそうに歩くモデル達を細田はじっと見つめ答える。


細田

「そうね…勿論それが自分の個性と信じて敢えて抑えてる子もいるでしょうけど…恐らくは双葉が影響していると思うわ」


小嶋

「双葉さんですか?」


細田

「スタコレを最後に双葉の活動は実質国内では終了することになる。そうなると…」


小嶋

「次の【パーフェクトモデル】に継ぐトップモデルの争奪戦!ですよね?」


細田

「ええ。今回は人気投票TOP5が注目されるでしょうけど、彼女が居なくなるのを分かっているのなら今からでも自分を売っていかなければ上には上がれない。それは上位じゃなくとも、スタコレに選ばれた全員が思ってるはずよ」


細田

「スタコレは国内最大規模のランウェイショー。自分を多くの人間に見てもらうには絶好の場所なのよ。リハーサルであろうと、手を抜けなくて気が気でないと思うわ」


小嶋

「その極度の緊張から、本来の楽しむ事を忘れてしまっている…って事ですか?」


細田

「そういう事ね。彼女達がそれに気付かない限り、スタコレで人々に覚えてもらえるのもまた遠い話よ」


小嶋

「ハァー…スタコレって奥が深いんですねー」


細田の解説に相槌を打ちながら感心していた。すると、彼はふとあることを思い出して細田に問いかける。


小嶋

「そうだ!…先輩から聞いたんですけど、細田さん今年でマネージャーを退職するのって本当ですか?」


細田

「えぇ。もう歳も歳だから…」


小嶋

「それなら最後の取材、良いですか?」


そう言うと彼はカメラを再びぶら下げ、スーツの内ポケットからメモ帳とペンを取り出す。自分が取材されるとは微塵も思っていなかった細田は思わず驚く。


細田

「そ、そんな…私なんかを取材しても何も面白い事なんて言えないわよ?」


小嶋

「そんな事ありません!さっきの解説、超勉強になりましたし、聴いていて面白かったです!流石は長年この業界を見てきた人だって思いましたよ!」


小嶋

「…それに、細田さんは双葉さんを一番近くで長く見てきた人ですよね?海外に行く双葉さんに思うところがあるんじゃないですか?是非とも最後に聞かせてください!」


細田

「思うところと言われても…」


彼の質問に顎に手を当て困ったように黙り込む。


 しかし、双葉と長く一緒にいた細田だからこそ、彼女に思う事は勿論ある。取材を受けるのもこれが最初で最後になるのなら、最後ぐらいは自分の思いを聞いてもらおうと細田の口が開いた。


細田

「…そうですね。正直な所寂しいとは思っています。ですが、彼女を近くで見てきたからこそ、天才モデルとして国内だけじゃなく海外でも活躍出来る事を確信しています。彼女にはこのままずっと、自分を信じて突き進んで欲しいですね」


小嶋

「ありがとうございます!側にいたからこそ、信じて見送れるわけですね!くぅー!かっこいいなぁ!」


細田

「か、カッコイイのかしら…?」


小嶋の反応に細田は苦く笑う。


 と、二人が話していると舞台の演出がより煌めき派手さが増していく。いよいよ目玉であるTOP5の登場である。



 春香は明るい笑顔で元気よく歩き、先頭に立つと腕を広げくるりと全体像を見せるように一回転する。最後まで元気に立ち去る姿は見ている観客の気分を高まらせる。



 次に出てきた難波は、自信満々に堂々と歩いて先頭では一歩前に踏み込み、ドヤ顔で腰に手を当て胸を張る。関西のパワフルさが引き立っている。




 RABiが出てくると、アイドルのライブのように周囲に手を振りながら歩き先頭では


RABi

「君を幸せにするのはー?」


とお得意のC&Rで両手の指でハートを作りウインクをする。残念な事にリハーサルなので、殆どの人が返してくれなかったが


小嶋

「最強!可愛い!!ラ・ビィー!!」


周りの目を気にしない彼は全力で応えてくれた。RABiは嬉しそうに小嶋に手を振りながら立ち去った。



 照明が冷ややかな青色に変わると、王道のランウェイスタイルで歩く姫川が登場する。クールにキメる彼女は正に双葉に次に来ると言われた【ネクストモデル】の姿。歩くだけでその美しさが素人の目でも理解出来る程際立ち、スタッフも思わず見惚れていた。



 そして、姫川がバックへ戻ると大音量で響いていた音楽がピタリと止まり、照明ライトも一斉に消え真っ暗になる。


小嶋

「…!遂に…!」


細田

「…ええ」


残り一人のスーパースターの登場に、リハーサルとは言えスタッフ達も騒つく。



 一点スポットライトが光ると、光に反射するように光る白のドレスを着熟す双葉が照らされた。彼女はゆっくりと一歩ずつ優雅に歩き舞台の半分ほど歩いたところで立ち止まる。


双葉

「……」


彼女はゆっくりと両腕を垂直に上げると静まり返っていた音楽が広大なオーケストラへと変わり、照明ライトによるパフォーマンスで辺り一面が光のショーへと変わる。


 至る所で照らすライトの光は星空の演出であり、その中に一番星として輝く双葉の姿は完全に演出と一体化している。人々はリハーサルだということを忘れて感動してしまい、思わず拍手が湧き上がっていく。


 彼女の最後のステージにして最高の出来だろう。リハーサルにして演出は控えめであろうと、彼女の【完璧】が見る者全てを圧倒させて心を掴んだ。


 それはバックステージから覗いて見ているTOP5の四人も同じだった。双葉の魅せ技を目の当たりにして、初めて彼女が人々から【パーフェクトモデル】と愛されるのかがわかった。


 彼女が一歩歩く度に、誰かが見たい姿を演出して毎度切り替えている。僅かながら調整を常に行い、確実に見ている観客の一人ずつに答えているのだ。その技術力は正に神の領域。


 誰かへ見せるのではなく、全ての人間に魅せる天才のパフォーマンスに敵わない事を悟る。難波は悔しそうにしながらも口元はニヤついていた。


難波

「なんやねんアレ…ヤバすぎやろ。周りのモデルから嫌われてるって噂を耳にした事あったけど…あんなもん見せられたらそう思うのも無理ないわ」


難波とは別にRABiと春香は目を輝かし、双葉を愛する一人のファンとして見惚れていた。


RABi

「凄い…凄いよ双葉さん!見てた!?ハルちゃん!」


春香

「はい!!姫川さんもどうだった?」


姫川は静かに彼女を見つめ、彼女の溢れるカリスマに圧巻された光景と、脳裏に過る醜い火傷の跡が合わさり複雑な気持ちだった。


姫川

「……」


春香

「…姫川さん?」


再び声を掛けられ彼女はハッとする。


姫川

「あ…その…流石ですね双葉さんは。あの人はやはり…別格です」


春香

「ねー!そうだよねー!!」


難波

「アホ()かせ!何が別格や!」


双葉の姿に見惚れ燥ぐ三人に難波は喝を入れる。


難波

「アンタらええか!?双葉はスタコレを最後に海外に行ってまうんやぞ?【パーフェクトモデル】が居なくなった日本には、次に輝くモデルが必要とされるんや!」


難波

「ウチらは人々が将来を期待してくれてるんやぞ!別格なんていつまでも見上げてられへん!少しでも早く双葉の代わりを…いや!双葉を超えるモデルにならなあかんねん!わかっとるか!?」


彼女の言葉が其々の胸に刺さる。全くもってその通りだ。いつまでも双葉を憧れの存在として見ていられないのである。


姫川

「…確かにその通りですね難波さん。自惚れてました」


RABi

「難波さん本当に凄いよね。私にもアドバイスくれるし…正にプロって感じで…」


春香

「難波先生って呼んでもいいですか!?」


難波

「やめーや!褒めても飴ちゃんでーへんで!後先生って呼ぶな!」


周囲から尊敬の眼差しで見られて難波は照れ臭いのであった。



…………



PM12:00 TMA メインホール


関係者

「これで午前の部は終了となります!今から1時間休憩を挟みまして、13時からは午後の部が始まりますので、宜しくお願いします!」


スタコレ運営関係者による放送にて休憩のお知らせがホールに響き渡る。これまで何度もリハーサルを繰り返していたモデルや演出班の緊張も解けて其々解散していく。多くの人々が待ち侘びた時間だろう。


双葉

「……」


多くの人々がホールから出ていく中、双葉は未だステージの上に立ち、音楽が止まった今でも歩き方の調整や演出の確認をして手を抜かない。いつも明るい彼女も、今は真剣な眼差しで練習に励む。


 彼女の邪魔をしてはいけないとTOP5の四人組は、ステージから降りて観客席の方へ移動していた。そして姫川は午後には別の仕事があるので、ここを離れなければならなかった。彼女は三人に礼儀良く頭を下げる。


姫川

「今日はありがとうございました。まだ本番ではないですけど…皆さんと歩けて良かったです」


難波

「おう、スタコレやないからって気ぃ抜いたあかんで。頑張ってきーや」


春香

「私も姫川さんと友達になれて良かったです!」


其々言葉を掛け合う中で、RABiが一つの提案をする。


RABi

「ねぇ、私達TOP5としての縁もあるしさ?連絡先交換しない?」


姫川

「え…?」


春香

「…!いいですねそれ!!やりましょう!!」


難波

「まぁ情報共有するのにも役立つしな。ええで」


RABiの提案に二人は直ぐに乗っかるも、姫川はどうも浮かない顔をしていた。


RABi

「どうしたの?姫川さん」


姫川

「あっ…その…すみません。私なんかが皆さんと連絡を取り合っていいのかなって」


遠慮気味な彼女に春香が優しく手を握る。


春香

「勿論ですよ!姫川さんはもう友達じゃないですか!」


そう彼女に言われると姫川の心も安心して頷いた。


姫川

「…ありがとうございます」


RABi

「よーし!早速皆んなに招待状送るね!」


RABiは意気揚々とスマホを手慣れた操作で三人に招待を送る。


 RABiの招待の元、早速グループが作成された。グループ名は【TOP4】


難波

「…TOP4?」


RABi

「あはは…残念な事に双葉さんがまだ参加してないから…」


春香

「あっ、それなら後で私から誘っておきますね!それでTOP5です!」


RABi

「おおー!さっすがハルちゃん!あっ、そうだ!後はこーして…!」


姫川

「!」


RABiは三人を引き寄せて自身のスマホで空かさず自撮りをする。四人の集合写真は直ぐにグループのアイコンへと変更して、写真そのものもトーク画面に添付する。


RABi

「とりまこれで宜しく!何かあったら直ぐに連絡してね!」


難波

「おおーい!撮るんやったらもっと可愛く撮れや!」


姫川

「…ふふっ」


咄嗟の自撮りにRABiと春香ぐらいしかポーズを撮れなかったが、それでも姫川には嬉しい一枚に思えて思わず口が緩む。この業界で彼女の周りに一緒に楽しんでくれる仲間がいなかったからだ。次は彼女から声を掛ける。


姫川

「…あの、次のリハーサルの時も仲良くしてくれますか?」


その質問に三人はキョトンとした表情で彼女を見た。彼女達にとって迷う事なく【当然】と答えれる可笑しな質問だったからだ。


 難波はニカッと歯を見せて笑い姫川の左側に立ち、彼女の肩に腕を回す。右側にはRABiと春香も寄り添う。


難波

「当たり前やろ!何のためにグループ作成したと思ってんねん!」


RABi

「もう少しだけお話ししたいし外まで見送るよ姫川さん!」


春香

「あっ、私も行きます!」


姫川

「え…あ、ありがとうございます…」


優しい三人に包まれながら姫川はメインホールを後にする。


華城

「…チッ」


戯れ合う四人の姿を気に食わぬ顔で遠くから華城が見ていた。彼女も一人でメインホールから出て行くのであった。




 一方、最前席の客席からずっと双葉を見ていた細田と小嶋の元に聡が合流する。彼はクタクタと疲れた様子だ。それもそのはずで、リハーサル中に何度も双葉のメイクの微調整を行い続け、その間ずっと集中していたからだ。


「もー!つっかれたわよーん!!」


小嶋

「!お疲れ様です!聡ちゃん…ですよね?」


「アァーン?明美ちゃん、このイケイケプリプリボーイはだぁーれ?」


細田

「MARUKADO記者の小嶋君よ」


彼は礼儀良く頭を下げ名刺を差し出す。


小嶋

「初めまして!小嶋と申します!以前双葉さんのインタビューで聡ちゃんの事は聞いています!」


「あらまぁ嬉しいわぁーん。…ねぇ、今夜暇?アティシとファンタスティックナイトを過ごさなーい?」


小嶋

「いいんですか!?是非ともお供します!」


細田

「彼を巻き込まないで聡さん」


「冗談よジョーダン♫」


初対面であろうと彼のキャラは揺れる事なく、おちゃらけていつも通りだ。


 三人は休憩中であろうと汗を流し、集中を欠けることなく何度も一人で練習を続ける双葉をステージの下から見守る様に見続ける。彼女の表情は美しく、最後の舞台に向けて努力を怠らない姿勢は、正に業界トップに立つ姿であった。


 聡は横目で細田を見ると、双葉の姿を見入る様に腕を組んで少したりとも瞬きせずじっと彼女を見つめている。細田は否定するが、我が子を見守る母の様な姿に聡は微笑み声を掛ける。


「いよいよね、明美ちゃん。どう?本番は楽しみじゃない?」


その質問に細田は微笑み返す。


細田

「そうね。もう思い残す事は何もない。最後の姿を見納めて…あの子が海外に旅立つのも安心して送る事が出来るわ」


「MLがアティシを採用しないのを許してないけどね」


細田

「まだそれ言ってるの?」


会話をする二人の様子を舞台の上から双葉は気付く。集中力が切れたようで、彼女は笑顔で細田達に手を振る。


双葉

「細田さん!」


「あら、プリンセスからのご指名よ明美ちゃん。行ってらっしゃい」


細田

「何言ってるのよ…」


彼のジョークを流しつつ、細田は客席から舞台の上へと上がり双葉の元へ向かう。その様子をまるで自分の様に嬉しそうに見つめながら、小嶋はカメラで撮影をしていく。


小嶋

「細田さん。双葉さんに声を掛けられた瞬間嬉しそうな顔をしてましたね。やっぱりあのお二人は最高のパートナーだって僕にもわかりますよ!」


「あーら、わかってるじゃない小嶋ちゃん。貴方とは大トロが合いそうねぇ」


小嶋

「ちょっと何言ってんのかわかんないです…」



 細田はステージの上をゆっくりと歩き、手招きをする双葉の元へ歩み寄る。二人の頭上からは流星群をイメージした無数の巨大なスリムライトが照らす。周りのギャラリーは休憩時間ですっかり居なくなり、この舞台は二人だけの特等の場所に変わっていた。


 細田が双葉の前に来ると彼女は嬉しそうに手で引き寄せて細田にハグをする。いつもは引き離す細田も今日は微笑みハグを返す。少ししてから優しく引き離すと、聡のメイクによって引き出される双葉の美顔に見惚れていた。


細田

「凄く綺麗よ、双葉」


双葉

「あはは、知ってる♫」


いつものノリで返す双葉。そんな双葉の視線は細田の胸ポケットに注目する。以前にプレゼントしたメガネはまだそこにあったのだ。細田はあの時の喧嘩をまだ心の何処かで気にしているのだろう。


双葉

「…ねぇ、メガネを掛けて私を見て?せっかくの綺麗な姿なのに勿体無いよ?」


細田

「…そうね。貴方から貰ったプレゼントをここに入れておくのは勿体無いわ」


彼女は自分を許してくれているという安心感に細田は頷き、胸ポケットからメガネを掛けて双葉を見る。


 ハッキリと見える双葉の綺麗な姿と出逢った当時の双葉の姿が、彼女の目の前で重なり合わさる。この数年での劇的な進化は彼女の努力があってこそ。ここまで逞しく成長をしてきた姿に細田の瞳からは自然と涙が流れていた。


双葉

「…泣いてるの?」


普段見ることのない細田の泣き顔に双葉は心配そうに声を掛ける。あぁ、この子は本当に優しい子だ。もう私がいなくても大丈夫なんだと思い、細田は涙を拭いて双葉が見たこともないような笑顔で返した。


細田

「ふふ、貴方の美しさに思わず感動しちゃったわ」


双葉

「…!でしょー?」


細田の明るい笑顔に双葉は嬉しそうに笑って再び抱きしめる。細田も抱き返し彼女の背中を優しく撫で耳元で囁く。


細田

「貴方なら本番でも人々の頂点として、最後まで人々の希望として輝けるわ。…私も、最後のショーをしっかりと見届けるから」


双葉

「…うん。ありがとう細田さん」


二人の抱き合う姿は照明の光に包まれ、微笑ましい【家族】の姿に小嶋は写真を何枚も撮り、聡はウットリとしていた。彼女は楽しそうに閃く。


双葉

「…そうだ!細田さん、写真撮ろうよ!最後ぐらいはつぶグラで【私を影で支えてくれた大事な人です】ってみんなに紹介させて!」


細田

「何よそれ…」


双葉はスマホを取り出し細田を側に寄せて、自撮りの姿勢へと構える。細田は呆れながらも満更でもないようで、控えめに小さくピースをする。


細田

(この子も頑張ってきたんだし…今夜は私から食事でも誘おうかしら?)


普段食事を誘わない細田も、残りの日程を気にして彼女と居られる時間を作ろうかとふと考える。




スタッフ

「…おい。なんかアレ、やばくね?」


そんな和む空気を壊す様に、周辺の観客席にまだ残っていたスタッフの言葉が細田の耳に入ってくる。


 細田は声を出したスタッフの方を見ると、彼とその周辺は揃って上を見上げている。彼女の視線も上へと見つめると、天井に吊るしてある流星群のスリムライトが、ユラユラと不自然に揺れている。


 不思議に思うのも束の間、スリムライトを支えて吊るしているピアノ線がミシミシと音を鳴らし、その音はずっと下にいる人々の耳にも聞こえてくる。明らかに何か不味いことが起きているのだ。


細田

「…!!双葉!!」


嫌な予感を誰よりも真っ先に察知したのは細田だった。



ドンッ!



双葉

「……えっ?」



細田は自分から引き離す様に彼女を突き飛ばす。



突き飛ばされた双葉は呆気に取られ周りの時間もゆっくりと進む。



持っていたスマホは手が滑り落ちて、徐々に細田から離れて行く体は尻餅を付きその場で体制を崩した。



視線の先に映る細田は、突き飛ばした手を向けたまま此方を見ている。



彼女の頭上からは幾つもの巨大なスリムライトや照明を支えていた鉄骨が降り注ぐ。



周りの人々が悲鳴を上げる直前、下敷きになる前の細田が最後に見せた表情は



双葉が事故に巻き込まれず回避出来た事への安堵した表情だった。






細田

(……良かった。間に合った)










ドドドドドッ!!!ガシャァーン!!!









 天井を吊るしていたスリムライトや鉄骨がまるで雨のように降り注ぎ、細田を一瞬にして巻き込み下敷きにする。爆発したかの様な爆音はアリーナに一斉に響き渡り、人々は何が起きたのか頭が追い付かず、唖然とステージ上に山の様に積み上がった照明と鉄骨を見ていた。


双葉

「……細田さん?」


間一髪、巻き込まれなかった瓦礫の山の前で、双葉は尻餅をついたままその光景をじっと見ることしか出来なかった。




 彼女の視線の先には山積みになった鉄骨から細田の手だけが見え、血溜まりで赤く染まっていたのであった。


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