20.5話【其々の一場面】②
5.【やはり天才】
PM16:10 Sunna 社長室
海外での活動に備え、双葉は今後の活動についてKENGOに呼ばれて打ち合わせをしていた。付き添いで細田と聡も付いている。
四人は対面の椅子に座り、テーブルに様々な書類を散りばめ、部屋の隅ではノートPCで情報を整理する秘書もいる。
そんな中、KENGOのふとした疑問が双葉へと問いかける。
KENGO
「そう言えば双葉ちゃん。今後は海外で活動するに当たって英会話のスキルが必要になるわけだけど…いけそう?」
双葉
「…ふふっ」
その質問に双葉は待ってましたと言わんばかりの表情で、机に置いてある細田のペンを手に持ちこう放つ。
双葉
「あい、はぶ、あ、ぺん」
KENGO・聡・秘書
「!!」
彼女のふにゃふにゃな英語力に周囲に電流が走る。謎に自信に満ち溢れた彼女のドヤ顔に感激したのであった。
KENGO
「なんてことだ…初めからこんなに英語ができるなんて…!」
秘書
「流石は【パーフェクトモデル】…抜かり無し、ですね」
聡
「くっ…やはり天才ね…!」
双葉
「ふふ…知ってる」
細田
「双葉を甘やかさないでください」
周囲のバカな大人の反応に、一人冷静に突っ込む細田だった。後日、海外では翻訳者を付けることが決定した。
6.【恐るべきブランド】
PM15:00 会員制カフェ PEACEFUL RETREAT
黒木
「そういえば双葉さんが今後活動するマリー・ルブランって、どんなブランドなんですか?」
双葉
「えー?黒木さんML知らないの?超有名なのに?」
黒木
「すみません…ブランドとかもあまり気にしたことがなかったもので…凄く高級だと、神田さんから聞きました」
双葉
「そーだよ。最も入手が難しいブランドって言われてるんだ。見てみる?」
そう言って彼女は自身のスマホで、MLのオフィシャルサイトを開き机の上に置いた。
双葉
「メンズだとこんな感じかな?」
彼女に紹介され黒木はスマホの画面を見ると、思わずギョッとした表情に変わる。
シャツ 25万円
ズボン 30万円
ジャケット 50万円
コート 80万円
そして、バッグは100万円
見たことない金額の数々に黒木は目を見開き圧倒されていた。分かりやすいリアクションに双葉は笑ってる。
双葉
「ヤバいでしょ?」
黒木
「いやあの……はい、ヤバいです」
双葉
「……一つ、プレゼントしようか?」
黒木
「いやいやいやいや」
双葉の言葉に黒木は見た事ないぐらい首を全力で横に振り続け拒否する。純粋が故の反応も双葉をまた笑わせるのであった。
7.【出来る男】
AM10:57 都内のカフェテラス
本日は11時より【グッド・スター】の期待の新星【姫川 蒼】の独占取材にMARUKADOの斎藤と小嶋が約束の時刻よりも早く到着して待機していた。
テラス席でじっと待つ斎藤は、取材寸前という事でタバコが吸えずウズウズとしている。
小嶋
「めっちゃイライラしてますね、先輩」
斎藤
「まぁな…キャンディも切らしたし、この店には爪楊枝もない。何か咥えるもんでもあれば少しはマシになるんだが…」
小嶋
「咥えるもの…ですか。よーし、任せてくださいよ先輩!超優秀で超有能な部下が先輩の代わりに用意してやりますよ!」
そう言って小嶋は周辺を見回す。
小嶋
「…!あったあった!これだ!ほら先輩!これでもどうぞ!」
そう言って彼は丁度いい大きさの折れた木の枝を拾ってきて斎藤に渡す。
斎藤
「番長かよ。…ていうかお前、上司にそこら辺に落ちてるもんを咥えろって言ってるの正気じゃねえぞ」
小嶋
「えー?咥えるものがあればいいって言ったじゃないですか」
斎藤
「…いや、すまん。ほんの少しでもお前に期待した俺が悪かったわ」
小嶋
「もー仕方ないですねー。はい、どうぞ」
小嶋はポケットからキャンディ棒を取り出して斎藤に渡す。斎藤はそれを見た瞬間、彼に思わず拳骨を噛ます。
斎藤
「持ってんのかよ!」
小嶋
「いっだ!!…ぱ、パワハラだー!!みなさーん!!この人パワハラしてきまーす!!」
斎藤
「あー!ウルせぇしウゼェ!!これ以上イラつかせんな!!」
ギャーギャー騒ぐ二人に、到着した姫川は声を掛けるタイミングを失い、落ち着くまで遠くから見守っていた。
姫川
(…仲良いなぁ…)
8.【肯定の限界】
PM18:02 スーパーリコリス 休憩室
仕事を終えた高田とジュリは休憩室で一息ついている。もう間も無く、黒木も仕事を終えて部屋に入ってくるだろう。着替え終えた二人はスマホを触りながら彼を待つ。
ジュリ
「…黒木さんって何でも肯定してくれるじゃないですか?」
高田
「いきなり何よジュリちゃん」
二人はスマホを触りながら会話を続ける。
ジュリ
「いや…あの肯定って何処までしてくれるんだろうかなって…」
高田
「あー…言われてみたら俺もそれ気になるわ」
二人はスマホを触る手を止めて顔を見合わせる。
ジュリ
「…試してみますか?」
高田
「合点承知ノ助」
………
黒木
「お疲れ」
仕事を終えた黒木が休憩室に入ってきた。先に試すのは高田だ。
レベル1
高田
「なぁ黒木ー。俺めっちゃ疲れててさー。肩揉んでくんね?」
黒木
「今日はお客さん多かったからな。いいよ」
彼は嫌な顔を一切せず、高田の後ろに回り込んで肩を揉む。クリアだ。
レベル2
ジュリは高田の肩を揉む黒木に自身のスマホを見せつける。
ジュリ
「黒木さん、見てください。このファッション、最高にロックだと思いませんか?」
そう言って彼女が見せたのは世紀末のような超パンクな奴等の写真だ。人によっては悪魔のように見える。
しかし、彼にはそんな事関係がなかった。迷う事なく親指を立てる。
黒木
「俺も最高にロックだと思う」
ジュリ
「…ですよね、へへっ」
正直自分が気に入ってる写真だったので、いざ肯定されると、ちょっぴり照れてしまう。クリアだ。
高田
(流石は黒木だな…そろそろ本気で行くか)
レベル3
高田
「黒木…お金貸してくんね?」
ジュリ
「ブッ!?」
高田の言葉にジュリは吹き出す。ここまでくると、もはや輩でしかない。
だが、黒木は親友の金の危機に心配そうな表情で即答する。
黒木
「どれぐらい貸してほしいんだ?」
ジュリ
「ンーーっ!!!」
ジュリは黒木の返しが面白すぎてバンバンと机を何度も叩く。流石にこれには高田も肩を揉む手を止めて黒木の方へと振り向く。
高田
「黒木!流石にそこは断れよ!?」
黒木
「?金に困ってるんじゃないのか?」
高田
「ちげぇよ!!お前が何でもかんでも肯定するから試してただけなんだよ!!」
黒木
「…あぁ、そういう事だったんだ。言われてみると沢山肯定してる気がする」
高田
「なんで!?」
黒木
「なんでって…嫌だなって思わない…から?」
ジュリ
「ク、クク…黒木さん…マジで最高ですよ…」
ヒーヒーと笑い疲れたジュリはプルプルと震えてる。
高田
「じゃあなんだ!?俺が女装をやるって言ってもお前は肯定してくれるのか!?」
黒木
「女装を?……高田が……女装……かぁ……」
高田
「そこは肯定しないのかよ!!!」
ジュリ
「ファーー!!」
高田のツッコミにジュリの抑えてた笑いが爆発してしまったのであった。
9.【リア充】
PM20:11 Sunna カフェスペース
今日の仕事を終えた双葉は、事務所のカフェに戻ってきて自宅に帰る前に休憩をしていた。双葉がカフェにいる事をフレンと春香も聞きつけ合流して会話が盛り上がる。
フレン
「あっ、そうそう!ちょっと聞いて!?この間ねー…」
……
ハンバーガーチェーン店【エム・ドナルド】
ランチを食べにやってきたフレンは、順番を待っている。目の前のカップルがカウンターでメニューを見て選んでいる。彼等が注文を終えればいよいよ自分の番なのだが…
男性
「マチャミィ〜どれ食うよぉ〜?」
女性
「えぇ〜?キョンくんが決めてよぉ〜?」
男性
「俺はハンバーガーよりマチャミを食べたい…な⭐︎」
女性
「もーキョンちゃんったら〜エッチィ〜♡」
彼等はずーっとイチャイチャしていて中々注文を決めない。これには待機しているレジの店員も苦く笑っていた。
………
フレン
「そんなこんなでずーっとイチャイチャしてて、こっちはスゴーク待たされたってわけ!」
春香
「あはは…たまにいますよね。こう仲良くしてて周りが見えてないカップルって…」
フレン
「こっちは彼氏もいないのにあんなもん見せられてさ?もーなんていうか!【リア充爆発しろ!】って奴だよ!」
双葉
「リア充爆発しろ?」
フレン
「あっ、双葉ちゃん知らない?リア充爆発しろ!って言うのはね、カップルとかイチャイチャして幸せそうにしてるのが妬ましくて爆発してしまえーって意味だよ」
双葉
「へー、そうなんだ」
フレン
「双葉ちゃんも周囲のこと気にせずイチャイチャしてたら爆発しろって思わない!?」
双葉
「んー…」
フレンの言葉に少し考えて彼女は答える。
双葉
「私は思わないかな」
フレン
「え…?」
双葉
「だってその二人は幸せなんだよね?それってすっごく良いことじゃん?私は爆発しろーって思うより、二人ともずっと幸せでいてねーって考えちゃうかな」
そう言って天使のような笑顔で笑う。
あまりにも眩し過ぎる返しに己の考えが愚かだと思い、フレンは涙を流していた。春香もじーんと感動している。
フレン
「私…【双葉大好き女子クラブ】を立ち上げて本当に良かったと思った」
春香
「双葉さん…良い子すぎて最早神ですね…」
双葉
「あはは、なにそれウケるー」
双葉は適当に返しているが、二人には双葉が何故人々から【パーフェクトモデル】と呼ばれているのかを益々理解出来たのであった。