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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
4/150

4話【パーフェクトモデル】


…とあるニュース番組のスタジオより。


 ニュースキャスター

「次はエンタメニュースです。大人気モデルの双葉さんがあの人気ブランド【Cherry】とコラボ。双葉さん監修の香水が本日発売されました。香水の容器は双葉さんの特徴である青い瞳をイメージしたブルーの瓶となっています」


キャスター

「双葉さんは【凄く良い香りに包まれるから絶対に買ってね!】とのコメントをしていて、これはファンの人も早く入手したいのではないでしょうか」


コメンテーター

「いやー、しかし双葉さんの人気は凄いですね。デビューして五年目みたいですが、色々な企業とコラボしたり沢山の番組にも出て…今じゃ日本で彼女を知らない人いないんじゃないですか?」


ゲスト

「僕も実際に双葉ちゃんと出会った事あるんですけど、スタイル滅茶苦茶いいし凄く良い子で…後、超可愛かったです!あれは人気にならない方がおかしいんじゃないかって思いますね!」


キャスター

「流石は【パーフェクトモデル】と呼ばれるだけはありますね。今後の活躍も応援したいです!それでは次のエンタメニュースです」


………


…とある撮影スタジオにて。撮影待機中の女性モデル達による会話。


モデル

「双葉、また表紙を飾ったんだって。マジやばくね?」


モデル2

「そりゃあ【パーフェクトモデル】様よ?ウチらと違って超人気者なんだっての」


モデル

「何がそんな人気なのかマジわかんねー」


モデル2

「いやわかるっしょ。あの子何着ても超似合ってるし、スタイルもウチらとは違って別次元。身長も168cmもあるんだよ?」


モデル

「マジ?デカいとは思ってたけどパネー」


モデルB

「それに性格めっちゃ良いじゃん?誰かの悪口言ってるとこも見た事ねーし、つぶグラでもファンサ超やってるんだって」


モデル

「へえー、…この業界、ずーっとあの子が注目されてくんかなー。ウチも楽にチヤホヤされてー」


モデルB

「無理無理。世間は双葉に夢中なんだよ?あの子がいる限り、ウチらがチヤホヤされるなんて絶対にないから」


………


斎藤

「あれは生まれつきの天才って奴だよ」


 そう話すのは、大手出版社【MARUKADO】の喫煙スペースにて一服休憩するベテラン記者【斎藤 武】彼の横には新人記者の【小嶋 直斗】が付いていて、彼の言葉に嬉しそうに相槌を打っている。


小嶋

「そうですよね!やっぱり双葉さんの人気っぷりは天才だからとしか言いようがないですね!」


ハキハキと疑う事のない綺麗な眼差しで話す小嶋に、斎藤は少しにやけて煙草を灰皿へ押し付け潰す。


斎藤

「でもな、あれだけ【完璧】を作り出している人間っていうのは、必ず裏があるもんなんだよ」


小嶋

「?双葉さんは腹黒だって事ですか?」


彼は彼女の人気を、疑う事なく真っ直ぐピュアに信じているみたいだ。


斎藤

「かもな。裏のない人間も勿論いるが…長くこの業界で働いていると何となしにそれがわかってくるもんなのさ」


小嶋

「斎藤さんが言う双葉さんの裏側ってなんですか?」


斎藤

「そうだな…例え話として聴けよ?双葉はたった五年で日本のトップモデルになった訳だ。確かに魅力的な容姿の持ち主だが、モデルを目指す人間ってなると、それぐらいの個性は其々持ち合わせている」


斎藤

「つまり、それだけじゃあトップモデルになるのは難しいって話だ。短期間で名前を知られる為に【枕営業】なんかに手を出すなんてのも芸能界じゃ普通な事だ。要するに双葉は…」


小嶋

「そんな!双葉さんは枕営業なんかしてませんよ!彼女がトップモデルになったのは容姿だけじゃなく、誰にでも受け入れられる心広い優しい性格も持ち合わせてるからです!双葉さんは絶対にそんな事しません!」


 斎藤が自身の推しを悪く言うのに苛つきを隠せず、話してる最中に荒げた声で止めてしまった。彼の言動に驚く事なく、こうなる事がわかってたかのように斎藤はフッと笑う。


斎藤

「だから例え話だって先に言ったろ。お前のような熱烈なファンの考えのように、双葉の性格が本当に良い事から評価されてトップモデルになれた可能性も普通にあるんだからよ」


斎藤

「…まあ、だからってあまり期待はするなよ?完璧な存在として見られている人間程、何か隠しているのは良くある話だ。お前もこの職でやっていくなら、それなりに覚悟はしとけ。芸能界ってのはそんなもんだってな」


そう言うと斎藤はポケットから煙草の箱を取り出す。


小嶋

「ちょっと先輩?!また吸うんですか!?」


斎藤

「これは考察料金だ」


………


 …毎日、日本全国彼女の話題で盛り上がる。ある人は着るもの全てを完璧に着こなすファッションセンスに見惚れ、またある人は太陽のように輝く笑顔で、ファンの期待に応える姿に心が踊らされる。


 ランウェイ、雑誌、テレビ、広告、SNS…彼女が現れる場所は必ず満席、完売、高視聴率、バズへと導く。日本全国、彼女を求めているのだ。


彼女の名は【桜井 双葉】


 完璧で老若男女から愛され、憧れ、希望を与える人々の救世主。人は彼女を【パーフェクトモデル】と崇め讃える。



カメラマン

「はい、オッケーです!これで最後です!お疲れ様でした!」


 都内の某撮影スタジオにてカメラマンがOKサインをだす。カメラの前でキメ顔のポーズをキープしていた双葉も、いつもの明るい表情に切り替わり、周りのスタッフに礼儀正しくお辞儀をする。


 今日は午前からファッション雑誌にて表紙を飾る写真を撮影していた。撮影中は誰もを魅了するカリスマの雰囲気を醸し出し、それを直接見ている周囲のスタッフも、完全に彼女に釘付けになっていた。


 撮影が終わり、緊張が解けた空気に変わるとスタッフは彼女を賛美するかのように盛大な拍手に包まれる。


双葉

「ありがとうございました!皆さんのおかげで楽しく撮影出来ました!」


スタッフ

「我々も双葉さんと一緒に働けてとても光栄に思ってます!本日はありがとうございました!」


双葉

「はい!それじゃあ次の仕事もあるのでもう行きますね。お疲れ様でーす!」


 元気よくスタッフ達に手を振りながら双葉はスタジオを後にする。スタッフは彼女を見送りながら次の撮影の準備へと移っていく。


スタッフ

「噂通りのとても明るい子でしたね双葉さん」


カメラマン

「俺、この仕事長くやってきたけどあんな綺麗な人今まで撮影した事ないですね。久々にこっちも緊張しましたよ」


スタッフ

「ハハっ。いやー、しかしあんなに綺麗だとやっぱり彼氏とかもいるんですかねー。プライベートの事全然公開してないみたいですけど」


カメラマン

「そりゃあいるんじゃないですか?…噂で男性モデルの【REN】と付き合ってるとか聞いた事ありますけど…」


スタッフ

「あー、めっちゃイケメンのあの子ね。確かに美男美女カップルとしては有り得るかもなぁ。どちらにせよ、あんな美人で性格良い子と付き合える男は勝ち組でしょうね」


スタッフは彼女の噂に盛り上がりながら機材の片付けをするのであった。


………


 双葉は機嫌良さげに、スマホを触りながら撮影スタジオから出てくる。スタジオの外には、スーツ姿の長髪の女性が、固い表情で腕を組み双葉の事を待っていた。


彼女は【細田 明美】


 双葉の所属する事務所【Sunna】に務めるベテランマネージャー。数々の有名モデルを世に出し、会社から非常に厚く信頼されている人物である。双葉とは5年前に出会い、彼女自らスカウト。双葉をここまで大きな存在にしたのも、彼女の影の努力もあったからである。


 細田に気付いた双葉は嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。


双葉

「細田さーん!お待たせー♫」


細田

「もう、遅いわよ双葉。それにまた変装もしないで出てきて…」


双葉

「あはは、気にしない気にしない♫」


 双葉は能天気に笑いながら、細田の腕を組んで寄りつく。その行動に細田は呆れるように溜息を吐きながらも、置いてきた送迎車のあるパーキングエリアへ向けて歩き出す。双葉は横でくっついたままだ。


 細田も彼女の馴れ馴れしさには慣れてるようで、全く気にせずスケジュール帳を取り出しこの後の予定を確認している。


細田

「この後は会社に戻って、つぶグラに載せる用の撮影ね。それまではまだ時間があるから、一旦事務所の食堂で昼食休憩を挟みましょう」


双葉

「えー、食堂の料理あんまり好きじゃないんだよねー…」


細田

「そう言わないの。貴方達モデルの健康を維持する為に日頃から考えて作ってくれてるのよ?」


双葉

「…あっ!久々に牛丼でも食べに行かない?私、細田さんと一緒に食べたいなー?」


細田

「ダメです。ほら、いつまでもくっつかない!」


双葉

「ぶーっ」


双葉を無理やり引き剥がす。彼女は不貞腐れながらも早足で歩く細田の後をついていく。


 前から歩いてきた女性の通行人が、二人の横を通り過ぎるも、双葉を見た瞬間に、二度見して振り返り驚いた表情で立ち止まった。


女性

「えっ!?も、もしかして双葉ちゃんですか!?」


 双葉は呼び止められ振り返ると、女性は双葉に出逢えた喜びに感動しながら駆け寄ってくる。しかし、女性の前へ割り込むように細田が立ち塞がった。


細田

「すみません。今急いでいま…」


双葉

「はーい。みんなの愛され系【パーフェクトモデル】こと、双葉ちゃんだよー」


細田

「!?ふ、双葉!」


細田の配慮など気にする事なく彼女を避けて、女性の前に立ち笑顔で握手をする。手を握られた瞬間、女性は喜びの余り思わず絶叫する。


女性

「きゃー!!本物だ!!私、双葉ちゃんのファンなんですぅ!!」


双葉

「えー本当ー?嬉しいなー、それなら一緒に撮っちゃう?」


女性

「えー!!?い、いいんですかぁ!?」


 興奮している女性は周囲からも目立ち注目される。周囲の目に双葉が映ると、誰もが驚き駆けつけて、次々と人集りが出来ていく。


通行人

「うわー!!双葉じゃん!!マジかよ!?」


通行人2

「めっちゃ綺麗!撮らなきゃやばいって!」


細田

「ちょ、ちょっと!」


 細田が必死に追い払おうとするも、たった一人の人間でどうする事も出来るはずがなく、人混みに飲み込まれていく。


双葉

「あはは、握手?全然いいよ!…ん?撮影?勿論OK!一緒に写ろうか!写真集買ってくれたの?ありがとー!」


 双葉はそんな細田の事など全く気にせず一人一人丁寧にファンサービスをしている。それは決して迷惑そうに見えず、本人も周りの人達と一緒に楽しんでいるかのように輝いて見える。


細田

「…っ!急いでますので!!」


しかし、その時間を許す訳がない細田は双葉の腕を掴むと無理矢理引っ張り、人混みから抜け出し走り出した。


双葉

「あっ、みんなごめーん!これからも応援よろしくー!」


ファン

「これからも応援してまーす!」


 引っ張られながらも双葉は集まった人達に手を振り続け最後までサービス精神を見せた。集まった通行人も散らばりつつ彼女に手を振り続け見送る。


 駐車場へ着いて車に乗り込んだ細田は、運転席にて疲れ切った様子を見せている。


細田

「今度から!絶対に!!変装しなさい!!」


双葉「えへへ…」


あまり反省してない自由気ままな彼女に怒りながらも車を発進させた。


………


…都内にてオフィス街の一角に建つ芸能事務所【Sunna】


 モデルを中心に幅広いタレントが所属していて、現在は30名が登録をされている。登録者数は少ないが、現在を活躍する有名人を多く出してきた実績を持つ大手会社である。施設内は充実しており、食堂、トレーニングジム、専用の撮影スタジオまでもが完備されている。


 更に、優秀なスタイリストやコンサルタントといった様々な業種のスタッフを雇う事でモデルは日頃からそのサービスを受ける事が出来る。モデル一人一人を大事にする事がSunnaのモットーなのだ。


 細田が運転する送迎車がSunnaへ到着する。二人は施設内に入り食堂へとやってきた。時間は丁度正午となり、他のスタッフやタレントも既に食事をしていて賑わっている。


細田

「撮影は14時から。メイクアップもあるからスタジオには早めに来るのよ?」


双葉を置いて細田は行こうとするも双葉に呼び止められる。


双葉

「え?細田さん一緒に食べようよ?」


細田

「この後直ぐにプロデューサーとの打ち合わせがあるのよ。一緒に食べる時間なんてないわ」


双葉

「じゃあ何を食べるの?」


細田

「え?…そうね、売店でプロテインバーでも買おうと思ってるけど?」


双葉

「…私には健康を維持する為ってここに連れてきたくせに、自分は不健康な食事じゃん」


細田

「もー、ウダウダ言わないの!メイクルームで待ってるから!撮影の1時間前にはくるのよ!」


彼女のジト目で見てくる視線に耐えきれず逃げるように食堂を後にした。


 一人になった双葉は仕方なさそうに食券を買い、窓側のテーブルまで料理を運ぶ。双葉が選んだ料理は、健康を重視したグリーンサラダ。直ぐ様スマホを取り出すと、慣れた手つきで料理を様々な角度から撮影をしている。


双葉

(うーん、パッとしないなぁ)


撮影した写真を見返しながら食事を始める。あまり映える写真が撮れない事にモヤモヤしているようだ。


「双葉さーん!!」


 そんな彼女のモヤモヤを晴らすかのように元気な呼び声が聞こえてきた。声のする方へ振り向くと、ピンクに染めたウェーブボブの女性が手を振って走ってきてる。


双葉

「おー、春香ちゃん!」


双葉は立ち上がり腕を広げて構えると、春香は飛びつくように抱きついた。


 彼女は【春香】18歳で大学とモデルを両立している。人々を虜にする双葉の活躍に憧れ、努力を続けた結果、去年Sunnaに採用されたばかりの新人モデルだ。


 初仕事では双葉と二人で化粧品のプロモーション映像を撮ることに。緊張していたところを双葉が親密に接してくれた事で緊張が解かれ、撮影は無事に成功。そこから二人は仲良くなるキッカケとなり、双葉と出会う度にハグする程の仲になった。現在は彼女の人気に火がつきだし、徐々に世間からも知られだしSunnaからも期待されている。


 春香は周りのことなど気にせず、憧れの人を強く抱きしめながら嬉しそうに報告する。


春香

「双葉さん!また仕事貰えましたー!」


双葉

「おおーやったね春香ちゃん、順調じゃん。頑張ってるから頭撫でてあげる!えらいねー、よしよし」


春香

「えへへ、ありがとうございますー!」


 二人のやり取りは、周りの視線など全く気にする事なくいつまでもハグをし続けて、双葉もニコニコと片手で優しく彼女の頭を撫でていた。


………


 暫くして春香は双葉の隣に座り、仲良く食事を始める。春香は双葉の事をとても好きなようで、幸せそうに食べては肩に頭を時折乗せる。双葉もそんな彼女を甘やかすように微笑み優しく頭を撫でている。


春香

「あぁ…双葉さんと一緒に食事できて私幸せです」


双葉

「あはは、大袈裟だなぁ春香ちゃんは。よしよーし」


春香

「…あっ、そう言えば聞きましたよ双葉さん。ドラマの主演オファーが来たのに断ったんですよね?せっかくの主演なのに…どうしてですか?」


双葉

「あっ、その話もう広がってるんだ。…んー、それは勿論嬉しかったけどさ、ドラマに出るとなると長期的に拘束されるだろうしスケジュールもそっちに合わせないと大変じゃん?そうなると本業のモデル活動に集中できないかなって…」


双葉

「みんなが求めてる双葉はさ、色んなファッションを完璧に着こなす姿でしょ?だから断っちゃった」


 そう言うと双葉はウインクを決めてピースをする。大きな仕事を本業の為、キッパリと断る後悔のない姿を魅せる彼女に、春香は益々惚れ込み横から飛びつきぎゅうと抱きしめる。


春香

「流石双葉さんです!双葉さんはモデルの…いえ!【パーフェクトモデル】の鑑です!!」


双葉

「あははー、くっつきすぎだよー春香ちゃん」


春香

「私も双葉さんのようにビックになった時はドラマの出演断りますね!」


双葉

「そこは真似しなくていいからね?…あっ、そろそろスタジオに行かなきゃ」


双葉は春香を抱き返した後、ゆっくりと立ち上がる。


春香

「えー!もう行くんですか!?」


双葉

「遅れたら細田さんが怒るからねー。仕事、頑張るんだぞ?春香ちゃん」


春香

「はい!ありがとうございます!」


そう言うと双葉は笑顔で、春香の頭をポンポンと叩いて、手を振りながら食堂を後にした。


 春香は双葉を見送ると、嬉しそうにニコニコとしながらスマホを取り出しつぶグラへと直ぐに投稿する。


【憧れの先輩双葉さんと沢山お喋り出来た!ちょー幸せ!(((o(*゜ω゜*)o)))】


春香

(あぁ〜!双葉さんやっぱりいつ見ても綺麗だな〜!あんなの狡いよ〜!!)


 スマホを胸に当てて彼女の憧れへと思い耽る。しかし、春香の幸せな空間を邪魔するかのように遠くから聞こえる会話が耳に入ってくる。


モデル

「…ホント、調子に乗ってるよね。あいつ」


モデル2

「わかる。なんであんなのがトップモデルなんて名乗れんの?…マジで意味わかんない」


モデル3

「ドラマを断ってまでモデルに専念してる私は凄いでしょーって、感じで見てほしいんじゃない?」




現実はそう甘くない。双葉に憧れる者もいればそれを妬み彼女の存在を嫌う者も必ずいるのだ。


 モデル業界は競争が激しい。旬だったモデルもある日を境に突然消えるのも、この業界では日常茶飯事なのである。誰もが少しでも採用されようと日々努力を怠らない。


 しかし双葉は違った。彼女が世間に知られだしてから人気の勢いは止まる事を知らず、常に頂点へ立ち続けている。


 磨かれたファッションセンス、誰もを虜にするカリスマ性。そして誰も持たない唯一無二の美貌。彼女が何かをすれば、必ず大成功に収め人々に注目される。弱点などない【完璧】そのものなのである。


 そんな巨大すぎる存在は、周囲のモデルからは注目は全て彼女に持っていかれる、という妬みや怒りの目で見られているのだ。春香のように心の底から双葉を尊敬の眼差しで見ているモデルは、残酷な事にこの業界では少ないのである。


春香

(双葉さんが居なくなった途端悪口なんか言っちゃって…ひきょ〜)


まるで自分への悪口を言われているかのように機嫌が悪くなるとムスッとした表情をしながら、春香も食堂から離れるのであった。


………


 メイクルーム。予定時間よりも早く双葉が部屋に入ると、既に細田が部屋の隅で待っていた。大きな鏡が特徴的なドレッサーの前には、高身長の厚化粧をした虹色刈り上げウェーブの男性も微笑み腕を組んで立っている。


細田

「双葉、早いわね」


双葉

「細田さーん、会いたかったよー」


 何の迷いもなく細田へハグをする。彼女の自由っぷりにいちいち突っ込んでいるとキリがないのを細田は知っている。


細田

「ほら、早く椅子に座りなさい。聡さんが待ってるわよ」


双葉

「はーい。今日もよろしくねー聡ちゃん」


「勿論よん双葉ちゃん。さ、こっちにいらっしゃい」


彼は【ファンタスティック☆聡】と業界人から呼ばれる中年男性。


 【ビューティー&ファッションアーティスト】と呼ばれる職に就き、この業界で彼を知らない人はいない実力者である。


 数年前まではフリーで様々な場所で活動していたが、双葉に出会ってその美しい容姿に一目惚れし、彼女の専属として雇って欲しいとSunnaに自ら懇願し就職。


 その後は、双葉のヘアスタイルにメイク、ファッションも彼が管理する専属の役目を果たしている。キャラが濃くて周りが引いている時もあるが、双葉は全く気にせず接してくれる辺り、二人の相性も良い方向にあった。


 双葉は言われた通り椅子に座ると、聡は慣れた手つきで早速メイクに取り掛かる。彼女の白い肌にサラサラな髪を何度も間近で見ている彼だが、毎回メイクを始める度にウットリと見惚れる。


「やっっっぱり、双葉ちゃんは最高ねぇ…何度見ても飽きないわねぇ」


双葉

「ほらほら早く始めないと細田さんが怒っちゃうよー?」


「あらやだ、そうね!明美ちゃん怒るとヤバいから始めちゃうわね!」


細田

「貴方達ねぇ…」


和気藹々と此方の冗談を言い合う二人を呆れた表情で細田は見守った。


……


 …メイクは聡は鼻歌交じりに順調に進んでいる。双葉も聡の鼻歌に合わせ小声で歌いながら、つぶグラのタイムラインをチェックしている。ふと細田の事が気になり、双葉の視線は後ろを見つめる。


 すると、細田はソワソワして落ち着かない様子を見せていた。いつもの彼女なら例え時間が迫っていても、聡のメイクを信じて常に落ち着いているのだが今日は何か様子がおかしいのだ。


双葉

「ねえ、聡ちゃん」


「んっ、何かしら双葉ちゃん?」


 双葉に話しかけられても彼女に目を向けず手を止めないでメイクに集中している。一瞬だけ目を合わせた時に、双葉が指のジェスチャーで耳を近付けて欲しそうにしてたので、片耳を双葉の口元へ近付けながらメイクを続ける。


双葉

「…この部屋、撮られてる?」


双葉の小さな一言に一瞬手が止まる。双葉の小声は細田には聞こえてない。


「な、何のことかしらねぇ〜おほほ」


聡の声が明らかに震えて動揺してるのがわかる。その様子が可笑しいのか双葉は俯いてニヤついてる。


双葉

「細田さん、落ち着きないでしょ?…覚えてるんだ。前にも細田さんと一緒にテレビに出た時あんな感じだったの。密室でしかもスケジュール外で撮られてるって事は…もしかしてドッキリかなー?」


「……」


双葉

「おっ、正解?聡ちゃんは図星だと黙っちゃうもんねー♫」


「ちょっ…この会話聞こえてたら放送出来なくなっちゃうわよ双葉ちゃん!…本当、貴方って人間観察も得意よねー…」


双葉

「ふふ、すごいでしょ?」


聡は観念した様子だ。正解を当てた事を嬉しそうに双葉はニヤつき続け、スマホを再び触り出す。例え撮られていようと彼女はお構いなく、聡に小声で話を続ける。


双葉

「どんなドッキリなんだろ?聡ちゃん知ってるなら教えてよ」


「嫌よ。そんなの教えたらドッキリじゃなくなるでしょ?…ほら、前を向いて。仕上げに移るわよっ」


双葉

「はー……んうっ!!」


 双葉が鏡の方へと顔を向けた瞬間、鏡の一部の部分が突然開く。開いた穴からはクリームパイが勢いよく発射され、双葉の顔面に命中したのであった。


 直ぐ様、扉から番組スタッフがドッキリ看板を持って入ってくる。双葉は顔面にへばりついたクリームを手で拭き取りながら驚いた素振りを見せている。


双葉

「えー!何々ー!?何ですかー!?」


スタッフ

「双葉さん!これはドッキリでーす!大!成!功!!」


双葉

「えー!?そんなー!メイク中だったのにー!」


スタッフに囲まれ一緒に燥いで盛り上がるクリーム塗れの双葉。


 その様子を一旦作業を終えた聡は、細田の隣にやってきて部屋の隅で一緒に見ている。細田は顔がクリーム塗れの双葉に笑いを堪えて震えてるようだ。


「あらやだツボっちゃった?明美ちゃん」


細田

「ごめんなさい。あんな綺麗に顔面に当たるなんて思わなかったから…」


「双葉ちゃん、貴方が緊張してる姿を見てドッキリ受ける前から気付いてたわ。でも、気付いた後でも気付いてないフリを続けて場を冷めないようにしちゃって…ほんっと、あの子は周りの事をよく見て気にしてるわよね」


細田

「…ええ、そうね。気にしすぎてる程にね」


細田は思い当たる事があるかのように表情が曇る。細田の反応に、聡は察すると深掘りする事なくスタッフと燥ぐ笑顔の双葉を見守っていた。


………


 撮影も無事に終わり、午後のスケジュールも終えてすっかり夜になっていた。細田が運転する送迎車は双葉を助手席に乗せ、イルミネーションの装飾で煌めく街中を走り抜ける。


 双葉は昼間につぶグラに投稿したクリーム塗れの自撮りをチェックしていた。時間は経っているのにも関わらず【いいね】が止まらない。その光景を嬉しそうに双葉は見ている。


細田

「またバズってるのかしら?」


双葉

「あったりまえだよー。【クリームまみれの双葉】なんて滅多に見れない超レアものだからね」


細田

「ふふ、そうね」


運転をしながらも気楽な彼女の返しに細田も微笑む。


双葉

「まあ私は細田さんが笑ってくれてたのが嬉しかったな?」


細田

「またそんな事言って…何も出てこないわよ」


双葉

「あはは、知ってる♫」


細田

「何よそれ」


赤信号になり車は止まる。人々が横断する待ち時間、細田は双葉の方へ顔を向ける。


細田

「…ねえ双葉。貴方は本当によくやってるわ。貴方がしてきた五年間は世間が受け入れてくれて今じゃトップモデルよ?」


細田

「だからその…周りの事なんて気にしないで無理せずに、もっと自分らしく生きてもいいのよ?」


気にかける細田に、双葉はスマホを膝下へ置いて微笑みを返す。


双葉

「無理なんてしてないよ細田さん。誰かが私を見て喜んでくれたり感動してくれたり…私を必要としてくれてる限り頑張らないと、って思うんだ。それが誰もが憧れる【パーフェクトモデル】の生き方じゃない?」


細田

「双葉…」


双葉

「信号、青になったよ?」


細田

「え?…あぁ、ごめんなさい」


双葉に言われ車を発進させる。双葉は窓からイルミネーションで飾られた街を肘をついて見つめる。光り輝く街の景色に、静かに零す。


双葉

「…みんなが見たいのは【パーフェクトモデル】の双葉。本当の私なんて、誰も求めてないから」


細田

「……」


双葉の本心を知る細田は、彼女の発言に何も言えずにいた。二人を乗せた車は、光り輝く眠らない街を走り抜けるのであった。



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