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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
39/150

20話【天運の岐路】中編


AM9:33 TMAメイクルーム



 TMAに双葉を乗せた送迎車が到着し、聡と会場で合流すると、すぐ様用意された専用のメイクルームへと向かった。細田は


「舞台を先に把握しておきたい」


と、二人と一旦別れる。


 用意された専用メイクルームに着くと聡は直ぐに鍵を閉める。双葉は鏡の前の椅子に座り、聡はキリッとした【仕事モード】の顔つきになると、早速彼女の魅力を惹き出すメイクに取り掛かる。普通のメイクリストでは何十分も掛けるメイク技術もも、彼の腕があればたった数分で仕上げる事が出来る。


 但し、この時の彼の集中力は極限化に達していて決して話しかけたりしてはいけない。双葉もそれを知っていて、鏡に映る自分を見つめじっと動かないでいた。


 だが、そのルールを破るかのように突然聡のポケットに入れているスマホの電話が鳴りだす。いつもの面白可笑しく対応する彼とは違い、この時に邪魔が入ると明らかに機嫌が悪いのを顔に出しながら、メイクをキリの良い部分で中断してスマホを耳に当てる。


「…もしもし?えぇ………え?マジ?わかった、すぐ行くわ」


聡は電話を保留に切り替え一旦耳から離す。


双葉

「どうしたの?」


「今日双葉ちゃんが着るオーダーメイド衣装がさっき届いたみたいなんだけど…ちょっとトラブルがあったみたいなの。双葉ちゃんのメイクを終えたら、少し見てくるわ」


そう言って彼は双葉のメイクを再開する。


 途中で止められても彼の手際が早く、あっという間に双葉の美顔を際立たせるメイクに仕上げた。しかし、これはまだ仮であり、最終調整は衣装を着てからである。


 聡は一時的でも緊張が解けると大きく溜息を吐いて双葉から離れ、壁掛けハンガーに吊るしていた真っ白のジャケットを羽織り支度をする。


「全く…アティシのファンタスティック⭐︎タイム中に電話かけてこないでほしいわねーん」


双葉

「どれぐらいかかりそう?」


「んー…そんなに長くならないと思うけど…先に服は脱いでてくれる?戻ってきたら直ぐに衣装の調整もしたいから」


双葉

「オッケー」


彼は再びポケットからスマホを取り出し電話を繋げて耳に当てながら早足で部屋から出ていった。


 双葉は言われた通りに直ぐに上着を脱ぎ出し髪を括っている最中、聡が出て行く際に鍵を閉め忘れている事に気付いた。いつもは運営と連携して鍵を借りて出て行く際必ず閉めて行くが、衣装の事で頭が一杯だったのだろう。


双葉

「……」


双葉は扉にゆっくりと歩いて鍵を閉めようと手を差し出したその時、双葉のスマホに電話が鳴る。


 彼女はズボンのポケットからスマホを取り出すと、着信は【黒木】からだった。


双葉

(こんな朝早くにどうしたんだろ…?)


早朝からの黒木の電話は珍しく、鍵を閉めるのも忘れてしまい耳にスマホを当てて繋げる。


双葉

「もしもし?黒木さん?」


黒木

『あっ、もしもし双葉さん。おはようございます』


双葉

「おはよー。朝早くからどうしたの?何かあった?」


彼女は扉から離れ、鏡の前の椅子に戻ると座って彼の話を聞く姿勢をとる。いつも落ち着いて話す彼の声は、いつにも増して静かだった。


黒木

『いえ…何かあったってわけじゃないんです』


双葉

「あはは、何それ」


黒木

『…ただ昨日の夜、寝る前にふと思ったんです。双葉さんとは後数回しか会えなくて、その後は5年間帰ってこないんだって』


双葉

「……」


双葉は黙って彼の話を聴き続ける。


黒木

『…やっぱり俺はもっと双葉さんと一緒に趣味探しをしたいんだと思います。貴方が海外で活躍する姿を応援したいはずなのに…尊敬する人ともう会えなくなると思えば思う程、寂しいって感じてしまって……こんな事言って、変ですよね』


双葉は立ち上がり、扉を背に鏡に映る自分の姿を見つめる。雪のような白い肌に煌めく青い瞳による絶対的な美貌は、彼女の自信に変わる。


双葉

「…ううん、そんな事ないよ。……ありがとう黒木さん。私も黒木さんと会えなくなるのは寂しいよ」


双葉

「キャット・シー楽しみだね。忙しい私の代わりに、沢山調べておいてよ。当日は忘れられない一日にしようね」


黒木

『…わかりました。…そう言えば今日はスターライトコレクションのリハーサルの日でしたね。すみません、忙しいのに朝早くからこんな電話をしてしまって』


双葉

「ううん、丁度誰かと話したい気分だったから良かった!黒木さんはこれからお仕事?」


黒木

『はい。今日は遅番なのでこの後仕事に行きます』


双葉

「そっか、頑張ってね。……ねぇ、今日は早く帰れるからさ、黒木さんが帰ってきたらまたお話の続きをしようよ!私も話したい事色々あるから」


黒木

『!直ぐに帰ってこれるように頑張ります』


彼のトーンは普段通りに戻り嬉しそうな声が聞こえてくる。


双葉

「あはは、めっちゃ嬉しそうじゃん。それじゃあ、また夜ね。バイバーイ♫」


黒木

『はい、失礼します』


双葉は電話を切りスマホをテーブルに置いた。



バタン



双葉

「?」


一瞬扉が閉まるような音が聞こえ双葉は音の鳴る方へと振り向くが、そこには誰もいなかった。


 念の為、扉に駆け寄り少しだけ開き廊下を覗き見回して確認する。しかし、外にも人の気配はない。


双葉

「…気のせいかな?」


双葉は扉を閉じると、改めて鍵を閉め聡が戻ってくるのを待つのであった。



………



姫川

「ハァ…!ハァ…!」


姫川は双葉のメイクルームから逃げるように廊下を走り続ける。


 無我夢中に走り続け、そして息を切らす。丁度タイミングよくベンチを見つけるとフラフラになりながら座り、彼女は俯きながら頭を抱えこむ。


 あの醜い背中が頭から離れない。見間違いではない。確かにこの目で見たあの火傷の痕が。あれは一体なんなのか。


 ずっと違和感があった。姫川は憧れの双葉に少しでも近づけれる様に研究すべく、彼女が出ている雑誌や広告、テレビを隈無くチェックしていた。様々なファッションを取り入れ、自身の美を披露する麗しい彼女の姿がそこにはあったが、どれも【背中が見える衣装】を着ていなかったのだ。


 双葉は契約上【露出の多い服を着ない】という話を聞いた事があり、それに関係する理由なのだと考えていたが、秀麗とは真逆の醜悪な姿を隠す為だと姫川は確信した。


 モデルにとってあの火傷の痕は致命的なのは恐らく彼女もわかっていて世間に隠し続けるのだろう。自身の姿に嘘をついている人間が【パーフェクトモデル】と崇められている…こんな事があって良いのだろうか?


姫川

「ハァ……ハァ……」


まだ息が整っていない姫川は、動揺して震える手でスマホを取り出し電源を付ける。


 そこに映し出されたのは、双葉の背中がよく見える先程の場面の隠し撮り写真。困惑した彼女があの時に取った行動は、その証拠を入手する物だった。


 画面に映る憧れの人の醜い背中。顔は青ざめバクバクと心臓を鳴らし、見れば見るほど呼吸も乱れ落ち着かなくなりカタカタと体が震えている。


姫川

(な、何でこんな物を私は撮ってしまったの…!?)


彼女自身、何故自分が盗撮をしてしまったのか理解出来ていなかった。この事が本人に知られてしまえば、どうなるかも想像がつかない。


 しかし、姫川は人々から尊敬され愛される【パーフェクトモデル】の、誰も知らない【秘密】を自分だけが知っていたいという【独占欲】が体を動かしたのを知っていた。その自分勝手な行動を認めず否定しているだけなのだ。動揺に震える指は少しずつ、写真の削除ボタンへ向かっていく。


姫川

(こ、こんなのを持っていたら…絶対ダメ…!)


罪悪感が増していき削除ボタンを押そうとしたその時、


「…あの!!」


姫川

「ヒッ!!」


突然誰かに声を掛けられ、驚いた彼女はビクッと反射的にスマホをポケットに戻してしまう。


 姫川は震えながら恐る恐る声のする方へ振り向くと、そこには心配そうに此方を見ている【春香】が立っていた。


春香

「あ、あの…大丈夫ですか、姫川さん?」


姫川

「え…あ……」


姫川

(この人は確か…Sunna事務所の春香さん…?)


春香

「もしかして…体調が悪いのですか?気持ち悪いとか?」


初対面にも関わらず本気で心配してくれている春香の気遣いを払う様に、姫川は一呼吸入れ立ち上がり背を向けて歩き出す。


姫川

「だ、大丈夫です……気にしないでくだ……」


フラフラと歩く姫川に春香は見兼ねて、彼女の隣に直ぐに駆け寄り支え、ベンチへと戻して座らせた。


春香

「顔も青いしフラフラじゃないですか!?今は座ってる方がいいですよ!」


姫川

「…ッ」


春香

「ここで待っててください!医療スタッフさん呼んできます!」


姫川

「ま、待って!」


姫川を置いて走り出そうとした春香を呼び止める。


姫川

「だ、大丈夫です…軽い貧血を起こしただけですから…良くあることで、じっとしていれば落ち着きます」


春香

「そ、そう…ですか」


 彼女は嘘をつく。今動揺をしてしまってるこの状況で、多くの人に囲まれてしまうと自分が何をしでかすか分からなかった。とにかく一旦落ち着くまでは、一人でいたかったのだ。


 しかし、そんな彼女の思いを無視する様に春香は姫川の隣に座る。


春香

「それじゃあ今だけ私が隣にいてもいいですか?」


姫川

「え…?」


春香

「あっ、その…大丈夫だとは思うんですけど。辛そうにしている人を放って行くのは私が出来ないので…あはは…勿論、本当に体調が悪いのなら直ぐに呼びに行きますから直ぐに言ってくださいね!」


姫川

「ッ…ありがとう…ございます…」


そう言って彼女は明るい笑顔を見せる。純粋に自分の事を心配してくれている彼女の優しさに心を痛め、幸いにもそれが姫川の今の気持ちを落ち着かせる事となった。




 暫くして漸く落ち着くと大きく息を吐く。体はまだ少し震えているが、噴き出していた汗も止まり体調も軽くなった。隣にずっと付いて、背中を優しく撫でてくれた春香のおかげで早く冷静になれたのだろう。弱々しい声で感謝の言葉を彼女は向ける。


姫川

「あの…もう大丈夫です。ずっとついてくれてありがとうございました」


姫川の感謝の言葉に、春香は太陽の様に眩しい笑顔を見せる。


春香

「そっか!良かったです!…でも、無理はしないでくださいね?もしもまだ体調が悪いのなら言ってください!最後まで付きますから!」


彼女の眩しすぎる善意に、姫川は引き気味になる。


姫川

「い、いえ…本当に大丈夫です。…ええと、貴方はSunna所属の春香さん…ですよね?」


春香

「あっ!知ってくれているんですね!?はい!私がハルちゃんこと春香です!」


嬉しそうに返事をする春香に、少し元気を取り戻した姫川も微笑む。


姫川

「勿論ですよ春香さん。貴方は注目されているモデルとして有名人ですから。【第二のパーフェクトモデル候補】なんて言われてますよ」


春香

「え、ええ!?そうなんですか!?私なんかじゃ【パーフェクトモデル】なんて務まりませんよ!褒めすぎです!」


姫川

「そんな事ないです」


春香

「えっ?」


姫川

「どんな衣装でも着熟すファッションセンスや人々を惹き寄せ魅了させる愛嬌…【パーフェクトモデル】と呼ばれる双葉さんの良い所を貴方は全て吸収しています。貴方の急成長ぶりは、私も業界の人もしっかり見ていますよ」


春香

「そ、そうなんですか…えへへ、な、なんだか照れますね」


褒め言葉に弱い春香は、照れながら口元が自然とニヤついてしまう。


姫川

「……」


 姫川は春香を見続け、彼女の優しさから自分が見てしまったあの人の姿を話した方がいいのかと悩んでいた。


 しかし、彼女も双葉と同じSunna所属ならあの姿を事務所繋がりで知っているのかもしれない。そうなれば、自分が知っている事がバレてしまった瞬間優しく接してくれている彼女も顔色を変えてしまうのではないか。


 だが、彼女は聞く事を選んだ。もしも自分一人だけが知っている事ならば、それはあまりにも重すぎて耐えられない。とにかく誰かに話さないと、気が収まらなかったのだ。


姫川

「…あの、春香さん。こんな事初対面に話すことではないのですが…少し相談を聞いてくれませんか?」


春香

「相談?…私、人の話を聞くの好きなんです!私で良ければどんな相談でも話してください!」


彼女の明るい返事に恐る恐ると遠回しに質問をする。


姫川

「…もしも、もしも自分の憧れの人が、人々に見せている姿が偽りのものだと知ってしまったら…春香さんはどうしますか?」


春香

「偽りの姿?…それって例えばですけど、凄く優しい人が本当はとても悪い人…だったりって事ですか?」


彼女の疑問に姫川は彼女をじっと見つめ静かに頷く。姫川の無表情の顔から察するに、この質問は彼女にとって真剣に悩んでいるのだろう。春香は少し時間を空けて考えると答えた。


春香

「うーん…私にとっての憧れの人って双葉さんなんですよね。双葉さんが私達に隠している事があれば…かぁ」


彼女の口から出た【双葉】の言葉に姫川はビクつく。今この状況でその名を聞くと、この質問の意図が読まれそうで落ち着けなくなりそうだった。しかし、春香は姫川の事を気にする事なく続けて言った。


春香

「私はそれも受け入れて…ずっと私の中の憧れでいたいと思いますね」


姫川

「…?」


双葉の話題となると、彼女はまるで自分のことのように嬉しそうに話す。


春香

「例え私や他のみんなも知らない事を隠していても、完璧な姿を見せてくれるあの人が私は大好きなんです。でも、双葉さんだって人間ですから、誰にも言えない隠してる事はあると思いますね。それも含めて私はずっと憧れていたい」


春香

「…あっ!でも双葉さんが隠しているのは、動物虐待とかパワハラとかだったら、流石に私でも引きますよ!?あの人は本当に優しい人なので、そんな危ない事を絶対に隠してないですけどね!」


自信満々に自分の推しへの愛を語る春香の姿に、姫川は羨ましく見えた。


 姫川が所属するグッド・スターは一流のモデルが集まる大手事務所なのだが、人間関係に関しては最悪だった。特に華城による周囲へのハラスメントは酷く、他の先輩モデルも辞職していき、まともな先輩の下に付いた事がなかったのだ。


 春香がこの業界にいながら、明るく優しい性格なのも見てきた先輩が【双葉】だった事への影響もあるのだと姫川は考えた。


 そして春香が自信満々に双葉の隠し事に問題なく思えるのは、先日の大江戸タワーで双葉が【本当の姿】の一部を見せてくれたからだ。


 もしも、双葉がまだ自分達に見せていない嘘の姿があったとしても、人々の為に嘘をつく彼女なら問題ないと受け入れる事が出来るからだろう。


姫川

「…本当に双葉さんの事を信頼しているんですね、春香さんは」


春香

「はい!姫川さんも憧れの人がいるんですか?」


姫川

「…こんな質問しておいて恥ずかしい話なのですが、私も双葉さんが憧れの人なんです」


春香

「本当ですか!?」


同じ人物を憧れている事へ春香は目を輝かし、姫川の両手を握り嬉しそうに反応した。グイグイくる春香に姫川は少し戸惑っている。


春香

「双葉さんを推す人に悪い人はいません!私達はもう友達ですね!」


姫川

「と、友達…?」


春香

「はい!友達です!…あっ…もしかして嫌でしたか?」


表情が嬉しそうだったり困ったりとコロコロと変える彼女の態度が面白く、彼女も緊張が解けていき微笑む。


姫川

「い、いえそんな…春香さんはとても優しくて、こうして付き合ってくれてるので…友達と呼んで頂けるのは嬉しいです」


春香

「では友達として私のことは【ハルちゃん】って呼んでください!姫川さんは何と呼べばいいですか?」


姫川

「え、ええ…?私は姫川のままでいいですよ」


こんなに陽気に話してくれる彼女なら、あの撮ってしまった写真も相談しても良いのかもしれない。このまま一人で抱え込むのも嫌に感じた姫川は、自分を友達と呼んでくれる春香に勇気を出して聞こうとする。


姫川

「あの…春香さん。実は…」


彼女が話そうとしたその時、廊下のスピーカーから放送アナウンスが響き渡る。


スタッフ

『えー、間も無く午前の部のランウェイリハーサルを始めます。まだ準備が出来ていない参加者の方は集合場所までお急ぎください』


春香

「!!やばー!?話しすぎちゃった!!姫川さん!行こう!」


姫川

「…!」


春香は立ち上がり姫川に手を握ると、引っ張って集合場所へと走り出す。


 この業界に入ってから、親友のように接してくれる人がいなかった姫川にとって春香のフレンドリーな行動はとても嬉しく感じた。結局、話す事は出来なかったが、今は考えるのを止めて姫川はリハーサルに集中する事にした。


………


AM10:31 TMAバックステージ


 大音量のEDMのミュージックが流れ出し、音楽に合わせて待機していたモデルが順番にステージを歩き出す。天井に吊るしてある大規模の照明ライトが、モデル達を輝かせ彼女達の魅力を引き立てる。


 通常のランウェイとは違い、一人一人に与えられた時間は長く、自由に歩ける事に普段は出来ないパフォーマンスをして良いことから、モデルは其々自身の個性をアピールするパフォーマンスを披露していく。


 一人は音楽に合わせて磨き上げたモデルウォークを披露して、また一人は手を広げ回転しながら全身を見せつけるように披露する。いつものランウェイでは出来ない、みんなが生き生きとしているスタコレのランウェイは、正に美しい女性による【祭典】そのものであった。


 そんなステージ裏で待機しているモデル達の中に、何とか間に合わせたRABiと難波も待機していた。舞台裏から楽しそうに歩くモデル達を見てRABiは胸を躍らせて観察している。


RABi

「おぉー…見て見て難波さん。ランウェイだからもっと固く歩くんだと思ってたけど…スタコレは皆んな楽しそうにしてますね。なんだかアイドルのライブ見てる気分です」


難波

「…ほーん」


そんな楽しそうに見ているRABiとは違い、難波はつまらなさそうに見ていた。


RABi

「どうしたんですか難波さん?」


難波

「あいつら必死にアピールしとるみたいやけど…どいつもこいつも全く魅力があらへん。あんなんやっても当日は覚えてくれるかもしれへんけど、次の日になったら忘れられるで。そう、パンチが足らんわ」


RABi

「おぉー…」


楽しむのではなく、歩くモデルをしっかりと観察してライバルとして見ている難波にRABiは感心する。


「どうしてモデルの集まる場所にアイドルとお笑い芸人がいるのかしら?」


そんな二人を煽る言葉が後ろから聞こえてくる。


難波

「あぁん!?誰がお笑い芸人やと?!ウチは正真正銘モデルやぞ!」


難波は怒り吠え振り返ると、そこには華城が腕を組んで偉そうに立っていた。いつの間にか周りのギャラリーも華城から離れていて、圧倒的な圧の前にRABiは怖気て難波の後ろに回る。


 華城は二人をじっと見ると鼻で笑い、やれやれと呆れるような仕草をする。態とらしい煽り態度に難波は苛立ちが増していく。


華城

「あらごめんなさい。あまりにも安っぽいオーラだったからモデルには見えなかったわ。えーと…名前なんだったっけ?」


嫌味が止まらない彼女に、引く事を知らない難波は腕を組み仁王立ちで堂々と対抗する。


難波

「【関西のパーフェクトモデル】こと難波 ヒカルや!自分、オバハンやし記憶力ないのも仕方ないけど、しっかりと覚えて帰りや!」


華城

「…はぁ??」


難波の煽りに華城は鋭く睨みつける。周りで見ている人達はヒヤヒヤとしているが難波は全く気にしていない。


難波

「おうおう、喧嘩売ってきたんはそっちやからな?言われる立場も考えてみぃや。…あぁ、相手の事も考えれへん自己中な奴やから人気低迷してるんやったな。かわいそーに」


華城

「…ッ!このガキ…!!」


華城はキレて難波に手を出そうとしたその時


RABi

「ちょちょちょ!ストップ!ストーップ!!」


難波の後ろに隠れていたRABiが、前に出てきて二人の間に入り止める。RABiの割り込みには難波も予想外だったようで驚いたようだ。RABiにとっては、メンバー同士のいざこざも経験していて、この場をどうしても見ていられなかったのだ。


RABi

「ここは喧嘩する所じゃないですよ!ほら、せっかくスタコレに選ばれた訳ですし、もっと楽しんでいきましょうよ!」


華城

「何アンタ?何様な訳?」


思い切って前に出てきたものの、やはり華城の圧は怖く上手く言葉が出ない。


RABi

「い、いやー…えーっと…」


難波

「スタコレ投票3位の【RABi】様やろがい!!」


RABi

「!」


そんな彼女を助けるように難波が怒鳴り叫び、華城に指を刺した。


難波

「ええか華城!!ウチらは国内最大イベント【TOP5】に選ばれた超エリートや!!35位のお前なんかがウチらに偉そうに出来んのじゃ!!悔しかったらウチらを超えてから吠えんかい!!」


RABi

「な、難波さん…」


華城

「ッゥ〜…!!…クソ!!」


反論出来ない言葉に華城は歯を食いしばらせ、悔しそうに足音を大きく鳴らしながら立ち去った。


 あの恐ろしい華城を退散させた難波の勇姿に周りの怯えていた人々も称賛の拍手を送る。呆気に取られ立ち尽くすRABiも拍手の音に我に返り、難波へ振り返って手を握る。


RABi

「な、難波さん〜…!ありがとう!滅茶苦茶怖かったよ〜…!」


難波

「感謝すんのはウチの方やでRABiちゃん。アンタが前に出てきてくれへんかったら、今頃大乱闘の始まりやったからな。アッハッハッ!!」


RABi

「そ、それは本当にやばいんでやめてください…」


あんな怖い事があったにも関わらずヘラヘラと笑う難波に苦く笑う。しかし、難波は直ぐに真剣な眼差しでRABiを見つめた。


難波

「…のうRABiちゃん。アンタが【パーフェクトモデル】より勝るものはなんや?」


RABi

「【パーフェクトモデル】より…勝るもの?」


難波

「おう、聴かせてみぃ」


RABi

「そ、そんなの言われてもなー…【パーフェクトモデル】が神みたいなものだし、何もないというか…」


難波

「ウチは【パーフェクトモデル】よりも観客を魅了させる事が出来ると思ってる」


RABi

「…?」


難波はRABiの握る手を離し、自身の胸に手を当て堂々と話す。


難波

「ええか?何でもかんでも【パーフェクトモデル】が凄いって考えるより、自分は【パーフェクトモデル】に勝ってる部分があるもんを見つけるんや」


難波

「それを自信持って言えるようになりゃあな?自分への勇気に変わるんや。そしたら、あんな弱っちい奴なんかにもビビらんようになるで!」


難波にとって【パーフェクトモデル】は頂点でありながらも、そのブランドを利用した思考が難波を強くさせているのだ。


 憧れの人を全てを下から見上げていた自分とは違い、この人はとても強い人で学ぶべき場所があるとRABiには理解できた。


難波

「そんなわけでRABiちゃん。自分が自信持って言える強みを言ってみぃな!ほら!」


RABi

「ええ!?…え、えーっと…私は【パーフェクトモデル】よりも可愛くファンサも神です!」


まるで宣誓のように言わされたRABiを褒めるように、難波は彼女にハグする。難波の馴れ馴れしさに少しは驚くも、彼女の強者としての勇気を伝授を受け、感謝するように抱き返す。


難波

「よー言うた!流石は3位やな!」


RABi

「アハハ!なんですかそれ!…ありがとうございます難波さん。私、もっと自信持てるように頑張ります!」


難波

「おうおう!漸くわかってきたみたいやな!」


抱き合う手を離しお互い顔を見合わせて笑い合う。今日出会ったばかりだと言うのに関わらず、この二人には既に友情が芽生えていたのだ。


春香

「!初めましてRABiさん難波さん!」


そんな二人の前に姫川の手を握って引き連れてきた春香が合流した。春香は元気よくお辞儀をする。彼女の横に姫川も来ると引き続きお辞儀をした。


春香

「Sunna所属の春香です!今日はよろしくお願いします!」


姫川

「グッド・スター所属の姫川です。宜しくお願いします」


春香を目にしたRABiは感極まり、目を輝かして彼女の手を強く握った。


RABi

「初めましてRABiです!!私、ハルちゃんに会えてちょー嬉しいです!!」


春香

「え!?そうなんですか!?」


RABi

「当たり前ですよー!!チョー可愛いコーデをいつも最強に着熟してるじゃないですかー!メッチャ可愛くて参考にしてます!」


春香

「そ、そんな…」


興奮気味に話すRABiにフルフルと震える春香は次の瞬間、彼女も目をキラキラと輝かし飛び跳ねながら同じ様に興奮気味に喋りだした。


春香

「私も【PP⭐︎STAR】の超ファンなんです!!RABiちゃんにそんな風に言われるなんて幸せですよー!!この後一緒に写真撮ってももいいですか!?」


RABi

「えー!?マジですか!?全然OKですよ!!」


春香

「キャー!!嬉しいー!!」


二人は子供の様に燥ぎ、飛び跳ね合う。出会って数秒で直ぐに仲良くなれる【陽キャ】の姿に難波と姫川は呆れる様に見ていた。


難波

「なんやこいつら…」


姫川

「さ、さぁ…」


難波

「まぁええわ。姫川ちゃん、ウチもアンタに会いたかったで」


姫川

「…?私に?」


難波は姫川に体を向けて指を指し、片手を腰に手を当て堂々と立つ。


難波

「【パーフェクトモデル】の次に来るであろう【ネクストモデル】の実力をこの目で見たかったんや。しっかり研究させてもらうで」


姫川

「…お互いに素晴らしいショーにしましょう」


姫川は頷き手を差し出し、難波も答える様に握手を交わす。本物の強者同士に多くの言葉はいらないのだ。


 すると、突然周りの人達は騒つきだす。「スゲェ…」や「美しい」と思わず声を漏らして何かに見惚れている様に、その視線の先をじっと逸らす事がなかった。


 四人は人々が見ている方へと振り返ると騒つく理由が一瞬にして理解出来た。


 廊下の先からヒールの音を鳴らし歩いてくるのは、煌めく白色ラメのロングドレスに、艶やかな黒の長髪を靡かせる絶対的な美を纏う【パーフェクトモデル】が遂に姿を現したからだった。


 彼女が歩く前を人々は隅に避けて、彼女は愛想良く周囲の人達に挨拶をしながら四人の元へと来る。


 初めてその目で【パーフェクトモデル】を見たRABiと難波は、美しさのあまり息を呑んで目が見開く程見惚れて固まっていた。春香も目を輝かし共に喜び、姫川も先程の彼女の醜い姿も忘れてしまう程魅入っていた。


 双葉は四人の前に立つと最強の笑顔を見せて口を開く。


双葉

「初めまして。双葉です」


その姿は太陽のように眩しく、そしてモデル界の頂点に立つ女王の振る舞いであった。



…………



PM12:47 スーパー・リコリス 休憩室



黒木

「おはようございます」


遅番として出勤した黒木は休憩室に入る。そこには既に出勤していたジュリが珍しくも明るい表情を見せ、部屋の隅に立って電話をしていた。


ジュリ

「はい…!はい…!本当ですか…!はい!頑張ります…!」


嬉しそうに返事をする彼女を横目に通り過ぎて、黒木は自分のロッカーに荷物を纏めてエプロンを取り出す。


ジュリ

「はい!はい!……わかりました!失礼します!」


電話を切るとジュリはスマホをぎゅっと握り、何度も小さく飛び跳ねる。


ジュリ

「よし…!よし…!!」


余程嬉しいことがあったのだろう。興奮が収まらず、黒木の事を気にせずガッツポーズを取ったりぐるぐると部屋を歩き回る。


 いつもと様子が違う彼女に流石の黒木も気になり、エプロンを着用してから聞き出す。


黒木

「おはよう神田さん。嬉しいことがあったの?」


ジュリ

「…え?………あっ」


黒木の声に漸く我に返り、ジュリは彼の方へと振り向き固まる。お互いじっと静かに見つめ合う。彼女は電話に夢中で黒木が居たことに気付かなかったのだ。


黒木

「………?」


ジュリ

「………」


黒木

「…もしか」


ジュリ

「今の見てたのなら忘れてください」


黒木

「…?わかった。忘れるよ」


急に恥ずかしくなってきたジュリは黒木が喋る前に、圧を掛けて椅子に座り込む。いつもの彼女に戻った。


…だが、あんな姿を見られても【忘れてください】の言葉に【忘れるよ】と即答で返す彼の興味を持たない性格に、ジュリは逆に言いたくてウズウズとしている。


 我慢が出来なくなった彼女は、隣に座り出勤時間までスマホを見て待機している彼に問いかける。


ジュリ

「…気にならないですか?」


黒木

「気になるけど、神田さんが忘れて欲しいのなら深く聞くつもりはないよ」


ジュリ

「あぁもう!面倒くさい人ですね!」


黒木

「え?ええ??」


素直に従ってるはずなのに怒られる黒木は察しが悪く、未だに聞こうとしない。ジュリは仕方がないので聞かれてもない事を自ら話すことにした。


ジュリ

「仕事のオファーがきたんですよ。それもやりたかったパンクファッション誌からの!」


黒木

「おお、凄い」


ジュリ

「…せっかく話したのに、もっと喜んでくださいよ」


黒木

「喜んでるよ。神田さんがやりたかった仕事だったよね?それは俺も嬉しいと思ってる」


ジュリ

「……」


ジュリは片手をグーにして彼に突き付ける。その拳をじっと見て黒木は頭を傾げた。


黒木

「…?」


ジュリ

「ほら、こういう時はグータッチじゃないですか。一緒に喜んでくれるのなら、黒木さんもやってください」


黒木

「…そういうものなの?」


ジュリ

「そういうものです」


彼女の言葉に黒木も片手をグーにして、ジュリの拳に合わせる。


ジュリ

「…ふふっ」


不思議そうにしている黒木が可笑しかったのか、将又まだ喜びが満ち溢れているのか、彼女は歯を見せて笑う。黒木はジュリの笑う姿に共感するように微笑みを返した。


 ジュリは拳を下ろし、機嫌良さげにスマホを触りだす。いつもと違ってずっと気を良くしている彼女に黒木から話し掛ける。


黒木

「本当に嬉しかったんだね」


ジュリ

「当たり前じゃないですか。ずっと自分らしさをアピールしてきてダメだったのに、漸く声を掛けてくれたんですよ?私のスタイルを受け入れてくれたって考えると嬉しいに決まってるでしょ。…そうだ、双葉先輩に連絡しないと」


黒木

「双葉さんに?」


ジュリ

「元はと言えばあの人が言ってくれた事なんです。私は私の個性で輝けるって……あの人の言葉を信じて貰えた仕事ですし、報告を見たらきっと喜んでくれますよね?」


黒木

「…そうだね。双葉さんなら喜んでくれるよ。あの人は誰にでも寄り添ってくれる優しい…」


バンッ!


黒木が喋る最中、突如休憩室の扉が勢いよく開く。二人は扉の方を振り向くと、同じく遅番で出勤してきた高田がハァハァと息を切らし汗をびっしょりと掻いていた。


ジュリ

「おはようございます高田さん。また出勤時間ギリギリにきて…寝坊ですよね」


高田

「ハァ…!ハァ…!!…ッ…!きょ、今日は違う!!」


黒木

「それじゃあどうしてそんなに汗をかいてるんだ?」


高田

「バッカお前…!ニュース見てないのかよ!!」


黒木

「ニュース…?」


高田

「…ッゥ〜!!…ほらっ!!」


高田は足取りをふらつかせ、自身のスマホを机の上に置く。


 二人は高田のスマホの画面を覗くと、ニュース番組が放送されていた。ニュースキャスターも慌てた様子でスタッフに緊急で渡された原稿を読み上げる。


ニュースキャスター

『繰り返します!先程、モデルの双葉さんが出演するスタコレの会場、TMA(トウキョウメガアリーナ)にて事故が発生!!続報が入るまで今暫くお待ちください!!』


黒木

「…えっ?」



続く


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