19.5話【其々の一場面】
1.【苦悩、再び】
PM12:44 Sunna 食堂
ジュリ
「んー…なんだったっけ」
春香
「ジュリちゃんお疲れー!…あれ?どうしたの?」
ジュリ
「あぁ、お疲れ様です。ネットでふと流れてきた広告のキャラクターグッズが結構良かったんで買おうかと思ったんですけど…直ぐに広告が消えてしまって何のキャラクターかも特定出来なかったんです」
春香
「あーあるある。気になるなーって思ってたら次の広告に移っちゃって検索したくても思い出せないよね。キャラクターの特徴を覚えてるなら言ってみて?私、色んなアニメや漫画見てるから当てれると思うよ!」
ジュリ
「そうですか?…それじゃあ見た目は何となく覚えているんで言いますね」
春香
「どんとこーい!」
ジュリ
「外見は虹色で」
春香
「うんうん」
ジュリ
「目玉が沢山ありました」
春香
「ほうほう。それで?」
ジュリ
「足が9本も生えてて…」
春香
「…ん?」
ジュリ
「歯が剥き出しなんですけど、所々虫歯?になってるみたいで…」
春香
「……」
ジュリ
「キャッチコピーも書いてましたね。確か『地獄から帰ってきたぜ、兄弟』…だったかと思います」
春香
「…へぇー」
ジュリ
「…どうです?分かりましたか?」
春香
「………」
ジュリ
「…春香先輩?」
春香
「イヤーワカラナイヤ」
ジュリ
「…?そうですか」
春香は嘘をついた。かの可愛い後輩に自分と同じ過ちを犯してほしくなったからだ。
脳内に過る『デス・クリーチャー・サカモト』がジュリを沼に引き摺り込もうとしている。それだけは阻止しなければならない。
誤解で集めたグッズへ10万も払った女の信念は強かったのだ。
ジュリ
「春香先輩でもわからないなら諦めるか…お金もないのに無駄遣いなんてダメだし」
春香
「そ、そうだね!諦めよう!もし似たような物見つけたら教えるね!」
ジュリ
「はい。……んー、最高にロックだったんだけどな」
春香
「全然ロックじゃないよ!!!」
ジュリ
「…やっぱり何か知ってませんか春香先輩?」
春香
「イヤホントウニナニモシラナイデス」
2.【一種の天才】
AM10:30 都内 街道
双葉
「…あっ!ほら見て黒木さん!」
双葉が指を指す方には射的の屋台が見える。
黒木
「射的…ですか」
双葉
「ここ辺りじゃ珍しいよね?どうせだしやってみようよ。ハマるかもしれないよ?」
黒木
「わかりました。やってみましょう」
双葉に誘われ早速二人は屋台へ向かう。
一人ずつ参加という事で、まずは双葉から。ライフルを渡されると得意げな表情で景品の的を慎重に狙う。黒木は双葉の隣に立ちじっと見ていた。
店員
「ほらほら彼氏さん、ぼーっと見てないで可愛い彼女ちゃんを応援してあげなよ!」
黒木
「いや、そういう関係じゃ…」
双葉
「よーし、見ててね黒木さん。一発で落としてみせるよ!」
黒木
「頑張ってください」
そう言って双葉は的に狙いを定め引き金を引いた。
勢いよく放たれたコルク弾は的に目掛け飛んでいき景品に当たると跳弾して跳ね返り、まだ勢いを残している弾はそのまま黒木の額にベシッと当たった。
黒木
「いたっ!?」
奇跡的な跳弾に店員は目が点になり口を開いている。黒木は何が起きたか分からず痛そうに額に手を当てていた。この様子に双葉はライフルを下ろし腹を抱えて笑ってしまう。
双葉
「あ、アハハハハ!!ご、ごめん黒木さん!そ、そんな事…ある!?アハハハハ!」
黒木
「だ、大丈夫です双葉さん。いや…なんていうか、普通に凄いですね…」
双葉
「アハハ!まさかこうなるなんて私も思ってなかったよ!あは、アハハ…!あー!おかしいな!」
黒木
「………景品は自分でしたか」
双葉
「ン"ン"ッ"!!」
こんな状況でも冷静にジョークを放つ彼にまたまた吹き出してしまうのであった。
3.【恐れ知らずな告白】
PM12:28 スーパーリコリス 休憩室
高田
「この間双葉ちゃんに彼氏がいるかって聞いたじゃん?」
ジュリ
「またその話ですか…そんなに気になるんですか?」
高田
「へへ、すいやせん。…まぁ、その話の続きなんだけど、告白された事はあるのかなって思っちゃって。双葉ちゃんみたいな超パーフェクト美人さんならモテモテだろうしさ」
ジュリ
「あぁ…あるみたいですよ。Sunna所属の【九条 一星】って知ってます?」
高田
「もちのろんよ。Sunnaの男性モデルの中で一番人気の超イケメン野郎だよね?」
ジュリ
「野郎って…まあ良いか。その九条先輩が双葉先輩に告白したんですよ」
高田
「マジ!?美男美女のカップルとしては最強じゃん!!どんな感じだったの!?」
ジュリ
「…一応Sunnaの中での出来事なんで、他の人には広めないでくださいね?あれは二人が同じスタジオで撮影している時………」
…………
撮影スタジオ
スタッフ
「一旦休憩挟みまーす!」
Sunnaモデルの特集としての撮影で呼ばれた二人は、休憩の掛け声と共に用意された椅子に座る。九条は前髪を弄り、双葉は彼を気にする事なくスマホでつぶグラを見ていた。
二人はこの日初めての共演となり、まともに話したことがない。しかし、どんな女性でも惚れさせた絶対的自信を持つ九条は、今日この日を待ち侘びて、必ず双葉を自分のものにすると決め込んできたのだ。
九条
「なぁ双葉」
双葉
「んー?どうしたの?」
彼に声を掛けられても双葉はつぶグラから目を離さない。彼は引かずに喋り続ける。
九条
「知ってるか?巷の噂じゃあどうも俺達は、秘密のカップルとして付き合っているらしい」
双葉
「へー、そうなんだ」
九条
「全く…俺達が美男美女だからって、勝手に持ち上げるなんて困ったもんだよ。君もそう思わないかい?」
双葉
「そだねー」
九条
「…でも、君がその気なら俺は別に構わないぜ?」
彼は立ち上がり双葉の横に来ると、彼女の耳元で甘く囁く。
九条
「…俺の女になれよ、双葉。たっぷりと可愛がってやるから」
彼の囁き声に、双葉は漸く九条の方へと振り返り笑顔で答える。
双葉
「え、無理(笑)」
九条
「…え?」
即答でフラれた九条は理解が追い付かず真っ白に染まり固まった。幾度と女性を攻略してきた彼のプライドが、一瞬にしてへし折られたのだ。
スタッフ
「撮影再開しまーす」
双葉
「あっ、はーい♫」
しかし、そんな彼の事など双葉にはどうでもよく立ち上がり、彼を置いて先に撮影場所へと戻っていった…
…………
高田
「ダハハハハハ!!!なんだそれ!!?ダッッッッサ!!!」
ジュリ
「でしょ?あの人、色々な人に手を出していたし良い気味ですよ。それからは大人しくなってるみたいですし…かなり効いたんじゃないですか?」
高田
「自分がカッコいいからって調子乗った末路ってことだな…因みにそれはどこ情報なの?」
ジュリ
「双葉さんの専属に就いてるメイクリストからです」
高田
「ほぉー…双葉さんの専属…きっと専属の人も超イメケンか超美人なんだろうなー…!」
ジュリ
「……ええ…まぁ……そうかもしれないですね」
高田
「ジュリちゃんの感想は?どんな感じか教えてくれよ!」
ジュリ
「…ファンタスティックな人です」
高田
「なるほど!ファンタ…え?何?ファンタスティック…???」
…………
Sunna事務所
聡
「あらやだ!今何処かでプリティボーイがアティシの話をしていた気がするわ明美ちゃん!!アティシの【ファンタスティック⭐︎ソナー】がビンビンと…!!」
細田
「気のせいです」
4.【思ってたのと違う】
AM9:20 TMAメイクルーム
RABi
「ねえねえ難波さん。難波さんって関西出身ですよね?やっぱりアレ、いつも見てるんですか?」
難波
「アレ?」
RABi
「ほら、元山興業のお笑い芸人が舞台の上で集まって漫才をする…そう!元山大喜劇!!」
難波
「あー!あれな!勿論欠かさず見てるで!関西人に生まれたからには、土曜の昼13時は元山大喜劇って決まってんねん!」
RABi
「へぇー…関西の人はそうなんだ。いつか見てみたいって思ってはいるんだけど…どんな感じなんですか?」
難波
「なんや?自分興味あるんか?」
RABi
「私、お笑い番組とか好きなんです!大阪ライブとかでそっちに行った事は何度かあっても、中々見る時間が無くて…」
難波
「ほーん、そーゆことかいな。それならRABiちゃんにとっておきのもん見せたるで!元山大喜劇で絶対に大爆笑させる芸があるんや!」
RABi
「本当ですか!?見てみたい!!」
難波
「よーし!やったろやないかい!えーっと…これでええか!」
難波は辺りを見回し、部屋の隅に纏めてある備品用具から演劇などに使う少し長めのスティックを取り出し、RABiに手渡す。
難波
「RABiちゃん!その棒でウチの胸を突いてくれ!」
RABi
「え?」
難波
「ええからええから!ほら早う突いて!」
RABi
「え、えーっと…こう?」
RABiは言われるがままスティックの先で難波の胸を軽く押すように突いた。
難波
「ドリルやらんのかーい!!!」
難波の魂のツッコミが部屋に響き渡った。RABiは勢いのあるツッコミに、何が起きたのか分からなかった。
RABi
(エェー……)
難波
「ドヤ!?RABiちゃん!?ごっつおもろいやろ!?」
理解が出来ず困惑する表情のRABiに、難波は決まったと言わんばかりにドヤ顔で目を輝かして聞いてくる。
RABi
「…スゴク、オモシロカッタデス」
難波
「せやろー!?ッカァー!RABiちゃんとは意気投合しそうやな!このネタ特別にPP⭐︎STARのメンバーにも教えてええからな!」
RABi
「あ、ありがとうございます…」
RABi
(関西人の笑いってレベルが高いんだなぁ…)
難波のネタを見たRABiは暫く、関西人に対する笑いへの偏見に悩まされたのであった。