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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
36/150

19話【天運の岐路】前編


 …とある番組にて行われた現代のモデル特集。司会と年老いた元モデルの老婆が対面に座り、暗い部屋の中スポットライトの灯りを頼りに進行していく。


老婆

「桜井双葉は間違いなく現代において【完璧の存在】と呼べるでしょう。勿論、私が現役だった頃にも完璧な存在として評価されたモデルは多くいました。…ですが、彼女のように現代人の心を独占する存在は見たことがありません」


司会

「やはり5年でトップモデルになれたのは、異次元の類なのでしょうか?」


老婆

「ええ。他のモデルにはない唯一無二の才能をあの子は持ち合わせています。その才能を活かして人々の光として輝く彼女は、私もとても美しく見えます」


老婆

「ですが…光というのは永遠に輝き続ける事は出来ません。いつかは消える日がくるのです」


老婆

「もしも、我々の前から桜井双葉が居なくなったとしたら…人々の心を照らす光は誰が担うのでしょうね。誰もなれなかった完璧の存在に、果たして代わりが務まるのでしょうか…?」



………


PM21:51 とある公園



 星空が広がる夜の公園。2月下旬とは言えまだまだ寒く冷える夜に黒木は細田に電話で呼び出されやってくる。先に公園に着いていた細田は到着した黒木に気付き、少し頭を下げて自ら彼に駆け寄った。


細田

「こんばんは黒木さん。夜遅くに呼び出してごめんなさい」


黒木

「こんばんは細田さん。ええと…ご用はなんですか?」


細田

「とりあえず立って話すのも疲れるでしょうし、あそこに座りましょう」


細田はベンチに指を差し、彼もまた頷くと二人はベンチの方へと移動する。


 澄み切った満天の星空が輝きに満ちている。細田は白い息を吐きつつ、ポケットからチケットを取り出して黒木に渡す。


黒木

「…これって」


黒木が受け取ったのはStarlight Collectionへの招待券だった。通常じゃ入手出来ないとても貴重なものである。


細田

「安心してください、Sunnaの社長の許可も得ています。双葉の国内最後のランウェイを是非とも貴方には見届けてほしくてお渡しさせて頂きます」


黒木

「そんな…こんな貴重なもの頂いてもいいんですか?」


細田

「ええ。恐らく抽選には当たっていないだろうと予想していました。今回の抽選倍率は過去最高記録で、当たる方が奇跡だと呼ばれていましたから」


黒木

「あっ…そうなんです。俺も友人も当たりませんでした」


彼は抽選が外れた事を当てられて思わず苦く笑う。


細田

「ご友人様の分も用意したいのですが、渡せる枚数が限られているので…すみません」


黒木

(高田には悪いけど、貰った事は黙っておこう…)


黒木

「いえ…ありがとうございます。最後に双葉さんのショーを見れるのは本当に嬉しいです」


細田

「私も双葉も、後…聡さんも…?貴方には必ず来て欲しいと思っていましたから。感謝をしたいのは私達の方です」


黒木

「え?」


細田は輝く夜空を見上げ嬉しそうに話す。


細田

「双葉は黒木さんと出会ってから変わりました。毎日仕事に追われて疲れて…休みの日も退屈そうにして…でも、黒木さんと趣味探しをしていく内に、少しずつ心を開いていって、あの子は毎日を楽しそうにしています。最近は移動中の車内でずっと黒木さんの事を嬉しそうに話しているんですよ?」


黒木

「そうなんですか?…な、何だか照れますね」


黒木は照れて頭を掻く。星空を見つめていた細田は、黒木の方へと向いて頭を下げる。


細田

「貴方が双葉の背中を押してくれたおかげで、彼女は海外という、より上のステージへの階段を上がっていく事が出来ました。本当にありがとうございます」


黒木

「そんな…助けられたのは俺の方ですよ細田さん」


細田は顔をゆっくりと上げて黒木を見る。黒木は視線を下に向けて、双葉との出会いを振り返りながら語る。


黒木

「以前にも話したと思いますが…双葉さんと出会う前の俺は、何にも興味が持てない無関心な人間でした。でも、双葉さんと交流していく内に少しは他の事への関心を持てるようになれて成長出来たと思います」


黒木

「…でも、双葉さんが海外に行く事について応援したい気持ちと、今後交流が出来なくなる残念な気持ちが混ざり合っていて…どうすれば良いんだって考えるようになってしまいました」


黒木

「こういうのも、何かに興味を持つ事で知る感情なんだろうなって分かってはいるんですけどね」


彼はそう言って俯き溜息を吐く。ファミレスで出会ったあの時はずっと無表情だった彼の表情への変化に、細田は励ますように声を掛ける。


細田

「黒木さん。双葉は貴方と一緒に居た時間は、決して無駄ではなかったと仰っていました。あの子自身貴方との出会いに感謝しています」


黒木

「本当ですか?」


細田

「次は5年後になりますが…日本に帰ってきた後も彼女と居てあげてください。きっと、双葉も黒木さんともっと居たいと思ってますから」


黒木

「…わかりました。俺も待っています」


彼女の報告に嬉しそうに反応する黒木に、いつも固い表情の細田も安心するように微笑みを見せて立ち上がった。


細田

「要件は以上です。これ以上遅くなると、黒木さんにも迷惑掛けてしまいますのでもう行きますね」


黒木も立ち上がり手を差し出して細田に握手を求める。


黒木

「細田さん、チケットありがとうございました。当日必ず見に行きます」


差し出された手を細田も迷う事なく握り返し頷いた。この二人の関係も、初対面の頃とは大きく異なり、心より信頼出来る関係が築けていた。


細田

「明日はいよいよStarlight Collectionのリハーサルです。当日、最高の状態の双葉をお見せ出来るように努めて参ります」


黒木

「はい、応援してます。また何かあったら連絡をください」


二人は厚く握手を交わした後、公園を離れ黒木は嬉しそうにチケットを見つめながら帰っていくのであった。


…………



2月27日 AM8:32 東京・メガ・アリーナ前



【東京・メガ・アリーナ】(通称:TMA)


 来場者5万人まで収容出来る超大型施設。TMAではライブやコンサートが行われたり、普段からもイベントや展示会など様々な形で使用されている。


 しかしスタコレの開催される年を迎えると、開催時期の三ヶ月前よりアリーナの使用が出来なくなり、電飾管理や内装を準備していき、関係者以外立ち入りが出来なくなってしまう。


 何故三ヶ月の期間をスタコレの為に貸し切るのか。それはスタコレという国内最大ファッションイベントが開催される度に、三ヶ月の貸切など問題がなく黒字の収益が確定されるからだ。


 将来が期待される女性達を後押しする各事務所による結束、モデルが一際輝く為に集まる各ファッションブランドが就くスポンサー、そして各メディアによる事前告知の全国大規模宣伝。


 これだけの結集の力もあり、毎年満席を迎え大成功を収めてるスタコレに、アリーナ側も全面協力しているのである。


 そんな夢の舞台となるアリーナの前に、ワクワクを抑えきれずこの日を楽しみにやってきた男がいた。そう、小嶋である。彼の右手にはしっかりと【Starlight Collectionリハーサル特別招待券】のチケットを握りしめ、巨大な建物を前に目を輝かし見上げている。


小嶋

「す、すっげぇ〜…!」


 数ヶ月後にはここで数々のモデルが光り輝きランウェイを歩く。そんな煌めく花舞台へいざ入ろうとしたその時


「やばい!やばい!!やばいー!!」


小嶋の後ろから女性の焦り声が聞こえてきて彼は振り返る。


 その先には慌てて会場に向かって走ってくる【RABi】の姿が見えた。早速の大物を目にした小嶋は驚いた表情で口をあんぐりと開く。


小嶋

(ウォオオオマジかよ!!?あれは超人気アイドルグループ【PP⭐︎STAR】のリーダー、ラビちゃんじゃないか!!)


小嶋は走りくる彼女を止めるように前に立ち、非常に綺麗なフォームで胸ポケットから名刺を取り出し、腰を低くして差し出す。


 突然名刺を差し出して立ち塞がる謎の男に、RABiは思わず立ち止まり困惑していた。


RABi

「え!?え!?な、なんですかいきなり!?」


小嶋

「初めましてラビさん。(ワタクシ)、MARUKADOで記者をしている小嶋と申します。いつもPP⭐︎STARのCDを買わせていただいております。お忙しい中大変恐縮ではありますが、是非とも取材を…」


RABi

「ごめんなさーい!急いでるんでー!」


彼なりのイケボも今の彼女には全く通用しないようで、小嶋を避けてアリーナへと走っていく。


 が、彼もフッと笑い名刺を胸ポケットに戻すとRABiを追いかけるように走り出した。それに気付いた彼女は走りながらも、振り返りギョッとした。


RABi

「いやなんで追いかけてくるんですか!?」


小嶋

「取材OKを言っていただけるまで諦めません!!後、サインください!!それと耳元で【愛してる】と囁いていただけると助かります!!」


RABi

「なんなのこの人ー!?」


必死に逃げるRABiに小嶋は付いていき会場内へと入っていくのであった。


…………


 館内に入ると見回す限り豪華な装飾で飾られ、メインホールも既にランウェイのステージが仕上がっていた。どの席からもモデルがよく見えるように用意された巨大スクリーン、ステージはネオンの照明で照らされ【光の道】を連想させる。


 特にこの派手なステージのメインと呼べるのは、モデル達のステージを照らす天井から吊るされた無数の巨大で細長いスリムライト。


 吊るしている線はピアノ線を採用していて、まるでライトが浮いているかのように見える。細長いライトの光は青く輝き無数の数に、スタコレの【星】をテーマにした【流星群】のイメージを連想させる。


 この豪華な飾りにRABiは目を輝かし見回しながらすっかりと見惚れていた。


RABi

「凄い…!これがモデルの夢の舞台スタコレ…!私もここを歩けるんだ!」


小嶋

「凄いですよねスタコレ。僕もこの夢の舞台で取材が出来てマジで嬉しいです」


RABi

「うわ!?まだいたんですか!?」


そんな彼女の隣にしつこくついてきていた小嶋が、ちゃっかり立っていた。


RABi

「えーっと…小嶋さん…でしたっけ?めっちゃついてくるじゃないですか…」


小嶋

「取材OKの言葉、まだ頂いてませんからね。後、推しのサインを貰うまで諦めませんよ!」


RABi

「え?私の事、推してくれてるんですか?」


小嶋

「当たり前じゃないですか!ラビさん、改めてスタコレ3位おめでとうございます!」


そう言って彼は取材を忘れ彼女を祝福するように、全力で拍手をする。彼の誠心誠意伝わる祝福の対応に、RABiは思わず照れて嬉しそうに笑う。


RABi

「え、えへへ。ありがとうございます」


小嶋

「…アレ、見せてくれませんか?」


RABi

「アレ?…あー!勿論ですよ!」


【アレ】の言葉にRABiは潔く頷き、両手の指でハートを作り可愛くウインクをすると決め台詞を言う。


RABi

「君を幸せにするのは?」


小嶋

「ウォオオオオオオ!!ラ・ビィー!!」


彼女の可愛さ全開のサービスに小嶋は叫び興奮する。あからさまに目立つ彼に周りのスタッフも手を止め、変な目で彼を見ていた。


 しかしそんな事は小嶋にはどうでもよく、心より感謝の意を込めてRABiの手を握る。


小嶋

「ありがとうございますラビさん!!ファンサの神は噂通りでしたね!!」


RABi

「い、いやー?そ、そんな事ないですよ?」


彼の勢いは凄まじく、RABiも引きつった笑みで背を後ろに反らしていた。すると、彼女への助け舟と言わんばかりにRABiのマネージャーが走り駆け寄ってくる。


マネージャー

「ちょっと!貴方何なんですか!?」


小嶋

「っと!いけない!僕もそろそろ真面目に取材しないと先輩にしばかれる!ラビさん!これからも応援してまーす!後で取材しますから待っててください!」


マネージャーから逃げるように、小嶋は彼女の手を離しその場から立ち去った。嵐のように現れ嵐のように過ぎ去った彼に、何が何だかRABiには理解が追いつかなかった。


マネージャー

「全く…なんなんだアレは?」


RABi

「ま、MARUKADOの記者みたいですよ?」


マネージャー

「MARUKADOの?…って、今はそんなのどうでもいい!遅刻ですよRABi!早く準備しましょう!」


RABi

「ご、ごめんなさーい!」


マネージャーに叱られ反省するRABiは、早足で彼と一緒にバックステージへと向かう。


 バックステージも装飾や機材を担当するスタッフが行き交い、とても忙しそうにしていた。既に到着しているモデル達も既に衣装のチェックも終えて、この後に行われるリハーサルに向けて待機をしている。


 モデルはスタコレに選ばれた人選なだけに、最近話題になっている有名人ばかりだ。彼女達は横を通り過ぎるRABiを横目に、まるで睨め付けるように見てくるので、彼女も身を小さくして衣装室へ急いで向かう。聞こえないフリをしていたが、明らかに自分の事への悪口を言うモデルもいた。


RABi

(スタコレってこんなギスギスしてるの…?!遅刻してる私が悪いけどさー…!)


彼女は悪口に耐えながらも衣装室へ到着すると、マネージャーと一緒に中へと入って、マネージャーは扉前で時間を気にしつつ待機する。


マネージャー

「リハーサルまでは時間がありますが、今回初参加なら、もっと早く着いて先輩方に挨拶に回るものですよRABi!これじゃあ上位に選ばれて、天狗になってると思われても仕方がありません!メイクは最低限だけで済ませるので、先に着替えてください!」


RABi

「うぅ…反省してます…」


「邪魔すんでー!!」


マネージャー

「ぶっ!!」


RABi

「うわっ!?」


リハーサル用の衣装に着替えようとした矢先、突然勢いよく更衣室の扉が開き、扉の横に立っていたマネージャーは開いた扉にぶつかってしまう。


 威勢よく元気な声で入ってきたのは【関西のパーフェクトモデル】こと【難波 ヒカル】だった。関西弁の癖の強いノリにRABiは固まっている。


難波

「いやー!東京は初めてやから来るのに迷ったわ!あっ、お隣失礼!」


ワッハッハと大きな独り言を話しながらRABiの隣に立ち肩に背負っていた荷物を下ろす。旅行に来たのだろうかと思うぐらい大きなバッグだ。RABiのマネージャーはぶつけた頭を手で押さえながら部屋を出ていく。


 残されたRABiは隣に立つニカニカと人前など気にせず服を脱いで支度する関西弁の女性にポカンと立っていた。じっと見ているRABiに難波も気付いて、彼女の肩に手を叩く。


難波

「ちょっとちょっとなんやぁ〜?難波ちゃんのパーフェクトボディに鼻伸ばしてるんかいな?あかんでぇ〜?どうしても見たいんならお金ちょーだいや!」


そう、関西人特有の【ツッコミ】である。ツッコミを入れられたRABiも漸くハッと我に返った。関西で今大人気のモデルという事を知っていた彼女は敬意を表して、深々と頭を下げる。


RABi

「初めまして難波さん!お会いできて嬉しいです!私はPP⭐︎STARの…!」


難波

「あーそういうのええよ。堅っ苦しいの好きちゃうねん。RABiちゃんやろ?今日はよろしゅうな!」


気さくな彼女にゆっくりと頭を上げて、自分を知っていてくれた事にRABiも嬉しそうに笑う。


RABi

「私のこと知ってくれていて嬉しいです!」


難波

「おっ、ええ笑顔やん。ここに来るまで他のモデルにも会ったけど、みーんなゴッツ怖い顔してたからなぁ。大阪と大違いやでほんま」


RABi

「あはは…それなんですけど、多分私達がリハーサルギリギリに来てるからだと思いますよ」


難波

「なんやそれ!こっちは遅刻もしてへんのに何でそんな目で見られなあかんねん!」


RABi

「難波さんも私も今回のスタコレでTOP5に入ったじゃないですか。きっと天狗になってるなんて思われてるんだと思います…あはは…」


難波

「ほーん。そういうことかいな」


RABi

「?」


難波は着替え終えると、自信に満ちた表情で腰に手を当て仁王立ちをする。


難波

「そんなん堂々としとけばええねん。他のモデルの奴らが悪口を言おうが、ウチらに敵わなかった【弱者】や。あいつらよりも人気なのに、どーしてこっちがペコペコせなあかんねん?RABiちゃんも、もっと堂々としーや!」


そう言ってワハハと笑いながら難波はRABiの方に手を乗せる。その絶対的な自信を持つ彼女の姿にRABi

は思わず見惚れてしまった。


RABi

(凄い…これが【関西のパーフェクトモデル】…この怯むことのない自信はあの人とそっくりだ)


RABiは自分の頬をパンっと叩いて気合を入れ、難波に手を差し出す。


 難波は彼女の表情を見て気付く。先程まで周りの目を気にしていた娘が、今はTOP5に選ばれた実力者の風格を出している事を。


 他の悪口だけ言って妬み見てくるモデルとは違う輝く姿に、難波は嬉しそうに手を強く握り返した。


RABi

「難波さん、ありがとうございます。素敵なショーになるよう共に頑張りましょう!」


難波

「何や自分、ええ顔出来るやん。本番の時もその調子で頼むでRABiちゃん!」


RABi

「はい!…後、難波さんと仲良くなれそうなのでお願いが…」


難波

「何や言ってみぃ!あっ!金は貸さへんで?金はトラブルの元やからなぁワッハッハ!」


RABi

「その…今から一緒に行動しませんか?部屋から出てから他の人の視線はやっぱり怖いんで…」


難波

「オォーイ!?言った側からビビっとるんかい!」


出会ってたった複数のやり取りをしただけの関係だが、二人は既に息が合い良好な関係を結ぶのだった。


…………


AM 9:16 TMA バックステージ


 現場スタッフは朝礼も終えて次々と其々の仕事に移りステージや廊下を歩き回っている。各モデルもスタッフの誘導により、当日歩くステージの把握や練習をどんどんと始め出していた。


 そんな中、一人のモデルが廊下のど真ん中を堂々と歩く。その姿を見たスタッフやモデルはギョッとした表情を見せ、歩く道を譲るように避けていく。


 腕を組み、太々しく機嫌悪そうに歩くモデルは【華城 結衣】であった。彼女の後ろには【姫川 蒼】が困った表情で付いて歩く。


 既に支度を済ませてる二人はバックステージから表のステージを見回す。華やかな舞台に目を輝かし見惚れる姫川と違い、華城は大きく溜息を吐いた。


華城

「何よこの安っぽい舞台は。前回アタシが歩いた時はもっと豪華な装飾だったわよ?年々ケチになってるんじゃない?」


周りに聞こえるようにわざと大きく文句を言う。周りのスタッフも彼女の傲慢な態度に苦笑いするしか出来なかった。


 機嫌を悪くすると厄介な事になるのを知っているから何も言えないのだ。そんな彼等の気持ちを代弁するかのように、姫川は恐る恐ると後ろから声を掛ける。


姫川

「そ、そんな事ないと思いますよ華城さん…?ほ、ほら、例えば天井に吊るしてある照明ライトとか綺麗に見えませんか?一本一本凄く大きいのを使ってるみたいですし…本当に流星群のように見えますよね?」


華城

「ふんっ、あれが目立つなら観客は照明を見るのに、馬鹿面で顔を上げてモデルを見なくなるじゃない。もっと手を入れる所があるでしょ?モデルをより綺麗に見せる為に床の照明をもっと強くするとか…」


姫川

「あ、あはは…そうですね…」


姫川

(相変わらず機嫌悪いなこの人…)


ネチネチと文句を言い続ける華城を適当に聞き流していく。すると、一人のスタッフが二人の元へ駆け込んできた。


スタッフ

「華城さん。貴方のご友人を名乗る人が、エントランスまで来てるのですが…ここは関係者以外立ち入り禁止でして…」


華城

「はぁ?アンタ、アタシの友人は関係者じゃないって言いたいの?」


スタッフ

「い、いえ…そう言うわけじゃ…」


華城

「ふん、エントランスにいるのね。姫川、アンタはアタシが戻ってくるまで適当にぶらついときなさい」


姫川

「は、はい…」


姫川は頭を下げ、ツカツカと履いているヒールの音を大きく鳴らしバックステージから立ち去る華城を見送る。


 姫川は彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、直ぐ様周りにいたスタッフやモデル達に何度も何度も頭を下げた。


姫川

「皆さんごめんなさい!華城さん、今日は機嫌が悪いだけでいつもはあんな感じじゃなくて…本当にごめんなさい!」


彼女の誠意ある謝罪に周りのスタッフも気遣う。


スタッフ

「ハハハ、気にしないでくださいよ姫川さん。華城さんが怖い人なのはこの業界じゃ有名ですから」


スタッフB

「それに比べて姫川さんは本当に良い子で嬉しいわー。貴方の方が圧倒的に人気なんだし、当日華城さんをあっと驚かせてやりましょ!」


姫川

「…は、はい」


スタッフC

「あっ、そうそう。さっき双葉さんが会場に到着したみたいだよ?もういつもの専用メイクルームに向かってるんじゃないかな?」


姫川

「え!?双葉さんが!?」


双葉の話題となるとさっきまでオドオドしていた姫川の目が輝く。


 彼女にとって双葉は憧れの存在であり尊敬すべき完璧の存在。双葉の話題となると一人のファンのように喜ぶのは、華城を除いて知られていたのだ。


 その純粋に嬉しそうな反応を見て、スタッフ達も先程までの華城によるストレスも忘れるかのように吹き飛び癒される。


スタッフ

「専用更衣室に入っちゃったら暫く出て来れないと思うけど、今ならまだ廊下で出会えると思うし、行ってきたら?」


姫川

「はい!そうします!ご親切に教えていただきありがとうございました!」


最後まで丁寧にスタッフ達に頭を下げ感謝の意を示すと、双葉を探しに姫川は走り出す。


スタッフ

「本当に華城と違って蒼ちゃんは良い子だよな。あの子が居なかったら今頃【グッド・スター】も業界から干されてたんだろうな」


スタッフB

「俺は双葉ちゃんの跡を継ぐのは蒼ちゃんだと思ってるよ。【ネクストモデル】の時代が来るんじゃないかな」


彼女の事を陰ながら応援するスタッフ達に背中を見送られ、姫川もこの場から離れるのであった。


 本来ランウェイを歩くモデルは、そのブランドの衣装を次々と紹介する為に、ショー開催中に何度も着替える必要がある。その為限られた時間の中で着替えるので、バックステージに戻り次第更衣室に行かずに、その場で直ぐに着替える事が多いのだ。


 しかし双葉はSunnaの契約事情により、専用のメイクルームを用意しており、聡と協力しながら誰にも見られる事なく着替えるという特殊なケースであった。


 双葉はランウェイを中心にした【ショーモデル】ではなく宣伝力を活かした【コマーシャルモデル】として活躍しているので、ランウェイに出る機会が少なくこの特別な待遇に開催側への影響は大してなく問題はなかったのだが、他のモデルが許すわけがなく批判する者もいる。


 何故彼女だけが部屋を用意されるのかは外部にも知らされず、他のモデルは【パーフェクトモデル】として自身をVIPのように扱うようにしているのだと思っており、双葉が他のモデルから嫌われる要因の一つと言えるだろう。


 そして一番の謎は、その部屋の出入りが出来るのは双葉の専属の担当者のみで、他の人間は立ち入りを一切禁止していることだ。


 入ろうとしても内側から鍵は閉められている。会場の人間曰く、聡が双葉のメイクアップへの集中を妨げるのを極力抑える為だが、それは鍵を閉める程なのだろうかと疑問視している人もいた。


 姫川が走り急いで彼女を探すのは、双葉が専用メイクルームに入ってしまうと、自分の番が近付く寸前まで部屋から出て来なくなるので、場合によっては自分のスケジュールと噛み合わず、挨拶が出来なくなるからだ。姫川はそれは避けたかった。



 【姫川 蒼】は大手モデル事務所【グッド・スター】に所属する19歳の若手モデルだ。美しい髪と白い肌、そして高身長とモデルとしての素質を持ち合わせていた。しかし、彼女は自分に自信を持つことができず内面的でその魅力を上手く活かす事が出来ずに苦労をしていた。


 そんな中、【パーフェクトモデル】に出逢い、唯一無二の美貌に自信溢れる姿で人々を魅了する彼女へ姫川は勇気を貰った。もっと美しいのを自覚していいのだと教えられたのだ。


 意思を宿した姫川はみるみると成長していき、当時グッド・スターの看板であった華城の人気も超え、人々からは【パーフェクトモデル】の次に注目される存在に敬意を表して【ネクストモデル】と呼ばれるようになった。


 今の自分を人々が見てくれるようになったのは双葉のおかげなのを自覚していて、今だに直接出逢えなかった彼女に直接御礼を言いたい。スタコレよりも双葉に出会う事が、彼女にとって今日の目的なのである。


 必死に廊下を駆け巡り双葉を探し回るが見つからない。息を切らしながら汗を拭き、早足で引き続き探し続ける。


姫川

(もしかしすると…)


嫌な予感を感じながら姫川はある場所へと向かう。双葉の専用メイクルームだ。


 予感は的中する。双葉のメイクルームの前に到着すると、既に鍵が掛けられて閉まっていた。間に合わなかったようだ。


姫川

「そんな…」


せっかくの憧れの人と会話が出来るかもしれないというチャンスも逃してしまい彼女は肩を落とした。姫川は午後からは別の仕事があり、午前のリハーサルを終えるとTMAから離れてしまう。こうなってしまっては双葉と会話する事ができずに終わってしまうだろう。


 姫川は諦めてリハーサルの準備に戻ろうと背を向けて歩き出したその時



ガチャッ



姫川

「…え?」


彼女の後ろから鍵の開く音が聞こえ思わず振り向いた。


 彼女の視線の先には、メイクルームからスマホを耳に当て電話をしながら出てくる聡の姿があった。仕事モードの彼は真剣な表情で姫川に気付くことなく、人目のない場所へ移るように廊下を歩き立ち去る。


姫川

(あれは確か双葉さんの専属に就いてるファンタスティックさん…?テレビで見た時は明るい人に見えたのに今の表情…怖かったな。トラブルがあったのかな?)


彼の背を見えなくなるまで見続けていた彼女の視線は再びメイクルームの方へと向ける。



 鍵は開いたままだ。誰も入った事がないこの部屋が、今は入れるようになっている。



姫川

「……」


彼女は周囲に人がいないか何度も見回す。ここは元々人通りが少ない場所だった為、今は姫川一人しかいない。


 誰もいない事を改めて確認すると、姫川は唾を飲み込み恐る恐る扉の前まで歩み寄る。扉の鍵は一向に閉まる気配がなく、今ここでドアノブを握り撚れば中に入る事ができる。


 しかし、いつも閉まっているこの先の光景を見てもいいのだろうか。関係者以外が部屋に入ってきたとしたら、彼女は驚き不快な思いをするのではないか?姫川の中にある良心がドアノブに差し出そうとしている手を止めようと抵抗している。


 だが、それと同時に誰も知らない彼女の部屋を見てみたいという好奇心が勝り、緊張で震えた手がドアノブに手を掛ける。


姫川

(…もしも怒られたら、間違えて入ってしまったと言おう)


自分へ言い訳をしっかりと言い聞かせ、ゆっくりとドアノブを捻り静かに、少しずつ、扉を開いて中を覗き込む。


双葉

「……ありがとう黒木さん。私も黒木さんと……」


部屋の中から双葉の声が聞こえてくると、姫川は驚いて一旦扉を閉めた。誰かと話しているがまだ此方には気付いていない。


 彼女の声を聞いただけなのに、バクバクと心臓が高まっているのがわかる。言い訳を言い聞かせていたのにも関わらず、今の自分が悪い事をしているとハッキリと自覚して落ち着けるわけがなかったのだ。


姫川

「…スゥー…ハァー…」


それでも彼女の事が気になる姫川は、一度胸に手を当て深呼吸して落ち着かせると再びドアノブに手をかけ静かにゆっくりと開き覗き込んだ。


 開く扉の隙間が広がるにつれ、部屋の中がどんどんと見えてくる。開き切る直前、嬉しそうな表情でスマホを耳に当て電話をする双葉の横の姿が見えた。彼女は衣装を着替えている最中だったのだろうか、後ろ髪は邪魔にならないよう結んで、上着は脱ぎ下着姿のままで電話を続けている。


 横からの姿であろうと、その洗礼された細身のボディラインに雪のように白い肌は美しく、完璧な体を手にしている彼女の美貌に姫川は目を光らせて見惚れていた。


 このまま挨拶しに入っても今の彼女ならいつも通りに明るく笑顔で接してくれるのではないか?そう思い、いざ部屋に入ろうとしたその時、




双葉は立ち位置を変えて、姫川に背中を見せる。



姫川

「…!!」



姫川の目に映ったのは、痛々しく酷く荒れた火傷の痕が広がる、誰も見たことがない醜い彼女の後ろ姿だった。



続く



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