18話【新生の星々】
………
田中
『皆さんこんにちは!Sunna広報担当の田中照美です!今日は何と!我らが【パーフェクトモデル】こと、双葉ちゃんから重大発表があります!双葉ちゃん!お願いします!』
双葉
『こんにちはー!双葉だよ!何と私、桜井双葉は6月からみんなが知ってるあの【マリー・ルブラン】と独占契約をすることになりましたー!はい拍手ー!』
田中
『わー!パチパチー!!』
双葉
『あはは、ありがとう!…と、そういうわけで6月には日本を離れて、今後は海外で活動する事になるんだ』
双葉
『ここまで私が大きくなれたのも、ファンのみんながいつも応援してくれてたからだからと思っています。今まで本当に応援してくれてありがとう。海外でも【パーフェクトモデル】の凄さを見せてくるから、これからも応援よろしくね!』
双葉
『そして!私が国内で最後に歩くランウェイショー【Starlight Collection】の予約がいよいよ明日から始まります!今回はみんなのおかげで一位になれたから、スッゴイ派手な演出の中で歩くんだ!沢山の投票ありがとう!』
双葉
『最後までカッコよく、可愛く、そして明るい私をみんなに見せたいから絶対に来てね!会場で待ってるよー!』
田中
『双葉ちゃんが海外に行くのは寂しいけど、あのMLと契約というのはSunnaモデルでも初で……
…………
日本のトップモデルが世界レベルの企業との独占契約が決定した話題は、直ぐに全国へ広がり誰もが口にする。
とある高校の教室では
「双葉ちゃんMLと契約とかヤバすぎでしょ!?マジ!?」
「【パーフェクトモデル】スゲェー!!もうこれ生きる伝説じゃん!?」
別のモデル事務所では
「海外に行くとなれば、遂に双葉一強の時代も終わる訳か」
「いよいよウチらの時代来たんじゃね!?」
「契約金日本円で50億だって!?MLも思い切ったな…」
「相当双葉に期待してるんだろうな。こうなってくると海外でも大活躍しそうだ…」
人々は双葉への話題に尽きる事なく、誰もが海外への進出と最後のランウェイへ大きく期待していた。
………
AM9:30 ヨネダ珈琲
温かい暖房が効いた店内にて、斎藤と小嶋はトーストを朝食として食べていた。既に食べ終えていた斎藤はタブレット向けのニュースを見ながら、タバコ代わりに爪楊枝を咥えている。
彼が見るニュースの内容は芸能ネタで、やはり何処もかしこも【双葉の海外契約】と【パーフェクトモデルの次を継ぐモデル】の話題ばかりを取り上げている。それ程、世間はこれからのモデル業界を注目しているのだろう。
店員
「お待たせしました。【クロ・ブランシュ】です」
横から店員がヨネダ名物のクロ・ブランシュをテーブルに置く。6等分に切り分けられたデニッシュパンの上にソフトクリームが乗せられ、蜂蜜をたっぷりとかけた甘いデザート。注文した覚えのない名物に斎藤は店員の方へ顔が向く。
斎藤
「すみません。頼んだ覚えは…」
小嶋
「あっ、それ注文したの僕です。先輩がトイレ行ってる間に頼んでました」
嬉しそうにクロ・ブランシュを手に取り近くに寄せる。店員が頭を下げ立ち去った後、彼の相変わらずの自由っぷりに斎藤は呆れて頭を掻く。
斎藤
「お前…朝っぱらからよくそんなに食えるよな。しかもそんな甘ったるいもんなんかも注文して…」
小嶋
「ふっふっふっ。知らないんですか?先輩。これは僕なりの双葉さんへの応援方法なんですよ?」
斎藤
「…はぁ?」
理解していない斎藤に小嶋は自信満々なドヤ顔で語り出す。
小嶋
「クロ・ブランシュの【ブランシュ】の部分はフランス語の【Blanche】から来てるんですよ?それってつまり、クロ・ブランシュを注文する事はフランスへ行く双葉さんへの応援する気持ちで食べる事ができるんです!」
そう言って彼はフォークで一切れ刺して口に入れる。
小嶋
「んー!美味しい!」
斎藤
「…お前、アホだろ」
小嶋
「えっ」
自信満々に放った彼の言葉に、斎藤は冷たい目で返す。
斎藤
「ブランシュがフランス語なのは良いとして…使われてるデニッシュパンの発祥はデンマークだ。それに、ブランシュの前に使われている【クロ】はそのまま日本語の【黒】。更に細かく言うと、パン上に乗っているソフトクリームも発祥はアメリカだと思われがちだが…実は中国からになる」
斎藤
「つまり、このたった一つだけの商品でも、様々な国の情報が関わっているのに、お前はそのほんの一部分がフランスだから双葉と繋がりがあると言ってるだけのアホだ。記者として勉強不足にも程がある」
解説を終えた斎藤もフォークを取り出して、彼に許可なく勝手に一切れ口に入れる。
斎藤
「うん…悪くないが、やっぱり朝からこんな重いもん食えねえわ」
機嫌を悪くした小嶋はこれ以上斎藤に食べられないようにクロ・ブランシュの皿を自分の近くに引き寄せる。
小嶋
「甘いもの食べてる最中に、そんな蘊蓄長々喋られても困りますー。そんなんだから娘さんも相手してくれないんですよ」
斎藤
「うるせぇな、お前が言い出したんだろ。…それで?熱烈な双葉ファンのお前からすれば、今回の海外活動はどう思ってるんだ?」
小嶋
「そりゃあ嬉しいに決まってるじゃないですか!【パーフェクトモデル】も遂に海外で活躍する訳ですよ?これを祝福しないファンはいないでしょ!」
双葉の話題となると普段通りに興奮気味で話す。が、いつもとは違いその熱意は直ぐに落ち着いた。
小嶋
「…後はまぁ…双葉さんのお父さんの件もあったし、海外にいる方が双葉さんも良いと思いますね」
斎藤
「どうして?」
小嶋
「もしかしたらお父さんは、また双葉さんに接触してくるかもしれないんですよ?それなら海外にいる方が姿を消せるわけじゃないですか。追うのも難しいと思います」
前回のアリケンにバラされた真実を意識しているみたいだ。斎藤は能天気な彼を見てきただけにその表情に驚きつつも成長を感じた。
斎藤
「なんだ。ちゃんと記者の意見として言えてるじゃないか」
小嶋
「ハァー…また嫌味ですか?」
斎藤
「さぁ、どうだろうな。…それじゃあここからは記者としての話をしよう。双葉が日本からいなくなった今後についてだ」
小嶋
「そうですよね。日本一のモデルが居なくなる今、次は誰が注目されるか…って事ですね?」
斎藤はタブレットを小嶋と画面を見るのに、共有するようにテーブルの中央へと置いた。
斎藤
「その通りだ。…少し勉強会でもしようか。双葉の次に注目されているモデル達についてだ」
………
都内の撮影スタジオ
カメラマン
「今のが最後の一枚です!お疲れ様でした!」
カメラマンの掛け声と共に派手柄のドレスを着た二人組のモデルのツーショットが終わる。
スタッフ
「お疲れ様ですー」
スタッフが二人分のペットボトルを用意して駆け寄るが、一人の女性モデルは無視をして早足で先に帰っていく。愛想悪い相方と違い、もう一人の若い女性モデルはスタッフに謝るように頭を下げながら、二人分のペットボトルを受け取って後を追い掛ける。
目つきが悪く、周りへ威圧感を出すこのモデルは【華城 結衣】それとは逆にオドオドとして彼女についていくモデルは【姫川 蒼】二人は今回のスタコレでは華城が【35位】、姫川が【2位】として参加が決まっていた。
華城は15歳の頃からモデルを始めて、今年で10周年を迎えるベテランモデルだ。3年前の前回では【1位】を飾り、今回双葉と同様二度目の参加になる。
双葉が現れるまでは彼女の人気は絶大な支持を得ていたが【パーフェクトモデル】の前には敵わず、人気を掻っ攫っていった双葉を酷く敵対視していた。
姫川はスタイルが良く双葉と同じように、どんな衣装も着熟す特技を持つ事で、今の若者に人気急上昇中のモデル歴2年目新人の19歳だ。ただ、人との交流が苦手で大人しい性格から、先輩である華城にこき使われていた。
華城は苛立ちを抑えず控室で着替え終えると、廊下ですれ違うスタッフ達の挨拶も全部無視してスタジオを後にする。姫川は早足で歩く彼女に必死についていき隣に並ぶ。
姫川
「か、華城さん。流石にあの態度はマズイと思いますよ…」
彼女の忠告に華城は立ち止まり強く睨む。強烈な圧に姫川も後退り青ざめている。
華城
「ハァ?この業界の事を何も知らないペーペーなアンタに説教されたくないんですけど?…それともアンタ、スタコレで自分がアタシより人気だからって偉そうにしてるわけ?」
姫川
「そ、そういう訳じゃ…」
オドオドと怯える姫川に華城は舌打ちを鳴らし再び歩き出す。
華城
「フンっ…なんでアタシが【35位】なのよ?どいつもこいつも見る目なさすぎ。っていうか、あの女が出て来なかったらアタシだって今頃スーパーモデルになれてたはずなのに…!」
彼女は愚痴を言い続け苛々としている。姫川は何も言えず、ただただ聞きたくもない愚痴が耳に入りながらも華城の後を少し距離を離してついていく。
華城
「まぁ今回のランウェイを最後に、海外へ消えてくれるみたいだし…今からでも本気で頑張ればアタシだって再び人気を取り戻せるはずよね。アンタもそう思うでしょ?」
姫川
「は、はい。華城さんならきっとまた注目されますよ」
華城
「どうせそんな事ちっとも思ってないでしょ?」
姫川
「い、いえ!?そんな事ないです!華城さんは凄いモデルだって分かってますから!」
華城
「ハッ…どーだか…」
理不尽に怒られそうになりながらも、何とか回避できて姫川は胸を撫で下ろす。正直華城の態度にはうんざりしていた。
姫川
(華城さんの人気が低迷してるのって、一時期味わった頂点を知って周りの人を見下す所だと思うんだけどなぁ…)
姫川
(…まぁ、この人の事は適当に流すとして…夢のスタコレに選ばれたからには、もっとあの人の事を研究しないと…)
姫川
(憧れの【パーフェクトモデル】に会えるなんて…楽しみだなぁ)
………
京東ドームスタジアム
今日は京東ドームで五人組大人気アイドルグループ【PP⭐︎STAR】のライブコンサートが行われていた。サイリウムを大音響の音楽に合わせ振り続ける満席のファン達に向けて、金髪のショートカットが良く似合うリーダー【RABi】がとびっきりの笑顔で期待に応え観客に呼び掛ける。
RABi
「みんなが大好きな人はー!?」
観客
「最強!可愛い!!ラ・ビィー!!」
RABi
「みんなを幸せにする人はー!?」
観客
「最強!可愛い!!ラ・ビィー!!」
RABi
「ありがとー!!私もみんなを愛してるよー!!」
観客
「「ウォオオオオ!!ラビィー!!!」」
観客と一体になりRABiは一帯を盛り上げる。ライブはリーダーのRABiの活躍により大成功に終わるのであった。
…ライブ終了後のバックステージ。最高のライブに心地よい汗を流しタオルで顔を拭きながらRABiはPP⭐︎STARのメンバーと合流する。
RABi
「みんなお疲れ様ー!!今回もさいっこうのライブに出来たね!!」
メンバー
「あっ、うん。お疲れー」
元気なRABiとは違い、冷め切ったメンバーは既に帰る支度を進めていた。温度差に思わずRABiも苦く笑い反応に困る。そんな中、RABiと仲の良いMAiだけが喜びを分かち合うように彼女に駆け寄りハイタッチをする。
MAi
「お疲れ、RABi!今日も凄かったね!」
RABi
「!MAi!ありがとう!MAiも今日めっちゃ声出てたね!」
メンバー内の唯一の友人に元気を貰いながらRABiも帰る準備を始める。先に用意を済ませていたMAiは彼女を待ちながらロッカーに体を凭れ、スマホを触っている。
MAi
「最近のRABi、めっちゃ調子いいし次に控えてるスタコレも絶対成功するっしょ!」
RABi
「そう言ってくれるのMAiだけだよー。なんていうかさ、私が選ばれてから他のみんなの当たりがキツくなった様な気がするっていうか…」
MAi
「気にしない気にしない!モデルの方でも成功して、他のメンバーをアッと言わせるんでしょ?」
RABi
「…うん。そうだね」
RABiはPP⭐︎STARの若きリーダーであり、高身長を活かしてモデルの仕事もしているのだ。リーダーに抜擢されてからは、他のメンバーは冷たくなっていきモデルでも成功している事にメンバーから嫉妬をされていた。
スタコレに選ばれたからには、ただの外見だけで成り上がったのではなく努力で上がってきた事を、メンバーに証明するべく必ず成功させたいと彼女は強く思っている。
MAi
「あっ!それと双葉ちゃんのサイン、絶対に貰って来てよね!?ウチがRABiに優しくしてんのそこが本命だから!」
RABi
「わかってるって!私だって双葉ちゃんと出会えるのちょー楽しみだもん!忘れるわけないよ!」
成功させたい気持ちと同時に、自身がモデルを目指すきっかけを生んだ、憧れのモデルの双葉に出会えるということを楽しみにしていた。
RABi
(双葉さん…!貴方と一緒のステージを歩けるなんて夢みたいだよ…!待っててくださいね!)
………
とある関西ローカル番組にて。
司会者
「さぁさぁ、本日はゲストをお呼びしています!【関西のパーフェクトモデル】こと、【難波 ヒカル】さんです!どうぞ!」
難波
「こんちゃー!!みんな大好きな難波ちゃんやでー!!」
拍手に迎えられスタジオに入ってくるのは、パワフルな笑顔に全力で手を振り返す元気な少女【難波 ヒカル】。今、関西圏で最も有名なモデルとして注目されている。
モデルでありながら本職とは別にバラエティにも全力で取り掛かり、そのツッコミやリアクションがお茶の間に笑いを届けている。正に関西の良いところを詰め合わせている事から双葉に因んで【関西のパーフェクトモデル】と呼ばれる様になった。
司会者
「さて、難波さん。今日はお知らせがあってここに来たんですよね?」
難波
「せやねん!なんと4月に行われる三年に一度のモデルの大祭典、Starlight Collectionにウチが選ばれちゃいましたー!みんなー!もっと拍手ちょーだい!!」
相変わらずのパワフルなキャラにスタジオも笑いながら、彼女が求める拍手を送る。
司会者
「難波さん、実は東京に一度も行ったことがなくて今回のランウェイで初めて訪れるんですよね?」
難波
「そう!ほんまちょー楽しみやねん〜。…あっ、お土産はあらへんで?」
司会者
「旅行で行くわけじゃないですからね?ずばり、今回のランウェイの目標とかありますか?」
難波
「そんなん勿論ありますわぁ!!カメラさん、ちょいこっち来てくれへん?」
難波がカメラマンに手招きをすると、カメラマンは近付いて彼女をズームアップする。彼女はカメラに向かって、ビシッと指を指した。
難波
「おうおう見てるか双葉!?全国の【パーフェクトモデル】を超える【関西のパーフェクトモデル】こと難波ちゃんの魅力、関東の人間にも存分に見せたるからな!!覚悟しとけよ!!」
司会者
「な、難波さん…言いづらいですけど、この番組は関西圏なので多分双葉さん見てませんよ」
難波
「ええっ!?そうなん!?」
彼女のリアクションにスタジオは笑いに包まれるのであった。どんな時でも周りを喜ばせる事を一途に努力してきた彼女は、来たるスタコレにワクワクが止まらなかった。
難波
(人々を虜にした【パーフェクトモデル】…一体どんな凄い奴なんやろか。ハァ〜…楽しみやわぁ〜…!)
………
Sunna事務所 カフェスペース
春香とマネージャーはスタコレまでのスケジュールの打ち合わせをしていた。春香はSunnaに入ってから人気はどんどん上がっていき多忙なスケジュールを送っている。大学生活も送っている彼女にとって毎日が忙しかった。スタコレまでの期間もびっしりと詰まっている。
マネージャー
「…以上が今後の予定となっています。大丈夫ですか?」
春香
「はい!大丈夫です!」
そんな忙しい日々を過ごしているのにも関わらず、彼女は余裕のある元気な返事をする。明るい彼女にマネージャーも安心していられるようだ。
マネージャー
「最近は学校も大丈夫ですか?これだけ忙しいと大変でしょう?」
春香
「そうなんですよー。あまり行けなくなってきて大学側に相談したら…なんと一通りの出席日数を免除してくれました!神対応してくれたのも、私がモデルで頑張ってるのを知っててくれたからみたいで…本当に嬉しいですー!」
マネージャー
「そうですか……なんていうか、最近の春香さんを見てると双葉さんに似てきたなって感じますね」
春香
「?私がですか?」
マネージャー
「はい。その元気な所も人々から応援される姿も…流石はあの人を近くで見てきただけありますよ」
褒めてくれるマネージャーの言葉に彼女は喜びながらも複雑な気持ちもあった。
春香
「私なんて【パーフェクトモデル】と比べればまだまだです。それに双葉さんの持つ唯一無二の才能は、あの人以外に地球上に存在しません」
マネージャー
「ハハ…余程双葉さんの事を尊敬しているんですね」
春香
「勿論です!…正直、海外に行くのは凄く寂しいですけど…私の今の目標は双葉さんが海外にいる間、日本で代わりのモデルになれるように頑張る事です!その為にも次のスタコレでちょーアピールしてみせますからね!」
マネージャー
「良い意気込みですね。…それならまず、一人のモデルとしてカロリーは気にしてくださいね?」
春香
「う、うぐっ…!」
マネージャーは春香が頼んだフラペチーノを見つめながら、厳しい意見を言うのだった。
………
斎藤
「…と、まぁ次期トップモデルはこの四人が候補として各メディアも注目している。そして双葉を含むこの五人は今回行われるStarlight Collectionの【TOP5】に選ばれた」
四人のモデルの紹介をタブレットで映像を利用しながら斎藤は説明を終える。小嶋は映像に映る美女達にすっかり見惚れていた。
小嶋
「へぇー。双葉さん以外にもこんなに綺麗な人達がいるんですねー」
斎藤
「…お前、もう少し勉強しろよ」
小嶋
「だ、だって双葉さんがモデルとして凄すぎて周りが見えなかったというか…!いやすいません!勉強不足ですはい!」
斎藤
「…いや、お前の言う通りだよ。小嶋」
小嶋
「へ?」
斎藤はタバコ代わりに咥えていた爪楊枝を皿に置き、タブレットをビジネスバッグへ戻すと立ち上がる。
斎藤
「喫煙所に行くぞ。続きはそこで話す」
小嶋
「えぇー…結局吸うんですか…」
斎藤
「うるせぇ。俺にとってのスイーツなんだよ」
嫌々な顔をしながらも、先に店を出る斎藤に小嶋は会計を済ませてついて行く。
…都内の喫煙所に到着すると、斎藤はタバコを咥え火を付けた。敷地内は既に吸っている人達のタバコの煙が充満して、体に染み付くような感触が小嶋を嫌な気分にさせる。そんな彼の気分など知らず、上司は漸く吸えた開放感に満たされ話の続きを始める。
斎藤
「双葉が人々に注目されたのは三年前から。二年前の【パーフェクトモデル】と呼ばれてからは、神の様な扱いを受けて多くの人々が彼女に魅入っただろう」
斎藤
「一見、良い話の様に思えるが、同業のモデル達からすればこの三年間は【地獄】でしかなかった」
小嶋
「地獄…?」
斎藤
「お前がさっき言っていた様に、双葉は注目されすぎたんだ。その結果、どの企業も彼女の取り合いを繰り広げる状態だった。ほら、見てみろ」
斎藤が指差す先には双葉を起用した広告が見える。それはたった一つだけではなく、まるでこの街で彼女を見ない場所がないかのように至る所に彼女の広告があるのだ。
斎藤
「双葉を起用できた企業は、売上が目に見える程上がる。そこで契約出来なかった企業は止むなく他のモデルを起用するが、彼女のプロモーション力に勝てるわけがない」
斎藤
「そうなったら企業側もそこらのモデルを選ぶわけもないし、モデルは天才を前にどれだけ頑張ろうと評価されなくて苦悩する。彼女はファンに愛されようと、モデル達からはこの三年間を潰された事を酷く恨んでいたと思うぞ?」
小嶋
「そ、そんな事ないと思います!双葉さんは性格も良いから他のモデルの人達とも上手くやれてるはずです!」
タバコを吸い終えた斎藤は灰皿に押し入れ、小嶋の方を見ながらスマホを取り出す。
斎藤
「…それなら現実を見てみるか?」
小嶋
「?」
斎藤は電話番号を入力すると、スマホを耳に当てる。
斎藤
「…あぁ、お疲れさん、俺だ。例の担当の件だが…小嶋に任せるんで…はい、はい…そうそう、それじゃあ上に伝えておいてくれ。じゃ、頼むよ」
彼はポケットにスマホを戻して喫煙所から離れ歩き出す。小嶋も彼の後をついていく。
小嶋
「ちょっと、先輩。今の何なんですか?」
斎藤
「今度、Starlight Collectionのリハーサルが行われる。そこに各メディアの取材も許可が降りたらしい。MARUKADOもその一つだ」
斎藤は立ち止まり小嶋に振り返ると、彼に向けて指を指した。
斎藤
「小嶋、Starlight Collectionはお前が行ってこい。それでモデルの実態をその目に焼き付けろ」
小嶋
「え、ええーっ!!?俺がStarlight Collectionの取材ですか!?しかも一人で!?こんな大規模なイベントを俺一人に任せていいんですか!?」
彼は大袈裟なリアクションで驚く。一々動きが鬱陶しく思う斎藤は頭を掻きながら溜息を吐く。
斎藤
「生憎俺は俺で調べなきゃならん事が出来たからな。正直お前を一人にさせると嫌な予感がするが…まぁ、上もお前にそろそろ何かやらせろなんて言ってたし、これでいいだろ」
斎藤
「…まっ、お前は俺と違って【良い奴】として記事を書き上げるのを、期待してるよ」
小嶋
「!先輩…」
彼はそう言うと背を向けて再び街中を歩き出す。小嶋は彼の言葉に自分が期待されている事を気付いて、嬉しそうについていくのであった。
小嶋
「任せてくださいよ先輩!!双葉さんの国内最後を飾る最高の記事を、【パーフェクトジャーナリスト】こと小嶋が作ってみせますよ!」
斎藤
「はいはい、頑張れよ」
………
2月後半
晴天の空の下、Starlight Collectionリハーサルの日が訪れた。日本各地で活躍するモデルが今、ここに集まる。




