17話【さよならじゃない】
AM:8:44 双葉の住むマンション
双葉と喧嘩をした次の日。早朝から仕事が入っている彼女を迎えに、細田は双葉の部屋の前まで来ていた。
彼女は扉の前で立ったまま、インターホンを押そうとする指は動かず止まっている。昨日の喧嘩の件もあって、どう声を掛けたらいいのかわからなかったのだ。
細田
「…考えても仕方ないわね」
彼女は深く溜息を吐いてインターホンを押そうとする。その時、扉がガチャッと鍵が開く音と共に勢いよく開いた。
双葉
「おはよう細田さん!!」
細田
「!?」
既に支度を終えたキラキラ笑顔の双葉が飛び出てきた。
いつもなら細田が支度の手伝いをするまで準備不足な彼女だが、今日はしっかりと全てを用意をして細田を迎えたのだ。それに、彼女は昨日の事をまるでなかったかのように満点の笑顔を見せてくれている。どれもが驚く事ばかりで、細田は呆気に取られ言葉が出せず固まっていた。
双葉
「…?どうしたの?細田さん」
細田
「…あっ、いえ…双葉…昨日はカッとなって…その…」
オドオドしている細田を気にする事なく手を握り引っ張って、エレベーターへと乗り込む。
細田
「ふ、双葉!?」
双葉
「ほらほら、せっかく早く準備が出来たんだよ?時間が勿体無い!今日もお仕事頑張るぞー!」
細田
「!…え、えぇ…そうね…」
………
送迎車に乗り込み、細田の運転で青空の都市を走り抜ける。後部座席で双葉は鼻歌を歌いながら、つぶグラをチェックしている。昨日あんな事があったのに何故彼女は元気なのか?細田は気になって仕方がない。運転に集中しながらも、恐る恐る彼女へ聞く。
細田
「双葉…その…昨日の事を気にしてないの?」
双葉
「気にしてないよ。細田さんは私の事を思って、怒ってくれてたんでしょ?」
細田
「そうだけど…私も取り乱してキツく言ってしまったから」
双葉と違い昨日の事を引き摺っている細田に双葉は笑顔で返す。
双葉
「もー!私は大丈夫だってー!細田さんってば気にしすぎだよー!」
絶対に何かおかしい。たった1日だけで双葉がこんなに元気になる訳がない。細田の質問はまだ続く。
細田
「…もしかして、あの後に何かあった?」
双葉
「うん。偶然なんだけど黒木さんと出会ってさ、一緒にヘトヘトになるまで踊り続けたの」
細田
「黒木さんに?…え?踊った?何処で何してたの?」
双葉
「細田さん知ってる?EDGEって店があるんだけどさ、そこならどれだけ燥いで踊り回っても大丈夫なんだよ!黒木さんと一緒にそこでずーっと踊ってね、もー!凄く楽しかった!」
彼女は本当に楽しかったのだろう。昨日の熱がまだ残っていて興奮気味に目を輝かして話す。一先ずは本当に落ち込んでいない事が確認出来て細田は安心した。
細田
「そ、それは良かったわね」
しかしそんな興奮気味な彼女も、細田が心配していることを察して、窓から街を眺め落ち着いて話す。
双葉
「…細田さん、ごめんなさい。私、忘れてた。みんなの為に輝くって決めたのに、細田さんを選ぶって我儘を言っちゃってさ」
細田
「違うわよ双葉。私は別に、双葉には自分らしく生きて欲しいって思ってるの。だけど今を輝く貴方には、引退する私についてきてほしくないだけなの」
双葉
「うん、そうだよね。だからMLの契約も引き受けるよ」
細田
「!…本当?」
双葉はスマホをポケットに戻し、助手席から体を前のめりに倒して細田の顔を見る。
双葉
「細田さんと聡ちゃんとお別れなんだろうけど…5年経てばここに帰って来れるんだよね?それなら少し我慢すればいいだけなんだよ。みんなが求める【パーフェクトモデル】として、もう少しだけ輝く存在になるよ」
双葉
「でも、約束して欲しい。MLの5年契約が満了を迎えた時、私はモデルを引退する。それで、細田さんの本屋に雇って欲しい」
細田
「!?…本気で言ってるの?」
信号が赤になり車を止めて双葉の方へ振り向く。彼女と目が合うと真剣な表情で頷いた。冗談ではない、覚悟した眼差しだ。
双葉
「本気だよ。今はファンの為に頑張るけど…私はやっぱり細田さんと居たいから。私のドン底から助けてくれたのは貴方だから、最後まで一緒に居たい。…これぐらいの我儘は聴いてほしいな?」
細田
「……」
信号が青に変わり細田は顔を前に向けて走り出す。
細田
「…わかったわ」
双葉
「!いいの?」
細田
「Sunnaの為にもファンの為にも…そして私の為にも選んだその道を否定する訳がないでしょう?でも、引退の件は一旦ここだけの話にしておきましょう」
双葉
「えー、どうして?」
細田
「貴方が今引退宣言なんてしてしまったら、またメディアが騒ぎ出すわ。数年ぐらいは様子を見て、サラッと言うのがベストね」
双葉
「成る程、流石は細田さんだね。いやー、みんなも驚くだろーね。辞める気満々でMLと契約してるなんて知ったらさ」
細田
「言い方……ふふっ」
双葉
「あはは。…もう少しだけ側に居てね、細田さん?」
細田
「ええ。…今は二ヶ月後のスタコレに集中しましょう。最後まで近くで貴方をサポートするわよ」
昨日の喧嘩がなかったかのように二人は笑い合い仲直りをして、車内は心地よい雰囲気に包まれるのであった。
………
数日後 PM20:28
会員制カフェ【PEACEFUL RETREAT】
双葉
「…って、事があったから私、5月にMLと契約して海外に行くことになっちゃった」
黒木
「……そうなんですか」
そうニコニコと彼女が報告する相手は黒木だった。
【伝えたい事がある】と電話で伝えられて仕事終わりに合流した訳だが、突然の世間にも公表していない重大発表に黒木も驚かざるを得なかった。
しかし、双葉は知っている。彼が次に言う事を。驚いていた表情も、彼は予想通りに嬉しそうに微笑んで小さく拍手をしてくれる。
黒木
「おめでとうございます、双葉さん。俺にはその…ML?がよく分からないですが…凄い事だと言うのはわかりました」
そう、彼なら会えなくなるとショックを受けるのではなく、純粋な心で海外へ進出する事に喜びを分かち合い祝福してくれる。双葉にはそれが嬉しかった。心より応援してくれる彼の存在が双葉の心を煌めかす。
但し、引退する事は流石に伝えてなかった。モデルを辞めると言えば、黒木がどうなるか分かっていての彼女なりの配慮だ。
マスターの【キリコ】は二人に淹れたてのコーヒーを置いてカウンターへ戻る。コーヒーの香りは二人の気持ちを落ち着かせ、双葉が先に手に取り口を付けた。
黒木
「…しかしそうなると趣味探しも、もう数える程しか出来そうにないですね」
双葉
「うーん、まぁそうなるよね。…ごめんね黒木さん。結局、黒木さんの新しい趣味見つけられなかったね」
黒木
「いえいえ、気にしないでください。俺は双葉さんと色々な場所へ行けて本当に楽しい経験になりました。…でも」
双葉
「でも?」
彼は俯いて湯気が立つコーヒーを見つめながら残念そうに話す。
黒木
「海外で活躍されるのは本当に嬉しいのですが…双葉さんともう会えなくなるのは、やっぱり寂しいですね」
双葉
「あ…」
黒木は双葉との色々な経験を積んできた中で、尊敬をして応援したいという気持ちから、いつの間にか彼女の友達として一緒にいられないという、悲しい感情に俯いているのが双葉には分かった。
彼にとって今の心境は応援する一人のファンとして、双葉の友達として、どちらも合わさり複雑な気持ちになっているのだろう。
喜んで見送ってくれると思っていた双葉にとっては、今の彼の姿は自分と一緒にいた時間が無駄ではなく、彼自身も無関心な性格から、あらゆる感情を持つ成長を遂げていたのを実感した。
双葉は、机の上に置く彼の手をしっかりと握り微笑んだ。
双葉
「悲しまないで黒木さん。これは【さよなら】じゃないんだから。5年後は少し長いけど…帰ってきたら、また一緒に趣味探しを再開しようよ!」
黒木
「双葉さん…」
双葉
「私も…その…黒木さんとこれからも友達でいたいからさ?」
珍しく彼女は嬉しそうに照れながら話す。黒木は彼女の新たな一面を目にして微笑み返した。
黒木
「ありがとうございます。双葉さんがそう言ってくれるのなら、5年ぐらい待てる気がします」
双葉
「あはは。…でも、そうだよね。私も二ヶ月後のランウェイでそろそろ忙しくなってきて当分は会えなくなるし…せめて別れる前に何かしたいよね。うーん、何かないかな」
双葉
「…そうだ!黒木さん!遊園地に行こうよ!」
閃いた彼女は瞳をキラキラさせる。
黒木
「遊園地…ですか?」
双葉
「そう!【キャット・シー】行った事ないんだよね。ランウェイ終わってから海外に行くまでの期間に少しだけ余裕があるから、最後にドーンって面白く終わらそうよ!」
黒木
「それって…趣味探しになるんですかね」
双葉
「ううん、違うよ。友達として!…ね?ダメかな?」
黒木
「友達として…そんなのダメな訳ないじゃないですか。俺で良ければ…是非、行きましょう」
双葉
「やったー!じゃあ早速乗るアトラクション決めようか!」
彼女は手を離し、ウキウキとスマホを机の上に置いて、キャット・シーを検索する。
黒木
「え?まだ三ヶ月も先の話ですよね?調べるには少し早くないですか?」
双葉
「良いじゃん良いじゃん!こういうのは事前情報を見てるだけでも面白いものだよ?…ほら見て黒木さん!これ、キャット・シーで超有名なアトラクション、【タワー・マジ・ヤバー】だってさ。怖そー」
黒木
「おお、お洒落なタワーですね」
双葉
「あっ、感想はそっち?」
嬉しそうに、仲良さそうに、遊園地の予定を決めていく二人の様子を、キリコはグラスを拭きながらじっと眺めていた。
キリコ
(あの二人、あれで付き合ってないんだな…)
キリコはグラスを拭き終えると、二人の邪魔をしないよう配慮して、カウンターの奥の部屋へと入っていく。誰にも邪魔されず計画していく二人は、心より楽しみ幸せな時間が過ぎていくのであった。
…………
同日 PM21:30 居酒屋【隠れ家】
KENGO
「そっか。双葉ちゃんはMLとの契約を決めたんだね」
KENGOは細田と聡を引き連れ居酒屋へと訪れ、丁度細田から報告を聴き終えたところだった。華金で人が賑わっていても、KENGOが事前に予約した個室でゆっくりとお酒を飲みながら話せる場所を確保していた。
普段、お酒を多く飲まない細田も今日はビールを沢山と飲んでジョッキ三杯目だ。顔も赤くなり、空のジョッキを握ったまま目が虚ろになっている。彼女の隣に座る聡は、肘をつき拗ねた態度で枝豆をどんどん口に入れていく。
聡
「ふんっ、オメデタ話でしょうけど、MLがアティシのファンタスティックに気付いてないのが許せないわねん。専属チームになんでアティシを採用しないのよ」
KENGO
「確かにね。まぁMLからすれば、自社スタッフの方が色々と融通が利くんだろうね。こればかりは仕方がないよ」
聡
「ノンノン!!アティシだけが双葉ちゃんをグレードに!パーフェクトに輝かせる【ファンタスティックパフォーマンス】を知っているのよ!?他のスタイリストに双葉ちゃんを触らせるなんて反対よ!はんたーい!!」
KENGO
「ハハハ…SunnaもMLぐらい大きかったら交渉出来るんだけど…おや、細田さん?さっきから動かないけどもしかして眠いの?」
グラスを握ったまま動かない細田にKENGOは気付き話題を振る。彼女はKENGOの方へと顔を向け、低い声で話しだした。
細田
「…最近、夢を見るんです。双葉と出会った日から彼女と共に歩んできたこの5年間の思い出の夢を…」
聡
「あら、そうなの?アティシは毎日夢を見るわよ?そう、昨日も超ファンタスティックな…」
KENGO
「聡君。流石に今はそういう空気じゃないと思う……細田さん、続けて?」
細田
「…MLの契約の話をした時、あの子と初めて喧嘩をしたんです。そして、初めてあの子を泣かせてしまって、なんて事をしてしまったんだ…と、その日の夜は後悔だけが残っていました。もっと良い方法があったはずだって」
細田
「でも、次の日になるとあの子はいつも通りの笑顔で私を迎えてくれて…私、今回の件で気付いたんです。あの子は5年前と違い、ここまでしっかり大人として成長してきた…私だけが、いつまでもあの子を子供のように接触してしまってたんだと」
KENGO
「細田さん…」
グラスを握る手は震え細田は俯く。
細田
「もう一人でも大丈夫だから退職するだなんて、あの子に偉そうに言っておきながら…あの泣き顔を見た時に気付きました。本当に別れたくないのは私の方なんだって。いつまでも親のように慕ってくれるあの子と一緒に居たいなんて思ってしまいました。…本当の親でもないのに…」
細田はか弱く細い声を振り絞るように話す。KENGOは、まだ彼女が秀樹に言われた言葉を気にしている事を悟り、細田の肩へ手を乗せる。
KENGO
「例え君達が親子じゃなくとも、両親が居なかった双葉ちゃんの5年間の大きな助けになっていたはずだよ。誰がなんと言おうと、君達の友情は親子そのものさ」
細田
「…社長、ありがとうございます」
上司としての優しい言葉に、細田は目を合わせて有り難く受け取って震える声で感謝する。しんみりとした空気に聡は茶化す。
聡
「ちょっとちょっとー?カナスィー感じで今日は飲みに来たんじゃないんですけどぉー?」
KENGO
「そうだよ細田さん。今日はML契約を共に喜ばないと。この件は必ず号外として取り上げられて、世間から大好評間違いないだろうし、双葉ちゃんは更なる高みへ上り詰めるんだよ?」
細田
「…そうですね。今はあの子を【パーフェクトモデル】として一緒に喜ばないとですね」
聡
「まっ、このファンタスティックなアティシを採用しないMLも品が落ちたと思うけど」
KENGO
「ハハ…まだ言うのかい、それ…」
二人のおかげで細田も鼻を啜り、元気を取り戻していく。
一先ず場は落ち着いたところでKENGOはスマホを取り出し、一つの画面を映して机の上へと置いた。そこには、モデル関連の最新ニュースが記されている。
KENGO
「…しかし、双葉ちゃんが国内からいなくなると分かれば、他のモデル事務所も大きく動き出すだろうね。ここ数年、彼女が強すぎてモデル業界を支配していたし」
聡
「そうねぇ。【パーフェクトモデル】という愛称が生まれてからは、この業界も全知全能、頂点の存在が必要とされてるわよね。モデルは其々得意ジャンルに合わせた個性で輝かせるべきだっていうのに」
KENGO
「現代の需要性がそうさせてくれないんだよ。現代人は、全てを完璧に熟す超人的救世主を求めているんだ。ほら、例えばだけど将棋界で言えば【藤田 奏】、野球界なら【大山 翔太】アイドル界なら【本橋 杏奈】だね」
KENGO
「彼等の活躍は常にニュースで流れてくるだろ?大山君なんて飼っている犬の犬種の内容だけでもバズるんだよ?どうでも良いような内容ですら、何分も尺を使って取り上げられるように、現代ではそういう完璧人間の方が需要が高いわけさ」
KENGO
「スーパーマンは人々を助け、人々はスーパーマンから希望を貰っている。今の不景気で元気のない日本には、そんな自分の心を助けてくれる救世主が必要なんだ」
細田
「それがモデル業界では双葉が完璧人間として崇められる才能があったからこそ、爆発的に人気になったと言うことですね」
KENGO
「そういうことになるね。…で、話を戻してそんな【パーフェクトモデル】が日本から居なくなると、次の超人的モデルが評価される時代が来る」
映している画面をスライドしていくと、其々の事務所で人気が高いモデルの紹介サイトが映し出されていく。
KENGO
「俺が注目しているのは【グッド・スター】所属の【姫川 蒼】、【Cinderella Production】なら【RABi】、関西圏だと【元山興業】の【難波 ヒカル】」
KENGO
「この子達は双葉ちゃんの次に人気のモデルだね。恐らく双葉ちゃんが居なくなった後は、この三人の誰かが次の頂点になるんじゃないかな?Sunnaからは、彼女達への対抗策としてMIHOと春香ちゃんを押していこうかと考えている」
聡
「その二人を選ぶなら、アティシはハルちゃんを選ぶわね。あの子、双葉ちゃんが好き過ぎて彼女の良いところをどんどん吸収していってるわよ。それも恐ろしい早さで…ハルちゃんなら、第二の【パーフェクトモデル】になんて呼ばれる日が来ちゃったりして?」
聡は自身のスマホを二人に見せつけると春香のつぶグラのページを開いている。彼女のフォロワー数は何と100万人を超えていた。
細田
「凄いわね春香ちゃん…確かにあの子の勢いは日に日に増していってる気がするわ」
聡
「ま、それでもモノホンの【パーフェクトモデル】様には敵わないでしょうね。明美ちゃん、今の双葉ちゃんのフォロワー数知ってる?」
細田
「確か…この間見た時は250万人だったような…」
聡
「ノンノン、308万人よ。JBM賞二年連続受賞が海外メディアにも大きく取り上げられていて、また爆発してるのよ。ここであの子がMLと契約する事を発表すれば…400万。いや、500万も夢じゃないわ」
KENGO
「海外に注目されるとフォロー速度もかなりの勢いで増すからね。…社長としても凄く楽しみだよ。双葉ちゃんの魅力が海外で広がっていくのがさ」
細田
「そうですね。まぁ…私の務めは近々終えますが…」
KENGO
「今回も勿論席を空けておくからね?」
細田
「流石に今回は戻らないですよ…」
聡
「でも、正直楽しみでしょ?色んなところで輝くモデルちゃん達の行方がどうなるのかを見届けるのは」
細田
「…そうね。退職する身だから、より安心して見ていられるわ」
KENGO
「ハハハ。僕は双葉ちゃんが居なくなった今後のSunnaを考えると焦るべきだけどね…」
来たる国内での【パーフェクトモデル】に代わる新たなトップモデルの争奪戦が、国外へは日本一の【パーフェクトモデル】が活躍する期待が、この場にいる三人の大人達には楽しみでしかなかった。
…一週間後、Sunna事務所より正式に双葉がMLとの契約をメディアに発表した。日本モデルとして、【パーフェクトモデル】として、また新たな伝説を作り上げた功績に人々は活気に溢れ、瞬く間に世界中のニュースにも取り上げられる。
彼等の読み通り、双葉のつぶグラは海外メディアにも注目され拡散していき、フォロワー数は一瞬にして400万を超え止まる事を知らず、間も無く500万を迎えようとしていた。
また、MARUKADO出版のモデル雑誌【Stars】では日本を離れる双葉の次に注目されるモデルは誰なのかを緊急特集として取り上げられ、四人の候補が挙げられた。
【RABi】【姫川 蒼】【難波 ヒカル】
そして【春香】
そう、此方もKENGOの読みは当たっていて今後は彼女達がより注目されるだろうと期待されていた。
双葉が海外に行くのは5月中旬。その前には国内最後の大規模ランウェイ【Starlight Collection】が4月に行われる。注目されている四人もこのランウェイに選ばれている。
【Starlight Collection】通称【スタコレ】
三年に一度開催される国内最大のランウェイショーで、ファッションを重視したものではなく、モデルを中心的にフォーカスするイベントだ。このランウェイには、開催一年前から設立する専用サイトによるファン投票によって決められ、全国の50名のモデルが指名される。
その中でもファン投票一位になったモデルは【スターモデル】と呼ばれ、その年のスタコレのメインイベントを任される。即ち、ド派手な演出の中歩く事が出来る権利を得られるのだ。
双葉は前回の三年前にも選ばれていたが、前回は12位だったので他のモデル達と一緒に歩いた。前回の1位は当時大人気モデルだった【華城 結衣】であり、今回は2位の【姫川 蒼】との差を圧倒的に広げ堂々の一位へと選ばれた。
入れ替わりが激しいモデル業界で、スタコレを二度も歩ける事自体が奇跡に近いものだが、前回より順位を上げスターモデルに任命された双葉が如何に伝説的な存在なのかを世に知らしめたのである。
双葉にとって国内最後を飾るに相応しい舞台、そして彼女の背中を追う四人のモデル。人々の救世主に誰がなるのか。
国内最高のランウェイショーの幕が、もう間も無く開催されるのであった。