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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第一幕
29/150

特別回【子供と大人】

 此方はXにて、読者様による初のリクエスト内容を回にしたものです。リクエスト内容は【双葉に憧れるファンサイドの話を見てみたい】でした。


リクエストを送って頂き、本当にありがとうございました。これからもRe:LIGHTをどうぞ宜しくお願いします。


 都内の中学校の放課後。夕暮れの陽が窓から差している。


 教室内の男どもはみんな集まってスマホゲーム【パズスト】に夢中だ。男ってどうしてゲームにあんなに本気(マジ)になれるんだろうか?私には理解ができない。本当に子供だよなぁ。


「奈穂美ちゃん!早く行こう!」


「うん」


友達が廊下から私に手を振る。私は急かされながらも帰る支度を終えて教室から出て行く。


 ビルに囲まれた大都会の街道を歩き、仲の良い友達とファッション雑誌の最新号の話で盛り上がる。ゲーム画面を見続け騒ぐバカな男子達と違って、この会話には意味がある。中身がある会話をする事が、【大人】に近付いてるんだと。早く大人になりたい私にとって、この時間は有意義に感じる。


 友達と別れて私は自分の住むマンションのエレベーターへ乗り込み12階のボタンを押す。この密室空間による待ち時間は、つまらなくて仕方なかったが、今日の私は違った。自分でも口元がニヤけているのがわかる。


 何故私が機嫌が良いのかだって?それは明日が私にとって念願の一日だからだ。12階に到着して自動ドアが開く。廊下を歩いて自分が住む扉前に着くと、一旦息を整えて高鳴る胸を抑え、ドライ気味に


「ただいま」


と言って扉を開き入った。ワクワクしている姿を親に見られたらまた子供扱いされる。それが私にはウザったくて面倒だった。


「おかえり、奈穂美。いよいよ明日ね〜」


「うん」


キッチンからは分厚い肉の塊をフライパンで焼く音が聞こえてくる…今夜はハンバーグか。香辛料の良い香りにお腹が空いて早く食べたい所だけど…私は母さんに顔を合わせる事なく、直ぐに自室に入って扉を閉めた。


「そう言えばお父さんが双葉ちゃんの写真を貰ってきたって〜…」


「へー」


扉越しから話してくる母さんに適当な返事を返して、私は勉強机の上に置いてあるファッション雑誌【Stars】を手に取りベッドに座った。Starsのページに挟んである、一枚のチケットを取り出して見つめる。


「ふふふ…」


チケットには【双葉ファン交流会イベントチケット】と書いてある。そう、私が機嫌が良かったのは、憧れの【双葉】にいよいよ明日会えるからだ。先月号のStarsの予約購入特典にて、抽選で当たったこのチケット。


 双葉のファンなら誰もが喉から手が出る程欲しいものだろう。それが今私の目の前にある。先程からずっと口元がニヤニヤとしてしまう。


 スレンダーな体、高身長に超綺麗な黒髪、何を着ても絶対に似合うファッションセンス。そして誰にでも優しく、ノリにも合わせて乗ってくれて場を盛り上げる。


 私が思う【完璧な大人】として双葉は偉大で尊敬する人だ。そんな憧れの人と【一分間】どんなお喋りも許される至高の時間を明日味わえるのだ。


 何を話そうかな?将来Sunnaに入る為に努力してますってアピール?悪くないけど、そうなると覚えてもらえる為に個性も見せないと…


 あぁ、でも応援のメッセージも考えてるしちゃんと噛まずに言えるように今からでも練習しなきゃ…うーん、考えれば考える程、ワクワクが止まらない。今日は早く寝て明日に備えなきゃ。





次の日





「忘れ物はない?」


母さんが洗濯物を干す手を止めて心配そうにわざわざ玄関まで見送りにきた。全く、いつまでも子供じゃないんだから。


「大丈夫だよ」


いよいよ双葉に会える興奮を抑えて、私はいつも通りにドライに返す。


「双葉ちゃん、楽しみね。いっぱい喋ってくるのよ?」


まるで自分のように笑顔で嬉しそうに話す母さんに、私は軽く手を振り玄関の扉を開けて出て行く。


 雲一つない青空、絶好の外出日和で街に出ると、私は軽い足取りで駅へと向かう。今日のコーデは双葉がこの間雑誌で着ていた、上から下まで白で統一したガーリーファッション。きっと誰にでも優しいあの人は


『あっ、それこの間私が着てた奴じゃん!揃えてきてくれたんだー嬉しいー』


なんて笑顔で褒めてくれるだろうな。双葉に会えるからって浮かれ過ぎず、ちゃんとファッションを意識していますアピールをして覚えてもらわなきゃね。


 駅に着いて事前にスマホでチェックしていた予定通りの電車に乗り込む。今日は休日だからか、通学ラッシュでもないこの時間帯でも、私以外の人が既に車内に沢山乗っていて座れなかった。


 けど、そんなのはどうだって良い。後少し、後少しであの双葉に会える。格好よくて、可愛くて、美しいあの人に。


ずっと毎日が退屈だった。


「あのゲームやった?」「⚪︎⚪︎先生マジかっこよくね?」「このショート見てみ?ガチヤバいわ!」


 周りの男子も女子も、いつまでも幼稚でバカ丸出しな話しかしない日常がつまらなかった。でも、大人になればこんな世界からも抜け出せる。そう確信させてくれたのが双葉だった。


 キラキラとした舞台の上を優雅に歩き、テレビに出ればスタジオ全員を笑顔に変えるポテンシャル。そしてどんな服を着ても輝く貴方は正に私にとって【完璧な大人】だった。


 このつまらない毎日も貴方を見ているだけで楽しくなる。私も早く貴方のような大人になって、退屈な日々を終わらせるんだ。


 そうこう考えていると電車は目的地の駅に着いて停車する。扉が開くと多くの人がここで降りるみたいで、私は人混みに押されながらも何とかホームに出られた。


 いつもの私なら、押して押されての人混みに苛立っていただろう。だけど、それも今日だけは特別に心を寛大にして許せる。


 ここまで来ると私の足は、一分一秒でも早くと走り出していた。体がもう我慢できないのだ。双葉に会えるというワクワクが、一切止まることなく走り続けあっという間に会場となるイベントホールまで辿り着いた。


 駅から走ってきたのにも関わらず、体力が有り余って息も切らしていない。日頃から真面目に体育の授業を受けてきた甲斐があった。


 この施設の中に双葉がいる。私は胸に手を当て深呼吸をする。


「…よしっ」


ごくりと唾を飲んで私は会場へと足を踏み入れた。


 しかし、残念なことに中は既に長者の列が出来ていて、再び大勢の人を目の当たりにする事となった。早めに出たつもりだったが、それでも遅かったようだ。並んでいる人は私の年齢の人よりも大人が多い気がする。


 流石は大人の人達。時間管理をしっかりと組んで、少しでも双葉に早く会えるようにしてたわけね。勉強になります。私も列に並んで待つ事にする。じっと真面目に待っていても仕方がないから、スマホでつぶグラかWeTubeでも見ておこう。




 …いつの間にか会場の奥まで来ていた。スマホに集中し過ぎて全く気付かなかったが、さっきから前の人達がスマホを前方に向けてシャッター音を鳴らしている。まさかと思って私は懸命に背伸びをして前を覗いてみる。


 いた。双葉だ。彼女はイベントホールの舞台上に立ち、順番が来たファンと交流を楽しんでいる。なんて綺麗なんだろう…さっきまでスマホを触っていた手もピクリと動かず、目の前でファンサービスをしていく女神に見惚れてしまっていた。


 そんな私の横に会場のスタッフが前からやってきて、声を掛けてくる。


「チケットの準備をお願いします」


「…あっ、は、はい!」


すっかり見惚れてしまっていた私もその言葉に慌ててポシェットに入れてあるチケットの用意をする。


…あれ?ポシェットの蓋が開いたままだったみたいだ。どうやら家から出る時から、あまりにも楽しみ過ぎて蓋を閉じるまでのチェックは怠ってしまってたらしい。恥ずかしい。私は開いたままのポシェットの中身を確認する。


「…え?」


…チケットがない。確かに今朝入れたはずのチケットがバッグの中から無くなっている。私は焦り、スタッフの目を気にしながら必死にポシェットの中身を何度も確認する。


ない。ない!本当にない!!


何故!?朝早く起きて母さんと一緒に確認して入れたのに!?


…嫌な予感がする。開いたままのポシェット、無茶苦茶に人混みに押された駅のホーム。もしかしてだけど、この二つからしてあの時にバッグから落ちてしまったのでないのだろうか?


「…あのー。チケットを」


違う。私の推理なんて今はどうでもいい。横から聞いてくるスタッフに私は汗を流し、必死に何度も見つからないバッグの中身を確認する。藁に縋る気持ちで周辺も見回すが、やはり落ちていない。


「あ、あの…その…」


焦りと緊張で言葉が上手く出せない。真顔で見つめてくるスタッフも今の私には鬼のように怖い。でも、見つからない以上どうする事もできない。私は声を震わせ恐る恐ると喋る。


「チ、チケット…何処かで落としてしまったみたいで……」


「あー…今回のイベントはチケットがないと参加が出来ないので…申し訳ありませんが、見つけてから並び直して頂けますか?」


「そ、そんな!!待ってください!!」


スタッフの無慈悲な対応に思わず大きな声を出してしまった。静かな会場に響き渡ったその声に、周りの視線が物凄く痛かった。私の声は舞台の上にも届いたみたいで、双葉は私の方を見て動きを止めている。こんな形で私の存在を覚えられるなんて…最悪だ。


「申し訳ありません。他の方のご迷惑になりますので一度外へ…」


スタッフは私が暴れ出すとでも思ったのだろう。そんな事言われなくても直ぐに出て行くよ。ここに居て解決出来ることじゃないし、何よりも周りの目が怖くて堪らない。


私はスタッフに言われるがまま、重い足で会場の外へと出ていった。





 僅かな希望を抱いて、走ってきた道や駅のホームに戻ってチケットが落ちてないか何度も歩き回った。しかし、見つかるわけがない。仮に落ちていたとしていても、あれはレアチケットだ。誰かが拾って、私の代わりに双葉と出会っているのだろう。


 結局、ファン交流会が終わる時間一杯まで探し続けたが見つかることはなかった。イベントホール前まで戻ってきた私はクタクタになりながらベンチに座る。イベントホールからは幸せそうな顔をしたファンの人々が次々と出て来るのが見れる。本当なら私も今頃あの人達と一緒の顔になれたのに。


 どうする?父さんや母さんに一度連絡をする?いやダメだ、こんな情けないことを報告するとまた子供扱いされる。恥ずかしい思いをするぐらいなら、このまま誰にも言わない方がいいだろう。


 …でも、今の私は誰かに甘えたい気持ちで一杯だった。最高の一日になるはずだった今日が、私のミスで最悪の一日に変わってしまったんだ。…泣いちゃダメだ、堪えろ、大人になりたいのなら、こんなので涙なんて流さない…はずだ。


「…グスッ。うぁぁ…!あぁ…ああっ…!!」


 …そう言い聞かせたが、ダメだった。私は俯いて子供のように泣き喚く。私はただ、双葉に会いたかっただけなのに。憧れの人に会いたかっただけなのに!


「…あっ!良かったー!まだいてくれたんだねー!」


「…えっ?」


聞いたことがある声が近くから聞こえる。私は声が聞こえた方へ顔を上げると、手を振りながら駆け寄って来る双葉がそこにいたのだ。


 彼女は変装をしていて周りは気付いていないが、沢山のコーデを見てきた私ならこの人が【パーフェクトモデル】だというのを、変装しても隠しきれない完璧で抜群の容姿で見抜けた。


「え!?あっ…う、嘘!?ふ、ふた…!」


私は突如目の前に現れたスーパースターに動揺をしている。そんな私を見て双葉は


「おー、可哀想に沢山泣いたんだね。…やっと会えたねー。よしよーし」


まるで私の母親のように優しい口調で抱きしめて背中を撫でてくれる。さっきから何が起こってるのか私には理解が出来なかった。


 ただ、彼女から伝わる優しい温もりに溜め込んでいた不安や悲しみが爆発して、赤子のようにワンワンと泣き叫びながら力強く抱き返す。せっかく貴方に会う為に気合を入れたメイクも、溢れ出る涙で台無しになってしまった。でも、貴方はそんなのを気にせず優しく撫で続け声を掛けてくれる。


「おーよしよし、もう大丈夫だからね」


「双葉さん…!双葉さん…!!私…!!」


「はいはい双葉はここにいるよー」


今日まで貴方に会ったら聞きたいことを沢山準備してきたのに。泣き喚く今の私は頭が空っぽでただ感謝して名を呼ぶ事しか出来なかった。


 彼女も名を呼ばれる度に反応してくれて、こんな子供のような私に立派な大人の対応を見せてくれた。やはり貴方は私が憧れる完璧な大人だった。





 漸く泣き止んだ私の隣に双葉はくっつくように座って、まだ背中を摩ってくれている。いつもは子供扱いされるのを嫌っていた私も、今ばかりは彼女の優しさに甘えていたかった。憧れの人が隣に座って気にしてくれている。これ程幸せな事はないだろう。


 でも、どうして私なんかに会いにきてくれたのだろう?チケットを持ってなかったのに。


「…双葉さん。どうして会いにきてくれたんですか?」


「貴方が並んでくれている時、チケットがないんだなって、舞台の上からでもしっかり見えたからね。そのコーデ、私がこの間着ていたのと一緒だから直ぐに見つけれたよ。私の為に合わせてくれたんだね?ありがとう♫」


太陽のように眩しい笑顔で私の今日のコーデを嬉しそうに褒めてくれる。あぁ、私が予想していた通りだった。ちゃんと見てくれていたんだ。…泣いてるところは見られたくなかったけど。


「でも、ごめんね。私、この後別の場所で仕事があるからもう直ぐ行かないといけないんだ。本当はもっとファンサしたいけど…今回は質問一つだけに応えるって事で許して!」


「そ、そんな!?双葉さんが謝る事ないですよ!悪いのは私なんですから!」


この人はきっと次の現場へ向かう移動時間ギリギリまで私を探してくれてたのだろう。さっきから明らかに彼女のマネージャーらしき人が、エンジンをかけたままの車の前で、遠くから私達をじっと見ているのだ。


 せっかく与えてくれた猶予、無駄には出来ない。一つだけ質問が出来るなら、私は何を聞くかは既に決めていた。


「双葉さん。貴方みたいな完璧な大人になるには、どうすればいいですか?」


「完璧な大人?」


「はい。私、16歳なんですけど早く大人になりたくて…」


「どうして?」


「だって、周りは中身がない幼稚な話しかしないし、両親は何かとあれば子供扱いして馬鹿にしてくるんです。だから、双葉さんのような完璧な大人になってもっと私の人生を煌めかせたい…というか…」


私の相談を相槌打ちながら聴き終えた彼女は、優しい手つきで私の頭を撫でてくる。子供扱いをされたくないとは言ったが…憧れの人に撫でてもらえるのは、率直に嬉しいものだ。


「そっかー。私は子供に戻りたいって思う時があるけどなー」


「え?」


「子供はね、大人のみんなから愛されるんだよ?今の私は大好きなファンが愛してくれてるからここにいる。愛して欲しいって、求めてるのは子供の頃と同じなんだよね。だから何しても愛してくれる子供時代に戻りたーい」


「それにさ。中身がない話をするのも案外悪くないよ?そういう友達、もっと欲しいって私思ってたりするし。あっ!後はね…大人になっちゃうと中々甘えることが出来なくなっちゃうんだ」


「うっ…」


彼女は悪戯するような笑みで、撫でていた手を止めて、私の目に残る涙を指で拭き取る。今の私が甘えたいと思っていたのがバレていたのだろう。


「要するに愛されて甘えられる間はしっかりと甘えて愛されて、ふざけて笑い合える友人を沢山作れる意味では、子供の頃の経験は大事だって事!大人に憧れるのも良いけど、子供の内は子供として生きることが大切だと思うよ。それが完璧な大人への道?」


そう言って彼女は立ち上がり背伸びをする。もう時間なのだろう、色々とまだ聞きたいことがあるが、流石にこれ以上は甘えられない。


「さて、無事に君にも会えたし…もう行かないとね」


「…本当にありがとうございました、双葉さん。この恩は絶対に忘れません」


私は立ち上がり腰を低くし頭を下げる。顔を上げると彼女は両手を広げ待ち構えている。


「…な、何を?」


「最後だしさ、ハグしようよ。…ほらー、言ったでしょ?甘えられる内に甘えろって」


「は、はい!」


私は言われるがままに飛び込むように抱きしめた。彼女もそれに応えてくれるようにしっかりと抱き返してくれる。


甘えられる内に甘えろ。そう言ってくれるのなら、最後に私の存在をしっかりと貴方に知ってもらいたい。


「…私の名前は【斎藤 奈穂美】です。いつか、Sunnaに入社して双葉さんと一緒にお仕事が出来るように、頑張ります…!」


「あはは、それは楽しみだよ奈穂美ちゃん♫」


彼女は抱きしめている手をゆっくりと離してマネージャーの元へ歩き出す。車に乗る寸前、私の方へわざわざ向いて手を振ってくれた。


「言ったからには絶対にSunnaに来てね!奈穂美ちゃんの事、待ってるから!」


「…!はい!」


私も手を振り返して双葉が乗り込んだ車を最後まで見送った。一時は最悪な一日だと絶望していた私に、貴方は救いの手を差し出してくれた。


やはり貴方は、私の憧れる完璧な大人だ。





 放課後。男子達は今日もスマホゲーム【パズスト】に夢中だ。協力するゲームだが、今日は人数が少なくて攻略が難しいらしい。


「私、協力しようか?」


「え?斎藤?お前パズストやってたの?」


「まーね」


私はパズストを開いて男子達に混ざる。


子供の内は子供として生きる。私の尊敬する人の教えに従い、たまには背伸びをするのも止めて、今を楽しもうと思うのだった。




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