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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第三幕
149/150

75話【アイリス】


 雲一つない快晴の空。太陽は街を照らし心地よい風が都内に吹き渡る。それは誰かにとって何でもない日であり、また誰かにとっては大切な日なのである。そう、この街では毎日、誰かの物語が動き出しているのだ。



フラワーショップ【RuRu】


「んー…どれが良いかしらぁん」


店内で沢山の花を見回り、難しい顔で悩んでいる聡。その高身長でかつ、白いスーツジャケットが似合うファッションへのカリスマ性は、他の客の人達も釘付けにする。


店員

「いかがされましたか?」


そんな悩み続ける彼の元へ、ウルフカットが良く似合う店員がやってきた。ここはプロに任せるべきだろうと思い、聡は相槌を打って店員に相談をする。


「ちょっと聞いてくれる〜ん?アティシの大事な大事なファンタスティックガールがぁ〜、海外へ行っちゃうのよね〜ん。だから〜国外へ旅立つ前に何か花束を贈りたいなぁ〜って感じぃ〜?ファンタスティックでしょ〜」


クネクネと気持ち悪く動く聡を、店員は愛想笑いで誤魔化し、一つの青い花を集め出して持ってくる。


「…あら?それって…」


店員

「アイリスです。花言葉は【希望】…そのファンタスティックガールさんは、もしやファッションの国、フランスへと行かれるのでは?」


「あらま、大正解よ。凄いわね〜どうして分かったの?」


店員

「貴方は有名人ですからね、その人の【元】専属スタイリストとして。フランスで活躍する日本人モデルは、きっと私達の【希望】となり輝き続けると思います。だから、この花を選ばせていただきました。どうですか?」


「ホーン…流石はプロね、1億ファンタスティックポイントをあげるわん」


店員

「結構です。では、この花でいいですね?」


「ええ、よろしくーん。…にしても貴方、アティシの扱い方がお上手ねぇ。どこかで会ったかしら?」


店員

「いいえ?初めてですよ?」


横から覗き込んでくる聡を適当に(あし)らい、店員は器用な手作業でアイリスの花束を仕上げて彼に渡した。


店員

「当店ご自慢の花です。帰国したら買いにきてと、あの人にも伝えておいてください」


「ちょいちょい。アティシは伝書鳩じゃないわよん。…まっ、この花束のクオリティは間違いないし…アティシから直々言っておいてあげる。アデュー♫」


ドギツイウインクを見せて聡は店の外へと出る。


 そんな彼のポケットから着信が入る。聡はスマホを取り出して、すぐさま耳へ当てた。


「ハァーイ、もしもし?…あーら、レオちゃん!どうしたの?…えっ、マジ?それはまたファンタスティックなデザインの予感ね。ジュリちゃん喜ぶんじゃなーい?…ええ、ええ。用事が済んだら直ぐに向かうわ」


彼は電話を繋げながらご自慢のスポーツカーに乗り込み、助手席には丁寧に花束を乗せて走らせるのであった。


………


MARUKADO本社


 常に情報が飛び交う芸能界。その真偽を見抜き雑誌やSNSを利用して発信を続けるこの大手出版社では、社員は今日も忙しそうに働いている。


 そんな中、小嶋はスマホを耳と肩で挟んで通話をしながら、パソコンと向かい合わせで仕事をしていた。手慣れた動きでキーボードへ入力していく記事の内容は、一年前に行われたスタコレの振り返りと、これから注目されるであろうモデル達の特集である。


小嶋

「はい…はい…いや、本当にそーなんですよ。森山ちゃ……さんは、海外に転勤が決まって彼女の仕事を引き継ぐ事になっちゃいましたしー……せっかく飲み仲間になるまで仲良くなれたんですけどねー…まぁ、仕方ないか」


面倒くさそうに話しながらも、小嶋の表情は嬉しそうにしている。彼の心は、常に前を見続け進む希望を抱いているのだ。


小嶋

「まっ、こっちは任せてくださいよ。森山さんに出世を先に越されないよう、この引き継いだファッション雑誌の特集も、ちゃーんとこなしてみせますから」


小嶋

「……あぁ、そうだ。そう言えばですけど黄彩さん。妊娠されたんですよね?いやー、本当におめでとうございます。今度、お祝いの品でも…」


ふとパソコンモニターから目を離し、喫煙ルームの方へと目を向ける。


 そこにはスーツジャケットを羽織り、今から外出をするであろう斎藤の姿が見えた。それを目にした瞬間、小嶋は慌てて立ち上がり、自分もジャケットを羽織り出掛ける準備を支度する。


小嶋

「ちょっ!?ちょっと斎藤先輩!!行く時に声をかけてって言いましたよね!?あっ、すいません黄彩さん!ちょっと急用ができたのでこれで…!!あっ!ちゃんとお祝い用意しますからね!!待ってくださいよせんぱぁーい!!」


電話を切り、こちらを全く振り向きもせず出て行く斎藤を、小嶋は大慌てで追いかけるのであった。


………


Sunna 撮影スタジオ


 次の雑誌に向けて、撮影を終えたダブル・アイ。スタッフが用意してくれた椅子へと座り、今回撮影した写りのチェックを待っているのだ。三人はリラックスした様子でスマホを見つめている。


二奈

「ジュリっぺー。今回着たブランド、マジ良くね?」


ジュリ

「ん、フィボナッチでしょ?私、ずっと前から好きなんだよね、ここの服。なんていうか、気紛れに着るには丁度良いデザインっていうかさ」


一馬

「ほう…ジュリちゃんがロックファッション以外に興味があるのは意外ですネ。二奈も気に入っているのなら、この後三人で店に行きまショウ」


二奈

「マ!?ひゃっほーう!ウレピー!流石はにーに!!…あっ、アツアツホットなお二人にウチは余計じゃね?」


ジュリ

「バーカ。余計なわけないでしょ。三人で行く方が楽しいに決まってるじゃん」


二奈

「ジュリっぺ神すぎマジゴッド。デレの極みにガチ尊み秀吉」


ジュリ

「うっせ」


一馬

「フッ…ですが、その前に。行かないと行けない場所がありますネ」


ジュリ

「…だね」


会話が弾む三人の元へ、スタッフが明らかに嬉しそうな顔で駆け付けてきた。


スタッフ

「お待たせしました!!只今オッケーをいただきましたのでこれにて撮影は終了です!お疲れ様でした!!」


スタッフの言葉を聞くと三人は立ち上がり、やっとだと思いながらノビをする。


ジュリ

「じゃ、行きますか」


二奈

「オッケー!って、ゆーか?にーにの運転だけど大丈夫?」


一馬

「何もしてないのでゴールド免許デス。安心してくだサイ」


ジュリ

「逆に怖いんだけど」


一馬の冗談を交えながら、三人はスタッフ達に頭を下げつつスタジオを出て行くのだった。


………


Sunna カフェスペース


 今日は休日だった春香と難波は、事務所のカフェスペースで待ち合わせをしていた。二人は出会った後、まだ時間に余裕があるので、テーブル席でコーヒーを飲みながら会話を楽しんでいる最中だった。


難波

「ハル、知っとるか?KENGOのオッサン、ダブル・アイのプロジェクトを成功したのをキッカケに、今年も個性の強いモデルを雇おうとしてるみたいやで」


春香

「へぇー、そうなんですか?…あっ、そういえばこの間オーディション開いていたけど、もしかしてそれだったのかなぁ」


難波

「せやせや。どんなんが来たと思う?くま系モデルに爆乳金髪モデル…それに酒豪モデルもや。…なんやねん、これ。モデルというよりか、個性のバーゲンセールかいな」


春香

「あ、あはは…確かに皆さん個性が凄いですね…」


難波

「せやろ?しかもな、KENGOのオッサンはみんな個性がええから選べへん言うて…一先ず全員雇うみたいやで?細田社長も頭抱えるやろなぁ…」


KENGO

「そんな事ないよ」


春香

「あっ!社長…じゃなくてKENGOさん!」


二人の元へアロハシャツをお洒落に着こなしたKENGOが現れた。社長という肩荷が降りた彼は、何処か楽しそうな雰囲気を出していた。


KENGO

「細田さんも今後の戦略として個性的なモデルは重宝している考えみたいだし、今回の企画は結構乗り気だよ」


難波

「ほーん、ならええか。…つーか、ここに来たってことはもう用事は終えたんやな?」


KENGO

「そういうこと。さっ、行こうか」


春香

「はい!!」


難波と春香は立ち上がり、KENGOと共に事務所から出て行く。駐車場へ着くと、KENGO自慢の愛車が停められており、一同は車に乗りこみ走り出すのであった。


………


成行国際空港 ロビー


双葉

「……」


一面のガラス張りから見える青空。ロビーの席から彼女は空を静かに見つめている。足元には大きなキャリーバッグを寝かせて、膝の上にはフランスのパンフレットが乗せられていた。



 去年のスタコレで再び輝きを見せた双葉。その圧倒的な実力を目の当たりにしたセリーヌは、モデル復帰した双葉へ再びMLの契約を持ちかけたのだ。


 当初、本人は乗り気ではなくこの契約の話も辞退するつもりだったが、細田がSunnaの新たな社長として任命されたことで、会社への恩返しを目的に引き受ける事となった。


 契約期間は三年。契約は以前と同様、新たな専属チームへの変更。聡や細田ともお別れなのは変わらない。暫くの間、日本へ帰っては来れないが、不思議と寂しい気分にはならなかった。


 何故なら、自分の愛が人々へ届き、そして人々は、自分の事を愛してくれているのが分かったから。どれだけ離れた場所にいようと、その繋がりは消える事はない。そんな想いが、双葉の心の支えになっているのだ。


そして、寂しくない理由はもう一つある。それは…


「…お待たせ」


双葉

「…おっ」


後ろから聞こえてくる呼び声。その声を聞いた双葉は立ち上がって振り返る。


双葉

「…貴方が新しい専属マネージャーさんかぁ。…ふーん…なーんか、そっくりだな」




双葉

「私の大好きな人に」


「そっくりも何も…」




黒木

「ご本人だからね」


双葉の前に立つのは、彼女と合流して嬉しそうに微笑んでいる黒木であった。


双葉

「もー。遅いよ、誠君。愛する人を放ってどこに行ってたのさ?」


彼女は両手を広げて黒木の側へと寄って抱き付く。彼もまた、優しく抱き返して答える。


黒木

「ごめんごめん。…今日、俺達を見送りに来てくれる人達を迎えに行っててね」


双葉

「誠君がここにきたっていうことはぁー…もうその人達も連れてきたってわけだね?」


細田

「そういう事よ」


「双葉さぁーん!!」


恵に車椅子を押してもらいながら、細田が現れる。細田の膝の上には、アイリスの花束が乗せられていた。


双葉

「恵ちゃん!細田さん!」


双葉は二人の登場を歓迎して、黒木から離れると其々ハグを交わす。幸せそうに喜ぶ彼女を、黒木はその場から微笑ましく見守る。


細田

「いよいよね。この花は聡さんから預かったものなの。受け取ってくれる?」


双葉

「あれ?聡ちゃんは?」


「恰好が不審者だから検査受けてる最中ですよ!」


双葉

「あはは、聡ちゃんらしいなぁ」


高田

「おーい!黒木ィー!」


「うむ、まだいたか」


黒木

「!高田…?それに、橘さんも…」


後から手を振り現れた高田達に、黒木は驚いた表情で駆け寄る。彼等は今日、仕事があるのを知っていたのでここへ来るとは思ってなかったのだ。


高田

「ふぅー。何とか間に合ったか」


黒木

「高田。どうしてここに?今日は出勤日だったんじゃ…」


黒木の質問にヤレヤレと仕草をして、彼の肩へ手を乗せる。


高田

「今日の出勤は和田さんに代わってもらったんだよ。大切な友人が海外に行くっていうのに、仕事なんかしてられねえっての」


黒木

「高田…」


時間を空けてまで自身の出発を見送りに来てくれた友へ、感謝の意を込めて黒木はハグを交わす。橘は胸を張って腕を組むと、相変わらずの傲慢な態度で喋る。


「間も無く飛行機が飛び立つ。それ即ち、」


黒木

「飛行技が空を飛ぶ、ですね橘さん。橘さんも来てくれてありがとうございます」


「…フンッ。弟子の旅立ちを見送るのも師匠の務めよ。…海外に行っても、マコマコと双葉殿ならきっと上手くやれるだろう。この国から、ずっと応援しているぞ」


黒木

「…ありがとうございます」


KENGO

「おっ、間に合ったようだね。良かった良かった」


双葉

「!みんな!!」


KENGOを先頭に、二人の旅立ちを見送りに次々と仲間が集まってくる。先程まで静かだったロビーも、気がつけば黒木達と親しみ深い人達で溢れ返っていた。



 一人一人、別れの言葉と応援の言葉を貰い、二人は幸せそうにこの時間を満喫する。だが、それもいつまでも続くものではない。フランス行きのアナウンスが聞こえてくると、二人はゲートの方へと向かい出した。


 ゲートを潜る前に、二人は今一度手を振り見送ってくれる人達へと振り返る。


双葉

「みんなー!行ってくるねー!」


細田

「体には気をつけて、双葉。行ってらっしゃい」


難波

「お土産待っとるでっつってな!!」


春香

「直ぐに会いに行きますからね!!」



双葉へエールを送る仲間と共に、黒木にも言葉をかけられる。



高田

「黒木ィ!双葉ちゃんの足引っ張んなよー!!」


ジュリ

「こっちは上手くやるんで、楽しんでらっしゃいな」


「双葉さん泣かせちゃダメだからねー!?」


黒木

「うん。…みんな、行ってきます」


今一度彼等へ手を振り返し、二人はゲートを潜って飛行機へと向かった。


 一同から少し離れて二人を見送っていた斎藤と小嶋、そして漸く追い付いた聡。三人は二人の背中を見つめながら語る。


小嶋

「…なんか不思議ですね。双葉さんのスキャンダルを追っていたはずなのに、こうして見送れる関係になれるなんて」


斎藤

「…双葉の、いや、双葉と黒木の輝きが、人々を繋いだんだよ。俺達が忘れていた心の中の光を、あの二人は思い出させてくれたんだ」


「あーら、アンタそんなロマンティックな事を言うオヂじゃないでしょーん?どうしちゃったの?熱出した?」


斎藤

「悪い、今の言葉は無しだ。どんだけ光を宿しても、このオネエとは繋がれねえわ」


「あーん!?んだとゴラァ!?」


斎藤

「あぁ?なんだぁやんのかコラ?」


小嶋

「ちょ、ちょいちょいちょい!?やめてくださいよ!!」


ジュリ

「何やってんだあの人達…」


二奈

「オヂ同士のガチ喧嘩は流石に草ァ!」


二人の姿が見えなくなっても、彼等は賑やき続ける。黒木達が居なくとも、彼等はずっと繋がり続けているのだろう。




 ゲートを超えて、長い廊下をキャリーバッグを引き摺って歩く。真っ直ぐを見続け前を進む中、ふと黒木は横目で双葉を見て話す。



黒木

「…みんなと別れるのは寂しい?」



双葉は前を見ながら首を横に振る。



双葉

「ううん、全然。だってさ、また会えるって分かってるじゃん?それに…私には誠君がいるからね」



黒木

「…そうだね」



双葉

「…?」



突然黒木は歩く足が早まって駆け足になると、双葉よりも先へと進む。



そして彼は振り返り、双葉へ手を向けた。



あの時、貴方が自分に差し伸べてくれた手を



今度は、自分が差し伸べるのだという想いの笑顔で。



黒木

「…行こう!双葉さん!」



双葉

「……うん!!」



彼女は走り出して差し伸べた手を強く握ると、二人は長い廊下を走って行く。




その握る手は、何時迄も決して離すことのない



【愛】の輝きに満ち溢れているのであった。



-Re:LIGHT 完-


1年8ヶ月の連載していたRe:LIGHTは本日をもって完結しました。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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完結お疲れ様でしたʕ•ᴥ•ʔ この物語読んで、何度涙ぐんだ事か…。 感動をありがとうございましたm(_ _)m
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