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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第三幕
146/150

73話【光芒】


RABi

「……待って!!」


黒木

「…?」


人混みに消えそうになった黒木を、ずっと抑えてきた感情に我慢が出来なかったRABiは、懸命に追い掛けて呼び止めた。


 黒木は振り返ると、RABiはハァハァと息を切らし白い息を口から漏らしている。さっきまで楽しそうにしていた彼女の顔は、今は険しく難しい表情をしていた。鈍感な黒木でも、RABiのその姿を見て、自分に何かを伝えたいのだと察する。


黒木

「…RABiさん?」


RABiは息を整える為に、何度も何度も深呼吸をする。どれだけ彼を待たせようと、この言葉を伝えるのには万全の状態にしたいのだ。


 漸く心は落ち着き、ずっと目の前で立って待っていてくれた黒木に目を合わせる。その揺れる事のない黒の瞳は、自分が今から言う言葉を真っ直ぐに受け止めてくれるだろう。



だからこそ、私は伝えなくてはならない。



RABi

「…マコッチ!」


黒木

「…はい」


RABi

「…ッ!わ、私…!!」




RABi

「…私!!このままじゃダメだと思うの!!」


黒木

「……えっ?」


RABiの叫びに黒木は戸惑う。


 それもそのはずだ。最初から最後まで問題もなく楽しんだはずの一日。不満なんて一つもない最高の一日を過ごして、後は帰るだけだというこの場面で、RABiからこんな事を言われるとは思うはずがない。


 何の前触れもなく自分の思いを吐き出した事にハッと気付いたRABiは、慌ただしく直ぐに黒木へ謝る。


RABi

「ご、ごめん!いきなりこんな事言って変だよね!?べ、別に今日の一日が楽しくなかったって訳じゃなくて…!!」


黒木

「あ……い、いえ、大丈夫です」


一先ずは今日の一日に問題があった訳ではないと黒木は安心する。


 だが、彼女が突然そんな事を言うぐらいだ。何かずっと前から思っていたものがあるのだろうと黒木は感じとる。一息吐くと、今度は彼から聞いた。


黒木

「…それで、RABiさん。このままじゃダメなのは…一体…?」


落ち着いた顔で尋ねてくる黒木。何も焦ってない彼の態度に、この時ばかりはRABiも少し苛立った。


 しかし、この人は今、自分の話を真っ直ぐに聞いてくれようとしている。だからこそ、心の奥でずっとモヤついているこの感情を、全てこの男にぶつけると決めた。RABiは黒木の両肩をしっかりと掴むと、真っ直ぐに目を合わせて自身の思いをぶつける。


RABi

「ねぇ、マコッチ?君は本当にそれでいいの?マコッチにとって、双葉さんへの思いはそんなものなの?」


黒木

「え…」


RABi

「今の双葉さんの状況を知ってる?自分の見せたくない部分がみんなに知られてしまって、物凄く叩かれているんだよ?そんな物凄く苦しい場面なのに、あの人は折れずに!めげずに!前だけを見て進み続けてるの!何故だか分かる?」


RABi

「それは、自分を愛してくれた人達へお返しをする為なの!あの人は!もう一度!失った光の中で輝こうとしているんだよ!?」


黒木

「……」


両肩を掴む手は、ギリギリと爪が食い込む様に力を増していく。鋭い痛みを感じようと黒木は少しも反応はしなかった。思いを吐いていく内にRABiも涙を堪え、顔を少しずつ俯かせていく。


RABi

「…でも!!それをみんなが分かってくれないの…!!双葉さんの暗い所が晒されて、心配する声よりも、批判する人が沢山いるんだよ!?何も悪い事なんてしてないのに!!」


RABi

「私には、私の事を愛してくれる大切なファンが沢山いる!…でも!今の双葉さんを愛してくれるファンは殆どいない!みんな【パーフェクトモデル】としか双葉さんを見てないから!!」


RABi

「こんなの…!私が求めてる【ハッピーエンド】なんかじゃない…!!双葉さんには、【本当の自分】を愛してくれる人が必要なの…!!」


RABiは溢れる涙を流しながら顔を上げる。そして、黒木の顔を見て問いかける。


RABi

「ねぇ…マコッチ...ファン感謝祭で再会したあの時、教えてくれたよね?双葉さんは自分にとっての【特別な存在】だって。私、覚えているよ。マコッチが双葉さんの事を語る時さ、その瞳はすっごくキラキラしていたのを」


黒木

「え……」


RABi

「こんな事…本当は言いたくないんだけどさ。今のマコッチからはそういうのも感じてこないんだ。…本当に今日は楽しかった。マコッチの助けになろうって思ってたのに、本番前の最高の息抜きになったって、物凄く満足しているんだよ」


RABi

「…でも、マコッチは、本当は楽しんでなんかないんだって分かってるんだよ。…だって、あの時見せてくれた…輝かしい顔を…一日一緒に居ても…見れなかったんだから…」


黒木

「!…ま、待ってくださいRABiさん。俺、今日の事は本当に楽しかったって…」


RABi

「私だってそう思うよ!…でも!貴方の隣に立つのは、私なんかじゃないんだ!!」


黒木

「!!」


肩を掴む手をゆっくりと離し、RABiは一歩二歩と後ろに下がる。彼女は涙を流しながらも、黒木に心配をさせたくないと、無理をして太陽のような笑顔を見せた。


RABi

「…お願い、マコッチ。私の為に…そして、双葉さんの為にも……どうか思い出して?あの人の太陽になれるのは…」


RABi

「君しかいないんだから」


黒木

「…!RABiさん!」


思いを言い切ったRABiは、黒木を置いて走り去ってしまう。彼に呼び止められようと、彼女は決して振り返る事はなかった。



 一人取り残された黒木。街道の真ん中で立ち尽くす黒木を、通行人は誰も興味を示す事なく交わして横切っていく。


 何がいけなかったのだろう。RABiを追いかけるべきか。さっきまでの楽しい時間が全て吹き飛び、彼はただただその場で必死に考えてる。



一つ明確なのは、RABiの言葉によって


心の奥に広がり続ける暗闇の海へ


光が差したこと。



 それは、海の真ん中で放置されていた小舟に【希望】を与える光。心の内にいるもう一人の黒木は小舟から体を起こしてその光を見ると、再び(かい)を手に取って光に向かって懸命に漕ぎ出す。


そして、それは黒木の中で一つの記憶がぼんやりと蘇る。その記憶は、彼のスマホの中にも残っていなかったが、彼にとってはとても大切な場所。


黒木

「…そうだ。まだ行ってないところがある…」


ずっと動かなかった黒木の足は、彼の意思ではなく、勝手に歩き出す。まるで、何かに惹きつけられるかの様に。奇怪な事が起きているが、何も不思議には思わなかった。黒木自身も、この足が辿り着く先を見たいからだ。


 空は真っ黒な雲で覆われ、雪が本格的に降り出す。肩に積もる雪を手で払い、通行人を次々と避けて足を動かし続ける。


 頬に鋭く冷たい空気が触れ、白い息が口から漏れている。日も暮れて温度がより一層冷えていくのが伝わってくるが、黒木は少しも寒いと思わなかった。光の先の答えを求め、彼の心は寒さも忘れる程に燃えているのだ。


黒木

「…!」


勝手に動き続けていた足は、突如と自由に動かせる様になり、黒木は思わず立ち止まる。恐らく、この付近に何か答えになるものがあるのではないかと、彼は懸命に辺りを見回した。


黒木

「!…これは…」


黒木は、自分の隣に建っている店に気付きゆっくりと顔を上げる。



彼の隣に建っていた店



屋根に取り付けられている看板には



【サンドルチェ・カフェ】



と書かれていた。



 その瞬間、黒木の内に秘める暗闇の海を照らし続けていた光は、大きく輝きだして海を輝きで包み込んだ。



ここは


彼女と初めて出逢い


全てが始まった


【原点】の場所なのである。



黒木

「…ぁ…ぁあ…!」


黒木の中で止まっていた【記憶】が動き出す。



道を迷っていた彼女を助け



カフェで二人きりで話した夢の時間



彼女の大切な人から引き離されかけても



自分の意思で一緒にいたいと告げた



彼女の【嘘の姿】に気付き



心を閉ざして目の前から消えてしまっても



決して諦めずに探し続けた夏刻(なつこく)



彼女の全てを愛し



共に【家族】になる道を歩みだした



満天の悦び



数々と蘇る記憶。ずっと暗闇だった心の海を照らしてくれた【救世主】




それは穢れなき輝きを放つ



光輪際(こうりんざい)の一番星





【双葉】なのである。



黒木

「…ッ!」


黒木は感極まり、瞳からはボロボロと涙が溢れ、体はブルブルと抑えられない感情で震えている。



会いたい、今直ぐに彼女と、もう一度


黒木

「…ッ!行かないと!」


たった一つの思いを胸に宿し、彼は全力で走り出す。通行人にぶつかりそうになろうと、ハァハァと息が乱れてその場で転げ倒れそうになろうとも、彼は無我夢中に走り続けた。



今自分が出来る、一番の方法を選ぶ為に。


………


警備員

「…双葉さん。許可を得ているとは言え、流石にこれ以上残られるのは……」


双葉

「うん、そうだよね。…ごめんなさい。私の我儘に付き合ってもらって」


警備員

「いえいえ。…今は大変だと思いますが、明日は頑張ってください。応援してますよ」


双葉

「…ありがとうございます」


たった数箇所の照明だけで照らされていたTMAメインホール。双葉は最後の自主練を終え、付き合ってくれていた警備員に御礼を伝えると会場を後にした。


 外はすっかり真っ暗だ。雪も降り注ぎ、地面は少しずつ積もり出している。寒さを凌ぐロングコートを羽織り、既に迎えに来てくれている聡の車へ向かう為に駐車場の方へと歩いていく。自分以外、誰もいない寂しい場所だ。


「待ってぇー!!」


双葉

「!」


そう思っていたが、遠くから自分を呼び止める大きな声が響き渡り、思わず振り返った。そこには、タクシーから降りてこちらへ手を振りながら走ってくるRABiの姿が見えた。


双葉

「…RABiちゃん?」


RABi

「ハァ…ァ…!ハァ…!ま、間に合ったぁー!!」


息切れを起こしながらも双葉と合流した彼女は、膝に手を乗せて疲れ果てていた。今日は会う事がないだろうと思っていた双葉は、意外そうな顔で彼女を見つめる。


双葉

「どうしたのRABiちゃん?そんなに慌ててさ?それに、ここに居るのがよく分かったね」


RABi

「な、難波さんに教えてもらったんです…!今日はずっとTMAに居るって…!…っ、よ、良し…もう大丈夫…うん…多分…」


双葉

「…?」


ボソボソと独り言を呟くRABi。深呼吸で充分に体を整え終えると、両膝に付いていた手を離してパンッと自分の顔を叩く。


 気合いを入れる動作を見せた後、彼女はキリッと目を鋭くして双葉に指を向けた。


RABi

「い、いい加減にしろぉー!!!」


双葉

「……」


双葉

「……え?」


いきなり指を向けられたと思ったら、ビリビリと響く怒号を浴びせられる。何が起きたかも頭が追いつかない双葉の目は点になっていた。


 だが、双葉が呆気に取られていようが、RABiは続けて怒鳴る。普段怒り慣れていない故、若干声を震わせながらも、自分の全ての想いをぶつける様に叫ぶのだ。


RABi

「私が進む恋の道は、私自身が決めるものなの!例え双葉さんであろうと、私の恋の行方を自分の価値観の見方だけで押し付けないでほしいってワケ!!」


RABi

「【充分に愛を貰ったから大丈夫】じゃないでしょ!?双葉さんはね、これから先も愛を貰ってもいいんだよ!?いいや!貰わなきゃいけないの!!それが、私が求める【ハッピーエンド】なんだもん!!」


RABi

「いい加減素直になりなよ!?スタコレに出るのはファンの為かもしれないけどさ!?そんなファン以上に、見てほしい人がいるんでしょ!?」


RABi

「マコッチ……じゃない!黒木さんの為に輝くって!もう一度あの人に振り向いてもらう為にって!!そう思ってよ!!双葉さん!!」


双葉

「…RABiちゃん……」


息継ぎ無しの想いを吐き出した時、RABiはハァハァと再び息を荒くして呼吸が乱れていた。


双葉

「…ふ、ふふ…あははっ」


RABi

「…!」


少しの間、この場所は静まり返っていたが、双葉は突然笑い出す。自分は必死になって想いを吐き出したと言うのに、この人は何事もなく笑うのかとRABiは動揺を隠せない。


RABi

「な、何がおかしいんですか…?」


双葉

「ううん…おかしくなんてない。RABiちゃんの優しさに触れてさ、凄く嬉しくて思わず笑っちゃったんだ」


RABi

「や、優しい…?何言ってるんですか?私は、双葉さんに勝手に恋の行方を決め付けられたのを怒って……」


双葉

「だったらさ」


双葉

「…どうして、そんなに悲しい顔をしているの?」


RABi

「え…?」


RABiは双葉から指摘されるまで気付かなかった。


 彼女は今、アイドルとして見せてはならない程、哀しみに満ちた表情で涙に溢れ返っていた。


 本当は気付いていたが、認めたくなかったのだ。自分が好きだった相手(クロキ)を、【ハッピーエンド】の為に引き下がる選択をしてしまった事を。そこに触れてほしくなくて、怒りで隠そうとしたのに、双葉には全てお見通しだったのだ。


双葉

「…黒木さんの事が好きなのに…私の…いや、私達の幸せの為に、引き下がるんだね。…もう誰も悲しませないって決めてたのに…そういう所、RABiちゃんには敵わないや」


双葉はゆっくりと歩き出して彼女の前に立つ。頭に積もった雪を優しく手で払い、両手を彼女の背中に回して抱き寄せる。


 二人の体は冬の寒さで冷え切っていたが、密着するとほんのりと温かい。その温もりが今はとても恋しく、ずっと抑えようとしていた感情が爆発してRABiは赤子の様に泣き噦りながら双葉を力強く抱き返すのだった。


RABi

「うあぁぁぁ…!!あぁぁっ!!」


双葉

「RABiちゃん…私なんかの為に…本当にありがとう」


RABi

「なんかの為じゃないですよぉお!!わ、わた、私には大好きな沢山のファンがいるけどぉ〜!!ふ、双葉さんには、黒木さんしかいないからぁ〜!!そんなの…!そんなの…!!」


RABi

「だ、ダメに決まってるじゃないですかぁ〜!!ウワァァアアア!!」


双葉

「…ありがとう、RABiちゃん。…私、迷わないよ。RABiちゃんが繋いでくれたこの奇跡…」


双葉

「必ず超えてみせるから」


泣き喚くRABiの背中をずっと摩り続ける。誰もいない路上で、誰にも知られる事もなく、二人の友情はこの寒い夜を共に温めるのであった。


………


 一方、Sunna事務所。SNSを通して燃え続ける炎上騒動は未だに収まる事はない。夜になろうと対応に追われる社員達が目に映ると、KENGOは申し訳ない気持ちで溜息が止まらなかった。


 そんな酷く疲れた社長の様子を見兼ねた秘書は、彼に提案をする。


秘書

「社長。今日はもう遅いので一旦帰りましょう。この後の対応は我々に任せて休んでください」


KENGO

「でも…」


秘書

「大丈夫です。誰も社長の事を責めませんよ。最近までずっとのんびりと仕事をしていたぐらいです。偶にはこういった緊急事態で、怠け切った体を起こすべきでしたので」


珍しく冗談を言う秘書に、疲れている自分に気遣われているのだとKENGOは察した。


KENGO

「こんな事は起こるべきじゃないんだけどね……だけど、君の言う通りだ。俺がいようといなくとも、この事態は収まることはない。一度帰って、今後の対応について考えることにするよ」


秘書

「それでいいかと。…では、車を用意しますね」


自分の提案を聞き入れてくれた事が嬉しかったのか、秘書は優しく微笑んでKENGOを送迎車の元まで連れて行く。


 KENGOは乗り込み、車は発進してSunnaの駐車場から出ようとする。ふと、車窓からSunnaの出入り口に立っている警備員へ目を向けたその時、その思わぬ光景にKENGOは慌ててアクセルを踏み込もうとする運転手に声をかけた。


KENGO

「ごめん!降りるよ!」


運転手

「え?」


そう言ってKENGOはシートベルトを外し、大急ぎで車から飛び出してSunnaの出入り口の方へと向かった。


 彼が目にした光景。それは警備員と揉めている男性の姿である。側から見れば、この炎上で首を突っ込んできている迷惑な人間の様に見えるかもしれないが、KENGOには違った。何故なら、その男が誰なのかを彼は知っているからだ。


警備員

「いやー、君はカッコいいし身長も高いからモデルにはなれそうだけどねー…前にも言った気がするけど、なりたいなら直接じゃなくて専用受付から〜…」


黒木

「そうじゃないんです!社長に会わせてください!!それだけなんです!!お願いします!!」


KENGO

「…黒木君!」


黒木

「…!KENGOさん!!」


KENGOの呼び声に、黒木はこの時を待っていたと言わんばかりに嬉しそうに反応して振り返った。


 黒木の息はとても乱れていて、真冬だというのに額の汗もダラダラと垂れている。その様子から、今の今までずっと走っていた事が分かった。そこまで必死になってSunnaへと訪れた黒木に、KENGOはまさかと思いながら彼へ話しかける。


KENGO

「黒木君…もしかして…君……」


黒木

「KENGOさん…!急に来て悪いのですが、どうか教えてください!双葉さんは今、どこに居るんですか!?」


KENGO

「…!」


彼の必死な質問に驚きながらも、KENGOは静かに首を横に振る。


KENGO

「…残念だけど会わせられないよ。今の彼女は人々から大嘘つきだと言われ大炎上している身なんだ。今から彼女の元へ向かおうとすれば、それを尾行してくる者もいる。この状況下で双葉ちゃんの居場所が特定されるのはマズイ。だから…」


黒木

「だったら!!」


KENGO

「…!」


黒木

「だったら!!明日のスタコレに行かせてくれませんか!?無理を言ってるのは承知です!…でも!でも!!今、双葉さんに会わないと…!俺…!」


黒木

「二度と双葉さんと会えない様な気がするんです!!だからどうか…!!お願いします!!」


黒木は深々と勢いよく頭を下げる。


 つい最近まで記憶を無くし、魂が抜けたかの様に淡々と喋っていた男が、まるで別人に変わった様な姿となっている。否、この姿にKENGOは見覚えがあるのだ。


そう、それは正に双葉の全てを愛した男の姿である。


これは聞くまでもないが、彼の声から直接聞きたい。


そう思ったKENGOは、頭を下げ続ける黒木にある質問をする。


KENGO

「…聞かせてくれないか?どうしてそこまで彼女に会おうと必死になるんだい?」


その質問に黒木は顔を上げて、真っ直ぐにKENGOの目を合わせて堂々と答えた。


黒木

「あの人は…!」


黒木

「双葉さんは…!!俺にとって…!!」





黒木

「【特別な存在】だからです!!!」





KENGO

「……」


KENGO

「……遅かったじゃないか」


記憶を取り戻し、感情が蘇った黒木の言葉。この純白の答えを、ずっと自分は待っていたのだろう。己の力で復活した彼の勇敢なる姿に、KENGOは嬉しさのあまり涙を流していた。


 信頼出来る彼の頼みを受け入れる。それこそが、双葉とSunnaを助けてくれた恩人への最大の恩返し。KENGOは涙をハンカチで拭き取ると腕を組んで、社長らしく振る舞って見せる。


KENGO

「君の想いはしっかりと伝わったよ。…だけど、スタコレは多くの企業と事務所が関わる超大規模な祭典。君の個人的な理由だけでは、スタコレの会場へ入れる事は出来ない」


黒木

「…ッ…そう…ですか…」


KENGO

「君の個人的な理由だけ、ではね?」


黒木

「…?」


KENGOは得意気にニヤリと笑う。その顔は正に、この俺に任せておけと言わんばかりに自信に満ちていた。


KENGO

「俺に任せて。黒木君の想いは、決してここだけで終わらせやしないさ」


………



そして、遂にその時を迎えた。



人々が心から待ち望んだ夢の華舞台。



PM12:00 TMA会場 晴天


【Starlight Collection】


開催の時である。


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― 新着の感想 ―
黒木ちゃん!おかえり(*´∀`*) 読んでて涙出て来ちゃった…。
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