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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第三幕
134/150

64話【亀裂】


…昼間のとあるニュース番組



アナウンサー

「ええと、速報!速報です!一年前に人々の前から姿を消したあの伝説のモデル!!【パーフェクトモデル】こと【双葉】さんが、モデルを復帰することをSunnaから発表されました!!」



…WeTubeのとあるライブチャンネル


リュウミヤチャンネル

「えっ!?双葉復活ってガチ!?うわ、マジか!!俺チョー興奮してきたんだけど!!ハンハンやってる場合じゃないって!!」



⚪︎kz 双葉復活マ?

⚪︎ベーべマン ええええええ

⚪︎ノンノン(ランクsss) 双葉って誰?

⚪︎空論冗談太郎 ↑嘘やろ?

⚪︎ひばり ニュースでも速報で放送されてる!



リュウミヤチャンネル

「ちょ、今だけ記事読ませて!!終わったらゲーム再開すっから!!」



…都内のとあるコンビニ前


学生A

「タレント名は【星谷 双葉】…?星谷ってなんだろう」


学生B

「きっと星のように輝く意味だって!いやマジやばいって!このタイミングならスタコレのサプライズ枠あるんじゃね!?」


………


 何でもない平日の昼間に突如と発表された双葉の復帰。Sunnaは会見を開くことなく、つぶグラ、公式サイトのみで発表された。この時代に置いてこれだけの小さな規模で発表しても、双葉の認知度があれば人々が拡散して一瞬で話題になるからだ。


 予想は的中。発表をしてから1時間も経たない内にこの朗報は日本中に広がっていく。街行く人々は双葉の話題で盛り上がり、ニュースサイトは何処もかしこも速報として取り上げる。用事をしている人達でさえ、急いで詳細を知ろうと手を止めて夢中になっていた。【パーフェクトモデル】という存在は、人々を虜にするのは辞めた今でも変わりないのである。


 当然、この突然の発表にSunnaには多くのメディアが押し寄せて問い合わせも殺到。だが、この一連の流れをKENGOは分かっていたように、警備員を沢山配置して押し寄せるメディアを追い払い、電話に関しても事前に用意された録音メッセージのみ。世間の人々が続報を急かそうと、これ以上の公表は控えていたのだ。


 肝心なKENGOはというと、聡の屋敷へと訪問していた。彼はソファに座って寛ぎ、机に置いたノートPCのリモートで会社の状況を秘書から聞いている。


秘書

「社長が事前に用意してくれた対策によって、今の所は問題は起きておりません」


KENGO

「そっか、対応に感謝するよ。悪いけど、もう少しの間そっちは任せるね」


秘書

「わかりました。……それと、先程北野会長から電話がありまして…例のスタコレの件で、調整を行いたいとのことで…」


KENGO

「…そうか。北野会長も乗り気になってくれてるみたいだね…嬉しい話だ。分かった、この後直ぐにこちらから連絡するよ」


秘書

「よろしくお願いします。…では、失礼します」


リモートを終了するとKENGOはノートPCを閉じる。手が空いた彼の元に細田が車椅子を操作して近付いてきた。


細田

「社長、双葉を再び採用していただきありがとうございます」


そう言って深々と頭を下げる彼女に、KENGOは首を横に振って笑顔で返す。


KENGO

「いや、寧ろ感謝させてほしい。彼女がモデルとして復帰出来たのは周りの人達やファンの声…そして、黒木君が残してくれた意思があってのこと。その繋がりがなければ、復帰というのも難しかったと思う」


KENGO

「それにしても…【星谷 双葉】…か。双葉ちゃんは、MIKAの意思を受け継いだんだ。……本当に成長したね、あの子は」


星谷家の意思を継ぐのを嬉しそうにしているKENGO。細田は相槌を打つ。


細田

「…美花の最後は、今でも悔やんでも悔やみ切れません。…ですが、双葉に愛が届いた事で、彼女も…星谷家が少しでも救われたんじゃないかなと思っています」


KENGO

「…うん。そうだね。…ところで、双葉ちゃんは何処に?」


細田

「はい。彼女なら今…」


………


PM13:44 喫茶店【飛行船】


 誰もいない寂しい店内。貸切のこの場所では双葉と小嶋はテーブルソファに座って対面していた。


 二人が会ったのはただの雑談ではなく、記者とモデルとしての(れっき)とした取材だからだ。復帰をする事を世間に広める前、事前に小島に連絡を取り復帰の後押しとなる記事を書くのを潔く引き受けてくれたのである。


 復帰への思い、モデルに戻ればまずはどんな仕事をしたいのか…敢えてネガティブな質問は避けて、復帰する事を祝福する様に、読んでいてファンが気持ちの良い内容へと纏めていく。一通り記事として出来る量の質問を終えると、小嶋は緊張が解けて思わず溜息を吐いた。


小嶋

「これで取材は終わりとなります。お疲れ様でした」


深々と感謝の意を込めて頭を下げ、顔を上げた時にはニッコリと笑っていた。


双葉

「取材を引き受けてくれてありがとう、小嶋さん」


小嶋

「いえいえ。逆に感謝させてください!僕は双葉さんが復帰を決めてくれただけで超嬉しいっすよ!この記事は纏まり次第、直ぐに載せれる様に努めますね!」


双葉

「うん、よろしくね」


小嶋はウキウキと機嫌良さげに帰る支度を進めだす。そんな楽しそうにしている小嶋を見つめながら双葉は無表情で語りかける。


双葉

「ねぇ小嶋さん」


小嶋

「はい!何でしょうか!!」


双葉

「…私のお父さんの事なんだけどさ」


小嶋

「エッ」


双葉の口から出た秀樹の存在。嫌な予感を感じ、思わず手を止めて双葉の方へと振り返った。


小嶋

「ええと…お父さん…ですか?」


双葉

「うん。…今、私のお金で海外に住んでるんでしょ?」


小嶋

「…はい。その通…」


双葉

「嘘だよね?」


小嶋

「……」


【その通りです】


と、嘘を吐くのを止めるように、双葉はキッパリと言う。あまりにも濁さず遠回しにも聞かない彼女に、小嶋は声が詰まった。


小嶋

「え、えと…ど、どうして…?」


双葉

「小嶋さんが私に伝言を伝えた日。伝言を言う前に一瞬声が震えてた。それに、今答える時も動揺してる様に瞳が揺れてたよ?…それって、嘘に付くのに慣れてない人が見せる【隙】なんだよね」


見破る彼女に誤魔化しは効かないらしい。小嶋は苦く笑った。


小嶋

「…は、ハハ…流石ですね、双葉さんは。相手を見る目が鋭いとは聞いてましたが…まさかここまでとは…」


双葉

「【パーフェクトモデル】を演じるのに、相手が何を求めているのかをずっと観察していたからね。それに、【嘘】で生きてきた私には【嘘】は通用しないんだ」


双葉は嘘がバレて焦っている小嶋を気遣う様に笑顔を作って、彼の心を安心させる。


双葉

「別に小嶋さんが悪い人だって思って聞いたわけじゃないよ。貴方は良い人だって事も見てて分かるから。…だけど、教えて欲しいの。どうしてお父さんの伝言が【嘘】なのかを」


小嶋

「…分かりました」


小嶋は真っ直ぐな瞳で見てくる双葉に屈して、ソファに座り直すと秀樹の真実を語りだす。


………


 秀樹がしてきた裏工作。悪事による死の末路…そして、最後に放った遺言の思い…最低な父親の最後を聞いても、双葉はまるで動揺していなかった。彼女が秀樹に対する恨みが余程強いのか、反応も薄い双葉に小嶋も不安な目で見る。


小嶋

「…あの」


双葉

「…?」


小嶋

「やっぱり…恨んでますよね?」


小嶋の質問に少し俯く。


双葉

「うん。……だけど」


小嶋

「…?」


双葉

「今は凄く複雑な気持ちになってる……アイツがやってきた事は絶対に許せない。…でも、それでも、アイツが居なかったら、私は産まれてきてなかった。産まれて来てなかったら愛される経験も、誰かを愛する経験も、私は出来なかったんだ」


双葉

「それに……アイツも結局私と一緒で愛に飢えてたんだね。お母さんも、アイツも、そして私も……其々が愛されたいと願ってた……私達はやっぱり、血が繋がった家族なんだなぁ…」


小嶋

「双葉さん…」


双葉は顔を上げて、太陽の様に眩しい笑顔を見せる。


双葉

「小嶋さん、本当の事を教えてくれてありがとう!アイツの遺体は…全てが終わったら、ちゃんと名乗り出て引き取る事にするから」


小嶋

「は、はい。…あっ、そうだ!後、これを渡しておかないと!」


双葉

「…?」


小嶋は何かを思い出して、慌てて鞄からある物を取り出して机に置く。それはスタコレの特別招待チケットだった。


双葉

「…?これは?」


小嶋

「はい!今回のスタコレによる特別招待チケットです!前回のスタコレが中止した際、前回購入者は手続きさえしていれば席確保は出来たのですが…恐らく黒木さんは手続きしてないんじゃないかなって」


小嶋

「だから、それはKENGO社長から預かってきたチケットです!これを黒木さんに渡して今一度双葉さんの輝く姿を…!!」


小嶋が説明している最中、双葉はチケットを手に取ると小嶋に押し付けた。


双葉

「…ごめん。これは受け取れないよ」


小嶋

「え、ええっ!?」


双葉

「勿論黒木さんが見に来てくれるのなら嬉しいけどさ?それって、結局は誰かの提案で動いているだけに過ぎないから、黒木さんの心の奥にまで私の想いは響かないと思う」


双葉

「…だから、今度は黒木さんの意思で、私を見つけてほしい。記憶を無くしたあの人に、もう一度見つけてもらえるなんて不可能な話かもしれないけれど……私と黒木さんの初めての出逢いは、数々の奇跡が導き出したものなんだ」


双葉

「私は、もう一度奇跡を起こしてみせる。もしもあの人の心に二度と届かなかったとしても、私はそれを受け入れるよ。黒木さんを信じ切れず、一度見放してしまった私が悪いんだから」


小嶋

「いや…でも……い、いえ、双葉さんがそうするのなら僕は止めません」


突き返されたチケットを鞄に戻して不服そうにしている。そんな二人の元にマスターが現れて二人分の昭和プリンをテーブルの上に置く。


マスター

「まぁまぁ。今は双葉さんの復帰を喜ぼうじゃありませんか。これは、私からのお祝いです」


小嶋

「おお!いいんですか!?丁度甘いのを食べたかったんですよね!」


双葉

「ありがとうマスター」


二人はマスターが用意してくれたホイップがたっぷりと乗ったプリンを堪能し、取材後の疲れを甘さで癒すのであった。


………


PM13:56 TMAメインホール


 一方、双葉の復帰報道はスタコレのリハーサル中であるTMAにも直ぐに広まって話題になっていた。このタイミングでの復帰は、スタコレのサプライズ枠を狙いだということを人々は理解していた。


 ある人は涙を流す程喜び、またある人は自分の魅力が潰されない様に気合を入れる。だが、先日出したばかりの最後の写真集の件もあり、この早すぎる復帰を受け入れられず否定的に考える者もいた。どちらにせよ、伝説の再来はこのスタコレの関係者全てに影響を与えるものとなっていた。


 それは、TOP4も同じである。自主練途中で届いた速報に、一旦練習を止めてバックステージに各自集まる。其々スマホを片手に、様々なサイトを利用して双葉の復帰の記事を読んでいた。


難波

「これは…えらいこっちゃやな」


姫川

「はい。…まさか、このタイミングとは」


RABi

「やっぱりスタコレに戻ってくるってことなんだよね?うわぁ…そっかぁ…双葉さんにも何か思う所があったんだろうなぁ…」


難波

「…?何かって何やねん」


RABi

「え?…あーいやいや!何でもないよ!気にしないで!!」


難波

「?そうか?」


RABiは笑って誤魔化す。


 モデルとして憧れの存在であった双葉が復帰した事は素直に嬉しいが、それと同時に先日の件もあってRABiの心は複雑な気持ちであった。RABiはニュース記事を読むのを止めて着信履歴を開く。そのリストの中に黒木の名前が載っていた。


 実は数日前、黒木から電話が掛かってきていたのである。



『もう一度会ってくれませんか?何かを思い出せないか試してみたいんです』



そう言われ、お互いが次の休みの日に会う予定を組んでいた。


 双葉からは彼を託され、自分の恋心に従っていいのか…RABiは周りの仲間に相談せず一人で抱えて悩みこっそりと誰にも気付かれずに溜息を吐く。本当にこれで良いのかと、彼女の中でまだ迷っているのだ。


 すると難波は顔を上げて辺りを見回し、ある事へ気付いた。


難波

「あれ?ハルがおらへんやん」


「ちょっとぉ〜ん!プリプリガールタティ〜ン!」


そしてそれと同時に、耳障りな甲高いキリキリとした呼び声が聞こえてくる。


 声がする方へ一同が振り返ると、ギンギララメの主張が激しいシャツと、スベスベの生足を見せつけるかのようなショートパンツを着熟すファンタスティックの登場である。その奇抜なファッションは、見る者をドン引きさせた。


難波

「ウワ…」


「ウワ…って、何よぉ〜ん!!ファンタスティックなアティシをもっと受け入れてちょうだぃん!!あっ、皆さんお久しぶりです。丁度ファンタスティックが恋しかったでしょ?ンーマッ♡分かってるって⭐︎」


難波

「いや誰に向かって話しとんねん……」


「…って、そうじゃなくってぇ!!貴方タティ、ハルちゃん見なかった?さっきから探してるんだけど何処にもいなくてマイッチングなの!」


RABi

「え?聡ちゃんの方にもいないの?」


それを聞いて姫川は何やら嫌な予感を直感で感じる。そして、直ぐ様一同へ提案した。


姫川

「…探しに行きましょう!」


………


 人通りがないバックステージの廊下。ポツンと置かれたベンチに春香は顔を俯かせて座っていた。彼女が座る隣には電源がついたままのスマホが置かれている。表示されているのは、誰もが注目している双葉が復帰した内容の記事だ。


【憧れだった】人の記事を見て、春香の脳内ではドロドロとした記憶が蘇っていく。



…撮影スタジオ



『はい、OKですね!いやー、素晴らしい出来だと思います!流石は今Sunnaが押してるだけありますね!』


『【パーフェクトモデル】程とは言えませんが……このクオリティなら全く問題ありません!』



…バラエティ番組の収録後



『春香ちゃん…だったね?君、この後予定はあるのかい?あぁいや、食事でもどうかなって?…そう、忙しいのか。それは残念だ』


『【パーフェクトモデル】なら予定を調整してでも付き合ってくれるんだがね。…あぁ、別に嫌味で言ってるわけじゃないよ?君も今じゃ人気モデルだから忙しいだろうしね。また今度付き合ってよ』



…JBM賞贈賞式のパーティー



『今年は二名が表彰されるなんてね。JBM賞贈賞式も落ちたものだよ。この式典はその年のモデルの頂点を決めるものだというのに……それを選べないからとこんな異例の式にするなんて』



『【パーフェクトモデル】が現役だったら、きっと今年も一人で表彰されて三年連続という偉業を達成していたんだろうな。…まぁ、とにかく表彰はされたんだ。君も喜びたまえよ』




…どれだけ頑張っても、どれだけ苦労しても、みんなみんな口を揃えて【パーフェクトモデル】と比べたがる



私がSunnaに押されているのは、【パーフェクトモデル】がモデル業界から居なくなったから



他の人達よりほんの少しだけ優秀だからって理由だけで押された私じゃ、【パーフェクトモデル】に到達なんて出来なかった



そして今、【パーフェクトモデル】は復活する



分かっていたけど、人々は私の事を忘れて、みんなが【パーフェクトモデル】の話題しか話さない



私は


何の為に


ここまで頑張ってきたの?



私はもう


必要ないの?




春香

「………」


目は大きく見開き、顔は両手で覆う。双葉に対して抱いていた【憧れ】は、いつしか【憎悪】へと変わり始めていた。


「見つけましたよ、春香先輩」


無音の廊下に気怠げな声が響く。


 春香はゆっくりと手を下ろし、顔を上げて声のする方へと振り返る。そこにはダブル・アイことジュリを先頭に流王兄妹が立っていた。ジュリは腰に手を当て浮かない顔をしている春香を見ると、態とらしく溜息を吐いた。


ジュリ

「なんて顔してるんですか春香先輩。双葉先輩が帰ってくるんですよ?貴方が一番喜ぶべきじゃあないですか」


春香

「…ジュリちゃんも双葉さんの事話すんだ」


ジュリ

「…は?」


いつもと明らかに様子がおかしい春香に、ジュリは戸惑う。


 そんな彼女の様子等どうでもいいかのように春香は静かに立ち上がり、ダブル・アイへ背を向けて歩き出した。愛想も無いこの行動にジュリは慌てて直ぐに呼び止める。


ジュリ

「待ってくださいよ!春香先輩!」


春香

「……」


幸いにもジュリの呼び止めに反応して、彼女は足を止める。


 だが、背中を向けたまま振り返らない。孤独な背中姿を見せる春香に、一馬と二奈も付き合いは長くは無くとも、彼女が明らかに何かあったのだと感じて、ジュリと共に心配をする。


ジュリ

「どうしたんですか春香先輩。らしくないですよ」


二奈

「そーそー!ハルぽよっていつもテンション上げ上げって感じじゃね??」


春香

「………」


せっかくの気遣う言葉にも、春香はまるで反応がない。


一馬

「ハルちゃん。何か辛いことがあるなら話を聞きマスヨ。僕達はこの業界を共に盛り上げる【仲間】デスから」


春香

「…違う」


二奈

「…?」


ボソッと呟き、春香は再び足を動かしだす。


 だが、聞こえないつもりで言ったこの言葉を、ジュリは聞き逃さなかった。彼女は流王兄妹を置いて早足で春香に追い付くと、片腕を力強く握って足を無理矢理止めさせる。


一馬

「!ジュリちゃん!」


強引に止められようと、春香は少しも此方へ振り返らない。この冷たい行動には、彼女が苦労をしていると理解している後輩であろうと、ジュリの心をイラつかせたのである。


ジュリ

「仲間じゃないって言いたいんですか?寝惚けた事は寝てる時にだけ言ってもらえます?」


春香

「……」


無視を続ける春香に呆れ溜息を吐き、ジュリは優しい声色で語りかける。


ジュリ

「…覚えてますか?貴方を悪く言う奴がいたら、私が代わりにぶっ飛ばすって?貴方の努力を応援している仲間がいるんだって言いましたよね?貴方がそれを甘えず、自ら突き放してどうするんですか?」


ジュリ

「何かあったのなら私達に話してください。貴方一人が悩みを抱えなくとも…」


春香

「…分からないよ、ジュリちゃんには」


温もりある声を掛けても、彼女は冷酷に突き放す。だが、これだけではジュリは引き下がらない。


ジュリ

「分かりますよ!貴方が【パーフェクトモデル】の代わりだってプレッシャーに押し潰されそうになってるのも!それを抱え続けた結果どうなるかだって分かってる!双葉先輩のように心が壊れてしまうんですよ!?」


ジュリ

「私は春香先輩には双葉先輩と同じ道を歩んでほしくなくて…!!」


春香

「分かったつもりで話さないでよ!!!」


ジュリ

「!!」


力強く握る腕を大きく振り払い、彼女はジュリの方へと振り返る。聞いた事のない怒号が、四人しかいない薄暗い廊下に響き渡った。


 そして、その声を聞きつけたのか、同じく春香を探していたTOP4と聡もダブル・アイの後ろから駆け足で合流する。憎悪に塗れた怖い表情でジュリを睨む春香に、今来たばかりの一同も困惑する。


難波

「おいハル!どうしたんや!」


難波の声も届かず、春香はジュリに向かって怒りのまま叫ぶ様に怒鳴り声をあげる。


春香

「私の事なんて分からないよ!!【パーフェクトモデル】の後を引き継ごうと、今日まで辛いのも耐えて必死に喰らい付いて頑張ってきたのに!!双葉さんが復帰するって決まった瞬間、誰も私の話題なんてしてないんだよ!!?私なんて、ただの【繋ぎ】でしかなかったんだ!!」


彼女の怒りを全身で浴びるも、ジュリは少しも引かずに反論する。


ジュリ

「何言ってるんですか!?貴方が頑張ってきた結果が、ここまで到達出来たんでしょ!?貴方は【パーフェクトモデル】の【繋ぎ】なんかじゃない!」


ジュリ

「貴方は!春香先輩は!誰もが認める…!!」


春香

「ジュリちゃんなんかに分かってほしくないよ!!実力なんかじゃなくて、空いた枠に滑り込みで参加出来た子なんかにさぁ!!」


ジュリ

「!!」


難波

「春香ァ!!!」


春香

「!!」


ラインを超えた発言に難波の怒号が次は響き渡る。力強い彼女の怒鳴り声が、春香をハッと我に返らせた。


 少し冷静になりジュリの顔をよく見ると、彼女の顔は様々な感情が混ざった様な酷く動揺したものに変わっていた。


 誰よりも力強く生きて、誰にでも噛み付ける自信を持つ彼女が、今目の前で見せた事のない表情をしている。引き攣る様な笑みで、春香に失望した目で、彼女は震える声で話しだす。


ジュリ

「……あぁ、そうか。そうでしたか。自分よりも人気のない奴に心配されたくないわけですか。それは要らぬ心配でしたね。気付けない鈍感な馬鹿でごめんなさい」


春香

「ち、違…」


ジュリ

「…貴方の本心が聞けて良かったですよ。結局は【仲間】じゃなくて、本当はそうやって見下してたって事をね。……じゃ、私はもう行きます」


ジュリは俯き春香の横を通り過ぎると、早足で暗闇の廊下へ消えていく。


一馬

「ジュリちゃん!」


二奈

「ジュリっぺ!」


ずっと立ち尽くしていた二人も走り出し、春香の横を通り過ぎてジュリの後を追い掛けた。


 ダブル・アイを振り返る事が出来ず、ただ茫然と立ち尽くす春香。周りも二人の関係を見てきただけに、どう声を掛けたら良いのか分からず、彼女と同じ様に立ち尽くすしか出来ない。


 そして、春香の瞳からはボロボロと大きな涙が溢れ落ちだす。彼女の顔は今、絶望に堕ちた酷い顔をしていた。


春香

「どうして……どうしてこんな事に……?」


そう震え声で呟いた瞬間、春香の体から魂が抜けた様に、その場でばたりと倒れてしまう。


姫川

「…!春香さん…!!」


………


 …暗い廊下の中、ジュリは俯いたまま黙々と歩き続ける。駆け足で追い付いた流王兄妹は後ろから彼女を呼び止めた。


一馬

「ジュリちゃん!」


ジュリ

「…ごめん」


一馬

「…?」


追いかける二人はジュリの言葉に反応して足を止める。ジュリは一度立ち止まると、彼女らしくもない小さく掠れた声で二人に背を向けたまま囁く。


ジュリ

「…今は、一人にしてほしい。…大丈夫、直ぐに収まるから。……せっかく仲良くなれた二人に……私は過ちを繰り返したくない」


二奈

「何言ってんよジュリっぺ!ウチらはジュリっぺと…!」


思いを語りかける二奈を、一馬はそっと二奈に手を伸ばして止める。


二奈

「!にーに…」


一馬

「分かりまシタ、ジュリちゃん。僕達は貴方の気持ちを尊重しマス」


ジュリ

「……ありがとう」


二奈

「ジュリっぺ…」



ジュリは軽く手を挙げて再びゆっくりと歩き出す。



その寂しく切ない背中の姿が、暗闇の廊下の中へ消えていくのを、流王兄妹はじっと見送るしか出来なかった。


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― 新着の感想 ―
ほんと、読んでる人の喜怒哀楽の感情を急転換させるなぁ…。もう…。 春っち…。ジュリッペ…。心配になる…。
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