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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第三幕
133/150

63.5話【残された記録】


•••••••••




「…もしもし」



『……』



「…?もしもし?」



『…その声、久しぶりに聴いたなぁ。お久しぶり、細田さん』



「…!その声…貴方…美花なの?」



『うん。覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ』



「忘れるわけないでしょう?でも…何年振りかしら。貴方が退職してから全く連絡がなかったから…」



『私達が別れて16年だよ』



「そう、もうそんなにも経ったのね…そうなると貴方は…35歳?お互い歳を取ったわね」



『年齢も覚えててくれたんだ。やっぱり凄いね、細田さんは』



「元担当の子を忘れた事なんてないわよ。…それで?電話してきてどうしたの?知らない番号だったから繋げるか迷ったのよ?」



『……』



「それに…貴方の声…あの時と違ってなんだか元気がないわね。…大丈夫?何かあった?」



『…細田さん。これから話す事をよく聞いてね。多分、この電話が最初で最後になると思うから』



「…?どういうこと?」



『お願い。何も聞かずに聞いて。これが私の最後の【我儘】だから』



「……わかったわ。とりあえず話してみて?」



『…ありがとう』



『…私ね、あれから娘が産まれたの。今年で15歳になるんだ。私と違って凄く優しい子に育ってくれた』



『でも、私はあの子を愛そうとしなかった。あの子はずっと、私を愛していてくれたのに……あの青い瞳が、あの男を思い出してしまって……それで…私は、どんどんおかしくなっていって…』



「…何を言っているの?美花?」



『あの子にしてきたこれまでの5年間…凄く恨まれてると思う。でも、あの子は気付かせてくれた。…私はあの子を愛していたんだって。…だから、せめて最後ぐらいは母親らしくなりたいの』



「最後って何?さっきから言ってる事がわからないわ美花!今どこにいるの?!」



『…細田さん。私の娘の名前は【双葉】…可愛い名前でしょ?美しく咲いた花の隣に、芽生えて大きくなって欲しいって想いで私が名付けたんだよ』



『もしも…もしも貴方が私の子と出会ったら、私の代わりに愛してあげてほしいの。私はもうあの子に優しく出来ないから…心から信頼出来る貴方に託したい。それが最後の【我儘】』



「美花…!」



『いきなり電話をしてきたと思ったら、こんな事を言ってきて迷惑だよね?…だけど…私の両親の事、知ってるよね?今更関係を修復なんて出来ないし、いつ…また…私がおかしくなるかと思うと…残された時間はもうない……今は、貴方だけが頼りなの』



『…あの子、小さい頃に私を見て【モデルになりたい】って言ってくれてたなぁ…細田さん、まだSunnaにいるなら採用してくれないかな?あの子は逞しくて美しい……モデルとしての才能を宿しているわ』



「美花!聞きなさい!」



『きっとあの子なら誰よりも輝くスーパーモデルになれると思うな。…私には到達出来なかった世界を、あの子ならきっと…』



「美花!!」



『……』



「…まさか、まさかよ?貴方、自殺なんて考えてないでしょうね?そんな事を考えているなら、私は絶対に許さないわ」



『……』



「一方的に自分の考えだけを押し付けて我儘を通すところ…貴方は昔から変わらないわね。その性格に当時はどれだけ振り回された事か…」



『…ごめん』



「…でも、そんな貴方もモデルとして上手くやっていけたでしょう?貴方はそれだけ強いはずよ?だから…どうか早まらないで。その…双葉ちゃん?だったわよね……貴方の子を私に紹介してよ、美花」



『…えっ?』



「美花、何処にいるか教えてくれる?今からでも直ぐに向かうわ。その子に私も会わせたいのでしょう?だったら、あの頃みたいにまた話しましょう?貴方の家でも良いし、居心地が悪いのなら、何処か指定してくれる?」



『…【飛行船】』



「…あら、また懐かしい場所ね」



『忘れるわけないよ。私のモデル人生の始まりの場所であり終わりの場所…うん、そうだね。そこがいい、そこで話そう』



「分かったわ。直ぐに支度をする。…だけど、貴方いつの間に東京へ帰ってきてたの?それならもっと早く電話をしてくれたら…」



『……』



「…美花?」



『…あぁ、ごめん。久々に細田さんの声を聞いたら少しだけ心が落ち着いてさ。…やっぱり電話をかけて良かった』



「…その様子だと結婚して色々大変だったみたいね。いいわ、私に思いっきり愚痴を全部吐き出しなさい。貴方だけが辛い思いを抱えなくていいんだから。…さて、飛行船で話したいのなら、今から迎えに行くわ。場所を教えてくれる?」



『ふふっ、本当にもう大丈夫だよ、細田さん。とりあえず現地集合ってことで。…細田さんも、その心配性なのは昔から変わらないね』



「…お互い、歳を取っても変わらないってことね」



『……うん、そうだね。ええと…それじゃあ、今からでも大丈夫?』



「ええ、勿論よ。直ぐに向かうわ」



『…うん、私も直ぐに向かうね。…本当にありがとう、細田さん』



「気にしないで。…美花、電話をしてくれてありがとう。貴方は勇気を出したんだから、もっとシャキッとしなさい。もう大丈夫だから、気をつけて来るのよ?」



『……うん。…じゃあね、細田さん』



「ええ、また後で」




•••••••••



その日、細田は飛行船で来ることのない彼女をただ信じて待ち続けた。


あの電話が、彼女の最後のメッセージだったと気付くのは、まだ少し先の話である…


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