9.5話【新年の恒例行事】
カフェで二人は楽しく会話を終えた夕方の帰り道。双葉はある事を思い出す。
双葉
「そうだ黒木さん!もうおみくじは引いたの?」
黒木
「おみくじ?…いえ、引いてませんね」
双葉
「私もまだ引いてないんだよね。それならさ、今からでも神社に行こうよ!」
黒木
「わかりました。行きましょう」
………
二人は都内の小さな神社へとやって来た。日が暮れてきたのもあり人が少ない。先にお参りを済ませ、本命であるおみくじ売り場へとやってくる。
双葉
「去年はどうだった?私はね、三年連続大吉なんだよね」
黒木
「去年は引いてませんね……よく考えたら、おみくじを最後に引いたのも、いつか覚えてません」
二人分の代金を黒木が透かさず払う。
双葉
「えー!なんで?!その年の運勢が決まるんだよ?もしかして、それにも興味ないの?」
黒木
「まぁ…そうですね…ハハ」
双葉
「うーん、黒木さんの無関心は結構手強いんだね」
黒木
「手強い…のかな…?」
双葉は巫女からみくじ筒を受け取る。
双葉
「まぁ見ててよ。私は今年も大吉引いちゃうからっ」
キメ顔で筒を振り、棒が飛び出てくる。【11番】と書かれており、巫女が奥から指定されたみくじ紙を、双葉へと渡した。
彼女が紙を開くとそこには【大吉】と書かれていた。ドヤ顔で黒木に見せつける。
双葉
「四年連続大吉だってさ。持ってるね、私」
黒木
「おぉ、凄いです。流石は?双葉さんですね」
双葉
「次は黒木さんの番だね。頑張って!」
黒木
「頑張るものなんですかね、これ」
黒木は巫女からみくじ筒を受け取り上下に揺らす。出てきた棒の番号は【4番】だ。巫女は指定されたみくじ紙を持って来て彼に渡す。
双葉
「まあ私が付いてるし黒木さんも大吉だよ。大丈夫大丈…」
彼が紙を開くとそこにはデカデカと【大凶】と書かれていた。その恐怖の二文字に二人は思わず固まる。
双葉がチラリと黒木の方を見ると、無表情ながら明らかに凹んでいるのが雰囲気で伝わってくる。久々に引いたくじが、まさかこんな結果になるなんて、黒木ですら予想してなかったのだろう。お互い物凄く気まずい。
双葉
「…そうそう!おみくじって、その年の運勢を決めるとかじゃなくて神様のアドバイスを聴くものだって細田さんが言ってた気がする!大凶なら、不幸にならないようにアドバイスを書いてくれてるはずだよ!」
さっきまで【その年の運勢が決まる】と言っていた彼女も、掌を返すように黒木をフォローした。
黒木
「…ハハっ」
その言葉に励まされながら、二人で大凶に記されている内容を見る。
願望 諦めよ
待人 そんな者はいない
失物 震えて眠れ
学問 何の成果もなし
恋愛 浮かれるな
病気 心壊す
黒木
「……」
双葉
「…ワーオ」
神様からのアドバイスは、無慈悲にも非情な言葉で並べられていた。黒木の表情は更に曇っていく。
双葉
「えーっと…まぁ…大丈夫だよ、うん」
励ます言葉が見つからず双葉は目を泳がせる。必死に何か良い言葉がないかと考えている彼女の様子を見て、黒木は思わず笑ってしまった。
黒木
「ハハっ。…でも、こうして新年早々双葉さんとおみくじ出来たのは良い事ですよね?」
双葉
「!そう、それ!今日とか細田さんも説得出来たしさ、チョー良い年明けじゃん?」
双葉
「大丈夫、黒木さんの大凶も私といれば吹っ飛ばせるから!…だからさ、今年も宜しくね?黒木さん」
黒木
「双葉さん…はい、宜しくお願いします」
彼女の優しい微笑みに彼も微笑み返して、二人仲良くみくじ紙を枝へと結び、沈む夕陽の中帰っていくのであった。
双葉
「来年もおみくじやっちゃう?」
黒木
「いや…やめておきます」
双葉
「滅茶苦茶引き摺ってるじゃん」