60話【光を引き継ぐ者】
黒木が退院した当日の朝。Cinderella Productionの事務所には厚着のコートを着こなしたRABiが震えながら入ってくる。
RABi
「ウ〜!寒寒寒寒ゥ!!お、おはようございまぁ〜すぅ!!」
凍てつく外の空気に、RABiは声を震わせブルブルと震えている。事務所内は暖房がしっかりと効いていて、冷え切った体を癒すオアシスだ。
そして、そんな冷たい体を更に温めてくれるかのように、先に事務所に来ていたMAiがニコニコと出迎えて彼女にハグをする。
MAi
「おっはよーうRABi〜。うーわ、めっちゃ冷えてんじゃ〜ん。この後外出たくねー」
RABi
「今-3℃だって!?カイロ何枚貼っても足りないぐらいだよ!!」
MAi
「ウゲー。そりゃ萎えますわー」
仲良さげに話す二人。そんな二人の合間にCinderella Production社長、秋本が入り込んでくる。
秋本
「おはよう、RABi。少し、良いかしら」
RABi
「あっ!おはようございます、社長!!もしかしてスタコレで着る衣装が遂に届い…」
礼儀よくお辞儀をして顔を上げるも、秋本は困った様な表情をしていた。
RABiは知っている。こういう顔をする時の社長は、何か面倒なことが起きているというものだと。特に、RABiに関するものの顔つきだ。
RABi
「…もしかして、私…また何かやっちゃいました?」
MAi
「どーもウチのRABiが迷惑をかけてすみませ〜ん、社長〜」
RABi
「イヤーッ!?お、御慈悲を〜!!」
全く緊張感のない二人に、秋本は頭を抱えてやれやれと溜息を吐いた。
秋本
「全く。貴方達ももう大人なんだし、もっとちゃんとしなさい」
RABi
「え、えへへ…ごめんなさい。…それで、やっぱり何かあったんですか?」
秋本
「ええ。RABi、貴方に客人がいるのよ」
RABi
「え?客人?…んー、でも今日は朝からメッチャスケジュール埋まってるの社長も知ってますよね?断ってもらっても…」
秋本
「ダメよ。これはどの仕事よりも、最も優先すべきだと判断したわ。私の方から午前中のスケジュールは調整したから、貴方はその客人に会いなさい」
RABi
「え、ええっ!?社長自らが調整するって…そんな凄い人なんですか?」
MAi
「その人は誰なんです?社長」
秋本
「会えばわかるわよ。というわけで、ここに来て早々で悪いけれど、また極寒の中向かってもらうから」
RABi
「エ"ェ"ーッ"!?ここで話すんじゃないんですか?!」
秋本
「そうしたいけれど、その客人はここには来てないの。私は電話で引き受けただけだから。その待ち合わせ場所は……」
………
RABi
「…ここって…」
秋本に言われやってきたのは、会員制カフェ
【PEACEFUL RETREAT】
以前、KENGOの話を聞きに来たあの日から、個人的にこの場所が気に入って後日会員になっており、何度かは利用している見慣れた場所。
会員カードを扉に翳し鍵を開けて中へ入る。いつもは、マスターのキリコがカウンターで出迎えてくれるが、今日は姿が見当たらなかった。だが、テーブル席の方には先に誰かが座っているのが見える。恐らく自分を呼び出した張本人だろう。
RABi
「えーっと…おはようございます!RABiです!貴方が、私を呼んだ人ですか?」
元気よく挨拶をしながら、先に座っている人の元へと歩み寄っていく。近付いて、その容姿がハッキリと見える時、RABiの目は思わずギョッと見開いた。
双葉
「おはようRABiちゃん♫元気にしてる?」
RABi
「ふ、双葉さん?」
変装していても、こちらを見つめてくる青い瞳で誰だか分かる。RABiは先日の黒木との計画を勝手に進めていたこともあってか、彼女に呼び出された理由が何となく察してしまい、静かに冷や汗を流す。
しかし、双葉は怒る素振りを見せることなくRABiの顔を見るとニコッと笑って変装を解くと、空いてる対面のソファへと手を向ける。
双葉
「まぁ座りなよ」
RABi
「は、はい…」
RABiは軽く頭を下げて、対面のソファへと座りコートを脱ぐ。
双葉
「外めっちゃ寒かったでしょ?この後キリコさんがホットココア持ってきてくれるからね」
RABi
「は、はぁ…」
双葉はニコニコと愛想良く話をしてくる。
もしも双葉が自分と黒木の事に気付いて、それに怒るようであれば、今から怒号を浴びせられるような雰囲気にはとても見えない。
だが、態々(わざわざ)自分を指定して、誰の邪魔にもならないここへ呼び出されているこの状況は、絶対に世間話をする為だけに呼ばれたのではないと分かっていた。
普段から仕事等で感じるストレスを上手く自分なりに抑えられているが、この時ばかりは今から何を言われるかも分からない緊張感に、胃がキリキリと痛み出して冷や汗が止まらない。
どうせ怒られるのなら、潔く認めて先に謝るべきだ。
そこまで賢くもない脳で考えに考えた答え。RABiは90度に綺麗な直角で、キレ良くバッと頭を下げた。
RABi
「ごめんなさい!!マコッ…んんっ!!黒木さんの事ですよね!?絶対に怒ってますよね!?誤解なんです!!言い訳に聞こえるかもしれませんが、まずはお話を…!!」
双葉
「顔を上げて、RABiちゃん」
RABi
「…へっ?」
冷静に、優しい声色で話してくる双葉にRABiは恐る恐ると顔を上げて彼女の方を見る。
今から鬼の形相で詰められると思っていただけに、その心温まる、まるで聖母のような優しい微笑みは、若干だがRABiの心を安心させて呆気に取られた。
双葉
「大丈夫だよ。…先に言っておくけど、今日RABiちゃんを呼び出したのは怒りに来たからじゃないんだ」
RABi
「え…?じゃあ…どんな理由で…?」
双葉
「それはもう分かってるでしょ?黒木さんの事についてだよ。私から聞かなくても、RABiちゃんから言ってくれたから、説明が楽になりそう♫」
RABi
「う、うぐ…あ、あの、双葉さん。さっきも言いかけたように黒木さんと私は…」
双葉
「うん、分かってる。だって二人が仲良く話してるところ、扉の隙間から見てたから」
RABi
「……」
RABi
「エ"ェ"ーッ!!?」
双葉
「電話番号教えてるところも見たよ」
RABi
「エ"ェ"ーッ!!?」
双葉
「馴れ馴れしくマコッチって名付けたよね」
RABi
「イ"ヤ"ァ"ー!!!」
次々と詰められるRABiは耐えられなくなり、ソファから飛び降りると双葉の横に滑り込んで土下座をする。
RABi
「ごめんなさいぃー!!本当にそういうつもりじゃないんですぅー!!誤解なんですぅー!!!」
双葉
「あはは、おもろっ」
必死に謝るRABiの姿に双葉も思わず声を出して笑ってしまう。
双葉
「顔を上げてよ、RABiちゃん。何度も言うけど、怒りにきたワケじゃないんだって」
RABi
「っ……」
恐る恐る顔を上げて双葉の表情を見る。その顔からは怒ってはいないのだと今一度理解して、体を起こして再びソファに座り直した。
RABi
「そ、それで…黒木さんの事…ですか?」
双葉
「…うん。黒木さんなんだけど……RABiちゃんにお願いがあるの」
双葉
「…私の代わりに、黒木さんを幸せにさせてほしい」
RABi
「……エッ?」
双葉の口からは発せられる言葉ではない発言に、RABiは体が固まる。しかし、彼女の様子からすると全く冗談で言ってないのが伝わってくる。
静まる二人の間に、奥の部屋からキリコが二人分のホットココアを持ってやってくる。彼女はそっとテーブルに置くと、RABiの方を見た。すると、彼女は
【近くにいて欲しい】
と、キリコに合図しているではないか。きっと、二人きりだと、とても気不味くて耐えられないのだろう。
キリコは分かった様に頷くと、何事もなかったかのように奥の部屋へと戻っていった。RABiは静かに
【伝わってないんかい!】
と、心の内に秘める難波が勝手に突っ込んで悶える。
この状況に苦しむRABiとは別に、双葉は差し出されたココアを美味しそうに飲んでいる。暖房で少しは体が暖まったとは言え、芯まで冷え切ってる体を内から温めてくれるであろうこのココアを直ぐにでも飲みたかった。
だが、こんな大事な話をしてる最中に飲んで良いのかRABiには分からなくて、体は強張ってマグカップに触れる事もできない。そして、こんな話をしている張本人である双葉が余裕そうにしてるのも、一体何を考えているのかが理解が出来ない。
彼女は出されたココアを一滴も飲む事なく、恐る恐る双葉に聞いた。
RABi
「あの…それって……どういう…?」
双葉はホッと一息付くと、マグカップをそっと机に置いて答える。
双葉
「そのままの意味だよ。RABiちゃんには私の代わりに、黒木さんと幸せになって欲しいの」
RABi
「い、いやいや!おかしいですよ!だって、双葉さん!黒木さんの事が好きなんですよね?!それって…まるで……失恋……という…か……」
双葉
「…んー、どうなんだろうね。ただ、一つだけハッキリと言える事があってさ」
RABi
「…?」
双葉は視線を下げて飲みかけのマグカップを見つける。淹れたてのココアは熱を冷ましていき、徐々に冷えてきている。
双葉
「私はこの数ヶ月間、黒木さんから沢山の愛を貰ったんだ。本当の愛を知らず飢える私の心を十分に満たしてくれた。これ以上の幸せを、私は感じた事がなかった」
双葉
「だから、私はこれ以上の幸せを望んでいない。今、私が思う事は、黒木さんに幸せの道を歩んでもらいたい。ただ、それだけ。その隣に私が居なくとも、黒木さんは幸せになれると思ったんだ」
RABi
「ま、待って!!」
バンっと机を両手で叩き、RABiは前のめりになる。一方的に話す双葉に、流石に不満が抑えられなかったのだ。
RABi
「それはおかしいって!!黒木さんは絶対に双葉さんの事を思い出す!!それはいつかは分からないけれど……それをずっと待ってあげるべきじゃないんですか!?それこそ、愛を捧げてくれた人への恩返しに…!!」
双葉
「黒木さんとRABiちゃんが話していた時…彼は笑ったでしょ?」
RABi
「…?それが…何か…」
双葉
「…あの清らかで純粋な笑顔は、記憶を失う前の私の隣でいつも見せてくれた最高の笑顔。私はずっと黒木さんのお見舞いに行ってたけど、一度もその笑顔を見せてくれなかった。…黒木さんにとっての【特別な存在】は、RABiちゃんに変わりだしてるんだ」
RABi
「…!!」
双葉の思いを聞いてRABiは前のめりの姿勢を戻し、ゆっくりと座り直した。
少し静寂な合間があったが、ずっとマグカップを見つめていた双葉は、RABiの方へと視線を戻して、続けて話す。
双葉
「…ねぇ、RABiちゃん。聞かせてくれないかな?RABiちゃんは、黒木さんの事が好き?」
RABi
「…え?な、なんで、そんな質問を……」
双葉
「答えて?…それと、嘘は付かないで。嘘を纏って生きてきた私には、何でもお見通しなんだから」
RABi
「……ッ」
見惚れる程美しく輝く青い瞳。いつもならずっと見ていたいと思うが、今だけは目を合わせられたくない思いが強く、ラビの目は細めてそっぽを向いてしまう。悩み苦しむRABiの姿に、双葉はただ優しく語りかけてくるのだ。
双葉
「…誤解してほしくはないんだけど、私は今感じている本心を言ってほしいだけなの。嘘をついて生きても、ただ苦しいだけなのは私も知っている。…どんな思いでもいい。RABiちゃんの思いを、聞かせてくれない?」
RABi
「…ッゥ〜」
RABi
(狡いよ…双葉さん…!)
歯をギリギリと食い縛り、目をギュッと閉じる。
双葉は、人の思いを聞くのに【完璧】に寄り添ってくれる。この様な神対応をされてしまうと、抑えている物を全て吐き出してしまいたくなるのだ。RABiは我慢をするのを止めて大きく溜息を吐くと、そっぽ向いていた顔を双葉の方へ向けて話し出した。
RABi
「…わ、私。…丁度去年の夏に、PP⭐︎STARのメンバーと揉めちゃって、もうダメかと思った時に…黒木さんと再会できたんです。以前に出会った時は、無気力で何を考えてるか分からない人だって思ってたのに……あの時は、私達の為に必死になって応援してくれて……黒木さんが物凄く輝いて見えました」
RABi
「その時は、黒木さんは凄く良い人だって思ってたんですけど……どうしても、時折、黒木さんの事をそれから思い出す事があって……初めは誰よりも良い人だからって思ってました。……でも、明らかに他のファンの人達とは違うんです」
RABi
「こう……なんていうか……思い出す度に、また会いたいなって思いが強くなって……次会えた時は何を話そうかって考えてしまってたり……それこそ、お見舞いの時に見せてくれたあの笑顔に、ドキッてなっちゃって…」
語れば語るほど、RABiの頬は徐々に赤く染まっていく。この反応に、双葉は確信して笑った。
双葉
「アハハ、やっぱり。RABiちゃん、それって【恋】してるよ?」
RABi
「こ、恋!?これが!?」
双葉
「わからないの?」
RABi
「わからないよ!!だって!!私はみんなに愛される最強アイドルを目指すのに…!!」
RABi
「……恋をしようだなんて、思った事がないんだから……」
自分の感じている思いが【恋】だと知り、顔を真っ赤に頬に両手を当てるのだった。
この状況、第三者から見れば【三角関係】が成立して修羅場の展開を想像するだろう。
だが、違った。
双葉は、彼女は、ほんの少したりとも怒らないのだ。頬を赤らめるRABiを悟った目で見て、只々優しく微笑みながら相槌を打つ。彼女の思いを聞いた双葉は、ゆっくりと目を閉じて話した。
双葉
「…私はさ、RABiちゃんが良い子だって分かってるんだ。みんなの為に精一杯輝こうと頑張ってさ?その輝きに穢れなんて存在しない、最高の光をRABiちゃんは持っている」
RABi
「ッ!私がそう頑張ってきたのは【パーフェクトモデル】の双葉さんが、そうやってみんなを喜ばせていたのを見て憧れたからで…!!」
双葉
「私とRABiちゃんには決定的に違うところがある。私は【嘘で塗り固められた輝き】、RABiちゃんは【偽り無き本物の輝き】」
双葉
「…黒木さんが、RABiちゃんの事を覚えていたのは、きっとその本物の輝きを記憶を失う前から見ていたからだと私は思ってる。彼にとっての【特別な存在】は、【自分の心に光を灯してくれる人】なんだよ」
双葉
「【パーフェクトモデル】を止めた私には、もう輝く力は残っていない。…ましてや、黒木さんに見せてきた輝きが【嘘】だったから、記憶に残らなくても当然だと思ってる。…本当は黒木さんを信じてあげるべきなんだろうけど、黒木さんの幸せを考えた時、その隣に立つのはRABiちゃんの方が相応しいんだよ」
双葉
「だからさ?RABiちゃんも黒木さんの事が好きなら、私の代わりに黒木さんの側に居て欲しいんだ。二人ならきっとお似合いだよ?きっと両思いになれるだろうし、私も潔く応援出来る」
彼女は笑顔を崩さない。その勝手な提案と態度は、幾ら相手が憧れの人であろうと、RABiには気に食わなかった。思わず声を荒げてしまう。
RABi
「双葉さんは!!双葉さんは本当にそれでいいんですか!?黒木さん、言ってましたよ!?【暗闇に覆われたあの人の光になりたい】って!!あの人の思いは!!階段から落ちたぐらいで、簡単に消えたりなんかしてないはずです!!」
RABi
「それに、黒木さんが記憶を取り戻した時はどうするんですか!?もしも!もしもですよ!?私と付き合う仲になってる頃に、その記憶を取り戻したら、彼は自身の罪悪感に押し殺され…ッ!!」
双葉
「私がRABiちゃんをここに呼んだのは、中途半端な気持ちなんかじゃない」
笑顔だった顔が一瞬にして真顔に切り替わり、青い瞳は少しも揺らがずRABiの目を合わせる。美しくも儚いその瞳の輝きに、RABiは目が潤んでいた。
双葉
「…私は、私の思いをRABiちゃんに託したいから、ここへ呼んだの。…RABiちゃんの言う通り、もしも黒木さんが思い出した時、彼ならきっと自分を責めると思う。でも、その時はちゃんと私から説明するし、RABiちゃんも自分を責めないで欲しい」
彼女は、ゆっくりと、深々と頭を下げる。
双葉
「…自分勝手な提案をしてしまって、本当にごめんね。…どうか、私の為だと思ってくれるのなら、私の想いを引き受けてくれないかな…私はこの選択に、後悔なんて少しもない。二人の幸せだけを、ただ願ってるだけだから」
RABi
「…ふ、双葉さん…」
憧れの人に頭を下げられ続け、RABiは動揺が収まらない。彼女が決して怒らないのは、元からこうなる事を想定していたからなのだろう。
自分の思いだけを吐いて、此方の意見を全く通さない、悪く捉えれば【頑固】であり【不器用】。だが、良い意味で見れば、相手の為に全てを捧げる、これこそが【パーフェクトモデル】の輝き方なんだとRABiは感じた。
返事が返せず、ただ静かに時間だけが過ぎていく。ずっと頭を下げていた双葉が顔を上げると、RABiは俯いて難しい顔をしていた。
突然会ったと思ったら、突然この様な重い話になったのなら、こんな反応をするのも無理はない。双葉は立ち上がって変装用のキャップを深く被った。
双葉
「…言いたい事も言えたから、私はもう行くね。ここから先は、RABiちゃんに任せるよ。勿論だけど、どんな選択をしてもらってもRABiちゃんの事を恨むつもりはないからね。…よく考えて、その答えへ向かえばいいよ。…じゃあね」
RABi
「え…あっ…」
さよならの言葉も上手く出ない。双葉も彼女の返事を待つ事なく店を先に出て行ってしまった。
扉の音を聞いたキリコは、部屋の奥からまた姿を現す。彼女の片手にはホットココアを持っていて、RABiの前に置かれたままの一口も飲まずにすっかり冷え切ったココアと入れ替える。
彼女は冷めたココアを口に含む。あまり美味しくないリアクションをするも、RABiは俯いたまま動けないでいた。それを見兼ねて、キリコは片手を腰に当てて話し出す。
キリコ
「アタシも詳しくは知らないんだけどさ?双葉の家族って結構面倒臭くて、もしかしたら彼奴に危害が及ぶかもしれないんだって」
RABi
「え…?」
キリコからの情報に思わず顔を上げた。彼女は不味そうに冷めたココアを飲み続ける。
キリコ
「双葉が切り捨てたのは、自分を思い出せないあのバカを見損なったんじゃなくて、そういう自分の周りの危険からも遠ざけるからなんじゃない?そう考えたら、アンタと付き合う方が、バカも安全に過ごせるだろうし」
RABi
「……」
キリコ
「…あー、でも、別にアンタは好きにやっていいと思うよ?双葉はそう言ってたしね。上っ面な発言じゃないって事は、アタシが保証するよ」
何が本当で、何が嘘かもわからなくなってきて、いよによRABiは肘を机に乗せて頭を抱えてしまった。
RABi
「ね、ねぇ、キリコさん。私、どうすればいいのかな」
キリコ
「さぁね。こればかりは自分の意志で決めるものだよ。…ただ、一つだけ言える事がある」
RABi
「…?」
キリコ
「もう直ぐ次の予約客が来るから、それ飲んだら出て行ってくれる?」
RABi
「エ"ェ"ーッ!!?また寒い場所に放り出されるの!?」
………
双葉
「……」
街中
双葉は一人静かに歩いていく。すれ違う通行人は、彼女が【パーフェクトモデル】だと気付くこともなく通り過ぎていく。そんな孤独の彼女を支え続けてくれた最愛の人は、もう隣にはいないのだ。
貴方の愛が恋しい
この身を貴方の光で照らして欲しい
心の奥底に秘めた彼女の愛への渇望は、誰にも晒すこと等なく一人で抱えて、彼女は人混みの中へと消えていった。