特別回【バレンタイン】②
TMA。本日もここではスタコレのリハーサルが行われている。ダブル・アイは一馬が衣装の調整をする為に二人の元を離れて、ジュリと二奈は用意された椅子で待機していた。お互いにスマホを見て其々の時間を楽しむ中、ジュリの方から二奈へ話を振る。
ジュリ
「…二奈、少し聞きたいんだけどさ」
二奈
「んー?何々ー?」
二人はスマホ画面から目を逸らさず、淡々と会話をする。
ジュリ
「一馬さんって甘いの好きなの?」
二奈
「好き好き!にーには甘党だからねー」
ジュリ
「甘いのレベルって、ゲロ甘って感じ?」
二奈
「うんうん、ゲロ甘!…で、どしたん?そんな事いきなり聞いてさー?」
二奈はポケットにスマホを入れて、ジュリの方へと振り返る。彼女は依然としてスマホを触ったままである。
ジュリ
「別に?聞いてみただけ」
二奈
「……」
ジュリ
「…何?」
いつもなら会話を振れば横でギャーギャーと騒ぐ二奈なのに、珍しく静まり返っている。ムッとした表情で二奈の方へと顔を向けると、彼女は口を手で抑えてニヤついた目で此方を見ていた。
二奈
「…バレンタインだなぁ?」
ジュリ
「……」
ジュリ
「…そうだよバレンタインだよ。なにか文句ある?私はこの機会にただ渡そうと思ってるだけで、季節イベントに沿ってそれに従ってるだけなんだけど?あぁ、勿論二奈にも渡すつもりだったから。あくまで一馬さん一人だけじゃなくて、別にいつもお世話になってる人に向けてで…」
二奈
「めっちゃ早口になって草。そんなのなら早く行ってくれたらいいのにー!ウチ、メッチャ手作りチョコ作るの得意なんだよね!ジュリっぺが渡したいなら手伝ってあげるし!今日のリハ終わってからジュリっぺの家に凸しようず!」
ジュリ
「は?マジで言ってんの?二奈の手伝いなくても作れるんだけど」
二奈
「まーまーそう言わず!こういう時こそ熱き友情イベントってあるじゃん!?くふふ、にーにも喜ぶだろうなー!」
……
そして迎えた当日。Sunna事務所にジュリがやってくる。
ジュリ
「おはようございま……」
ロビーに入ると思わずその光景にピタッと止まる。
一馬
「おはようございマス、ジュリちゃん」
二奈
「ジュリっぺ、おはぽよー♫昨日は乙乙〜!」
流王兄妹が迎えてくれたのだが、なんと一馬は華やかなスーツ姿だったのである。
一馬
「二奈から聞きまシタ。ジュリちゃんからバレンタインチョコを貰える…それはつまり、僕の人生において究極一大イベント……さぁ、ジュリちゃん。チョコを僕に渡して頂けマスカ?」
そう言って一馬はゆっくりと手を差し出す。あまりにも身勝手な一馬にジュリは怒鳴る。
ジュリ
「いや恥ずいわ!!もっとこう!自然体に渡したいんだけど!?」
一馬
「ダメデス。ジュリちゃんから貰えるチョコをいつもの格好で貰う等、僕のプライドが許しまセン」
ジュリ
「その意味のわからんプライド捨てろ!!…〜ッゥ、あぁもう!」
面倒臭い男に対しジュリはイライラと頭を掻く。そして、溜息を吐くとバッグから綺麗に包装されたチョコレートを取り出して、差し出している一馬の手の上へ乗せた。彼女はそっぽ向いたまま話す。
ジュリ
「…初めてだから」
一馬
「…?」
ジュリ
「その…初めてなんだ。誰かの為に手作りチョコを作って渡したの。…だから…まー…何?上手く出来てないと思うけど……食べて……くれたら……なって……」
ジュリ
「あぁ、でも勘違いしないで。それは日頃の御礼。二奈も協力してくれて……二人が居なかったら、もっと早くに干されてただろうし……えと……二人には感謝してる……」
ごにょごにょと話して、彼女は照れている顔を隠す。その様子に二奈はニヤつき、一馬は無表情のまま相槌を打った。
一馬
「僕達も、ジュリちゃんが居たからこそ、新たなステージへ挑戦出来ている事を、少し足りとも忘れた事がありまセン。…ありがとう、ジュリちゃん。今日も、最高に、可愛いデスネ」
ジュリ
「…うっせ」
そう言いつつも、一馬の感謝の言葉を聞いて彼女の口元はニヤついていた。
一馬
「…さて、チョコも頂けたことですし……じいや」
じいや
「はい、ただいま」
ジュリ
「…え?」
一馬の手を叩く音に執事服を纏った老人が現れ、ジュリのチョコを預かると丁寧に丁寧に扱い、豪華な装飾箱の中へと保管された。
一馬
「このチョコは我が流王家の家宝として扱わせていただきマス。ジュリちゃん、ありがとうございました」
ジュリ
「いや食べろよ!?ていうか、その人って、まさか…」
じいや
「あっ、テイミーで雇われたバイトです」
ジュリ
「アルバイトかよ!!」
ジュリの迫真のツッコミがロビーに響き渡る。
ダブル・アイの絆は、バレンタインを通してより強さを増していくのであった。そして、ジュリと一馬の愛の行方もまた少しだけ距離が近付いた……?のだった。