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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第二幕
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49話【夢の続き】後編


 …平日の街中。正午を迎えオフィスからはサラリーマンやOLが昼食を食べに街を行き交う。街を歩く人々は誰もがお腹を空かし何を食べようかと心を躍らせ楽しそうにしていた。


 しかし、そんな【表】の人間達の生活とは無縁の、ビルの影に覆われた路地裏。通行人が居ないこの場所に、フードを深く被って路上で寝ている男性がいた。表通りから聞こえてくる人々の賑わう声に目覚め、男はゆっくりと体を起こす。身なりは酷く汚れ、髪も髭も山男のように伸びていた。


 この男の名前は【石神 (のぼる)】今の身嗜みからは想像が出来ないが、(かつ)てはテレビ業界を引っ張っていた【元】大物芸能人だ。


 二十年程前、その名は多くの人々に愛され人気を保ち、当時の国民的アイドルと結婚して幸せを築いていた。誰がどう見ても、成功者として生きていたのである。


 しかし、とある記者が取り上げた石神の不倫スキャンダルが世間に暴露されてしまい人気は大暴落。周囲の目は冷たく、お茶の間で見る事も無くなり、妻にも出て行かれてしまい離婚。


 最悪な事に、成功者として毎日を過ごしていた石神の金銭感覚は狂っていて、収入源が無くとも豪遊する日々を続けてしまった。いつしか、借金も重なり家も売り払うも、その多額の借金は完済する事が出来ない。そして、取立て屋からも逃げ隠れている内にホームレスへと堕ちてしまい、路上で寝る暮らしを何年も続けている。スターの面影など、今の彼には少しも残っていなかったのである。


 空腹に腹を鳴らし、生気のないぼうっとした表情でフラフラと路地裏を彷徨う。何か食えるものがないかと地面を見るように俯き歩き続ける。表通りに出ても、今の格好じゃ人々から笑われるだけ。彼のプライドは、この醜態を人々に晒すのを今だに拒んでいるのだ。


石神

「腹減った…」


弱々しくボヤき、俯いたまま彷徨い続ける。それが目の前に誰かが立っているのも気付かずぶつかってしまう程、彼の意識は朦朧としていた。痩せ細った体は正面からぶつかった衝撃に踏ん張れず、数歩後退って尻餅を付いてしまう。


石神

「ってぇ!す、すみません…!前が見えて…!」


石神はフードを更に深く被って顔を隠し、声は震えて怯えている。


 目の前に立っていた男は、弱々しい彼の前に屈んでそっと顔を隠しているフードを外した。そして、男は怒る事なく彼に手を差し出すのである。


「探しましたよ、石神さん」


石神

「…え?」


………


 場面は変わって都内の裏通りにある会員制カフェ【PEACEFUL RETREAT】


 今日の仕事を終えた姫川が来店すると、カウンターには店長のキリコが迎えてくれる。キリコと目が合いお互いに会釈を交わすと、円形のソファーテーブルへと案内されて一人座る。都内の中に他の人に邪魔されず、ゆったりと落ち着ける場所がある事を姫川は初めて知って、逆に落ち着けないでいた。


 そんな彼女の気を紛らす為にキリコは何も言わずに目の前にやってくると、淹れたてのコーヒーをテーブルに置いてカウンターへと戻る。差し出されたコーヒーを一杯口に含むと、仄かに口の中で広がるマイルドな酸味に、姫川の気持ちが落ち着き、キリコのおかげで緊張は和らげた。


RABi

「姫川さん!」


コーヒーを飲んで待っていた姫川の元に、後からRABiが元気よく入店してくる。仲良くしてくれる知り合いの顔を見れて姫川もホッとして口が自然と緩む。


姫川

「こんにちは、RABiさん。ええと…ドームツアー、お疲れ様でした」


RABi

「あっ、知ってたんですね!はい!なんとかツアーは無事に終わったので、残りはスタコレに全集中出来ますよ!」


姫川

「ええと…年末とかも忙しいんじゃ…?確か、赤白歌合戦にも出演を控えてましたよね?」


RABi

「確かに色々とまだ控えてますけど、その辺りはもう毎年恒例で慣れちゃってると言いますか…私的には初舞台のスタコレの方がもっと緊張しますね!」


姫川

「成る程…」


ニコニコと笑顔を見せながら対面のソファに座る。普段から、RABiのような明るい女性と話す機会がない姫川には、今の時間はとても居心地が良い。


RABi

「それよりも都内にこんなところがあったんですねー。姫川さんも難波さんに言われてここに?」


姫川

「はい。会員制なので普段は入れないみたいですが、この時間に予約を取るので事前に開けるようにと、春香さんの専属スタイリストさんが頼んでくれたみたいです」


RABi

「へー、そうなんですね。…いやー、それにしても久しぶりにTOP4として、みんなと会えるから私、嬉しくて嬉しくて今日が待ち遠しかったですよ!」


姫川

「…私もです。TOP4の皆さんは、こんな私でも優しくしてくれるので…」


少し俯き話す姫川に、RABiは体を少し前のめりにして心配するように尋ねる。


RABi

「…ねぇ、姫川さん。その…貴方の先輩だからこんな言い方しちゃダメなのは分かってるんだけど…やっぱり、華城さんって普段から怖いの?」


姫川

「え?」


RABi

「私もスタコレのリハーサルで出会ったけど、物凄くツンツンしてたからさ。もしかして姫川さんは虐められてたりしてないかなーって…」


自分の身を心配してくれる友に、彼女は顔を上げて嬉しそうに微笑む。


姫川

「…私の方は大丈夫です。RABiさん。心配してくれてありがとうございます」


RABi

「そんな!感謝されるような事じゃないってば!困った事があればいつでも相談してくださいね!私達【友達】ですから!」


ニコッと親指を立てて眩しい笑顔を見せるRABiに、姫川も笑って頷いた。


難波

「おーう!待たせてしもうたな!」


春香

「お久しぶりです!姫川さん!RABiさん!」


元気な挨拶と共に難波と春香も入店してくる。RABiと姫川は二人の方へ振り返ると、思わぬ光景に目を見開いた。



 なんと春香の髪型が真っ黒のストレートに変わっているのだ。彼女の特徴の一つであったピンク色のウェーブボブを辞めた事で、まるで別人のように見える。


姫川

「は、春香さん…それ…」


戸惑う姫川に春香はいつも通りの変わらない笑顔で応える。


春香

「あっ、これですか?そうなんです!イメチェンって感じですかね?【パーフェクトモデル】が人気だった一つに、こういう清楚な要素もあったと思いますしやってみました!」


RABi

「私は前の髪色が凄く似合ってるって思ってたんだけどなー。なんていうか、それがハルちゃんって感じだったっていうかさ?」


春香

「…それじゃあ【パーフェクトモデル】の域には到達できないんです。あの人と並ぶには、自分らしさを捨てないといけないから」


RABi

「…ハルちゃん?」


何処か遠い目で語る春香にRABiは不穏を感じる。隣に立つ難波は態とらしく咳払いをした。


難波

「ンンッ。まぁなんや、全員集まった事やし早速本題に移ろうやん」


姫川

「難波さん。今日はお話があると聞いてこうして集まったわけですが一体…」


難波

「せやねん。ウチらTOP4に関わる大きな話や。まずは提案者直々に話をしてもらわなあかんな」


RABi

「提案者?」


難波は入口の方へと振り返ると扉は開く。


KENGO

「皆さん初めまして。Sunnaで社長を務めます、KENGOです」


姫川

「えっ…!」


RABi

「Sunnaの社長…!?」


思わぬ人物が店内に入ってきて、二人は驚いて立ち上がる。そして、少し間が空いてからRABiは恐る恐ると質問をした。


RABi

「…サインですか?」


難波

「なんでやねん!!」




 …三人は空いているソファに座り、TOP4はKENGOを含め結集した。キリコは人数分のコーヒーと、それに合うスイーツを目の前に黙々と並べカウンターに戻る。


 KENGOは出されたものを遠慮なく次々と口に入れて美味そうに頷く。偉い人とは思えないフランクな人だ。それはきっと、彼女達が緊張しないように振る舞っているのだと、Sunnaに所属している春香と難波は分かっていた。


 姫川とRABiも肩の力が抜けた様子をKENGOは目で確認すると、体を前に少し倒して手を組みながら話し出す。


KENGO

「今日は忙しい中集まっていただいてありがとうございます。何度かファッションショーやイベントで皆さんを見てはいましたが…いやはや、とても美しい。流石は日本中から選ばれたTOP4というわけだ」


RABi

「ありがとうございます!サイン書きましょうか!?チェキもいけますよ!」


難波

「まだ言うとるんかいな!」


KENGO

「ハハ、それじゃあお言葉に甘えて、お話が終わった後で頼ませていただきますよ」


姫川

「それで…Sunnaの社長さんが私達に何か用で…?」


KENGOは頷き、一人一人の目を見つめてから話す。


KENGO

「これは、君達TOP4がスタコレを大成功に収める為の提案だと思って聞いて欲しい。まずは結論から話すけれど…」


KENGO

「君たち4人には双葉の最後のランウェイを見てもらいたいと思っている」


四人

「「!!」」


社長から出た予想外の言葉に一同は口を開いて驚愕する。


KENGO

「まずは事の経緯から話そうか」


………


数日前、KENGOのスマホに直接電話がかかってきた。その相手は黒木。


 病院で出会った際、そのお礼として名刺を渡し、Sunna事務所の出入りの許可と、いつでも電話相談に乗る事を約束していた。そうは言っても、遠慮気味な彼が、この二つのお礼を使うことはないと思っていた為、彼の名前がスマホに表示されたのは意外だった。


KENGO

「双葉ちゃんを載せて欲しい?」


黒木

『はい』


KENGOは社長室の窓際に立って街を見下ろしつつ、彼の話を聞く。


黒木

『今回の写真の件を見てファンの人達も、退職した双葉さんのその後がどうなっているのか気になってます。それはきっと双葉さんもファンの人達も綺麗に終わりを迎えてないからだと思います』


黒木

『だから、もう一度Sunnaから出ているファッション誌に、双葉さんを載せていただけませんでしょうか?双葉さんのモデルとしてのキャリアを終わらせるのに、美しい彼女の姿を最後に今一度見たいと、ファンの人達も思っているはずです。言葉でなくとも、姿を見せる事が、メッセージとして伝わるんじゃないかなって…』


KENGO

「…成る程」


KENGOは机に戻りパソコンと向かい合い、片手にスマホを耳に当てながら近日のスケジュールを確認していく。


KENGO

「…ランウェイもやろう」


黒木

『…?』


KENGO

「写真集を作るのなら、たった数ページだけじゃあダメだ。いっそのこと、一冊丸ごと双葉ちゃんを載せた写真集にしようじゃないか。Sunnaにはスタジオがあるし、セットも避ければ簡潔なランウェイとしても使える。それに、ストリートスナップも加えて…」


黒木

『…KENGOさん。俺から提案しておいてなんですが…凄く張り切ってますね』


KENGO

「ハハハ、当然じゃないか。そんな楽しい企画、盛り上がらないわけがないだろう?絶対にやろう。君の言う通り、みんながそれを待ち望んでいるはずだからね。…双葉ちゃんには、この企画は話してるのかい?」


黒木

『はい。嬉しいことに、彼女もやりたいって言ってくれてます。KENGOさんの方が問題なければ、この企画はOKという事で…』


KENGO

「ハハハ」


黒木

『…?』


スケジュールの確認を終えるとKENGOは突然笑い、机の上に置いてある双葉が所属していた頃の社員の集合写真の方へと目を向ける。


KENGO

「双葉ちゃんが乗り気になってるのは、君と共に過ごしたからだと思うよ。きっと黒木君と出逢ってなかったら、あの子は今も心を閉ざしていただろうし、ファンにとって最悪の終わり方を迎えてしまっていただろうね」


KENGO

「俺からの提案を、黒木君も一緒に考えて受け入れてくれて本当に嬉しいよ。…ありがとう」


社長の感謝の言葉を耳に、黒木も少し間があるも返した。


黒木

『…ファンにとって、最高の写真集になるようにしましょう。KENGOさん』


………


KENGO

「あの写真に一緒に写っている男性は、双葉ちゃんのお兄さんじゃない。彼の名前は黒木。双葉ちゃんにとって必要な存在であり、この世界で最も彼女の事を愛しているであろう人物。彼からの提案もあって、今回の夢のような企画は実現が出来る」


KENGO

「そして、ランウェイについては君達が二月に控えているスタコレへの大きな参考になるだろう。伝説と呼ばれたモデルの姿を目の前で見ることで、君達はモデルとしての…」


難波

「待て待て待て待て」


どんどんと話を進めるKENGOに難波が止めに入る。


難波

「情報量が多いて。何?今どこに双葉がいるのか社長は知ってはるんか?それにその黒木っちゅー男は、要するに双葉と付き合ってるってこと?そんなシークレットを、本人に確認なくウチらに話しても大丈夫なんか?」


難波の言葉にRABiと姫川も頷く。KENGOは其々の顔を見合わせ、難波の質問に答える。


KENGO

「君たちの事はハルちゃんから話を聞いてるよ。そして、こうして直接出会って分かる。この中に双葉ちゃんを悪く思っている人間はいないって。みんな、其々双葉ちゃんに憧れを抱いて、モデルとして活躍してきたのだろう?」


難波

「それはそうやけども…」


KENGO

「だったら、俺も君達を信用して双葉ちゃんの事を隠さず話したい。ランウェイは大規模には出来ないけれど、そこで見れる彼女の姿は、必ず君達の成長に繋がるはずだ。…勿論、それでも不安だと言うのなら俺から双葉ちゃんにTOP4も見に来ることを確認しておくけれど…」


姫川

「……見たいです」


ずっと黙って聞いていた姫川が、KENGOの目を見て答える。その表情は、正にプロの顔つきだ。


姫川

「双葉さんの最後のランウェイ、この目で見たい。私は、是非ともこの素晴らしい企画に参加したいです」


姫川に続きRABiも口を開く。


RABi

「…私、あの男の人知ってるんですよね」


難波

「なんやて!?」


RABi

「うん。今年の夏に記念ライブをやったんだけど、その時にファンの一人としてこの人と出会ったんだ。ちあの頃はちょっと色々あって心身疲れてたんだけど…この人の真っ直ぐな思いのおかげで、私は救われたんだ」


RABi

「この人が言っていた【特別な人】は双葉さんの事だったんだね。私の心に光を届けてくれたこの人が考えた企画なら、私も絶対に参加したい!」


二人の賛成の言葉を聞いてKENGOは嬉しそうに相槌を打つ。難波も腕を組んでこの情報量の多さに少し考えるも、最後には自信に満ちた顔を見せた。


難波

「せやな。こんな機会、もう二度とないかもしれへんっちゅーのに、悩む必要なんてあらへんな。双葉の最後の花舞台、この目でよーく焼き付けたるわ!春香も問題あらへんな?」


春香

「え?…あっ、は、はい!そうですね!私も双葉さんの最後を見たいです!」


姫川

「…?」


難波への返事に少し戸惑うも笑顔で返す。春香の様子が少し変だという事は、姫川だけがこの時に気付いていた。四人の賛成の言葉を耳にしてKENGOは残りのコーヒーを飲み干して、嬉しそうな顔で話す。


KENGO

「それじゃあ決まりだ。残りの準備はこちらで済ませるから、君達は当日を楽しみにして待っていてくれ。双葉ちゃんと君達の成功を、心より応援してるよ」


RABi

「ありがとうございます!難波さん!双葉さんにまた会えるなんてやばくない!?」


難波

「ホンマやな。しっかし、社長も前から知ってたんなら、もっと早うウチらに言ってくれても良かったのに」


KENGO

「ハハハ…最近までそんな企画を出せる程の余裕がなかったからね…」


春香

「……」


賑わうメンバーの中、春香は一人曇った表情で俯いていた。そんな彼女を姫川は心配する様に静かに見つめているのであった。


………


 …都内のとあるレストラン。次々と出される料理をガツガツと男は食べる。何でもかんでも直ぐに口に入れ込むその姿に品性の欠片もない。この場に馴染んでいない彼の正体は石神だった。金を一銭も持ち合わせてない彼が何故、レストランで高級料理のコースを食べれているのか。それは一人の男性との出会いがきっかけであった。


その男はホームレスの石神を見つけて


【芸能活動をしていた頃の貴方のファンだ。ホームレスに転落していると知って救いたくて会いにきた】


という理由で探していた様で、見るに耐えない汚い容姿の彼へと救いの手を差し出した。


 石神は突然現れてファンだと名乗る男に対して、揶揄われているだけだと半信半疑でいたが、この状況から抜け出せるかも知れないチャンスだと信じ、彼の差し出した手を握り返すのだった。



 それからは男に連れられ、まずは銭湯に向かい長年の積もった汚れを綺麗さっぱりと洗い流す。次に向かったのは人気の美容室。伸びに伸びた髪と髭を、美容師は嫌がる事なく丁寧にカットしていき、彼の腕前によってお洒落な容姿へと変身した。


 新しい服も何着も買ってもらい、使い古された服を捨てて直ぐに着替え、空腹だったお腹を満たす為レストランで豪遊する今に至る。対面席に座って此方を優しい目で見守る男が、石神には神の様に見えた。


 コース料理も終わり、空っぽだった腹は限界まで満たされ幸せそうに石神は一息付く。これ以上の幸福はないだろうと満足している石神の目の前に、男は分厚い札束をそっと机の上に差し出す。その金額は目で数えるだけでも100万はあるだろう。石神はギョッとした顔で、その大金を見つめていた。


石神

「こ、これは…?」


「そのお金は石神さんに譲ります。本当はもっと支援したいのですが、毎日一緒にいれませんので。それだけのお金があれば、当分は路上で暮らさなくても大丈夫でしょう。もしも必要ならば、家とかも此方で用意しますよ」


自分のファンとは言え、あまりの神対応に石神は段々と気味が悪くなってくる。彼は恐る恐ると男に質問をした。


石神

「…い、一応聞きたいんだけど…俺に何の見返りを求めているんだ…?こんなにも色々とされると…その…やっぱり怪しいというか…」


「見返りなんて求めていません」


石神

「…?」


男は机の上に乗せている石神の手をそっと握り、慈悲深い目で石神を見て微笑む。


「石神さんはかつて人々を笑わせる最高のエンターテイナーでした。それをたった一度の不倫で芸能界から干されて、路上生活にまで落魄(おちぶ)れていたのを知った時は…正直世間に怒りが込み上がりましたね。こんなにも素晴らしい人材を、意図も容易く蹴落とすのはおかしいだろって」


「強いて言えば、この支援とお金を糧に、貴方には再び芸能界を目指して欲しいと思っているだけです。もう一度お茶の間に笑いを届ける石神に戻って欲しい……それが、ファンである俺からの願いですね」


男の言葉を聞いて、石神はボロボロと涙で溢れていた。


 何年も、何十年も、路上で一人で生きてきて誰にも助けられず孤独だった石神にとって、男の優しい言葉は骨の髄まで染み渡る程心地良く感じた。この人は自分の為だけを思って助けてくれる。感謝してもしきれない彼の誠実さに、石神は涙を一生懸命に拭いて答える。


石神

「ありがとう…!本当にありがとう…!!この恩は絶対に忘れません…!!何か…何か俺に出来る事はありませんか!?少しでも、貴方のお役に立ちたい!!」




石神のその言葉をまるで待っていたかの様に、男はその【青い瞳】を輝かせて不気味に微笑むのであった。


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