生贄の村の言い伝え
ちょっとお時間宜しいですか?
少しだけお聞き頂きたい。
私が生まれた山奥のちいさな村のお話です。
どんくらい小さいかっていっても、生まれた時は赤子なので知ったこっちゃありませんが、村を出る時は百二人でした。
その村では病気、不作、天災が起きた年、一番高い山の一番上に居られるという神様へ、若者を生贄に出して怒りを沈めていました。
生贄を神様が気に入った年は村に二度目の災いは起こらないという言い伝えが村には有りましたから。
このお話の主人公の少年はとても明るく社交的で、名を三郎といいました。
三番目の男子だから三郎。いたく安直では有りますが、田舎の村なんてそんなもんです。
周りの大人たちからは程々に可愛がられ、兄二人と姉二人に見守られて育ちました。
近所のおじさんたちとも仲良くなり、友作おじさんや太郎おじさんからは剣を、喜八じいさんや兵助おじさんからは弓や狩りを教わっておりました。
三郎が村のいいつたえを知ったのは五つの時、十二になった長女のはつが生贄に選ばれた時でした。
慕っていた姉の初めての涙、小さいながらも村の為にと堪える姿は幼い子にはとても重かった。
十五になったら村を出て侍になるというのが三郎の口癖でした。
村では、長男は家を継ぎ、次男や三男は長男の傍で土地や家を守る為に暮らしたり、家を出て他の家や空いた土地で農民として暮らすのが普通でした。
強くなってお殿様に気に入られれば侍になれる。
三郎にはそれしか村を出る方法が見つからなかった。
十二を超える頃には友作おじさんや太郎おじさんにも負けない程の剣の腕になっていました。
大人として認められるまで半年を切った頃、村に嵐が来て、作物は根こそぎ持っていかれ、続く日照りで再び作物を育てる事も出来ませんでした。
村の大人達は集まって話し合い、一夜で結論は出ました。
「生贄を捧げよう」と。
当然誰を生贄に捧げるかというのはとても難しい問題で、普段なら決まるのに夜がいくつか過ぎるものです。しかし今回は、都合良く村を出ようとしている三郎が居たのでその夜のうちに決まってしまいました。
生贄に選ばれた事を聞いた三郎は「ああ、わかった。」と一言だけ発し、普段と変わらず剣を振るいました。
村人達も生贄まで半月の猶予を用意しましたが、それでま三郎は村を出れる年には届きませんでした。
半月の間三郎は最後の思い出にと村の男達全員と剣を交えました。
稽古なのでもちろん木刀ですが。
生贄として出発する前の晩、三郎は家族に言いました。
「俺が生贄に出発したら、みんなはこっそり村を出て城下町で暮らしてくれ。村には居られなくなる。」と、真剣な顔で。
兄達は三郎の話には耳を傾けず、父は「神に牙を剥く気なら許さん!」と怒り、母は「村の為にしっかりを務めを果たしてください。」と三郎をなだめました。
次の朝、三郎は次女のつぐ以外の家族には見送られずに、十人ほどの付添人に連れられて家を出た。
村の中には三郎が神を殺す為に村人全員と剣を交えたのでは無いかという噂が微かに流れていたらしい。
付添人達も神に手を出させぬ為に、いつもどおり神の住まう祠の前で生贄を拘束し、そこで神に引き渡す予定だった。
しかし、一刻が過ぎる頃に三郎は村にふらりと舞い戻った。
白い死装束に微かな返り値を浴びて。
生贄を放棄した三郎に村人達は怒り狂った!
男達は剣を持ち出し、三郎に切りかかった!
しかし三郎はそれをひらりとかいくぐり村人達を一人、二人と切り捨てて行く。
女達も槍や石を持ち、三郎を殺しにかかる!
投げられた石がいくつか当たるも三郎は怯まず村人達を切り捨てる。
ばったばったと死体が増える!
姉のつぐを覗いた村人すべてが三郎に襲いかかる!
父や兄達も刀を振るう!
三郎は肉親をも切り捨てる!
そうして村に百の死体が転がった時、三郎は山の頂へと消えて行った。
「神よ!約束通り百の生贄を用意した!俺の望みを叶えよ!」
三郎の声が頂の祠に響き渡った。
祠の下から八丈(約25メートル)を超える大蛇が現れ三郎を見つめる。
「愚かな。村を滅ぼしてでも叶えたいお前の望みを言ってみろ。」
大蛇は荘厳に佇む。
「俺の望みは唯ひとつ。このくだらない因習を断ち切る事!」
三郎の声が山々に響き渡る中、大蛇はふたつに分かれ動かなくなっていた。
三郎が生まれてから生贄になった3人だけでなく、古く続く因習に囚われて死んでいった魂達の永遠の無念が解き放たれた。
そうして三郎は醜い因習と共に山の彼方へ消えました。
何故こんな話を聞かせたかって?
愚かな人間の教訓となって欲しいからですよ。
村を出ようとしている人間を切り捨てたり、自分達の安定の為に平気で人の命を捧げる、強気の顔色を伺い続け疑問を持つことすらない、そんな愚かな人間たちのです。
そうそう、一つ付け加えるなら、三郎は神ではなく人を切る為に5つの時から剣を磨き、人を殺す為に村人全員と剣を交えて太刀筋を覚えたんです。
しかも自分の全力を一度も出すことなく。
愚かですよね。殺される事も怨まれてる事も知らないで手の内を明かしてしまうのですから。
ああ、ちょっと怖がらせ過ぎてしまいましたか。
別に貴方に怨みはございませんよ。
私はただただ、この様な醜い因習を無くす為にお話を広めてるだけですから。
気になりますか?村は滅びたのに何故このお話が伝わってるのか。
感のいい貴方なら気が付いてるんじゃ無いですかね?
では帰りますね。
姉が待っているので。
少しでも広めて欲しいとの事だったので、演者さんの台本読み、朗読の練習などにも使って頂けると嬉しいです。
出典リンク付けたうえでどんどん周りの方に話していってください。