表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/35

35、聖女と公爵(2)

「あー、聖女殿? そう見つめられますと……」


 どうにも思いに任せて見つめ過ぎたらしい。

 そして、野鳥ならぬ人の身ではこうも違うのか。

 同じ見つめるにしても、おそろしいほどの気恥ずかしさであった。

 アザリアは赤面して彼から目をそらす。


「す、すみません。不躾(ぶしつけ)でした」


「あー、いえ、不躾ということはありませんが……ごほん。ともあれです。これで一段落というところですかな」


 気を取り直してアザリアは頷きを見せる。

 確かに一段落と言える。

 自身は元の体に戻り、レドはこうして無事でいる。

 しかし、不安もあった。


「今後はどうでしょう? あの男……殿下が報復に動くようなことは?」


 そこがやはり心配だった。

 その時にはまた動くつもりだったが、レドに危険に(およ)ぶ可能性は無いに越したことは無いのだ。

 そのレドは悩ましげに眉をひそめる。


「……どうでしょうかな。そこは大丈夫である気がしますが」


左様(さよう)でしょうか?」


「えぇ。あの方は決して豪胆(ごうたん)では無いし、現実に向き合うのが好きな方でも無い。今回のアレコレからはもちろん、おそらく我々からも目を背けられるかと」


 そんな彼の見立てであった。

 楽観に過ぎるような気もしたが、自身よりはるかに彼に詳しいであろうレドの見立てである。

 アザリアは笑みで頷きを見せる。


「そうですか。それは幸いです。しかし、あー、そうなると……私の婚約などは?」


 そこは気にかかるところだった。

 ただただ素直に無しなのだ。

 アザリアの心は、当然のごとくもはやハルートには無い。

 ただ、難しいところはあった。

 自らが彼の妻に収まることで、得られる何かもあるかもしれないのだ。

 それは例えば、この国の平穏であったり、レドの身の安全だったりするのかも知れなかったが……


 ただ、やはり無しなのである。

 アザリアは不安の思いでレドを見つめることになる。

 すると、彼の表情に浮かんだのは、人を安堵(あんど)させるような笑みだった。

 

「心中お察ししますが、まぁ、貴女が心配するようなことにはならないでしょう」


「そ、そうでしょうか?」


「それを望む陛下はいまだ病床(びょうしょう)の身。そして殿下当人は、貴女の顔を見たくもないでしょう。婚約は無かったことになるでしょうが……殿下に未練(みれん)などはございますかな?」


「あ、ありません! あってたまるものですか!」


 思わず叫ぶと、まるでメリルやマウロを相手にしている時の彼だった。

 レドは楽しそうに笑い声を上げた。


「ははは。まぁ、でしょうな。では、これで今まで通りでしょうか」


「今まで通りですか?」


「はい。後始末は我ら王族重臣にお任せを。アザリア殿はこれで今まで通りです。大聖女として、お働きいただけるものかと」


 アザリアは笑みで頷く。

 聖女として、これまでと同じように働ける。スザンの人々の力になれる。それに勝る喜びは無い。ただ、


(……今まで通りですか)


 そこに思うところはあった。

 今まで通りに聖女として働く日々がやってくる。

 では、そこにレドは?

 彼とも今まで通りなのだろうか?

 彼はそのつもりなのだろうか?

 今までの関係性を維持するつもりなのだろうか?


 よし、とは思えなかった。しかし、ならば自分はどうするべきか?

 分かるようで分からないし、踏ん切りもつかない。

 アザリアはまごまごと焦りだけを募らせる。すると、


「……まぁ、私はそうはいかないのですが」


 レドが呟いた。

 自分に精一杯のアザリアだったが、これには首をかしげることになった。


「そうはいかないですか? ……まさか何かしらの罰が?」


 不安がよぎったが、そんな話では無いらしい。

 レドは苦笑で首を左右にしてきた。


「いえ、そのような話では無く。聖女殿に対して、今まで通りの立場でいることが難しくなったかと。なにぶん、ああしてお救いいただきましたので」


 アザリアは「あぁ」と納得だった。


「確かに、敵対しているというのはもはや」


「通用しないでしょうね。大聖女批判の第一人者という立場は便利だったのですが……うーむ。残念ながら、ここまでとなりましょうかな」


 それは不安を呼ぶ発言だった。


(そ、それは……これまでということですか?)


 もはやレドはアザリアとは関わらない。

 そんな意味かと思ったのだ。

 しかし、どうにもそうでは無いらしい。


「……その、色々と考えましてな」


 そう前置きし、レドはどこかまごまごとして言葉を続ける。


「もちろんですが聖女殿への手助けは続けたいと思い、ただ今までの立場は使えず、ではこれからはどんな立場であれば……いや、どんな立場でありたいのかと色々と考えたものですが……聖女殿?」


「は、はい」


「王宮でのことです。私は貴女に抱きしめていただいたかと思うのですが」


 質問の意図は分からない。

 だが、その質問はアザリアを赤面させるのに十分過ぎるものだった。


「そ、それはあの……す、すみません! あれは思わず咄嗟(とっさ)に……っ!」


「うぬぼれても?」


「え?」


「貴女が博愛(はくあい)の人だとは分かっています。ですが、それでも……特別だと、うぬぼれさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 レドは真剣そのものだった。

 わずかに額に汗を浮かべながら、切実(せつじつ)な眼差しでアザリアを見つめてきている。


 さすがにこの質問の意図は理解出来た。

 そして、自身の返答がどんな結果に通じるのかも。


 迷いは無かった。

 アザリアは笑みを浮かべ、レドに頷きを返した。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!

当作はこれにて完結となります。

もしよろしければ、ページ下部★から評価いただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ