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28、【レド視点】レドとハルート(1)

 ケルロー公爵家は伝統的に勤王(きんのう)を誇りとしてきた家柄である。


 現当主、レド・レマウスにもその自負はあった。

 ケルロー公爵家こそが、スザンの第一の盾であり剣である。

 その思いを胸に王家に尽くしてきた。

 その甲斐(かい)は十分にあった。

 現国王はそれだけの人物だったのだ。

 支配者としての器量、才略(さいりゃく)は十二分。

 臣下であることに誇りを覚えさせてくれる人物だった。


 そう、彼はそんな人物だったのだ。

 だからこそ、レドはわずかに首をかしげることになった。


(あの傑物(けつぶつ)からよくもまぁ)


 不思議な後継ぎが生まれたものである。

 レドは玉座の間にいた。

 そして、その玉座を背にして、くだんの後継ぎが立っている。

 ハルート・スザン。

 彼は端正な顔を憎悪(ぞうお)に歪ませていた。


「……よくも私を裏切ってくれたな」


 裏切り? とレドが疑問に思うのと同時だった。

 彼は大仰(おおぎょう)な手振りを添えて叫び声を上げた。


「よくも我が信頼を裏切ってくれたな!! 貴様の言葉を信じたばかりに、私は最愛の妻にして至上(しじょう)の聖女を失ったのだ!! この始末、貴様は如何にするつもりだ!?」


 なるほどだった。

 確かに、そんな台本にはなっている。

 今回のことはレドの虚言(きょげん)が原因となっているため、そのことを指して裏切りとするのはおかしくは無い。

 ただ、


(裏切られているのは私のような気はするが)


 王国のために死んで欲しい。

 もちろん、ケルロー公爵家の安泰(あんたい)は約束する。

 貴殿の名誉についても出来る限り取り計らう。

 不要な屈辱を与えるような真似は決してしない。


 そんな約束があったのだ。

 しかし、現状はこれであった。

 玉座の間には多くの人影があった。

 多くはハルートの友人、知人だろうが、ともあれ人が集められているのだ。

 その上で、レドはこうして詰問(きつもん)を受けている。

 約束は破られたと理解せざるを得ない状況だ。


 この場には宰相もいたが、彼は申し訳無さそうに小さくなりうつむいていた。

 これはハルートの独断であり暴走である。

 そうとも理解をせざるを得ず、レドは内心でため息だった。


(まったく。本当にこの方は)


 不誠実であり、臆病(おくびょう)だ。

 ただ殺すだけでは、自分への非難は晴れないかもしれない。

 そんな恐怖に基づいて、自らが被害者であることの演技を衆目(しゅうもく)にさらすことを決めたのだろう。

 加害者(レド)弾劾(だんがい)することにしたのだろう。

 

 病床にある国王であれば違っただろう。

 そもそもこんな事態に(おちい)らないだろうが、少なくとも「すまない」と一言(ねぎらっ)ってくれたはずだ。

 

 その一言すら、この人は言えない。

 哀れさすら覚えるような支配者としての素養である。


「どうした!? 返す言葉もないか!!」


 ハルートの怒号を浴びて、レドは気を取り直すことにした。

 正直、ケルロー公爵家についての約束が守られるかという心配はあったが、ここまで来たのならば仕方が無い。

 宰相を信じるとして、レドは台本に従うことにした。


生憎(あいにく)ですが、申し開くところはございませんな」


 ハルートの反応を待たず、レドは言葉を続ける。


「確かに今年は不作のようですが、大地の実りは天候こそが一番の要因。あの女が偽物であったことに一片の疑いもございません」


 平然としてうそぶいて見せる。

 すると、ハルートだ。

 大した演技力だと褒めても良いのかもしれない。

 大切な聖女を侮辱されたと言わんばかりに、顔を真っ赤に染め上げた。


「へ、減らず口を……っ!! おい、よこせ!!」


 レドは目を丸くすることになった。

 これも怒りの演技なのかどうか。

 彼は近くの衛兵の手から長棒を奪い取ったのだ。

 そのままの勢いである。

 彼は長棒を振りかぶり、怒りに燃える目でレドに叩きつけてきた。



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