26、帰還(1)
アザリアは暴れるのを止めた。
ただただ閉じた扉を見つめる。
(……私のせいだ)
そうとしか思えなかった。
全ては自身のせいなのだ。
辛い現実から逃げ、レドの元で安穏として生きることを選んだ自らの罪。
聖女としての責任に向き合い、人の身体に戻っていたら。
ハルートの悪事を公にしていたら。
きっと、こんな結末だけは無かったに違いないのだ。
内心では、それを否定する囁きもあった。
仕方がなかったのだ。
自分は心を病んでいた。
だから、これは仕方がない。
レドがハルートに謀殺される結果になったのも、どうしようもない。
自分にはどうにも出来なかったのだ。
しかしである。
アザリアはさらに自問する。
では、これを見過すのか?
レドがハルートに殺されるのを鳥かごの中で、ただただ待ち受けるのか?
答えなど決まっていた。
(そんなこと……っ!)
アザリアは周囲を見渡す。
自分の力ではかごの入口を開けるのは難しい。
何かを探しているのだった。
入口を開くための何かをだ。
(あっ!)
アザリアは気づいた。
窓が開いているのだ。
この書斎は2階にある。この鳥かごは窓際の机に置かれている。
仮に、鳥かごが窓から落ちるようなことがあれば……
(よし!)
光明を見つけ、アザリアは再び動き出す。
全身を使って鳥かごを揺らす。
上手くいくとは限らなかった。
自分が無事で済むとも限らなかった。
それでも止める理由になどならない。
必死で揺らし続ける。
だが、
(な、なんでですか!?)
アザリアは内心で悲痛の叫びを上げることになった。
ほとんど動かないのだ。
理由はと言えば、なんてことはない。
レドの立派な鳥かごに対し、アザリアは非力過ぎたのだ。
いくら揺らしてみても結果は変わりようは無かった。
動かない。
焦燥感がアザリアを襲う。
(これでは……)
鳥かごから出ることは出来ない。
レドを見殺しにすることしか出来ない。
それはダメなのだ。
アザリアは必死に揺らし続ける。
それは絶対にダメだった。
今のアザリアは知っていた。
彼がどんな人間なのか?
自分のために、彼が何をしてきたのか?
見殺しに出来るはずが無かった。
特別なのだ。
彼はアザリアにとって、『大事』な人間であり、
(お願い、動いて……っ!!)
願った。
そして、気づいた。
アザリアは動きを止める。
(……え?)
妙な感覚があったのだ。
身に覚えはあった。
それは王宮の玉座の間でのことだ。
ハルートに死罪を言い渡され、黒幕だと疑っていたレドに心の底からの殺意を抱いた当時。
聖女としての力を行使した時に似て、しかし不思議な感覚を覚えたものだった。
その感覚は、自覚無く王宮を揺らすという不思議な現象をもたらしたようだったが──その時と同じだった。
同じ感覚がある。
確信もあった。
出来る。
アザリアは思う。
(揺れろ)
その通りになった。
屋敷が揺れた。
鳥かごもまた同様になる。
簡単にバランスは崩れた。
横倒しになり、窓枠の外へ。
落ちる。
視界は回り、瞬きの内に衝撃。
よろめくことになるが、とにかく急いで状況を確認する。
人間であったのなら笑みが浮かんでいただろう。
狙い通りだ。
2階から落ちた鳥かごは大きく歪んでいた。
入り口付近も壊れ、這い出る隙間は十分にある。
急いで外へ。
アザリアは早速飛び立った。
目的地は決まっている。
レドの元へと急ぐ……というわけでは無い。




