追放されたおっさんテイマーは縁を切って旅へ出る(習作)
「レオン、君は首だ」
それはある日突然告げられた。冒険者としては中堅で中年の俺レオン・パーバティはバッファー専門のテイマーとして若い頃から様々なパーティーを渡り歩いた。今いるBランクパーティーマッスルロードもその一つだ。リーダーのハリーは剣士として前衛をサブリーダーにしてあらゆる攻撃魔法に精通していると豪語するマリオン、元神父で回復魔法のスペシャリストダニエル。そして俺はモンスターを従えそれぞれにバフをかける縁の下の力持ちというポジションとしてうまくやっていたはずなのだが……
「はあ?突然何を言い出すんだ、ハリー冗談にしてはキツすぎるぜ」
「冗談?ハッ、へそで魔法を唱えるぐらいおかしいね」
有無を言わせぬ一言に同意するように仲間達もフォローをしてくれず頷いていた。
「だいたいおめーのモンスターは中級で従属の首輪さえあれば誰にでも扱えるんだろう?モンスターだけ置いていけよ」
パーティーの中では仲の良かったはずのマリオンですらも厳しい一言を向けられる。
「貴方のような歳だけを重ねてろくに働かない支援職は我がパーティーには不要です、我々はAランク、いいえSランクを目指すために新たな若い人材を雇うのですから」
止めとばかりにダニエルが丁寧語だが誠意のかけらもない言葉をかけてくる。
「……それは構わないが、俺のヘルハウンドは我儘だぞ?確かにあらゆるバフを出来るがどうなっても知らないぞ?」
「ハッ金か?装備をおいていけと言わないだけありがたいと思って欲しいものだがな、いいだろう、ほら金だ。これだけあれば一人でもやっていけるだろう」
ボン、と明らかに中身の少ない布袋を顔にぶつけられる。悔しい……悔しい……これまで様々なパーティーを歩いていたがこんな扱いを受けたのは初めてだ、円満に期間を終えて解散する冒険者としてこれほど屈辱的なことはない。ましてや相棒をおいていけと言われるなど……
「わかった、わかったもういい。ヘルハウンドは置いていく。だがどうなっても知らないからな?」
「うっせぇ、とっとと出ていけこの穀潰しめ!」
蹴りを入れられすっ転ぶ俺を嘲笑する仲間達、いや仲間ですらないのか。仲間だった何かだ。心が急激に冷めていくのを感じた、こうして俺はハリー達に背を向けその場を去っていった
「さて、出ていったものの……やっぱりちょっと気になるな」
パーティーと別れて数日、宿を取った俺はこのあとどうするかを何もせず考えていた。恐らくハリー達は森にモンスターを狩りにいっているはずだ、道標も兼ねてヘルハウンドを使っているはずだがさてうまく使えているだろうか、従属の首輪さてというがぶっちゃそんな単純なものではない。テイマーとの信頼度というものにかなり左右される、それを無視して扱おうとすればどうなるか……まあ、いいか。そもそもヘルハウンドは知能が高い、なんとかうまくやるだろう。俺とは違って若さは少なくともあるし寿命は長い。それよりも当面の問題は……金だ。手切れ金代わりに貰った銅貨と貯めていた銀貨では数日過ごすことはできるがこれでは宿賃だけて消費していってしまうだけだ。
「ギルドに行くか、またパーティーを探すのか……面倒くせぇなあ」
俺のようなパーティーに属さないフリーの冒険者はギルドにおいてもそれほど扱いはよくない、初心者〜中級者パーティーの助っ人としてクエストをもらうことがあるがそれは運が良い時で大抵は薬草刈りが低級のゴブリン狩りだ、だが、まあ仕方なかろう。また1からスタートだ、中年の俺には辛いところだが……
「おう、レオンじゃねーか。珍しいなマッスルロードはどうしたんだ?」
「いやあ、ハッハッハ……実はな」
受け付けに行くと馴染みのやはりおっさんで元冒険者の受け付け職員がいたのでカクカクシカジカと説明するとただでさえ強面の顔にシワがよりとんでもないことになっていった
「そういえばマッスルロードが森にオークの集団を狩りにいったはずだが帰ってきてねぇな、お前のヘルハウンド使いこなせてねぇんじゃねえのか?」
「やっぱりなあ……今更パーティーに戻る気はないが様子を見てくるよ。その依頼を受注出来ないだろうが近くまでいけそうなのはないか?」
案の定といったところだがそれでも見捨て……見捨ててもいいのだがヘルハウンドのことだけは気になる。そう思い俺は森に様子を見に行くことに事にした
「それなら薬草とりのクエストがあるが本気か?」
「ま、行くだけ言ってみるさ」
その後俺はクエストを受注すると森の入口まで行き、適当なところまで歩くと笛を鳴らしあるモンスターを呼び出した、普段は放し飼いしている為こうして呼ぶ必要があるのだ
「はあい、レオン珍しいわね私を呼ぶなんて……って一人?あのうざい人間達はいないのね」
「ああ、ハルピュイア。それには事情があってな……ちょっと空から奥の様子を見てきてくれないか?俺も歩きながら向かうから」
ハルピュイアは人語を理解するモンスターとして俺がテイムしたモンスターの中では特に重宝していた、知能も高く放し飼いにする代わりにこうして呼べばいつでも来てくれるのだから有り難い。
はり同じように説明するとおっさんの時とは違いとても嫌そうな顔をしていた。
「えーレオンの事を無碍にするような奴等の心配をするの?どうでも良くない?ヘルハウンドのやつだってそのうち勝手に戻ってくるでしょうが」
「そう言ってくれるな、ハリー達はどうだっていいがヘルハウンドを簡単に手放した事に未練があるんだよ」
ヘルハウンドは獣型モンスターの中では中級程度に属するが俺のは特注で支援魔法に特化したタイプでパーティーでは俺を始めとしてパーティーの多くにバフを掛けて自らも攻撃に参加するなど活躍していた、もっとも気性が荒く我儘で従属の首輪無しでは当初は扱えなかった。俺や俺のテイムしたモンスターだけなら首輪を外しても問題ないところまで長年かかった、それだけにその場の勢いとはいえ手放したことに未練もあるしハリー達に扱えるとは思えない。
「はあ……わかったわよ、見てくるわ。あんたもほんとお人好しよね。その歳になってそれじゃあお嫁さんも見つからないわけてね」
「うっせーこれは性分なんだよ、今更変えられるか。とにかく頼んだぞ」
捨て台詞のような言葉を残し森の上空に飛んでいくハルピュイアを見送ると俺はのんびりと歩き地面を歩き薬草を探して歩いていった。
◆◆◆◆
「おい、このヘルハウンド言うこと聞かないどころか俺たちを見捨てて何処かにいってしまったぞ」
「ど、どどうするんだよ。こんな奥で道標もなくてあげくに……」
「く、オークの上位種であるキングオークどころかロードゴブリンいるだなんて聞いていませんよ?!」
「回復が追いつかない、おいバッファーは……くそ、こんな時にあの役立たずがいやしねぇ!」
ハリー達マッスルロードは絶体絶命のききに瀕していた。肝心のヘルハウンドはまるで言うことを聞かず途中まではそれでもパーティーに同行していたが、いつの間にか姿を消していた。その結果がこれである、ゴブリンは下級で基本的には中級程度の冒険者であれば何のことはなくただ狩られるだけの存在だが稀に突然変異種が生まれることがある、それがキングゴブリンとロードゴブリンだ。それぞれ王冠のようなものを頭に付け通常であれば成人男性と同じぐらいの大きさだが彼らともなるとその数倍の大きさになりその脅威度はBランクであっても苦戦するレベルだ。何より脅威なのはその統率力である、ゴブリンは知能が低く棍棒を使う程度で群れをなすといった行動はまず取らない。しかし中心となるキングゴブリンやロードゴブリンが出現すると途端に統率のとれた行動をするようになるためその脅威度は一気に増す、それを上空から見ていたハルピュイアは即座に帰還して俺のもとに来て事の詳細を知らせてくれた、どうやらヘルハウンドはその場にいないようだが……
「どうする?近くにヘルハウンドのやつはいるようだしあいつら見逃して捜索する?」
「ふぅむ……やーれやれアフターサービスはしないのが俺の主義なんだがなあ、仕方ない。呼べばヘルハウンドも来るだろうし一度だけ助けてやるさ」
「そんなんだからぼったくられるんじゃないの、このお人好し。まあそんなあんたにテイムされてる私も私だけど……」
呆れて肩を竦めるハルピュイアを引き連れ現場へと向かった、その場に行くとゴブリンの群れに囲まれジリジリと追い詰められているハリー達がいた。
「ふう……来い、ヘルハウンド!」
「オオォン!オオォン!」
あたりに向けて声をあげるとどこからともなく現れた、やはりどこかに潜んでいたらしい。俺の近くまでやってくると頭をこすり付けてくる。
「よーしよしよし、さあてお仕事だ」
「魔法発動、コード火炎強化起動」
俺の魔法は一般的なものと違っていて何かを通さないと真価を発揮しないから誤解されがちだがモンスターを通して発動すると凄まじい威力を発揮するのだ
「ギエエ?!グオオオ?!」
ヘルハウンドにかけた魔法により吐かれた業炎によりゴブリン達が丸焦げになっていく
「魔法発動、コード疾風斬発動」
さらにハルピュイアにかけた魔法により上級のゴブリン達が小刻みに切り裂かれていく、彼等は何もできていなかったが俺にかかればこんなものである。
「す、凄いな。レオン悪かったよパーティーにもど……」
「戻るわきゃねーだろが、俺はヘルハウンドを回収に来ただけだよ。全く手間を掛けさせやがって」
「ほんとよね、バーカバーカ。あ、レオンー王冠と肉片の回収終わったから帰りましょ」
俺達のもとにかけよってきて手の平を返して口々にパーティーに戻ってこないかと等といってくるが当然お断りだ。その間にハルピュイアにミッションクリアの為の素材回収をさせると背を向ける。
「さーて帰って報告だ。これから新しい冒険の始まりだな!」
ヘルハウンドとハルピュイアを引き連れ街へ戻る。今度こそようやく縁を切ることができてせいせいした、これからはまた新しい旅が始まるのだ。旅という名の上り坂の途中に過ぎないのだから……
習作ということで色々と拙いかと思いますが読んでくれたら嬉しいです