異世界!?勇者なんか絶対嫌だ!
目が覚めると全部真っ白な上も下もない様な、立ってるのか寝てるのかもわからない空間に俺はいた。
俺は…死んだ、のか?
「死んだね。」
後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、ロン毛をセンター分けにしたイカした老人が立っていた。
「あなたは?ここは死後の世界ですか?もしかして、あなたは神様ですか?」
老人は眉間に人差し指を添え、考える素振りをすると呟いた。
「あの世とこの世の狭間といったところかな。して、どうするかのぅ…儂はこの者をそのまま死者の国に送ってしまうのは些か不憫に思うのじゃが?皆はどう思う?」
老人がそう呟きながら両手を広げて周りを見渡すと、俺と老人を囲む様に頭上から夥しい数の炎が降り注いだ。
そのひとつひとつが柱の様に垂直に降りたかと思うと一瞬弾けて人が現れた。
爺さん婆ぁさんばかりではなく、ちらほら若い人もいるようだ。
すげー人数に取り囲まれてるんですけど…。
呆然とする俺に最初に現れたじぃさんより小さな爺さんが言う。
「ふむ、儂も可哀想に思うわい。此奴の善行は皆は知っておるはずじゃ。あんな意味のない死に方…お主も納得できんじゃろ?」
小さな爺さんは俺の足元まで歩み寄ると、機嫌が悪いのか眉間にシワを寄せている。
「では、別世界に転生させてやるのはどうだ?ゲームの好きな此奴ならば…ほれ!例の世界の勇者候補にどうじゃ?」
振り向くと頭の異様に長い目の細い爺さんが言う…てか目閉じてないか?
すると取り囲んでいた人達が一斉に叫び始めた。
「それがいい!」「うむうむ!其奴なら適任じゃ!」
「必ずや魔王を打ち滅ぼし、世界を救ってくれるじゃろう!」
え?なんか勝手に言ってますけどなんなんですか?
勇者?別世界?なに?俺、異世界に転生されんの?
マジで…やべ、ちょーテンション上がるんだけど!
笑いが我慢できずニヤニヤ気持ち悪い顔をしてると、最初に声をかけてきた長髪の老人が手を上げる。
「静粛に!!ーー…うむ、佐々木健一郎君。君をある世界の勇者候補にしてやろう。容姿もジャ○系の顔にして、身長も180センチのガリマッチョでモテモテのリア充生活を送るがよい。あ、けど頑張って魔王倒してよ?」
長髪の老人はウインクしながら俺にそう言った。
俺の答えはもちろん決まってる!
「だが断るっ!!!」
「「「「「「「「「なんだってー!?」」」」」」」」」
その瞬間、俺以外全員が一斉にひっくり返った。
ふふ…俺に、俺に勇者をやれだと?この俺に!!!
あんなリア充をっ!?くっそがーーーっ!!
「まてまて、待つんじゃ!何故勇者が嫌なんじゃ?儂ら神々の中から好きな者の加護を一つだけ与えると言っておるのじゃぞ!?」
長髪の老人、いや、長髪の神様は俺の肩を掴むとブンブン振り回しながら叫ぶ。唾飛ぶんだけどやめれ
「いや、俺勇者嫌いなんですよね。なんかチヤホヤされてムカつくんですよ…。俺は戦士が好きなんですよっ!!魔法も碌に使えないのに最前線で戦い、片想いの女僧侶ちゃんは勇者に片想い…叶わぬ恋だと知ってなお共に戦い続け…。最後には女僧侶ちゃんの好きな勇者を庇って死ぬ。男の中の男!そう思いませんか!?」
俺は長髪の神様の手を振りほどき、大声で叫んだ。
そうだ!俺は戦士が好きなんだ!
あの報われないと知ってても自分の信念は決して曲げないとこ!勇者よりカッコいいじゃん!
「いや、しかしじゃな…」
「おもしろいっ!!!」
長髪の神様の声を破る大声が鳴り響いた。
それとほぼ同時にどデカい炎が一本の柱を作った。
激しい爆発と共に少しウェーブかかった長髪の髭もじゃゴリマッチョの爺さんが現れた。何この人、めっちゃカッコいいんですけど!?
筋肉神様がズカズカと歩くと、俺を取り囲んでいた他の神様達が道を開ける。よく見るとみんな顔が引き攣っている。
ダンッ!と音を立てて俺のすぐ目の前に筋肉神様が立つ。
てかデカっ!2メートル以上あるんじゃねーか!?
「…ボルボ。まさかとは思うが、お主…。」
長髪の神様は冷や汗を流しながら筋肉神様、ボルボに問いかける。
「ははっ!やっと見つけたわいっ!どいつもこいつもやれ魔法やら、やれ回復やら!下らん!真の漢とはなんたるかを全く分かっておらん!この最強の力を託す者は最早現れぬと思っておったわ!がっはははははは!」
ボルボは腰に手を当て大声でそう言いながら笑った。
え?俺なんか言った?気に入られてんの?
てか、なんかみんな様子がおかしいぞ??
周りを見ると、他の神々は「やべぇ…マジやべぇ」みたいな顔で俯いて顔を上げようとしない。
「いや、まてボルボよ!しかしだな、お主はもう何千年も加護を与えてはおらぬだろ?ほれ、あの時も失敗だったではないか?だからな、今回は誰か別の者に…」
長髪の神様は必死に説得している。
なんだ?なんかヤバイの?失敗て何!?怖いんだけど!
すると、ボルボは長髪の神様の胸倉を掴むと顔を近づけて呟いた。
「煩いわゼルダ。此奴の加護は儂が与えると決めたんじゃ。それに、お主は既に加護は与えておるじゃろう。他の者も文句ないなっ!?」
長髪の神様、ゼルダから手を離すとボルボは振り返りながら大声を上げて周囲を見渡す。
周りの神々は皆、俯いて黙ったままである。
「決定じゃ!良かったの小僧!お主は最強の戦士になるぞぃ!」
ニカッと白い歯を見せて笑うボルボに俺は不安しか抱けなかった。
「ふぅ…。皆、佐々木健一郎の加護はボルボが与えると決まった。解散じゃ。」
ゼルダが頭を抱えてそう言うと、他の神々はまた炎となって遠くへと消えて行く。
「はぁ…ボルボじゃ逆らえねぇな。」
「儂の大聖天結界の加護与えたかったのに…。」
「いや、我輩の神鉄の加護は…」
「妾の水霊の…」
「なぁ?俺の疾風の加護いつになったら決まるかな?」
なんかみなさん凄い強そうな加護をお持ちですけど…
あの神様のは一体なんなんだ?
皆があんなになっちゃうくらいなんだからかなり強いやつなんじゃね?
少しの不安と期待をしながらボルボを見る。
すると、ボルボは右腕を上げて叫んだ。
「受け取れ!!小僧!そして勇者なんぞ蹴散らして、魔王を討ち取ってみせよ!」
凄まじい光がボルボの掲げた右手に集まっていく。
「おっしゃー!よくわかんないですけど、異世界で頑張ってきますっ!」
俺は敬礼をしてボルボと、ボルボのすぐ後ろに立つゼルダにそう言った。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
ボルボは掲げた右腕を俺に向かって突き出した。
すると、集まった光の粒子は俺の周囲で雷のように弾けた。
おおっ!なんかカッコいい!やべぇやべぇよっ!!
「あ、あと儂が考えた外見にしといたから。じゃあ、達者での!上から見とるからの!」
そう言うと、いつの間にか背後にあった扉に蹴り飛ばされた。白い歯を剥き出してサムズアップするボルボの背後でゼルダは申し訳なさそうな顔で合掌していた。
ちょっと待てや!?外見変えた?まて、変えていいとは言ってないだろ!ジャ○系はやめてくれ!頼むぅぅ!!!
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
落下する感覚の中で俺は自分の顔を触りながら意識を手放した。