健一郎の異変
「100体以上はいるな…。俺達だけじゃ勝ち目はない。」
ヘスの使用した探索サーチは索敵スキルの一つである。
レベルが上がるにつれて精度が上昇し、敵の数だけではなく、容姿もその場にいる様に鮮明に見える様になる。
健一郎はヘスや他のエルフ達と茂みに隠れて、魔物の群れが視認できるほど近くに来ていた。
スライム、ウェアウルフ、ゴブリン、ボブゴブリン、ゴブリンアーチャー、トロル、オーガ…。
とんでもねぇ。なんでこんな大群が…一体どこから?
ヘスは暫く考える。
最近頻繁に魔物を見るようになった。先日もトロルを倒したばかりだ。
あの人間がまた?かなりの深傷を負ったはずだ。死んでいてもおかしくはない。
…生きていたとしたら?こんなに早くやってくるか?
いや、あの野郎ならありえる。
「村が心配だ。一旦帰るぞ。」
ヘスは身を屈めながら後退する。
他のエルフ達も同様に、自身が発する音に注意しながら。
健一郎は一人、魔物をまじまじと見つめていた。
初めて見る生き物【ビックボヤードもそうだが】元いた世界では類似する生物なんて存在しない異形のモノ達を。
うっわー!ゴブリンだっ!あれ絶対ゴブリンだ!
すげっー!!ちっこいのに悪そうな顔してるわ!!
あれトロルだよな!?絶対トロルだ!鼻水垂らして…鈍そうな顔してるよ…。
じゃあ、あの隣にいるトロルより小さい奴はオーガかな?
バカそうな顔だけどムキムキだな。まぁ、今の俺ほどじゃないけど。
「おいっ、健一郎!早くしろ!見つかっちまうぞ!」
振り返ったヘスは、小声で健一郎に声をかける。
「え?倒すんじゃないのあいつら。」
魔物の大群を指差しながら、健一郎はヘスの顔を見つめる。
その表情は自信というより確信に近い、あたかも当然だというようにヘスには見えた。
「な、何言ってんだ!あんな群れ俺達だけじゃ無理だ!村の全員でも難しい!対策を考えなきゃどうにもならん!」
ヘスは少しばかり声を荒げると、健一郎に歩み寄る。
ヘスは焦っていた。
周りの仲間には伝わらないように、悟られないように。
だが、この男はなんだ?
あの数を何とも思っていないような…。
「とにかく、戻るぞ。村が心配なんだ、あの数の魔物の群れだ。おそらく村を見つけるのはそう難しくない。それに、思い当たる節もある。」
少しばかり俯くと、ヘスは健一郎に背を向けて歩み出す。
健一郎はその後ろ姿を見つめるが、ゆっくりと振り返り魔物の群れに視線を移す。
【よゆーで倒せそうなんだけどな。】
直感であった。
100を超える大群を見ても恐怖感がない。
死に対する実感がないのか?
この世界に来て一日。そうであっても仕方ない。
だが、そうではなかった。
ジハーマドに手渡された戦斧。
武器を装備した健一郎は【職業】を習得していた。
それによりステータスは大きく変化していたのだ。
勇者を拒んだ、彼が待ち望んだ夢の職業が。




