刮目せよ!この肉体美!
エルフの朝は早い。
ほとんど自給自足の生活の私達はまだ陽の登らないうちに起きて家畜に餌を与える者、畑へ行く者、狩りや水を汲みに森へ行く者。皆が生きる為に力を合わせて懸命に働く。
そして私は、日課である弓の修練を終えて村の中央にある広場へ向かっている。
昨日現れたこのわけのわからない男を皆へ紹介する為である。
すでに村長から村の皆には客人だと説明はしているがほとんど人間を見た事のない者は不安があるはずだ。それに怯えている子供達もいるはず。
それにクリスと面識のあった者達はこいつを疑う者もいる。
「おい、早く来い。」
振り返ってあいつを見ると顔を赤らめ俯きながらついてくる。
この男は一体なんなんだ?危険な森に裸で武器も食料も持たずに…。
身体を見た感じかなり鍛えてある。本人は戦士だと言っていたが武器を手放す戦士がいるか?
怪しい。だが悪い奴じゃない事はなんとなく感じる。
クリス…おまえはなぜこの男を村へ導いたんだ。
おまえを殺した人間を…。
「ねぇ…ナターシャさん。服くださいよ!恥ずかしいですって!俺に半裸で自己紹介させるつもりですか!?」
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「今日集まってもらったのは皆も知っている通り、昨日村に来た人間の事だ。各々思うところはあると思うが族長からも危険はないと聞いている。とりあえず皆に紹介しよう。」
ナターシャの凛とした声が響き渡る。
集まったエルフ達の鋭い視線は正体不明の人間がいるであろう中央広場の物陰に集中していた。
「おい…。何をしている?早くしろ。」
は?早くしろだと?
ホントにこの状況で俺に自己紹介させるつもりか?
頭大丈夫かこの女。
「なんか言ったか?」
この世界の女の子ってみんなこんなに怖いのかな…。
「早く、しろ!!」
ナターシャに蹴り上げられて尻を摩りつつ登場した健一郎の姿にエルフの戦士達は驚愕した。
おそらく血の滲むような修練を何年も重ねて出来上がったはずであろう。無駄のない隆起した筋肉。
身長は二メートル以上あるだろうか。エルフは比較的身長が高い種族で女性でも170センチが平均であるが、隣に立つナターシャがかなり小さく見える。
そして、恐るべきはその服装。
ラテリア族のエルフが身につける、フラールという緑色の鳥とケノアという同色の鹿から作られる服が今にもはち切れんばかりに悲鳴をあげていたのである。
「あ、あの…健一郎です。皆さんどうぞよろしくお願いします…。」
ムキムキマッチョな男がぴちぴちの服を着てモジモジと顔を赤らめて名を名乗る。なんと恐ろしい事か。
「だから言ったんですよ!!もう少し大きいサイズの服はなかったんですか!?見てくださいよ!みんなの顔!ドン引きじゃないですかっ!!」
男は隣のナターシャに泣きながら叫んだ。
ひっ!?と言う悲鳴が戦士達の中から聞こえる。
「うるさい!お前の身体がデカすぎるんだ!そんな身体のエルフなんて存在しない!よって服もない!」
さすが若くして戦士長になったナターシャだ。あの男に負けず大声で怒鳴る。
少しばかり心を許しているのかその声に敵意は感じない。
「な!そんな身体だと!?今、そんな身体って言いました!?この肉体美になんて言い草ですか!ふぅ、ナターシャさんは綺麗ですけど見る目ないですね。頭の中筋肉でできてそうだし仲間と思ってた俺が馬鹿でした!」
何を言っているんだこいつは…。
あぁ、ナターシャが気にしている事を…。
戦士達は続くナターシャの行動を知ってか皆が苦笑いする。
「綺麗!?頭の中が筋肉!?き、貴様…私に脳筋と言いたいのか?お前と一緒にするな!」
ゴン!と耳まで真っ赤になったナターシャの大きく振りかぶった拳が健一郎の頭に直撃した後、戦士達に笑いが上がった。
「ん、ではとりあえずこの男は村で客人として預かる。皆、いろいろ教えてやってくれ。それから今晩、上の者達で話がある。各部の代表は夕食後、族長の家へ来てくれ。」
まだ頬がほんのり赤いナターシャは一度咳払いして言う。
クスクスと笑い声が聞こえる戦士達を見てナターシャはひと睨みするが、やはりこのケンイチロウという男は不思議な奴だと思った。仲間を人間に殺された者達がもう心を開きつつある。
「ヘス、こいつの世話をしてやってくれ。森の探索に同行させて構わない。」
先頭にいるヘスと呼ばれた青年は頷くと健一郎に歩み寄って手を差し出した。
「よろしく、俺はヘス。ずいぶんナターシャと仲が良い様だな!久々にあんな顔を見た気がするよ。」
金色の短髪に後ろ髪だけ結ったヘスはもちろん文句なしのイケメンだった。
ちっ…




