君という灯り
夜。
仕事帰りの電車の中。
疲れた人々が揺られている。私も、そんな中の一人だ。
感染症対策の為か、電車の窓は半分くらい開けられている。
夜の春の風が入り込む。少しだけ、それは冷たさをはらんでいた。
今日も頑張ったなー……。とマスクの下で欠伸をかみ殺し私は思う。
こんな中出社するのは、大変というか、もう慣れてしまったけどやはりどこか緊張感が常に付きまとっていてやはり疲れが溜まる。
電車の窓の外の真っ暗な景色を見ながら、ぼーっとした頭で明日の事を考える。
明日は、金曜日か。もう一踏ん張りだなぁ。
と思った時。
携帯が震える。
君からのメッセージだった。
『お疲れ様』
私の顔が笑顔になる。
すぐに返事を打つ。
『お疲れ様でした。今、何処?』
また携帯が震える。
『君の家にお邪魔してるよ』
ああ、そうだ。今日は君が来てくれる日だった。
『合鍵渡してたもんね』
『そうだよー』
『じゃあ、今夜は……』
『そう。僕の手料理だよ♡』
『わーい\(^^)/』
『気をつけて、早く帰っておいで』
『了解ですd(>ω<。)』
そう顔文字を付け加えると、私は春コートのポケットに携帯を入れる。
顔がにやけそうになるのを、マスクの下で必死に抑える。
電車が停車駅で止まり、数人の人と共に降りる。
改札口を通り抜けると、自然と早足になっている自分がいた。
君の温かい手料理が頭に浮かぶ。絶品なんだよね、君の手料理は。
一軒家の門を曲がると、我が家のアパートが見える。
いつもは暗いのが、当たり前の自分の部屋の窓に、灯りが灯っている。
何だか、肩の力がすっと抜ける感じがした。
そして、胸にも灯りが灯った気がした。
階段を嬉しさで一段飛ばしで登ってしまった。
玄関の扉の前に立つ。
今日は、どんな話をしようかな。君との話。
玄関扉をゆっくりと開けた。
「ただいま!」
「お帰りなさい」
君という灯りが、待っていた。
お読み下さりありがとうございました。