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名も無き者達の英雄譚  作者: たかはらナント
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譚24 『時忘れ』と少年

 ● 譚24 『時忘れ』と少年



 ルルカに魔法を教え始めて半年が過ぎた頃、辺りは一面の銀世界に突入していた。


 正直言って寒さが尋常じゃない。日本の冬がいかに生温(なまぬる)かったかと思い知る。あの時ルルカに出会っていなければ、きっとこの寒さで終わっていた可能性は非常にデカかった。

 ピンハネされてた分(の一部)を貯金に回せたことで、こうして暖かな冬着を一式購入する事が出来たのだから。感謝の念に堪えません。

 いくら僕が魔法を使えるからと言っても、ずっと掌に炎を出しておく訳には行かないし、焚火をするにも燃やす物がいる。仮に燃やす物が有ったとしても暖炉の無い宿屋の室内で火を焚く訳にも行かない。


 なので、未だ生活に余裕のない僕は、今日も今日とて斡旋所に通い、合間を縫ってはルルカに魔法の指導をして毎日を過ごしていた。



 「師匠、おはようございます!」


 今日もルルカは元気な声で出迎えてくれた。


 この頃になるとルルカの魔法も一端(いっぱし)になっていた。

 元々頭の良い子であろうとは思っていたけれど、ルルカは想像以上に優秀だった。飲み込みも早く、応用にも機転が利いている。

 風魔法のみに限って言えば、形成された風刃の威力も丸太くらいの太さなら楽に切れるだろうし、風に乗ってジャンプをすればかなりの高さまで届くだろう。ゆくゆくは、浮遊魔法との合成で空を移動する事だって出来るはず。

 ま、僕は全部できるけどね。誰も褒めてくれないので自分で言っておく。全部できるけどね。


 ただ、気になるのが、ルルカの熱の入れ方が攻撃魔法に偏っている嫌いがある事だ。

 その所為もあって僕は他の魔法を教える事に躊躇っている。もともと風魔法以外は、燃え移ったり、水浸しになったりとかで、周りへの影響が甚大になる可能性が有った為、慣れるまではと教えてはいなかったのだけど、今となっては教えなくて正解だったのではと思えるようになってきた。


 そして、とうとうルルカはこの台詞を吐いた。


 「師匠、今日は一緒について行って良かですか?」


 良い訳ない。気持ちは分かる。これだけ出来るようになってきたら、腕試しをしたくてしょうがないのだろう。しかし、このセルムス公国では特別な理由がない限り、むやみに動物を傷つける事を禁じられている。

 確か現代の日本にもそんな法律があったはず。

 その為にワザワザ『討伐対象鳥獣駆除許可書』なるものを銀貨二枚も払って購入してるのだから。

 なので、ルルカはむやみに腕試しをする訳に行かず、僕に同行したいと言い出したのだ。

 余談だが、クリストフ辺境伯領でのそれとは似て非なる物である。

 あっちのは単に独占が目的。こっちのは保護が目的。

 ともあれ、ルルカは的当てに飽きてしまったのだ。

 

 「ダメだ」


 僕が即答すると、ルルカは頬を膨らませて不満を漏らす。


 「え~どうしてですか!? 良かじゃなかですか付いて行くくらい」

 「良い訳ない。害獣の駆除なんて子供が見るもんじゃない」

 「社会勉強ですよ。ちょっとくらい」

 「ダーメ」

 「う~ん、もうぅ」


 そこまで言うとルルカは突如として科を作り


 「師匠……ルルカ一生の、お・ね・が・い。」


 どこで覚えたそんな事。僕が慌てて問いただすと、


 「受付のヘンリエッタさん」


 あの僕の尻を蹴飛ばしたお姉さんか。くそっ、あとで注意しておこう。

 うちのルルカちゃんに何て事教えるざます。


 「とにかくダメなものはダメ。せめて十二歳にならないとダメ」


 さすがに、そこまで言うとルルカも折れたのか、口をとがらせて「ちぇ~」と言ったあと、本日分の書類を置いて斡旋所を出て行った。

 拗ねる気持ちは良く分かる。僕も親から、あれはダメ、これはダメ、って言われると、余計に反抗したくなってたもんな。

 でも、いざ自分の番になると、心配して、あれダメこれダメ言ってしまう。

 今になってあの時の親心を、少しだけ分かるようになった僕であった。

 いや、自分の子供じゃないけどさ。



 翌日。

 やはりというか、ルルカは斡旋所には来なかった。

 昨日の今日と言う事もあって、僕も顔を合わすのに気が引けていた。

 なので、たまには休むのも良いかと踵を返し、宿屋へ引き返したのだった。

 ルルカのお陰で多少の余裕はある。一日くらい休んでも何とかなるだろう。そう思って引き返したのだ。

 でも、これがいけなかった。



 さらに翌日。

 今日もルルカはいなかった。さすがに今日も休んでしまうと、明日のおさke――いや、ご飯が食べられない。孤児院まで様子を見に行くか迷っていると、


 「あれ、あんた何でこんなとこいるの?」


 僕の尻を蹴飛ばしたあのヘンリエッタお姉様が言った。


 「いや、何でって言われても、まだ依頼を受けてませんから」


 するとお姉さまは小首を傾げ、


 「あら、そうなの? じゃ、昨日、ルルカちゃんが手続きしていった依頼、あんたじゃなかったんだ。わたしゃてっきりあんただと思ってたよ」


 その言葉を聞いた時、胸騒ぎがした。僕は慌ててヘンリエッタさんを問い詰める。


 「それ、どんな依頼だったんですか!? 教えてください!」


 僕の勢いに気圧されたのか、ヘンリエッタさんは戸惑いながらも答えてくれた。


 「た、たしかエニスタ村の山中で『時忘れ』が出たって内容さね、冬眠を中断して二色熊が現れるってかなり危険だからね。もし、つがいだったら尚更さ。だから『気を付けるように言っといて』って言ったらルルカちゃん『分かりました』って言ったから てっきりあんただと――」


 そこまで聞くと、僕は斡旋所を飛び出していた。

 浮遊魔法に風魔法を重ね、空を飛んでエニスタ村へと急行した。寒風の中で空を飛ぶのはかなり()()()()が、今は気にしてられないと先を急いだ。

 エニスタ村へは一度行った事が有る。トゲ猪に畑を荒らされたと依頼のあったあの村だ。このまま急げば一時間ほどで目的地には着く。問題はそこからだ、もし山の奥をルルカが彷徨っていたら、発見するのは困難だ。村の近しい所で留まってくれてたら良いのだけれど。


 エニスタ村へ着き、村人を捕まえ情報を得る。

 斡旋所から来た女の子が東の山へ入った事を突き止め、その方面を空から重点的に探し始める。

 西の空に暗雲が重なり始めていた。下手をすればこのまま吹雪になってしまうだろう。そうなったらもう探せない。急がないと。


 それから更に一時間ほど探し回った頃、樹々の間でカラスが群れて騒いでいるのが気になって、真っ直ぐその場所へ向かった。と、頭部を切断された二色熊の死骸が横たわっているのが見えた。

 その場に降りると、血の色はまだ赤々としており、絶命して間もない物だと分かる。

 だが肝心のルルカの姿が見えない。

 とうとう雪が降り始めた。


 「ルルカ! どこだ、ルルカ!」


 呼び掛けるが返事がない。徐々に風も強くなってくる。

 つがいだった為、もう一匹を追いかけたのかと考え、その場から離れようとした時、ふと呻き声が聞こえた気がして留まった。

 まさかと思い、二色熊の死骸を浮遊魔法で持ち上げると、その下からルルカの姿が現れたのだった。


 「ルルカ!」


 二色熊を投げ捨て、ルルカに寄り添う。まだ息は有る、熊の死骸が覆いかぶさっていた所為か、体温は下がり切ってはいなかった。だが傷がひどい。爪の攻撃にやられたのか、華奢な体を袈裟懸けに傷跡が走っていた。


 僕が回復呪文を唱えると、ルルカはうっすらと目を開け言った。


 「師匠……おっきい熊ば倒せましたよ……見てくれました?」


 「あぁ、見た。見たからまだしゃべるな」


 僕は応急的に回復魔法を施すと、ルルカを抱えてエニスタ村へと戻った。

 この吹雪の中、ブラーネスまで帰るのは自殺行為だ。

 先ほどルルカの行方を教えてくれた村人に事情を話し、部屋を借りた。とにかくルルカを温めて体温を取り戻さないと命が危ない。

 全てが落ち着いたら、何と言って叱れば良いのかと、僕は頭を悩ませていた。



 外の天候は気が狂ったかのような猛吹雪となっていた。









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