譚17 襲撃 後編
● 譚17 襲撃 後編
姫妻愛。十八歳。性別女。職業——革命指導者、現在戦闘中
突如として襲ってきた魔導人形の鎌を、私は間一髪、仰け反って躱した。
躱すと同時に追い打ちはせず、一旦距離を取り一呼吸置く。
魔導人形は攻撃を躱されたのが意外だったのか、再度キチキチと音を立てると、ゆっくりと振り向いた。
その動作は「なんで当たらなかったの?」と不思議がってるようにも見えた。
人形のくせに生意気だ。
しかし、今の攻撃は本当に危なかったと気を引き締める。
ゾーンに入っていたから対応できたけど、そうじゃなかったら首を刎ねられていたところだった。
人形なので予備動作を必要としない。
その辺も考慮して戦わないといけないのか……キツイ事この上ない。
きっと仲間達がやられたのもこいつの所為なのだろう。
私は尚も、背筋に冷たいものを感じながら、大きく息を吐いて拳を構えた。
まるで武闘家が神経を研ぎ澄ますかのように息を吐く。
吐き終えた後、僅かながらに息を止め、人形を睨む。
キチキチとなる人形の声が途切れた時。
(来る!)
私は人形の気配を察知して飛び掛かった。
同じく人形も飛び掛かって来る。
ヤツの左腕が私の首を狙う。私は体を捻る事で躱すと、躱した勢いを利用して、ヤツの左脇腹に裏拳を叩き込む。
グワンと鈍い音と共に、ヤツのボディは凹んだが、同時に私の拳が悲鳴を上げる。
痛っ! なんて硬さ!?
久々に味わう痛みに気を取られていると、折り返す様に今度は右の鎌が襲ってくる。
体勢を崩しながらも私はその鎌を掴み取ると、力の勢いに乗って体を捻りながら、ヤツの背後を取った。
足を絡め人形を組み伏せる。まともに殴っても効果が無い事は今しがた経験済み。肩の間接の継ぎ目に狙いを定め、手刀を作り、指を突き立てる。
ザシッ。
うまく手刀が刺さりヤツの腕を一本取り上げる。と、
トスッ
と、言う音と共に、私の左の脇腹が激痛を覚えた。
激痛の位置に視線を落とす。と、ヤツの左腕の鎌が、深々と突き刺さっていた。
鎌は肺にまで達しており、呼吸がむせて口から血を吐き出す。
このままではまずい。
私は人形の腕を引き抜き、蹴り飛ばすと、激痛に歯を食いしばりながら、距離を取る。
人形が起き上がる前に腰のポーチから治癒の魔導具を取り出し使用する。
緑の光が私を包むと、痛みが引くのと入れ替えに、目眩が襲った。
膝が笑うほどの激しい目眩。だが、このまま倒れる訳に行かない。こいつは今倒さないと、皆が危険に晒される。
私は気力を振り絞り、再度人形を睨んだ。
よく考えれば人形の間接に裏も表もあるはずがない。背後を取ったと油断した。
仕切り直し。
ダメージで言うと五分五分と言ったところだろうか。それとも、体力の落ちた分こちらが不利だろうか?
無限に動ける人形と違い、こちらの体力には限界がある。
だが既に、弱点は見えている。
今奪い取った腕との接合部、本体側のむき出しになったその大穴に、あと一撃を加えるだけ。
無機質にかつ大胆に、人形は襲い掛かって来た。
腕一本もがれた穴から機械音が大きく響き、まるで怒りに震えているように聞こえていた。
休みなく連続で腕の鎌が振るわれ続ける。
息継ぎの必要のないヤツの攻撃に、私はじわじわと壁の端へと追いつめられた。
でもどうしてだろう? 私には人形の攻撃に当初の切れが無いように感じた。
思考を切り替え、ヤツの攻撃を躱す事だけに集中してみる。と、腕を振り回す攻撃の中に、途中で意味の無い捻りが入っている事に気が付いた。
今、目の前に、腕をもいだ時に出来た穴が露わになる。
私はこの一瞬を逃すまいと、まっすぐに手刀を突き立てた。
黒光りする体躯に深々と手刀が刺さる。
私の指先は、ヤツの心臓とも呼べる、体内の魔導結晶を貫き砕いていた。
痙攣を起こしたように、ギギギと跳ねる魔導人形。
力を失ったその躯は、ズルリと私の腕から抜け落ちて行った。
勝った――いや勝てた。
勝敗を分けたのは、ヤツが人形であった事。
痛みを感じない人形は、そこに腕がない事に気付かず攻撃していたのだろう。
だから、攻撃を当てているつもりで自らの弱点を晒したのだ。
プログラムという表現が正しいかどうか分からないけれど、決められた動きしかできなかった人形の性の敗北だ。
死闘と言っても過言ではなかった。
自分によくやったと褒めてやりたい。
今ここにベッドがあったなら間違いなく倒れこむ。
だが、まだ休むわけには行かない。
私は尚も気力を振り絞ると、家屋に着いた火を消すべく――
――バチッ
いきなりスタンガンに打たれたような衝撃が貫いた。
全身の力が抜け、膝から崩れ落ちた。意識はある。が、身動きが取れない。
突然の出来事に、困惑を隠せないでいると、頭の上から声がした。
「すまねぇ……オラにはこうするしかなかったんだ」
声の主は、昨日やって来た、脱走兵の男だった。
名前は確か――
――ラドル・ムー
2021.03.13
今奪い取った本体と腕の接合部――となっていた部分を修正して
今奪い取った腕との接合部、本体側のむき出しになったその大穴に――
に、変更しました。




