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名も無き者達の英雄譚  作者: たかはらナント
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譚16 襲撃 中編

 ● 譚16 襲撃 中編



 姫妻愛。十八歳。性別女。職業――革命指導者(レジスタンスリーダー)、尚も継続中



 夜の帳はすでに消え、東の空が白に染まる。

 目覚めた鳥たちが空に鳴き、朝の訪れを告げ回る。


 まもなく日が昇る。


 戦闘準備を整えた私達は、各々の持ち場で身を潜め、敵が動き出すのを待っていた。


 先手を取って攪乱(かくらん)するのも良かったが、今回は砦を守るのではなく、住民達を無事に逃がす事が目的だ。

 無理に突いて蛇を出す必要はない。

 あちらさんが動かなければ動かない程、こちらとしては有難いのだ。

 そう、これは籠城戦に見せかけた撤退戦なのだから。


 住民達の避難は既に三分の一が終わっている。あと二時間ほどこの場を死守できたなら、皆、無事に逃げ切る事が出来るだろう。

 全住民の避難が終わったら、正面の門の罠を発動させ塞いでしまえば良い。私自身の撤退に、この門をくぐる必要は無いのだから。


 辛抱強く待っていると、とうとう物見櫓から、敵が動いたとの合図が来た。

 合図と同時に身体強化のスイッチを入れる。

 もちろん物理的なモノではなく精神的なスイッチだ。私は、この力が発動してから自在に使えるようにと修練を重ね、その甲斐あって頭の中で能力のオンオフが出来るようになっていた。

 拳が青白く輝くのを確認し、私は声を上げた。


 「いくぞ! 野郎ども!!」


 おかしな掛け声と思われるかも知れないが、私はこの掛け声で良いと思っている。

 私達は正規の軍隊ではないのだ、言うなれば奇兵隊。庶民の匂いがする掛け声の方が似合っている。


 私の掛け声に、全員が「うおおぉ!」と気合の入った声を上げる。

 その声を聞いた後、私は傍らに積んである土嚢の一つを掴み取り、力いっぱい投げ飛ばした。

 私は人間砲台だ、この身体強化の能力を利用して、門の内側から弾となる土嚢を投げ飛ばす大砲だ。

 土嚢(どのう)と言うのは少し語弊があるかも知れない。中身は土ではなく、石ころなのだから。

 当初、防衛の為に岩を投げることを想定していたが、思いの外、手ごろな岩が無かった為、石ころを袋詰めにして代用とする事にした。これなら大きさも揃えられるし、積み上げることも出来る。それに石ころを集めるくらいなら、子供にだって手伝ってもらえる。


 放物線を描き、飛んで行った土嚢は、敵の眼前に落ちて弾け飛ぶ。物見櫓から着弾点の情報が入り、その都度、方向と力加減を修正して投げていく。


 攻撃手段はこれだけではない、物見櫓や門の側面に設置してある銃眼(じゅうがん)から近付く敵を弓で狙い撃ちしたりもする。門に取りついた敵には、煮えたぎった油を上からかけてやる。


 以前に、何とか刻印魔法で鉄砲を作れないかと考えてみたが、どうも爆発魔法は火薬と仕組みが違うらしく、試作品を作るまでには至らなかった。

 それはそれで残念だったが、こちらの攻撃はいたって順調。土嚢攻撃は直撃はせずとも近くに破片が飛び散るだけで手榴弾のような効果を見せ、敵の侵攻を鈍らせた。


 それでも、こちらの世界の戦争は、気が抜けない。

 元の世界の戦争とは違い、敵を蹴散らすだけでは意味をなさないからだ。

 何せ治癒魔法と言う強力なものがあるのだから。


 治癒の魔導具を使えば、たとえ瀕死の重傷を負っていても、物の数秒で全回復し、再び戦闘に加わってくる。

 まさしくゾンビ兵。反則級の戦法だ。

 だから敵さんだけがこんな戦法使うのは卑怯だって事で、こちらも同じ戦法を使えるようにテラジウム鉱山を襲撃して材料をかっぱらっておいた。


 けれど、この戦法、反則級だけあって回数に制限がある。もちろん怪我の度合いにもよるけれど、無理やり身体を活性化させる為、その負担が半端ない。

 軽い怪我ならともかく、瀕死の重傷ともなれば、一回から二回、使用できれば良い方なのだ。

 一回目には目眩を覚え、二回目には倦怠感が抜けず、三回目には衰弱死する。と、言われている。

 こんな戦法をラスタニア王国の兵隊さん達は、三年間もセルムス公国相手に続けてるってんだから、正気の沙汰とは思えない。そりゃあ、脱走兵も増える訳だ。



 戦端が開かれてから一時間後、北門の罠を発動させたとの報告が入る。


 これで北門は塞がれた。北門に割いていた戦力を正面に集める。

 最低限の見張りを残して合流するよう、命令を下した。


 皆の頑張りもあって、迎撃は思いの外うまくいっていた、数に勝る敵をさほど門に取りつかせる事無く戦えていた。住民の避難も順調に進み、予定していたペースより若干だが早く進んでいる。

 でもどうしてだろう。何となくだが、手応えがない。何か見落としている。そんな気がしていた。



 その予感は、それから三十分後に現実となった。



 西門が破られたとの急報が入り、それと同じくして、敵の正面門への一斉突撃が開始された。

 西門の罠は発動されたのか? と確認すると、発動できないほどの勢いで突貫されたとの事だった。


 やられた。と、私は思った。


 正面は陽動に使われたのだ、西門への秘策に対応させない為に、これ見よがしな数を見せつけ、こちらの戦力を正面に集中させたのだ。

 西門の罠が発動するまでに突破するような戦力。生半可な戦力では無い事は確かだ。

 やってくれたな『百人殺し』伊達に厨二的な二つ名を名乗ってないってか!


 私は現状を分析し終えると、


 「西門へは私が向かう。皆で正面を守ってくれ、指揮はリーネが取れ!」


 と、伝え、急いで西門へと走った。


 正面門への突撃が始まっている以上、下手に兵力を割く訳にもいかなかった。

 いっそのこと罠を発動して正面を塞いでしまおうかとも考えたが、やはりまだ早いと判断した。住民の避難はまだ済んでいない。今塞いでしまったら、私たちの動きが怪しいと勘付かれ、隠し通路の存在に気付かれる恐れがある。そこを攻められればお終いだ。

 私達に籠城の意志有りと思わせ、この場に足止めしておかなければ、この撤退戦は失敗に終わるのだ。


 私が西門に着くと、既に幾人かの敵兵士が潜り込んでいた。

 西門の作りが元々狭い事もあって、まだ致命的な状況には陥っていない。

 横たわる仲間達の亡骸が目に映り、頑張って食い止めてくれたのだろうと感謝した。だが、もう既に戦っている者の姿が見えない事から、西門の兵力は全滅させられたと理解する。

 火矢が放たれ、いくつかの家屋が燃え始めていた。早く火を消し止めたかったが、侵入者を排除することが先決だと、私は土嚢を手に取り投げつけた。

 一つ二つ。敵兵に当たり、肉片が飛び散る。

 三つ四つ。側壁に設置してある落石の罠に投げつけ、強制的に罠を発動させる。

 轟音が響き門への通路が塞がれると、私は残りの侵入者を倒しに飛び回った。

 戦塵にまぎれ、一人また一人と頭部を破壊していく。

 ゾンビ戦法を使われたら対応しきれなくなるのが分かってる、私は躊躇うことなく拳を振るった。


 幾数人かの処理が終わった頃、突然、背筋が凍り付くような感覚を覚えた。

 生半可な殺気ではない。

 急いで気配のする方を確認する。と、敵はとんでもないものを持って来やがったと戦慄を覚えた。



 太陽に黒く反射する体躯。

 アイスピックのような鋭い脚に、カマキリに似た折りたたまれた両腕の鎌。

 デッサン人形()みた起伏のない顔面がキチキチと笑い声のような音を立てている。


 初めて見た私でも理解できる。


 こいつは、セルムス公国で導入されている殺人兵器。




 ――魔導人形(オートマタ)だ――

 

 


 背中に流れる冷汗が止まらない。


 魔導人形(オートマタ)は、目のない眼で私を見ると、予備動作もなく襲い掛かって来た。














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