【ショートショート】『機械化された国会』
「この全自動挙手装置は何回に1回、賛成させるんでしたっけ?」
人のほとんど立ち入らなくなった国会議事堂の参議院議場。
人の腕部と机に接着された僅かな基盤だけで出来た機械を点検・補修している緑色の作業服を着た作業員の青年の声が響く。
「3回に1回だ」
答えたのは、青年の同じ作業服を着て、現場監督の名札を首に下げた大柄の男性だった。
その男性は別の席に取り付けられた全自動挙手装置の肘の可動部品を交換していた。
すると、少し離れた席で作業をしていた中年の作業員が「こっちは?」と尋ねる。
現場監督の男性は「全部、挙手しない」と見ずに答える。
「挙手しないのに、こいつは存在する意味あるのかね?」
中年の作業員は半分を終えたがまだ100以上機械が並ぶ議場を眺めて呆れたように呟く。
「知らん。数学者の確立計算によると昔の議会を再現するには必要らしい」
「そういうものなんですかね」
それからも三人は沈黙に耐えかねると思い出したように途切れ途切れの会話をしながら、作業を続けた。
そして、最後に集計と映像保存を持つ議長席の補修を青年にやらせていた。青年は潜り込んでいた議長席の下から顔を出し、「これで良いですか?」と尋ねる。
「ちゃんとネットに繋いだか?
ネットの書き込みを自動で拾って278回に3度提出法案として再構築出来るかの確認はしたか?」
「はい、大丈夫です!!」
「そうか。じゃあ、確認は後にして昼休憩にでもするか。今日は焼肉弁当だぞ」
三人は一段落したと談笑しながら赤絨毯の階段を昇っていく。
「しかし、本当にこのシステムで大丈夫なんですかね?
変な法律や悪い法律が通ったりしないですかね?」
青年の作業員が不安そうにぼやく。
現場監督は豪快に笑いながら、青年の背中を叩いて答える。
「大丈夫だ。この国は50年前、まだ今のシステムを導入する前、議員に高い金を払っていた頃と何も変わっていないぞ。
それにもし何かお前らが困る法律が出来たら、俺が反対運動をしてやるよ」
「えー。本当かー?」
中年の作業員はわざとらしく疑いの目で現場監督を見る。
三人は談笑を続けながら議場を出ると、腕だけが乱立する議場の扉は閉められた。
他にも短い話を書いているので、見てくれると嬉しく思います。