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22.悲しい白昼夢(怖さレベル:★☆☆)

(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)


ごめんなさい。

これから話す内容は怖くはない、と思います。


というか……あの、

ご相談に近いんですけど。


うちの、弟――タツキの話なんです。


みなさん誰しも、

夜寝ているとき、

夢はみると思います。


それが、どれだけファンタジーなものでも、

どれだけ猟奇的なものでも……

現実に起きなければ、

なんていうことはありませんよね。


ただ、弟の場合……、

それが、ちょっとおかしいんですよ。


昔から、

たしかにちょっとボーっとした子だったんです。


姉の私から見ても、

ちょっとトロいというか、

穏やかな子で。


どんくさい、なんて言われていても、

どこか手間のかかる弟、

私も両親もかわいくって仕方なかったんです。


だから、小学校に上がる年齢の時、

イジメられやしないか、

なんてひやひやしていたものでした。


それで、

小学校の入学してしばらくのこと。


私は弟と四歳違いだったので、

当校はいつもいっしょのものの、

授業はもちろん、帰りの時間は別々です。


それとなく、イジメられていないか聞いても、

大丈夫、のそっけない一言。


元々口数も少ないし、

本人が大丈夫と言っていても、

ほんとうにそうなのか疑っていたんです。


ある日のこと。


私が学校のクラブ活動でドッヂボールをしていた時、

転がったボールを追いかけて、

体育館の裏の方へ走っていった時。


(……声がする?)


なにごとか、

言い争うような声が聞こえてきます。


そっと木陰から様子を覗くと、

そこにはうちの弟と、

三人の男の子がいました。


(まさか)


イジメ現場を目撃してしまった!


と思い飛び出そうとするも、

どうにも様子がおかしいのです。


三人のうち二人は、

足や手に包帯をぐるぐる巻いていて、

弟に対して、すがるように泣きついていたのですから。


「なあ、こないだのヤツ、ホントだったのよ!」

「……うん。だから止めた方がいいって言ったのに」

「で、でも、やっちまったんだから、どうにかなんねぇのか?!」

「うーん……」


さっぱり話の本筋が掴めない私は、

出ていくタイミングを失って息をひそめていると、


「ねーちゃん、何してんの」

「……あー」


あっけなく弟にバレ、

しぶしぶ表に姿を現しました。


「ねーちゃんって、タツキの?!」

「ああ、うん……そうだけど」


どこか食い気味な少年たちに引きつつ、

どうしたのかと事情を伺うと、


「オレたち、こないだこっくりさんやっちゃって、

 コイツがそれをヤバイって言ってて」

「……僕、やる前に止めただけだよ」

「だってぜってーウソだと思うじゃん!

 とりつかれる、なんてさぁ!」


要領を得ない話をどうにかまとめると、

彼ら三人が面白半分でこっくりさんをやろうとしたところ、

弟に危険だからやめた方がいいと止められたのだとか。


でもそこは小学生のガキンチョ。


忠告も無視して実行したところ、

妙な現象が立て続けに起こっているのだというんです。


「っていうか、あんた、霊感とかあったの」

「……ううん。夢で見た」

「夢ぇ?」


なんでも彼が言うには、

いつもの通りぼんやり考えごとをしていた時、


フッと彼ら三人がこっくりさんをやって

ひどい目にあっている映像が浮かんだというのです。


「ひどい目って……どういう」

「…………。なんか、手とか足とか骨折するっていう」


そう言われて三人を見れば、

グルグル巻きの包帯の下は石膏で固められていて、

どうやら骨折しているようでした。


「それで、対処法を聞こうって……どうすりゃいいのか」

「こっくりさん、終わらせればいいんじゃないの?」


私の持つ知識では、使った紙を燃やして、

十円玉を手放せば終わりという、

そんな内容を伝えました。


「あ……十円玉」


どうやら、

まだ怪我をしていなかった少年が

それを持っていたらしくて、


「おいタツキ! お前の責任だろ、十円玉預かれ!」


と、ずいぶん勝手なことを言ってそれをこちらに押し付け、

二人を連れて逃げ去って行ってしまいました。


「タツキ、それねぇちゃんが預かるよ」

「ううん、だいじょうぶ。僕には影響ないし。……でも」

「ん?」


弟は、困ったような表情で私のことを見上げました。


「あいつ、もっとひどい目にあっちゃうかも」

「……えっ」

「夢でね。……僕にこれ渡すと……

 事故にあうって出てたから」


淡々と話す弟に、

私は人生で初めてゾッと恐怖を覚えました。


「でも、走ってっちゃったし……しょうがないよね」


どこか達観したかのような弟を、

さっき感じた恐怖を振り払うように抱きしめて、


「タツキ……帰ろう」

「ん」


未だ十円玉を握る手と反対の手をつないで、

私たちは帰路につきました。




そして、案の定というべきか。


あの子は――帰り道、

車にはねられてしまったそうです。


幸い、命に別状はなかったそうですが、

しばらく車イス生活を余儀なくされたのだとか。


私は逆恨みのように弟がイジメられるのではないかと心配しましたが、

どうやら、逆にクラスのメンバーには預言者として敬われているらしく、

ツライ思いはしていないようです。


例の予知夢――というか、

妙な白昼夢は実は昔から見ていたようで、


思い返せば、弟に今日は公園で遊びたくない、

と言われたときはその途中の家で火事が起きたり、


前々から決まっていた旅行を当日弟がグズって中止になった時には、

通る予定の高速道路で玉突き事故が起きたりと、

それとなく助けてくれていたようでした。


……便利だと、

思いますよね?


そう、便利。


怪我も事故も防げる、

便利なちからです。


家族で知っているのは、

私一人。


だから、弟は私にだけは、

その白昼夢をそのまま伝えてくれるようになったのですが。


彼の見るそれは、

必ず悲劇の夢です。


それが、知り合いでもそうじゃなくても、

ほとんど毎日のように。


特に、人の死に関連する夢を見てしまった時などの

弟の消沈ぶりはすさまじく、

見ているこちらが辛くなるほど悩むんです。


彼のちからを知らぬ人に、

まさかそのまま伝えても、

一笑にふされるか逆に怒鳴られる。


だから、本当ならそんな力、

なくしてあげたいんです。


どなたか――どなたか。


弟のこの力を消す方法をご存知ないでしょうか。


怖いなんて思ってしまった罪悪感もあるのだと思いますが、

かわいい弟がこれ以上、

ツラい思いをするのをみたくはないのです。


いつか、彼自身のちからを憂いて、

自殺という道を選んでしまうのではないか。


私は予知夢なんて見られませんが、

そんな将来のことを思うと……とても、とても恐ろしいのです。


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