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158.病院の待合室①(怖さレベル:★☆☆)

(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)


あれは、まだ私が大学生だった頃。


突然、妹が深夜に高熱を出して、

母と付き添いで、緊急外来に行ったときのできことでした。


時間は確か、深夜の1時。


気が気じゃない状態で病院にとびこんで、

無事に診察が終わったのが、それから1時間後だったでしょうか。


幸い、緊急性の高い病気ではなく、

妹は入院なしでクスリで様子を見ることになったんです。


熱でもうろうとする妹を母が車へつれていったので、

私はひとり、支払い待ちで待合室に座っていました。


緊急外来は、ほとんど人がいません。

待合室にひとり、男の人が座っているだけ。


その人は室内でありながら帽子を深々とかぶっていて、

俯いて両手で顔を覆っています。


この人も付き添いなんだろうか、なんて思いつつ、

私は携帯を片手に、ぼんやりと時間を潰していました。


時間は深夜2時をすっかり過ぎて、

待合室は、鬱々とした空気感に満ちています。


(……あ。男の人、行っちゃった)


待合室の天井近くにあるディスプレイに数字が表示されて、

1人だけいた男の人が、診察室へと消えていきます。


受付には看護師さんがいるものの、

待合席からは、通路を挟んで向こう側。


ひとりになった私は、心細さでなんとなく周囲を見回しました。


深夜ゆえか、点いている明かりは最小限。


天井の蛍光灯は中央のひとつを残して消えていて、

待合室に並んでいるイスの色が、私の席と端っこの席では、まるで違う色のように見えてきます。


端っこに置かれた観葉植物も、エアコンの風でゆらゆら揺れています。


普段なら緑に癒されるはずなのに、

まるで夜に見るヤナギのように、どこか不気味な影を背負っているように見えました。


(呼ばれないなぁ……順番)


手元にある受付札と、ディスプレイを何度も見比べつつ、

ハア、と肩を落としました。


時間つぶしに、最近放置していたスマホ内のアルバムでも整理しようかな、

なんて思い、撮影画像の一覧をぼーっと開きました。


(……あれ? なんだこれ)


新しい画像データに、撮影した覚えのない黒っぽくブレた写真が、4枚ほど入っています。


気づかない間に手でも触れて撮っちゃってたのかな、なんて思いつつ、

いつ撮影したのかとデータを確認すると、


「え……? 今さっき……?」


時刻は、今日の2時11分。

今の時間は、2時13分。ほんの、2分前です。


(た、たぶん……さっきいじってた時に撮影しちゃったんだ、きっと……)


カメラアプリを開いてなんてないし、

さっきはSNSを眺めていたはず、という記憶を無視して、

私はすべての写真を削除しました。


すっかり写真を整理する気がなくなってしまい、

私は元通り、SNSのアプリを開きました。


時間は、深夜2時過ぎ。


友だちはすっかり寝ているようですが、

深夜帯が活動時間の人たちのたわいもない投稿が流れてきて、

少しだけ、心が落ち着いてきました。


ボーっと眺めて情報を追っていると、

SNSアカウントに、通知が届いているのに気づきました。


「……誰だろ」


通知を開いて確認すると、

見たことのないアカウントから、DMが入っています。


アカウント名は、規則性のないアルファベットの羅列。


どうせ業者が送ってきた無差別メールだろう、

なんて思いつつ、ブロックする前に内容だけ確認しておこう、

とDMを開くと、


「……ヒッ!」


思わず、スマホをソファの上に落としてしまいました。


DMには、メッセージが4つ。


すべて、画像つき。

それも、さっき削除したはずの、あのブレたような黒い画像が――。


(え、え? なんで……おかしいでしょ……!!)


取り落としたスマホを、にらむように見つめました。


さっき画像フォルダに入っていた謎の写真。

――それが、DMを通じて送られてくる?


ただのイタズラにしては異常だし、どうやったのかもわかりません。


ただ、なんだかわからない悪寒が襲ってきて、

私が、両手で自分の体を抱きしめた、その時。


スルッ……


「……っ!?」


足首に冷たい風を感じて、

両足をバッと上に持ち上げました。


今、なにか。


足首に、なにかが、触れた――?


足からスリッパがすり抜けて、ぽすん、と床に落ちます。


震える手で足首をさすりつつ、

私は、ジッ、と自分の足を見つめました。


ソファの下が、気になる。

でも、見たくない。


もし、見て。

見て――なにかが、いたら?


私は、ソファの上のスマホをおそるおそる拾い、時刻を確認しました。


『02:16』


まだ、さっきから3分しか、進んでいません。

ディスプレイにも、まだ番号は表示されません。


たったひとりの待合室は、シン、と静まりかえったまま。


夜中の病院。

ひと気もない。


改めて考えると恐ろしい状況に、

じわりじわりと、恐怖が足元から這い上がってきます。


ゴオッ


と、突然、後ろから風の音が聞こえて、

私は跳びあがりそうになりました。


慌てて振り向くと、端っこに置かれた空気清浄機が、

赤いランプを点して、急に稼働を始めたようでした。


(な、なんだ……ビックリした……)


驚き損だった、と胸を撫でおろしたものの、

ん? と疑問が浮かびました。


(さっきまで稼働してなかったのに……急にどうしたんだろ? 誰か来たわけでもないし、空気がよどむようなことなんて……)


空気清浄機のランプは、まだ赤く光っています。

さっきまでは、青いランプが点灯していたのに。


今の待合室の空気が、汚れている?

それってまさか――なにかが『いる』という、こと?


たどり着いた思考に、私はゾワッと背筋が冷たくなりました。


スマホに入っていた謎の写真。

SNSに入ってきた怪しいDM。

足首を撫でたなにかの気配。


(いや……そんな……まさか……!)


身を縮こまらせて、私は震えました。


深夜2時の病院、ひとりきり。

なにかが起きる要素は、確かに揃っています。


(早く……早く、呼ばれないかな……)


番号が、呼ばれたら。

もしくは、母が早く戻ってきてくれたら。


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