表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

388/412

152.弟はそこにいた(怖さレベル:★☆☆)

(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)


うちの会社、飲食店なんですけどね。

そのバイトで、いっつも眠そうにしている子がいたんです。


名前は……そうですね、仮に佐々木くん、としましょうか。


彼は、ホール係をメインにやってくれていたんですが、

まだ高校生だというのに、かなり仕事ができる子でした。


テキパキ動くし、いつもにこやかなのでお客さん受けもいいし、

うちで働く他の従業員たちからも、かなり可愛がられていたんですよ。


でも、この子。

ひとつだけ欠点がありまして。


それが、いっつも眠そうにしていること、なんです。


佐々木くんは、よくまぶたを半開きにして、

しょっちゅう目をこすっていました。


絶えず欠伸をしていて、休憩時間になると、

机につっぷして、数分もしないうちに眠ってしまっていたくらいです。


さすがに、接客をしている時はシャキッとしていましたが、

店が空いてきた時や、休憩の時ばかりは、

何日も寝てないんじゃないかってくらい、とっても眠そうにしていたんですよね。


学生だし、夜更かしが楽しい気持ちはわかるので、

それに関して、特に口出しすることはなかったんですが。


でも、ある日。


昼のせわしい時間が終わって、休憩室へ向かう佐々木くんが、

あんまりにも生あくびをくり返していたので、思わず、声をかけてしまったんです。


「ねえ、なんでいっつもそんなに眠そうにしてるの?」って。


すると、彼は「ああ」と眠そうに首を振りつつ、


「おれ、めっちゃ年下の弟がいて。夜、遊んでってせがまれるんスよ。それに付き合ってたら、いっつも寝るの遅くなっちゃって」


と、あくびを噛み殺しながら言いました。


なんとも優しい理由に感動した私は、その勢いのまま、

弟の年齢や、どういう遊びをしているのか、などを詳しく聞きました。


弟さんは三才で、高校二年生の彼とは、十一才差。


特にブロック・パズルが好きらしく、

楽しそうに、弟と作ったパズルの話をしていました。


『いつも夜通し付き合わされて』なんて言っていたけど、

眠そうなわりにとても嬉しそうで、弟思いなのがよく伝わってくるほどです。


優しいお兄ちゃんだなぁ、とほんわかしたのをよく覚えていますよ。


でも、後々考えてみると、三才の子に夜通し付き合うのは、

子どもの発育的によくないんじゃ? なんて思ったりもしました。


ただ、彼が三年生になった年の夏――

本当に突然、佐々木くんは亡くなってしまったんです。


朝、起きてこない彼を、親が確認しに部屋に行ったら、

すでに亡くなっていた、と、そういうことのようで。


お葬式は、うちの店のメンバーを数名つれて伺いました。


他の参列者たちもみんな、押し黙ってうつむいているし、

ときどき、すすり泣く声が聞こえて、暗く重たい空気です。


彼の学校の同級生も来ていて、

大勢の人が、彼の死を悼むように遺影を見つめていました。


佐々木くんのご両親は、息子の死に意気消沈していて、

見ているのがつらいくらい、泣き崩れていました。


親族の方が、代わりに色々対応されていて、

私たちも挨拶をしてから、席につきました。


でも、どうにもおかしいんですよ。


彼がいつだか話していた、弟さんの姿が、どこにもないんです。

いくらまだ三才とはいえ、兄が亡くなったのなら、ふつう参列するはずでしょう?


お花を入れて、棺を閉める段階になっても現れないし、

あまりにも気になったので、私は後で親族の方にそっと聞いてみたんです。


「彼の弟さん、今日、いないんですか?」って。


すると、親族の方は明らかに困惑した表情をして、


「えぇと……あのうちは、あの子一人しかいませんけど」


と、戸惑うように言ったんです。


彼から弟の話を聞いていた、うちの飲食店メンバーも驚いて、

詳しく話を聞きたがったんですが、さすがに、今は葬式の場です。


その帰り、同乗する車内では、

『あいつの言っていた弟ってなんだったのか』と、

皆でちょっとした議論にしましたよ。


佐々木くんはとてもウソを言っているように思えなかったし、

もしウソにしても、もっと別の言い訳があるでしょうし。


そして、その謎の真相は葬儀から一か月後、

彼と親しかったアルバイトの子から、もたらされました。


いたんですよ、彼の弟。

といっても、腹違いの……いえ、浮気相手の、というべきかもしれません。


佐々木くんのお父さん、数年前に浮気をして、

相手の女性を妊娠させてしまったそうなんです。


その女性はかなり事情持ちの人で、両親と相手の女性との話し合いの末、

できた子どもは、中絶という形になったと聞きました。


それが、だいたい今から四年前。

そう……この世には生まれていなかったんですよね、彼の、弟さんは。


それに――さっきの話は、

佐々木くん本人には隠されていたから、

弟がいるなんてこと、知らなかったはずなんだ、って。


でも――本当に、可哀そうですよね。

何の落ち度もない、むしろあれほど心優しい彼が、

どうして、その弟に連れていかれなければならなかったのか。


ああ……そうでした。彼の死因について、お話していませんでしたね。


彼の死因は、窒息死。

死にざまは、異様な光景だったそうです。


口の中には、弟さんが好きだと言っていたパズルのブロックが、

気道をふさぐように、びっしりと詰め込まれていたのだそうで。


まるで、誰かが無理やり、押し込んだかのように。


……あまりにもお兄さんが優しいから、

弟さんも、あの世にいっしょに連れて行きたくなってしまったんですかね。


私の話は以上です。ありがとうございました。


===

※ 次回更新 → 4/28(月) ~ 3話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ