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150.アパートの隣人③(怖さレベル:★★☆)

(お隣さんを不愉快にさせちゃったし、これは……後で改めて謝罪しないとマズイよなぁ……)


今行っても、きっと逆上されるか無視されるかの二択でしょう。


いつぞやのように、お詫びの品をドアノブにでもかけておくか……なんて考えつつ、

部屋のドアを閉めて、ひと息ついた時でした。


シン――


あれほど騒いでいた、同僚たち。

彼らの声が、すっかり聞こえなくなっていることに気づきました。


(あいつら……まさか、そのまま寝やがったか?)


ひとのうちで好き勝手に騒いではしゃいで、布団を敷く前に寝たのかよ、と、

おれがムカムカしつつリビングに戻ると――意外にも、二人はまだ起きていました。


「……おい? お前ら、なにしてんだよ」


二人は、なぜかポカンと間の抜けた顔をして、

そろって同じ方向を凝視しています。


おれが声をかけても、ピクリとも反応をせず。


――いったい、なんなんだ。


おれは呆れつつ、二人が見ている方向――

リビングからつながるベランダへと、視線を向けました。


キィ……ギギッ……


ベランダとリビングをへだてる大きな窓ガラス。

それが、わずかにきしむ音。


なんの、音だ。


おれが息を飲んだ瞬間、それが目に飛び込んできました。


窓ガラスの、窓枠。

それをつかむ、真っ白く細い、手のひらが。


「ヒッ……!?」


まさか――まさか、となりの203号室の人が、

ベランダ越しに乗り込んできた!?


おれは一瞬で震えあがり、緊張で体が固まりました。


白い手は窓枠を握ったまま、ギチギチと長い爪が食い込むほど、

力が入っているのが見えます。


「おまえら、か?」


手の向こう、真っ暗闇の空間から、声が聞こえました。


「騒がしくしているのは……おまえら、か?」


うるさくしていた犯人の二人は、ようやく体の緊張が解けたのか、

問いかけに対し、ブルブルと首を横に振っています。


きっと、恐怖で声も出ないんでしょう。

おれも、彼らと同じ気持ちでした。


「ウソを、つくのか?」


聞こえてくる声は、彼らの動きが見ているかのようにさらに問いかけてきました。


まったく抑揚がついていない、まるで電子音声のようなのに、

妙なすごみというか、圧を感じます。


このまま、あいつらに対応させていたら、取返しのつかないことになる。


おれはとっさに、アホども二人の頭を両手でつかむと、

無理やり頭を下げさせました。


「す、すいません!! うるさくしてたのはおれらです!! もう、さわがしくしませんから!!」


と、おれは全力で謝り、頭を下げました。


すると、白い手はスーッと窓枠から手を離すと、


「二度目はない」


そう言って、ガチャン!! と窓が閉まったんです。


――シン、と静まり返った部屋で、

おれは、へなへなとその場に座り込みました。


恐怖と酔いで失神したらしい同僚二人をその辺に転がして、

おれはしばらく、身動きをとることができませんでした。




――そして、翌日。


同僚二人は、昨日のことをほとんど忘れていました。


さわいでいた自覚はあったようですが、

なんだかすごく恐ろしいものを見たような気がする……とだけ言って、あとはサッパリ。


おれは二人を一通り叱った後、サッサと家に送り返しました。


そのついでに詫びの品を購入して、上下2部屋と、

問題の203号室に向かうことにしたんです。


上の302号室は不在だったものの、

102号室は、昨日部屋にきた大学生が、詫びの品を受け取ってくれました。


「昨日は悪かったね。これ、たいしたもんじゃないけど」

「え? そんな、そこまでしなくても……」


恐縮する彼に品物を渡しつつ、

おれは声をひそめ、一番聞きたかったことをたずねました。


「えっと……ちょっと聞きたいんだけどさ。おれの隣の203号室の人って、もしかしてヤバい……??」

「え……いや、そのぉ……オレも詳しくは知らなくて……あ、でも、さわがしくしなきゃ大丈夫だと思いますよ……」


と、あいまいにはぐらかされただけでしたが。


その後、おそるおそる203号室のインターホンを鳴らしてみましたが、

まぁ、いつものようにノーリアクション。


おれは正直ホッとしつつ、詫びの品をまたドアノブにつるした後、

そそくさと自分の部屋に戻りました。


そして、あぁそうだ、と、ベランダを調べることにしたんです。


203号室の人が軽々来ていたし、

なんか塞いでおいた方がいいかな、って思って。


でも、よくよくチェックしてみたんですけど、不可解なんです。


ベランダの柵はたしかにつながってはいるものの、

人がひょいと乗り越えられるような感じにはなっていないんですよ。


そりゃあ、猫くらいなら通り抜けられるかもしれませんけど、

そもそもでっかい防火扉で塞がれていますしね。


しかもここは二階だから、足場になるようなものもない。


よほど身のこなしが軽いのか、

それとも、なにか特別な抜け道でもあるのか――。


「まさか……幽霊?」


おれは、呆然とベランダを眺めつつ思いました。


おれの隣の、201号室。

もしかして、彼も部屋に乗り込まれたんでしょうか。


だから、すぐに引っ越した――?


よくよく考えると、上下の102も302も、

大学生なのにいつも静かにしていて、友だちや彼女を連れ込んでいる様子がありません。


それってやっぱり……あの、203号室のせいじゃ? なんてことまで思ったりして。


そう考えると、もう、居ても立っても居られなくて、

なんとか一年だけ静かに過ごして、その後別の場所に引っ越しました。


それなりに手痛い出費でしたけど、

『二度目はない』なんて言われたら、ねぇ。


まぁ、同じ区域ではあるんで、

引っ越した後も、たまに例のアパートの前を通ることがあります。


おれが暮らしていた部屋は、人が入ったなぁと思うとすぐいなくなっていたり、

卒業したのか、102号室や302号室も空き部屋になったみたいで、

あれから3年たった今、もう、廃墟みたいな雰囲気になっていますよ。


やっぱり、隣人問題ってのはよく調査しておくべきですね。

その相手が幽霊か、それとも人間か、どっちかはわかりませんけど……。

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