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149.浸食するホラーゲーム②(怖さレベル:★★☆)

「なんかさ……これ、全然終わりが見えなくねぇ?」

「やっぱ……そう、思う?」


本館から別棟へ移動し、謎解きを進めていって地下室へ――と来たのですが、

その地下室を探索し終えた後、さらにルーツをたどるために別の館へ。

そして、その館を探索し終えた後、館からお寺に場所が変わる。


お寺の次は墓場へ移動し、墓場から行ける地下洞窟を通ってさらに違う館へ、

という感じで、次から次へと場所が転々としていくのです。


プレイ時間は、セーブデータを確認すればすでに10時間超え。


今の最新ゲームならばともかく、すでに20年近く前のゲームで、

プレイ時間が10時間以上、しかもホラーかつアドベンチャーゲームで、

というのは、正直あまりないボリュームです。


しかも、それで終わり、ならばともかく、

そこまで行ってなお、まだまだ話が続きそうなんですよ。


「手島……レビューの評価がよかったっつってたけど、このプレイ時間の長さは書かれてなかったのか?」

「うーん……古いゲームだし、あんまり販売多くなかったみたいで、よかったって言ったって大したレビュー数なかったんだよな……だから、プレイ時間とかまではわからん」


ブッ通しでプレイし続けたせいで、

おれも手島もすっかり疲れてしまいました。


おおよそ、夜中の二時を過ぎてくると、

ホラー要素も相まって寒気がしてきて、

おれたちは、いったんゲームを中断することにしたんです。


「ふわぁ……なんか、いつになく頭使ったら疲れたなぁ」

「となれば、頭からっぽにできるようなゲームするか?」

「あ……その前におれ、トイレ」


ちょうど一区切りついたのをいいタイミングとして、

おれはいそいそと、手島の家のトイレに入りました。


「うわっ……芳香剤の匂い、きっつ!」


ぶわっ、とドアを開けたタイミングで襲ってきた匂いに、

おれは思わず、鼻をつまみました。


正面には、トイレタンクの上に置かれたあざやかな芳香剤。

『フローラルな香り』と書かれたそれは、むせ返るほどに強烈な匂いを放っています。


おれは顔をしかめつつトイレの換気扇スイッチを入れると、

いつも以上に素早く用を足して部屋へ戻りました。


「おい、トイレの芳香剤……あれ、ヤバいぞ」

「芳香……? ああ、そういえば、それも昨日妹が置いてったなぁ。さっきおれが入ったときには気になんなかったけど」

「いや、かなーりキツいぞ、あれ。お前、鼻がバカになってんだよ」


ブツブツと手島に文句を言いつつ、

テレビ画面に目を向けました。


「……あ?」


そこに映されていた画面を見て、おれはギョッとしました。


「おま……さっきのゲームやめて違うのにするっつってただろ」

「そーだよ。シューティングゲームになってんだろ?」

「いや、変わってねぇよ。ほら」


おれが指さすと、手島はギョッとゲーム機と画面を見比べました。


「はぁ……? おかしいな。CDソフト入れ替えたはずなのに」

「おいおい……冗談だよな?」

「ハハ……うっかりしてたかな?」


手島は、少々焦ったような顔で、

再びゲームのデスクを確認して入れ替え始めました。


こいつはおっちょこちょいなところもあるので、

まぁ、夜も遅いし、ボーっとして間違えたんだろう、と自分を納得させたんです。


――まぁ、今思えば、この時から異変は始まっていたんですけど。


翌日、ゲーム漬けで一夜を明かしたおれは、

手島に礼を言って、自宅へと帰りました。


親に小言を言われつつ自分の部屋に戻り、

欠伸をしつつ、おれは自分のゲーム機にCDソフトを差し込みました。


親に鍛え上げられた手島のプレイはいつも見事で、

特にアクション・シューティングゲームは、おれの負けっぱなし。


せっかくなので、今日一日ひとり特訓でも、と、

ヤツからいくつかソフトを貸してもらってきたんです。


ベッドで横になりつつ画面を起動し、

オープニングムービーが流れるのをボーっと眺め――

おれは、ガバッ、と体を起こしました。


「っなんで……なんで、このホラーゲームが……!?」


入れたのは、夜中手島とプレイしていたシューティングゲームのはず。

それなのに、画面に流れているのは、見覚えのある例のホラーゲームだったんです。


(借りてきてねぇはずなのに……!!)


持ってきたのは、このシューティングゲームだけのはず。


いや、でも、確かこのホラーゲームも、いっしょにテーブルに置いてあった。

だからうっかり、カバンに入れてもってきてしまっただけ、かもしれない。


おれは薄気味悪さを振り払うように首を振って、

シューティングゲームに、ディスクを入れ替えました。


立ち上がって出てきた見慣れたゲーム画面にホッとしつつ、

再び、ベッドに上がって壁に背を預けました。


(あのホラゲーは……また手島の家に行くとき、返せばいいか)


なるべく早く手放したいシロモノではありますが、

またアイツの家にとってかえって、はさすがに面倒。


とりあえず袋に放り込み、おれはシューティングゲームにのめり込んでいきました。


そして、親から「お昼の用意できたよー」と声がかかったところで、

おれはコントローラーを下ろした、その時。


ふわん


「……ん?」


一瞬、なにか、不思議な香りがしたんです。


まるでいちご、いや、ブルーベリー、いや、もっとこう、甘ったるくて、鼻に残るような匂い――。


(熟しすぎた果物の、匂い?)


脳裏にそんな言葉が浮かんで、おれは慌てて周囲を見回しました。


狭い自室。当然、おれ意外に誰もいません。


香りがしたのはほんの一瞬です。


ただの勘違い、で済ませられるほどの短さ。

ふだんだったら『気のせい』で片づけられるほど。


でも、今は。


(いや……まさか、なぁ……)


ホラーゲームが現実に、なんて。

そんなこと、あるはずがない。


心の中で、そう自分自身に言い聞かせても、

やたら心臓はドクドクしているし、プルプルと震える指も隠しようがありません。


おれは速攻で部屋から飛び出すと、

昼ごはんと家族の待つリビングへ避難しました。




「…………」


昼食が終わり、おれは再び自室へ戻ってきました。


おそるおそる入ったものの、室内はなんの変わりもなく、

当然、さっき感じた甘い匂いもありません。


アレはきっと、気のせいだったんだろう。


自分自身にそう言い聞かせながら、

おれはドッカリとベッドの上に座り込みました。


(あ……そうだ。あいつ、ホラゲーのレビューがどうたら、って言ってたな……)


いったい、どんな評判なのか。

おれは携帯を使って、例のゲームのレビューを調べてみることにしたんです。


「……う~ん……良いっちゃ良いけど……」


手島が話していた通り、生産数が少なかったせいか、

ネット上のレビューの数は、両手の指で足りるほど。


たしかに、どれも高評価ではあるものの、

キャラクターデザインに関してだとか、ゲーム性が珍しいだとかそんなことばかり。


ストーリーがどうなっていくかや、どれほどのプレイ時間なのか、などという、

おれが今知りたい情報だけが、すっぽりと抜けているんです。


「ま……いいや。どうせ、もうクリア間近だろうし」


おれは携帯をベッドに放り投げ、

再び入れっぱなしにしていたシューティングゲームの続きをやろうと、

ゲーム機のスイッチを入れました。


「…………ん?」


ブゥン、と画面に妙な砂嵐が走り、おれが首を傾げた瞬間、


「……え……!?」


じわじわと表示されたのは、あのホラーゲームのオープニング映像でした。


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