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141.立体駐車場に出る幽霊③(怖さレベル:★★☆)


でも、今開けたら――向かいの車の女性も降りてきてしまうかもしれません。


別に悪いことをしたわけでもありませんが、

なんだか、視線がとても恐ろしいのです。


獲物を見つけたヘビの目、とでも言うのでしょうか。

関わったら危険だと、ぼくの中のセンサーがチカチカ光っているんです。


彼女が、ゲートをくぐって階下に下って行ったら、券を拾おう。


ぼくは少しだけ待っているつもりで、

ふと、発券機から視線をそらして、停まっている車たちに目を向けました。


「ん……? なんだ……?」


と、その時、気づいたんです。

この辺りに停まっている車たちの、その異様さに。


(やけに古い……いや、これは……もう、錆びている……!?)


ズラリと駐車場を埋めている、その車たち。


それは『年季が入っている』とだけ言うにしては

あまりにも様子がおかしかったんです。


塗装は剥がれ、端はへこみ、

ナンバープレートが外れていたり、ガラスがヒビ割れていたり。


もはや『古い』どころじゃありません。


廃車寸前。

いや、廃車そのものじゃないか、というレベルのものばかりだったんです。


「え……これ……」


駐車場に置いてあるにも関わず、

どう見たって、乗車なんてできる状態じゃありません。


じゃあ、コレはいったい――と、ぼくが戦慄を覚えたときです。


ピー……キュルッ

キュキュッ……ギュギュギュッ


駐車券の発券機が、さっきと同様に、

異様な音を発し始めました。


駐車券は、入れていないのに。


もしかして、さっきの女性がまだ?


そう思って車から視線を発券機に戻すも、

あの車も女性も、キレイさっぱり、姿を消していました。


(え、いつの間に……!?)


目を離していたのは、ほんの数秒です。


車が動いた音だってしなかったし、

ルームミラーで後ろを確認してみても、さっきの車らしきものはありません。


おかしい。なんだか――おかしい。

ぼくは、背中がゾクゾクと震えてきました。


(ここ……なんか、ヤバくないか……!?)


この駐車場は、あきらかにおかしい。


ぼくはジワジワと湧き上がるイヤな予感に、

慌ててドアを開けて、駐車券を拾い上げました。


もう、ここに車を停めるのをやめようか。


でも、そんな。

こんな真昼間に、オカルト現象に遭遇するなんて、ありえるだろうか?


ぼくは拾った駐車券を握りしめつつ、

どうしても今起きている異様な現象を信じたくない、

自分の常識と戦っている、と。


チカッ……


また、上の階から一台、車がスゥッと下りてきました。


光るライトがまぶしく、ぼくは目を細めて、

その車に視線を向けたんです。


「……ひ、ッ!?」


まったく、同じ。

さっきと同じ――同じ、女の人が乗っている!!


車の種類も、ナンバーも、中の女性も。

まったく一緒です。一緒――そんなこと、ありえないのに!


さっき、バーが上がらないから、バックで引き返していた?


いや、車のタイヤが床をこする音は聞こえませんでした。

それに、さすがにそんな動きをしていれば、

いくらよそ見をしていたって、ぼくだって気づいたはず。


ピー……キュルッ

キュキュッ……ギュギュギュッ


発券機が、ギィギィといびつな音を上げています。


向かい側の車の女性は、やはりあの厚化粧の顔で、

ジッと、ジーっと、ぼくのことを見つめていました。


「ひ、っ……く、ッ!!」


ぼくは、もう、耐えきれませんでした。


とっさに、開いていた駐車スペースにバックで車をつっこむと、

そのまま回れ右をして、立体駐車場を下ったのです。


(もう、こんなところに車なんて停められない……!)


六階、五階、四階。

事故を起こさないよう、スピードは上げすぎず。


でも、ハンドルにしがみつくように力を込めて。


ええ――下っている最中は、まったく、生きた心地がしませんでしたよ。


ようやく一階の出口についたときには、ぼくはもう、汗びっしょりでした。


ピー……キュルッ

キュキュッ……ギュッ


手の中で、ちょっとしめった駐車券が機械に飲み込まれて、

ちゃんとバーが上がって通れた瞬間、ほんとうに、心の底からホッとしました。


慌てて駐車場の外へ飛び出して、

夕焼けの光の下に戻れたときには、

車の中で、ちょっと泣いてしまったくらいです。


もう、エアコンなんてどうでもいい。

とにかく家に帰りたい。


ぼくは半泣き状態でそう思い、

最後『二度とこの立体駐車場になんかくるもんか』と心に決めて、

にらむように振り返ったんです。


「――え?」


そこに建っていたのは、約十五階はあろうかというマンション。


ええ、そうです。そこに、立体駐車場なんてなかったんですよ。


ぼくはもう、わけがわかりませんでした。

だって、ほんの数秒前、そこからでてきたばっかりだったんですよ。


でも、何度目をこすっても、目の前には大きなマンションがあって、

自分がいるのは、その地下駐車場からの入口のところ。


慌ててナビを確認しましたが、

そこに掲載されているのは、立体駐車場ではなく、ただの番地のみ。


ナビに従ってここまで来たはずなのに、

まるで、キツネに化かされたような気分でした。


まぁ……ほんとうに、なんともおかしな話でしょう?


化かされたというか、遊ばれたというか……。


しかしまさか、あんな町の中で、

奇妙な体験をするなんて、思いもしませんでした。


ぼくは逃げてきたからいいものの、

もしあのまま、あそこに車を停めて、下りていたら、いったいどうなっていたんでしょう。


車が消える、だけならまだしも、

ぼく自身が、どこか別の世界に取り込まれていたかもしれません。


そう思うと、本当に恐ろしい出来事でした。


あの場所に建っていたマンション。

もしかしたら、以前は立体駐車場だったのかもしれませんね。

ちょっと……その、恐ろしくて、調べる気にもなれませんが。


ぼくが体験した話は、以上になります。

皆様、どうか、いつもと違う場所を利用するときには、重々お気をつけて。

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