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141.立体駐車場に出る幽霊①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


うす暗いところってイヤですよねぇ。


ただまっくらなのも怖いですけど、ちょっとだけ光が入ってうすぼんやりしている場所って、

なんか陰気臭いっていうか、ジメジメした感じがありませんか?


怖い話だと、真夜中や丑三つ時はもちろん、

黄昏時、とでもいうのでしょうか……夕方くらいの時間帯も、怪談話は多いですよね。


光と闇の境界線、っていうんですかね……

そのくらいの時間帯っていうのは、妙にこちらの恐れをあおってくるような気がします。


ぼくが今回話をさせていただくのは、

そんな時間帯で、かつ、うす暗い場所で起きた事件なんですよ。


そうですね……あれは、確か今から5年くらい前の話でしょうか。


春に切り替わる前の、たしか、まだ肌寒い季節でした。


そろそろ暖かくなってくるだろう、なんて思いつつも、

まだ暖房器具が手放せないそんな頃……うちのエアコンが、急にぶっこわれてしまったんです。


いやー、参りましたよ。


ぼくはしがない一人暮らしの社会人で、

ストーブやらヒーターなしのエアコンだけで日々をしのいでいたんで、

それが壊れたとなると、生活に支障がでてきます。


ただ、故障したのは仕事休みの日で、夕方の16時を回った頃。


これは、一刻も早く電気屋に行って、

新しいエアコンの取り付けを頼まないと、ということで、

ぼくは急いで、車を飛ばして電気屋へと向かうことにしたんです。


うちの近くの電気屋は、町中の駅ビルにあります。


だから、ぼくはいつも通り、駅の近くにある駐車場に入ろうとして――

『満車』の表記に、慌ててハンドルを切りました。


確かに、土曜日の夕方。


そういうこともあるか、と、他の駐車場へ向かっても、

どこも『満車』の表記ばかりです。


この辺りは、駅とはいってもさほど栄えている場所ではありません。


いつもだったらすんなりと見つかるのに、と不思議に思っていると、

ウロウロと歩道を歩く大勢の人たちに気づきました。


その手には、有名な音楽バンドのグッズ。

それを見て、ぼくはハッと思い出しました。


今日明日と、有名なバンドのコンサートが、近くのホールで行われていることを。


どこの駐車場も『満車』になっているのは、

きっとこのコンサートを見にきた観客たちなのでしょう。


ぼくは焦りながらあちこちの駐車場を回ったものの、

どこもかしこもいっぱいで、ロクに車を停めることができません。


(うわあ……ここまでとは……)


これでは、いっこうに電気屋にたどりつけません。


こうなったら仕方ないと、多少の徒歩は覚悟して、

少し離れた駐車場をナビで検索をかけました。


(うわ、どこもかしこも満車表示……って、ん?)


やはり、ほとんどどこもいっぱいになっていたのですが、

ここから車で五分ほど離れたところの立体駐車場に、『空車』の表記を発見したんです。


(徒歩十五分くらいか……まぁ、今回ばかりはしょうがない)


今回のような場合では、多少の歩きは仕方がありません。

ぼくはしぶしぶながら、そのちょっと距離のある立体駐車場へと向かいました。


「あ……ここか?」


ナビに従って、細い道をいくつも通り抜けていくと、

ビル群の合間に立つ、立体駐車場の姿が見えてきました。


高さにして、おおよそビル十階建てほどでしょうか。

入り口には『空車』の看板が立っています。


そう、今時の電子掲示板ではなく、ふつうの木材の、です。


さすがに、立体駐車場の入り口には電気バーがついているものの、

それもあちこち錆びて鉄の色が見えていて、ずいぶんと年季が入っているように見えました。


普段だったら躊躇したかもしれませんが、

今日の場合はようやく見つけた駐車場。


その上、用事はエアコンを買うだけです。


よほど駐車料金が高くない限りは、古かろうが問題もないだろうと、

ぼくはキッチリと表示されている駐車場の価格表をチェックしたのち、

機械のゲートをくぐりました。


ピー……キュルッ


入場の音が、引きつるような甲高い音を出しました。

古すぎて、テープまでも伸びてしまっているのでしょう。


「どれだけ年季入ってるんだ……」


ぼくはボソッと呟きつつ、ガラガラの駐車場を横目に、

上へ上へと車を走らせていきました。


ほら、こういう立体駐車場って、

上の階の方が駐車料金が安く済むでしょう?


貧乏性な自分は、たとえ数時間であっても安い方がいいと、

徐行運転で階を上っていきました。


一階、二階あたりの低層は全然車が止まっていません。

駐車料金は他にくらべると格安なのに、です


(やっぱり、駅からだいぶ距離があるからなのかな……)


みんな、駐車料金よりも近い方を選ぶのかな、なんて思いつつも、


(これくらいの金額なら、今後はここを使うのもありだなぁ)


と、いい場所を見つけた気分で、ぐるぐると上へ上へ回っていきます。


目指すは、駐車料金が安くなる、7階から上。


夕暮れ時の立体駐車場は、照明があるのに、

なんだかぼんやりと薄暗い空気を漂わせています。


建物の中なせいか、非常に見通しの悪い空間。

対向車がいつ来てもいいように、ぼくは慎重にスピードを落として、

上へと移動していきました。


クルクルと上っていくと、ガラガラだった駐車場に、

ポツポツ車が置かれているのが見えました。


チラリと見てみると、ずいぶんと古いものばかりです。


いわゆる、クラシックカーや、ヴィンテージカーとでも言うのでしょうか。


年季の入った昔ながらの車が、

ポツリポツリと間隔をあけて、数台並んでいました。


(うわぁ高そー……ここら辺の人たちも、ライブの観客なのかねぇ……)


ぼくが乗っているのは、いたってふつうの中古の軽自動車です。


高い車ばっかりで羨ましいなぁ、なんて駐車場の車を眺めつつ、

さらに上へ上へと車を走らせます。


(わぁこっちも……え、こっちのも……?)


でも、途中で『あれっ?』て思ったんです。


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