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89.ゴミ屋敷の真実①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


えぇ、えぇ。

あれは、つい半年前のことですよ。


うちは昔っから、あそこに住んでるんですけどね。

お隣さん……恩頭さんとも、古い付き合いで。


あのうちの爺さんと婆さんと、

そこの息子夫婦は誰も彼も良い人だったんですけどね。

そこんちの孫がまぁ……ろくでなしで。


三人いた孫の長男、この子が、ほんとにひどくてねぇ。


いやぁ、まぁ、そう育てちまった親に

責任がある、っちゃそうなんでしょうけど。


残った二人の孫は、本当に良い子たちだったから、

不思議でしょうがなかったんですよねぇ。


長男はねぇ、隣あってるうちに聞こえてくるくらい怒鳴ったり、なにかを壊したり。


挙句の果てには暴力団かなんかとまでからみ始めちまって。

かわいそうに、爺さん婆さんなんて、すっかり弱り切っちまってさ。


しばらくして近所で見なくなったから、

心労が祟ったのか、ボケちまっただとかで、

息子夫婦が施設につっこんだんだ、なんて言われてね。


残った孫二人も、親が実家にいると危険だと判断したのか、

遠方の大学だか就職先だかに行かせたとかで、

残ってるのは息子夫婦と、その問題児のみ。


それでも連日、怒号が聞こえてくるもんだから、

警察でも入れた方がいいんじゃないの、なんてご近所さんたちでも相談していたんですよ。


そうして……えぇ、一か月もたった頃ですかねぇ。


最近、ずいぶんと家が静かになった、って気づいたんですよ。


怒鳴り声も、なにかが割れたり破壊されたりする音もしない。


かつて、あのうちが平和だった時のように。

まるで、その穏やかな日常が帰ってきたみたいに。


しかし、あれだけ荒れていた長男が、

急に更生する、なんて考えられないでしょう?


ついに警察にでもしょ引かれたのかと、

仕事から帰ってきたそこんちの旦那さんに、誰かが尋ねたんですよ。


旦那さんは、頬に痛々しく残った腫れを押さえつつ、

暗い表情で言ったそうです。


「……行方不明なんだ」と。


なんでも、数日前にひときわ手がつけられないほど暴れた長男が、

家出のようにうちを飛び出したっきり、戻ってこないのだというのです。


こう言ってはなんですが、あれだけ被害を被っていたのですから、

いつ戻ってくるかはわからぬものの、厄介ごとがなくなって良かったじゃないかと、

近所の人たち――わたし含め、夫婦に励ましの言葉をかけたもんですよ。


でも、やっぱり子どもだからなんですかねぇ。

奥さんは、まぁ、塞ぎこんでしまって。


今までパートで働いていたのを辞めて、

うちの中に閉じこもるようになってしまったんですよ。


旦那さんもそんな奥さんにつられてか、

いっつも暗い顔をしててね、見ててかわいそうでしたねぇ……。


今まで、どうにかこうにか来ていた近所の集会やら会議にも、

めっきり顔を出さなくなってしまって。


まぁ、事情が事情なだけにみんな配慮して、

しばらく放っておいてあげようってなったんですけど。


……で、ですよ。

だんだん、だんだんと、なんですけどね。


隣り合わせのわたしのうちに、

妙な臭いが届き始めたんです。


そう、生ごみのようなすえた臭い。

それが、昼夜問わずにずーっと。


窓から、チラッと隣のうちを覗くと――

そこはひどい有様でしたよ。


庭にあふれ出すほどの、いろいろな荷物。


そしてよたよたと歩く奥さんが、わさっ、わさっ、

とビニール袋のうえに、さらにビニール袋を重ねていくんです。


ヒエッと思って、思わず隣のうちのチャイムを鳴らすと、

幽鬼のように生気を失った奥さんが顔を出しました。


「お……恩頭さん、大丈夫? なんか、へんな臭いしてきてるけど……」

「あぁ……すみません。もう、なにもかもやる気が起きなくて……」


そういう彼女は、なにか病にでも冒されているかのように覇気を失い、

立っているのがやっとのような有様でした。


「ご、ゴミ捨てるくらいならわたしが代わりにやるから。

 あんなにおうちの中に積み上げていたら、身体を悪くしちゃうわ」


あの様子では、虫だってわいているかもしれません。


せっかく長男の暴力支配の呪縛から、

一時的にでも逃れられたって言うのに、

これじゃあ余りにも哀れでねぇ。


でも、そんなこちらの提案に、

奥さんはゆううつな表情のまま首を振りました。


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