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86.助ける男②(怖さレベル:★★☆)

(……よーし、終わった!)


あれから食料品の買い物も終わらせて、両手いっぱいに

ビニール袋をひっさげながら、私は駐車場へと歩みを進めていました。


ただでさえ広々とした駐車場。


それが休日ともなればほぼほぼ満車状態で、ウロウロと

空きスペースを探し回る車の合間を緊張しつつすり抜けて歩きます。


(セールの時とか……ホントはイヤなんだよなぁ)


かつて、特大セール開催中のスーパの駐車場で

車にはねられた記憶が蘇り、少々憂鬱な気分にさいなまれます。


それを振り払うように首をゆすりつつ、重い荷物を抱えながら

ようやく自分の車が目に入った時。


「……あ」


すぐ近くに、見覚えのある集団を発見しました。それは少し前、あのエスカレーターの所ではしゃぎ、

危うく大怪我をするところであった、あの子どもたち。


(まーた、あんなトコで遊んで……)


街路樹の植わった土の上、すぐ道路の横のところでなにやら走り回っています。


親は我関せずなのか、それとも近所のうちの子なのか、周囲に大人の姿はありません。


(さっき、あれだけ怖い思いしただろうに……うっかり道路に出なきゃいいけど)


遊びに夢中で、フラッと車の前にでも飛び込んでこられたらたまったもんじゃありません。


私は自分の車に乗り込むと、慎重に子どもたちの動きを確認しました。


やはり一番動きが活発なのは、ターちゃんと呼ばれていた男の子。

傍を車が通っても、全く気にすることなく花壇の土を蹴り飛ばしています。


むしろ、一緒に遊ぶ女子に良いところでも見せたいのか、

度胸試しのように車道に出たり入ったりまでしている始末でした。


(勘弁してよ、もう……)


駐車場から一般道に合流する為には、どうしても

子どもたちの目の前の通路を通らないといけません。


私は非常に面倒な気分になりつつも、ゆっくりと慎重に車を進めていきました。


プププッ


と、後ろから、断続的なクラクション。


「あー、もう」


私があまりにものんびりとしたペースで進むのに、業を煮やしたのでしょう。


あの子どもたちが目に入っていなければ、

この速度で前を走られたらイラつくのも確かにわかります。


(行きたくったって、行けないんだって……!)


あと少しで接触するほど後ろにつけた銀色のスポーツカーに内心文句をつけつつ、

できるだけ速度を速めて進もうとするものの、


「あっ……!」


対向車が来ていないのをいいことに、そのスポーツカーが強引に

私の車を追い越し、かなりのスビードを保ってその前へ飛び出し、


(……危ないッ!)


もはや攻撃的とも思えるハンドルさばきで飛び出したスポーツカーが、

例の子どもたちのウロつく道端へ急加速で突っ込み、


「ぶつかる……っ!!」


急ブレーキを踏んだ私の目前で、まん丸く目を見開く子どもが映り、

そこに突進する銀色の車体がキラリと光って、


「…………ッ!!」


キュッ……


しかし、思わず目を閉じた私の耳に、覚悟していた衝突音は届きません。


「……えっ?」


激突を予想した、目前の光景。


パチリと見開いた視界に映ったのは、歩道の奥へと引き上げられた少年の姿。


(え……あの人……)


彼の腕をつかんで事故を回避したと思われるのは、黒衣の男性。


ヒョロッとやせ型で、黒の半袖ニットに同色のスラックス。


黒ぶちの太いメガネをかけた、猫背気味の少々陰鬱な

雰囲気をまとった――さきほども見かけた、男性。


「っぶねぇだろ! 気ィつけろクソガキが!!」


スポーツカーの運転手が吐き捨てるように悪態をつくと、

勢いそのままに走り去っていってしまいました。


「あ……ありがと、オジサン」

「…………」


親か兄弟か、と去り際に彼らのやりとりを確認すれば、

まるで互いに初対面のようなよそよそしさです。


(……子ども好きな人、なのかな)


まるでそれが起きることがわかっていたかのような、

絶妙な助太刀のタイミングでした。


まぁそういう偶然もあるか、と大事故にならなかった事実に

ホッと停めていた車を再度動かし始めると、


ドオォォン


前方から、爆発でも起きたかのような衝撃音。

駐車場を出てすぐくらいの場所、交差点のそば。


まさか、と恐ろしい予感と共にゆっくりと公道へ車を進めれば、


「……ウソ」


そこには、恐ろしい光景が広がっていました。


交差点を右折してすぐの信号機の支柱が、

まるで溶けたかのようにぐんにゃりと折れ曲がっています。


おそらく、ハンドル操作を誤ったのでしょう。


さきほど無茶な運転をしていたスポーツカーが、

その場所に深々とめり込んでいました。


「う、っ……」


焦げた臭いの充満する、あまりにも悲惨なその様相に、

音を聞きつけたのか、すでに人が集まり始めていました。


私も路肩の邪魔にならない場所に車を停止し、

救急車でも呼んだ方がいいだろうか、と傍に近づこうとし――

目を疑いました。


「え、っ……」


あの、黒衣の男性。


つい先ほど、少年を救ったその男性が、ひしゃげた車の

そばで車内を確認する数人の間に混ざっていました。


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