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85.帰宅時の横道①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


えぇ……アレは、至っていつも通りの日常の中で体験した、とある事件の話です。


その日の仕事帰り。


おなじみの帰り道を、のんびりと車で走っていると、

途中のある信号から、やけに道が混み始めたんです。


こんな時間に工事もやっていないだろうし、

まさか事故でも起きたか、なんて考えつつノロノロと進むものの、

少し走ってからは、もうほぼほぼ動かない大渋滞。


ふだんは五分と掛からず通り抜ける片道一車線の道路が、

今日は十五分たってもロクに動きません。


オレはイライラとハンドルを叩きつつ、

どこか抜け道でもなかっただろうかと、

ぐるりと周囲を見回しました。


(……お、こんなトコロに)


道の脇に、車一台ほどの細い通路が見えました。


今まで存在していたことすら気づかれぬような、小さな道路。


正直、どこにつながっているかもわかりませんが、

場所から考えて私道ではなさそうですし、

方向的には自宅へ続くルートのようにも思えます。


(つっても……ヘタに行って、妙な道に迷い込んでも困るんだよなぁ)


近道と思ったらとんでもない遠回りだった、

などというのは誰にでも経験のあることでしょう。


オレはその道へ入るかどうしようか、

ノロノロ運転のさなかにじっと考えていましたが、


「あ……」


ヒュッ、と一台、白の軽自動車がその道にするりと入って行くのが見えました。


(この渋滞にハマり続けるよりは……いいか)


オレもそれを見て心を決めると、

その脇道へササッとハンドルを回しました。


民家と民家の塀に挟まれたそこは車一台がようやくすれ違えるかという一本道で、

さきほどの渋滞がウソのようにスルスルと進みます。


うす暗くなってきた夕闇の中で、

ところどころにある街灯がボンヤリと灯っています。


先に入っていた白い軽自動車は、

だいぶスピードを飛ばしていたのか、後姿すら見当たりません。


「順調、順調っと」


一軒家が立ち並ぶそこは、あまり見晴らしがよくないせいで、

家の方向とあっているか若干不安もありますが、

ひたすらに一本道なので、いずれどこかにたどり着くでしょう。


そんなお気楽な気分で、きままに鼻歌などを歌いつつ走行していたのですが、


(それにしても……ずいぶん、まっすぐだな)


先ほどから――というより、この道に入ってから、

ひらすらに塀に挟まれた道を直進し続けています。


ゆるいカーブや、道の幅が多少変わりはするものの、どうにも妙です。


道が続いている割には、民家の駐車場や、入り口に面しているわけでもなく、

本当に、ただただ『道』が存在しているだけなのです。


これでは、両脇の民家に住む人がこの通路

を使ったところで、自分の家に入れません。


いったい何の為の道路なのだろう、という

一抹の不安がジワジワと湧き上がってきました。


(変な道……来ちゃったな。でも、Uターンするにも、場所が……)


先ほども言った通り、そこは塀に挟まれたアスファルト舗装の道路が、ずっと続いているだけ。


となれば、このままひたすら真っすぐに進むほかありません。


「クソッ……」


心なしか、薄暗い暗闇がまるで自分を吸い込むブラックホールのようにも感じられてきて、

カーナビ機能をケチったことを、心底後悔し始めた、そんな時です。


ギャアギャアギャア……


薄く開けていた窓から、カラスの断末魔の

ごとき気色の悪い音が聞こえてきました。


「なんだよ……」


オレは先のわからない不安とイラつきとで悪態をつきつつ、

イヤイヤ、音のした方向へ目を向けました。


「……な、んだ?」


パカン、と顎が落ちました。


不気味な鳴き声の聞こえた方向。

そこに存在したのは、ひどく不格好な少年。


年の頃は幼稚園生くらいでしょうか。


短く刈り込まれた髪に、色の抜けたような赤いタンクトップ。

短パンの先は、デザインとはとても思えないほどにほつれ、ボロボロと糸が見えています。


そんな身なりの悪い子どもが、車の進行方向の塀の上に

しゃがみこんで、目を見開いてこちらを見つめているのです。


ボヤーッと電灯に照らされて、その光景は非常に不気味に感じられました。


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