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67.死者のビデオテープ③(怖さレベル:★★★)

『……うわぁあ!!』


今までの大根演技とは比べ物にならない、激しい絶叫。


『なんだ、どうした!?』


ガタガタと画面内がにわかにざわつき、

カメラや他のエキストラたちが声のした浴室へ向かっていきます。


『……ウ、ソだろ』


映像に映らぬ、画面外の誰かが上げた呆然の声。


大勢のキャストたちが怯えた視線を向けた浴室の中。

ゆっくりと、慎重にカメラが進んでいき、そして――。


『ひ、いぃ……っ』


入口のところには腰を抜かしたリポーターと、

最初に意気込んで入っていった男。


そして、あと一人。


『し、シノ……!?』


開け放たれた風呂場のガラス戸は力なく開いていて、

そこに名を呼ばれた青年が、床に伏していました。


カメラの液晶越しでも、デロデロとあふれ出す液体がただただ鮮やかで。

その中央で横たわるその男は、ピクリとも動きません。


『き……救急車!』


誰もなにも言葉を発さぬ静止した画面で、

一番に正気を取り戻したリポーターが叫びました。


『早く、早く救急車を!!』


ざわざわと役者たちがざわめき始めた、その瞬間。


プツッ


「うおっ……」


唐突に。


あまりにも唐突にビデオの再生が終了し、僕は小さく声を上げました。


「…………」


これは、作りモノ? それとも、本物?


僕は無意識のうちにリモコンで巻き戻し作業を行いつつ、

ぼんやりと内容について考えていました。


最後のシーンなど、現実味のあるリアクションのように見えました。


が、ホラーものであるならば、あえてああいう撮り方をした、

と言われれば納得のいく展開でもあります。


キュルキュルと音を立てるビデオデッキを前に、

グダグダと考え込んでいると、


「っまたせー! ……って、あれ? 終わっちまったの?」


長話を終えた村中が、ようやく舞い戻ってきました。


「おっせーよ。もう先に観終わっちまったっつーの」

「あー悪い悪い。……で、内容はどうよ?」


まったく悪びれもしない様子で彼はニヤニヤと尋ねてきます。


「最初はちょっとアレだったけど……最後の方はリアルっぽくて良かったよ」

「へえ~っ。声聞こえた?」

「……あ」


そういえば、聞こえてはならない声が入っているビデオ、という触れ込みでした。

内容に途中から引き込まれ、すっかり頭から抜け落ちていました。


「すっかり忘れてたわ……でもたぶん、聞こえなかったわ」

「なーんだ、残念だなァ」


ケラケラと笑いつつ、すでに村中は僕の隣に腰を下ろして、

すっかり自分も観る気まんまんのようです。


「結局、ここで観んのかよ」

「言ったろ? うちのデッキ壊れてるって」


よいしょ、っと本格的に姿勢を崩した彼にため息を返しつつ、

再び同じモンを見ても仕方ないと、僕はトイレへと向かいました。


用を足し終え、ついでに何か飲み物と菓子でも、

と冷蔵庫をチェックしていると、


「……うへぁ!?」


リビングから叫び声が上がりました。


(あいつ、ドコで悲鳴上げてんだよ)


あの内容では、ビックリする場面といえば最後のアレくらいか、とほくそ笑みつつ、

冷やかしてやろうと麦茶を持ってリビングへ向かうと、


「なっ……なんで……」


再生の終了した画面を見て、未だ硬直している村中の姿がありました。


「おいおい、ビビりすぎだろー」


あまりの表情に苦笑いを浮かべつつ、お茶のグラスを卓上に置くも、

奴は油のさされていないロボットのようなぎこちなさで、

ギギッと首をこちらに向けました。


「あ、あれ……死体、だよな」

「……まァ、それっぽかった、けど」


血の海に沈む男。


字面で表すとひどく陳腐なその表現も、

映像として見るとひどく禍々しい有様でした。


「……あいつの顔、見たか?」

「顔……?」


うつ伏せで、顔はわずかに横を向いていた為、

ハッキリとは見えませんでしたが、大学生くらいの男性であることはわかりました。


村中は、無言でキュルキュルとビデオを巻き戻し、

礼のシーンの直前で再生を始めました。


「もっかい見んのかよ」


もし作りものだとしても、あまり気持ちの良いシーンではなく、

本物であれば尚のこと見たくありません。


しかし、そんなこちらの苦情など彼の耳には入らぬようで、

奴はジッと画面を食い入るように見つめています。


『……うわぁあ!!』


例のリポーターの叫び声。

そして映し出される風呂場の中。


「ここだ……」


ピッ、と彼がリモコンを操り、画面を一時停止しました。


「うわっ……」


まじまじと見れば見るほど、演出とは思えぬ映像。


赤に浸った茶髪の隙間からうっすら見える横顔。

その下には歪んだメガネのツルが、悲しく転がっています。


「……やっぱり」


あまりの様子に目を逸らしたこちらに反し、

ジッと画面を凝視した村中がポツリと呟きました。


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