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50.バーに住み着く女②(怖さレベル:★★☆)

「へえ、幽霊が見えるんだ。すごいね~」

「えへへ、そうですか? 実はぁ、今までも……」


褒められて上機嫌の女後輩は、

先輩も含めて三人で幽霊談義に突入しています。


「幽霊、ねぇ……なあ、どう思っ……って、オイ」


話からあぶれた俺が、同じく会話に入れていない後輩に話しかければ、

その様子の異様さに気づきました。


彼は薄暗い店内でもわかるほどに顔色を白く染め、

ブルブルと唇を震わせていたんです。


ギュッと強く拳をひざの上で握りしめ、

顔を上げないその様子は一種異様なあり様で。


「お、オイ……なんだ、悪酔いしたか?」


明らかに正常ではない様子にポン、と肩を叩くと、

彼はビクビクと妙に視線をさまよわせ、小声で呟きました。


「あ、あの……沢村さん、ヤバいかもしれません」

「えっ、なにが?」


突如出てきた女後輩の名前に、俺は首を傾げました。


「……その、先輩。これ、冗談とかじゃないんですけど……

 おれ、実は幽霊……見える、タイプなんですけど」

「……お、おう」


突然の告白に、俺は答えあぐねてうやむやに頷きました。


本気なんだろうか、と疑いの眼差しを向けるも、

後輩はとつとつと話を続けています。


「それで、その……おれも、あのカウンター席の端の女の人、実は見えてて」


ひどく言いにくそうに、水で喉を湿らせ、彼は視線を落としました。


「最初はこう……儚い感じというか、おしとやかな感じだったんです。

 なにか害を与えるような雰囲気でもなければ、恨めしい感じも無くて」


自らの酒の入ったグラスをギュッと指先が白くなるほどに握りしめ、

彼は小さくため息を吐きました。


「でも……沢村さんが。あの人のことをテキトーに話し始めたら、

 どんどん……気配が黒くなっていってて……」

「気配が、黒い?」

「……ハイ。悪意に染まるというか……淀む感じで。

 そして今は……その、かなりヤバくて」


ブルブルと震えたまま顔を上げた後輩は、

未だ楽しそうに会話を続ける沢村たちにチラっと目を向けて、


「今。……沢村さんの後ろにべったりくっついてます」


と、小さく呟いた時。


彼につられ、嬉々として話に夢中な彼女の方を見た瞬間。


「……う、ッ」


まるでフラッシュバックのように。

その光景に女が映り込みました。


沢村の肩に手を置き、彼女の肩口から回り込むように

まっ白い顔でジーっと覗き込んでいる女性。


ウェーブのかかったボブヘアがその顔を覆っているものの、

まとう雰囲気はズッシリと重く、まがまがしくて。


「……なにも起きないと、いいんですけど」


後輩は一言それだけ呟き、それ以降黙り込んでしまいました。


俺も今目にしたものが信じられなくて、

ゴシゴシと目をこすりました。


次の瞬間にはその映像は消え去っていましたが、

今、たしかに……。


「……ってことがあって~……」

「へぇ~スゴいねぇ」


彼らは和気あいあいと何ごともないかのように歓談を続けています。


「先輩。……おれ、やっぱダメです。……帰ります」


彼はまったく回復していない顔色そのままに立ち上がりました。


「ちょ、ちょっと待てって、俺も行くよ」


その危なげな様子に放ってはおけず、俺は盛り上がっている三人に、


「……先輩、沢村、ちょっとコイツ、だいぶ酔っちまったみたいで。途中抜けですいませんけど、お暇させていただきます」

「おー、白石、付き合ってくれてありがとな!」

「ええ、先輩、お元気で」

「今日は来てくれてありがとね! また、コイツ無しで来てくれていいから」


マスターも快く送り出してくれたので内心ほっとしつつ、

代金のみその場に残し、俺は後輩と二人、外へ出ました。


三月の冷えた夜気は、酒でほてっていた身体にも凍えるように冷たく、

ブルリと俺は身震いしました。


「タクシー呼んで帰るぞ」

「……ハイ」


後輩は、あの場から出たにも関わらず、未だ顔色が優れません。

タクシーの到着を待つ間、道端の電柱に背中を預け、思わず尋ねました。


「もしかして、まだなんかヤベぇのか?」

「おれと、白石先輩は大丈夫だと思います。……あそこのマスターと、あの先輩も」

「……沢村か。さっきも言ってたけど、なに? とり憑かれたとか、そういうヤツ?」


すぐそばにあった自販機で水を二本買い、

一本を後輩に渡しつつ、首を傾げました。


「……というか、その……呪われた、って感じですね」

「の、のろ……」


思いの外、恐ろしい言葉に一瞬たじろぎました。


「き、今日偶然あのバーに行って、ちょっとテキトーなこと言っただけだろ?

 そんな簡単に呪われるって……」


フラッシュバックする、さきほどの記憶。

沢村の顔をグッと覗きこんでいた、能面のような女の表情。


思い出すだけでゾクリと背筋の寒くなる光景に、

俺はフルフルと首を振ってその思考を飛ばそうとしました。


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