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45.校舎裏の壁のシミ・裏③(怖さレベル:★★☆)


「あ……あ"、うわぁぁァあ!!」


絶叫。


わざわざ忍んで侵入した意味を無くすほどの、

断末魔のような悲鳴。


「なっ……し、ショウタ……?」


度肝を抜かれ、ボクはあのあふれんばかりの怒気すら消えうせ、

喉を枯らすかのように声を絞り続ける彼を見やりました。


「わかった……わかった……わかった……」


しかし、彼はフッと叫ぶのを止めたかと思うと、

今度はただひたすらに、その単語をくりかえし始めたのです。


「……は? おいショウタ、何がわかったんだよ」


ボクは少々怖気づきながらも、彼の傍に近づきました。


「わかった……わかった……わかった……」


しかし、ショウタは焦点を真っ暗な空の方へ向け、

ガリガリと爪を自らの耳に立てながら、

ひたすらに同じことを延々と繰り返しています。


「……っ」


あまりにも異質なその様子。


ボクはそれ以上彼に声をかけることも出来ず、

かといってその場から立ち去ることもできず、

半ば呆然自失状態で立ち尽くしていました。




その後、悲鳴の件で通報があったのか、

すぐさま警察が到着し、ボクら三人は連行されてしまいました。


ボクは迎えに来た両親に人生一番の鉄拳を食らい、

他の二人もまた、それぞれの親に連れていかれました。


ショウタは、警察が来ても両親が来ても、

相変わらずブツブツと独り言をつぶやきつづけていて、

タクミは正気こそ保ってはいたものの、

帰るときすらもずっと怯え続けていました。


翌日も校長室へ呼び出され、

ボクたちは先生たちにこっぴどく叱られました。


ショウタも教室には登校していませんでしたが、

やはり呼び出しを食らったらしく、

よろよろとおぼつかない足取りで校長室はやってきていました。


しかし、あの不気味な独り言こそなくなっていたものの、

なんの感情も浮かべず、なんの言葉も漏らさない彼は、

まるきり魂でも抜け去ってしまったかのような、惨々たる有様でした。


ボクとタクミは割と早く解放され、校長室を後にしたものの、

どうにも腑に落ちず、タクミに食って掛かりました。


「あの時の……ヨシロウの話、あれ、マジなのか」

「……マジだよ。あん時も今回みたく、ショウタが誘ったんだ。

 もちろん、半信半疑だったし……ヨシロウがビビったら、

 それをクラスの奴らに言いふらしてやる、ってそのつもりでさ……」


タクミは、非常に言いづらそうに俯きました。


「あの夜も、壁のトコに行ってさ。オレとショウタとヨシロウで、あの声を聞いて。

 うわ、ウワサがマジだった。ヤベェって……オレとショウタがビビってたら」


ガッ、と彼は頭を抱えました。


「ヨシロウのヤツ、突然叫びだして……」


当時を思い返しているのか、タクミは震えながら続けます。


「オレもショウタもパニクって、あいつのこと置き去りにしたんだ。

 ……あん時は、警察も来なくって。オレたちのことはバレなかった」

「お……置き去り、だって?」


ボクは、フツフツと怒りが腹の奥から湧いてくるのを感じました。


「ああ、そうだよ! 怖かったんだ! あいつ、あんな叫び声……っ。

 ……そ、それで……あいつ、学校に出て来なくなって。すぐ夏休みに入って」


そういえば、確かに彼は夏休みに入る直前、

何日か休んでいました。まさか、それが関係してるなんて。


「……で、ショウタが。なんだかわからねぇけど、思い通りになったって笑ってて」


グッ、と奥歯を噛みしめます。


クソ野郎、と呟きたいのをこらえ、

その最低な告白の続きを促しました。


「で、今回……お前のコトが目障りだってショウタが。

 前の時、オレもショウタも声は聞こえたけど、

 ぜんぜん何言ってるかわかんなかったし、

 今回だって大丈夫だろうって、行ったら……」


と、後半は罪悪感か気まずさか、尻すぼみに消えていきました。


「……なんて言ってるか、聞こえたのか」

「わ、わかんねぇよ。でも、前ん時より、声がすげぇデカくなってて。

 あれ以上あそこにいたら、オレ、オレも、ヨシロウとかショウタみたい、に……」


タクミは、頭を抱え込んだまま、

そのまま廊下にしゃがみこんでしまいました。




……これが、すべての顛末です。


ショウタは結局、彼自身がヨシロウに行ったことと同様、

まったく学校に来なくなり、夏休みが終わった頃には、

どこかへいなくなってしまっていました。


自業自得。


まさにその四字熟語通りの結末です。


ボクとて、彼に狂わされそうになった被害者として、

ザマアミロ、という思いがなくもありません。


しかし――人を廃人のようにしてしまう、なにか。


それが未だ消えることなく、ボクが卒業した今も、

校舎の片隅に存在し続けている。


そして、いつ再び、犠牲者が出てしまうとも限らない。


そんな災害のようなモノに魅入られてしまった彼が、

ほんの少し、哀れに思えてなりません。


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