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六話 死亡フラグをぶっとばす方法

「ふむ、完璧な回答だな」

 

 そう答えれば、アロイス先生は薄く笑う。

 おかげで周囲の生徒が「おお」とどよめいた。

 それもそのはず。

 

 彼の名はアロイス・オールドマン。

 またの名を『冷徹伯爵(れいてつはくしやく)』。

 滅多なことでは笑うこともなく、生徒を褒めることもないことで有名なのだ。

 

「よく勉強しているな、ベルフェドミナ」

「あはは……ありがとうございます。もういいですか?」

「ああ。いや、待て。最後の問題だ」

 

 にやり、と口の端を持ち上げて彼は続ける。

 

「一匹のスライムを倒したときの経験値が1とされている。レベル1から2に上がるのに必要な経験値の総量はいくらだ?」

「えーっと、124でしたっけ」

「……正解だ」

 

 必要な経験値テーブルだって、だいたい頭に入っている。

 よほどマニアックな知識だったのか、周囲からは動揺の声が上がった。

 ヨハネも目を丸くしているし、遠くの方ではリリィが目を輝かせて「教科書にも載っていないのに……すごいなあ」とつぶやいているのが見えた。

 

 アロイス先生はかすかに目尻を下げて、興味深げに私を見つめる。

 

「いやはや、驚いた。きみはもっと不真面目な生徒だと思っていたのだが……考えを改めるべきだな」

「い、いや……それほどでもありません」


 私は引きつった笑顔を浮かべるしかない。

 つい先日までの私は、家柄の自慢とヨハネを独占することしか頭にないボンクラだった。


 テンプレートな『成金お嬢様』を想像してもらえればいい。

 もちろん学業成績はお粗末なもの。


 それが突然、熱心に授業に打ち込んだのだから、不思議に思うのは当然だろう。

 怪しまれるかと思ったが、先生は好意的のようだ。


「今年の新入生には有望株がいるようだ。ちょうどいい。きみのステータスを確認してやろう」

「わっ」

 

 アロイス先生がぱちんと指を鳴らす。

 その瞬間、私の目の前にはメッセージウィンドウのようなものが浮かび上がった。

 そこに表示されているのは、私のステータスだ。

 

 ロザリア・ベルフェドミナ

 レベル1

 

 【体力】15

 【精神力】20

 【筋力】3

 【耐久力】4

 【魔力】11

 【俊敏】6

 【幸運】2

 【所持スキル】なし


「ふむ、少々幸運値が低いのは気になるが……」


 アロイス先生は難しい顔をして、私のステータスをじっと見つめる。

 そうしてすぐに笑みを浮かべてみせた。

 

「魔力は平均より上のようだ。鍛錬(たんれん)すれば、きっと素晴らしい魔法使いになれるだろう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 私は深々と頭を下げ、席に着いた。

 

(魔法か……使いこなせれば、死亡フラグだって怖くないかも……!)

 

 かすかな光明に、ぐっとこぶしをにぎる。

 しかしすぐにハッとして、おずおずと手を挙げた。

 

「あの……鍛錬って、具体的にどれくらいでしょうか?」

「そうだな、きみはまだ入学したてのレベル1だし……半年もすれば初級魔法のほとんどをマスターできるだろう」

「おお。さすがはロザリア様ですね」

「は、半年……」

 

 ヨハネが笑顔でよいしょしてくれる。

 だが、私は顔から血の気が引いていくのがわかった。

 

(ぜ、絶望的に間に合わないわよ……!)

 

 最初の死亡フラグは六日後だ。

 どれだけ壮絶な修行をしたところで、半年分の経験値を(かせ)ぐことなんて不可能に違いない。

 

「先生、俺からもひとつ質問してもいいですか?」

「なんだ」


 そこで、ほかの男子生徒が手を挙げた。

 さらさらの金髪に、紅玉のような瞳。

 どんな女性も一発で(とりこ)にしてしまいそうな、涼しげな美青年だ。


 そういえば、彼も攻略対象キャラだった。

 たしか名前は――。

 

 記憶を呼び起こす前に、彼らの話が進む。

 

「そのステータスを、レベルを上げる以外で簡単に伸ばす方法があるって聞いたことがあるんです。なんでも特別な木の実を食べるとか……」

「ふむ、よく知っているな」

 

 アロイス先生が肩をすくめてみせる。

 

「奇跡の果実と呼ばれるものだ。七種類存在し、その色に対応したステータスを伸ばす」

「じゃ、じゃあ、それを食べれば、俺もすぐ強く――」

「話はそう単純なものではない」

 

 興奮して腰を浮かせる彼に、先生はかぶりを振る。

 

「奇跡の果実は滅多なことでは採れない代物(しろもの)でな。ダンジョンの奥深くで稀に見つかることがある。だが、数が絶対的に少ない」


 ダンジョンにもぐる生徒の中でも、百人にひとりが奇跡的に発見する。

 だが、それまでだ。複数個見つけた者はこの学園の歴史上でも、片手で数えられるほど。

 アロイス先生ですら、七種類すべてを見たこともないらしい。

 

「つまり……」

「ああ。奇跡の果実で強くなろうなどと、現実的な案ではないな」

 

 青年はため息をこぼし「ありがとうございました」と告げた。

 

 奇跡の果実なら私も知っている。

 いわゆるステータスの底上げアイテムだ。


 先生が言うようにゲームでも滅多なことでは手に入らなかったし、当然ながらお店にも並ばない。

 

 ヨハネが「へえ」と興味深そうな声を上げた。

 

「世の中にはいろんなアイテムがあるんですね、ロザリア様……ロザリア様?」

「っ……! これだわ!」


 おもわずバンッと席を立ってしまい、ふたたび私は注目の的になってしまった。

 だって仕方ない。


(奇跡の果実が……私の運命を変えるカギになる!!)

続きは7/3更新予定。また何度か更新します。

ブクマに評価、ありがとうございます。励みにぼちぼちがんばります。


本日7/2はメギドの日。

作者がめちゃくちゃ推しているゲームです。

今始めるといろいろお得なので、気になった方はぜひどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか...無限に増やすんじゃ...太らないようにね... [気になる点] メギド??どんなゲームですか?やってみたい...
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